ウイルス性胃腸炎になるとどうなる?症状や治療法を解説

  • クリニックブログ
2024/04/26

ウイルス性胃腸炎になるとどうなる?症状や治療法を解説

感染性胃腸炎のうち、ウイルスに感染したことで発症する胃腸炎のことをウイルス性胃腸炎といいます。本記事ではウイルス性胃腸炎に感染するとどうなるのか、症状について詳しく解説します。
 
また、ウイルス性胃腸炎は治療が必要になるのか、どのような治療を行うのかなどを詳しく解説するため、ぜひ参考にしてみてください。

 

ウイルス性胃腸炎の原因

例年11月上旬から感染者が増加しはじめ、12月をピークに一旦減少傾向になりますが、1~3月ごろに再び増加することが特徴です。ウイルス性胃腸炎の原因となるウイルスはおもに次の4つです。

ノロウイルス

ノロウイルスは手指や食品などを介して、口からウイルスが体内に入ることで感染します。潜伏期間は、24~48時間程度です。症状が出る方が多いですが軽症で済む方や無症状で経過する方もいます。また、牡蠣の生食摂取によって感染する方が多いです。ほかにも不衛生なまな板を使って調理されたものを食べて発症するケースもあります。
 
ノロウイルスの最大の特徴は感染力が非常に強い点です。消毒剤への抵抗性が強く、消毒用アルコールは効果が弱いとされていることからたびたび二次感染を起こします。そのため、嘔吐物を処理していて感染した、ノロウイルス患者の排便後にトイレに入ったなどで発症する場合もあるでしょう。
 
学校や保育所などで集団でのウイルス性胃腸炎の感染を確認した場合、ほとんどがノロウイルスが原因となると考えられています。
 

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ロタウイルス

0歳~6歳頃の乳幼児に感染者が多い傾向にあります。5歳までにほぼすべてのお子様がロタウイルスに感染するといわれており、大人は5歳までに感染している方が多いことから、感染しても症状が出ることはありません。
 
ロタウイルスは接触感染によって感染し、潜伏期間は1~4日です。ロタウイルスはほかの感染性胃腸炎を発症させるウイルスよりも、糞便中に含まれるウイルス量が非常に多いといわれています。そのため、便や吐物の処理をして十分に手洗いをしたつもりでいても、まだ手にウイルスが付着しており、その手で食事を摂った場合に感染が成立するのです。
 
ワクチンが普及したこともあり、先進国では90%の割合で予防ができるようになったので、感染者は減少傾向にあります。しかし、乳幼児に多いことから稀に感染後、症状が重篤化するケースがあります。

 

サポウイルス

サポウイルスはノロウイルスと同様に、カキをはじめとした二枚貝の生食やウイルスを保有する調理者によって感染するウイルスです。ほかにも、糞便を片づけた人が、十分に処理ができていなかった結果、二次感染を起こすこともあります。潜伏期間は12~48時間で、症状が強く出る期間は一般的に1~2日です。
 
サポウイルスはこれまで偶発的に発症するケースが多いものでしたが、近年では小児を中心に周期的な発生が確認されています。ノロウイルスと原因や症状などが類似していますが、ノロウイルスよりも症状が軽度で済むことが多いです。

 

アデノウイルス

アデノウイルスは一般的なかぜの原因ウイルスのひとつですが、その型によって出現する症状が異なります。また、潜伏期間は、5~7日です。アデノウイルスは発熱するケースが多いのですが、感染性胃腸炎の原因となるアデノウイルスにおいては、発熱が軽度である点が特徴です。おもに飛沫感染と接触感染によって感染します。通常の手指消毒用アルコールの効果が低いため、手洗いをしなければ感染は防げません。
 
6歳以下のお子様に発症者が多いことも特徴です。また、本来の感染性胃腸炎は食品を介して発症するケースが多いのですが、アデノウイルスによる感染性腸炎は食品を介した発症事例が少ないです。
 
さらに、ほかのウイルス性胃腸炎と比較して下痢の期間が長くなります。

 
 

ウイルス性胃腸炎の症状

ウイルス性胃腸炎はどのウイルスに感染しても共通の症状が出ることが特徴です。ウイルス性胃腸炎による症状はおもに1~2日間続くものですが、場合によっては1週間程度続くことがあるのも特徴です。
 
ウイルス性胃腸炎に感染したことによって起こりうる症状は次の通りです。

下痢

ウイルス性胃腸炎において必ず起こる症状です。お子様の場合、下痢が見られないケースもあるものの、大人において下痢はほぼ確実に起こる症状になります。腸管がむくんでいるため、下痢便は水っぽく、形がほとんどないことが特徴で1日に何度も起こり、なおかつ最後まで残る症状です。長い場合には1週間程度、下痢が持続します。ロタウイルスの場合には白色便が見られます。
 
また、下痢便の中には多量のウイルスが含まれているため、下痢便をした後に手洗いを怠った結果、接触感染につながることもあるのです。

 

嘔吐

嘔吐も下痢と同様に、ウイルス性胃腸炎ではよく見られる症状です。1日に何度も嘔吐をすることが特徴で、お子様の場合は下痢よりも先に嘔吐が見られます。嘔吐は1~2日程度で終わることが多いですが、1日に何度も嘔吐するため、幼児や高齢者では脱水を引き起こす可能性が高まります。
 

腹痛

腹痛は感染性胃腸炎の中で必ず見られる症状ではなく、症状が出ない方もいます。下痢や嘔吐とともに見られる症状です。また、人によっては腹痛と共にお腹が張ることもあります。通常、腹痛はすぐに治まるとされています。腹痛のみでほかの症状が出ないということもあります。

 

発熱

ロタウイルスでは発熱もよく見られる症状ですが、そのほかのウイルス性胃腸炎では、発熱が起こることは少ないとされています。とくにノロウイルスについては発熱が見られないことがほとんどです。ロタウイルスの場合には、38度以上の高熱が出た後に消化器症状が出現しますが、発熱の症状は通常半日~1日程度で収まることがほとんどです。
 
また、発熱後に上述の症状が起こった場合には、すぐに感染性胃腸炎と診断されにくいケースもあります。

 

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ウイルス性胃腸炎の治療法(対症療法)

感染性胃腸炎のうち、ウイルス性以外の胃腸炎においては有効な治療薬があります。しかし、ウイルス性胃腸炎においては抗ウイルス薬といった有効な治療薬がありません。
 
そのため、対症療法といって、そのときに起こっている症状に対してアプローチをする治療を行います。主に行う対症療法を以下で紹介していきます。

経過観察をする

ウイルス性胃腸炎は放っておいても数日程度で自然治癒することがほとんどです。そのため、まずは安静にしたうえで、経過観察をするというのも対症療法として有効です。しかし、下痢や嘔吐がひどく、水分が一切摂れていないという場合や、意識が朦朧としている場合、呼びかけても反応がないという場合には、すぐに医療機関を受診して適切な処置を受けましょう。
 
経過観察中は脱水を予防するために、水分をこまめに摂りましょう。このとき、水分だけでなく電解質も補給できる経口補水液がおすすめです。固形物を摂れるという場合にはバナナやおかゆ、ゼリーなど消化の良いものを少しずつ食べて栄養を補給しましょう。
 

症状に合わせた薬を使う

苦痛となっている症状に合わせたお薬を使います。例えば吐いていて食事や水分が摂れない場合には制吐剤を使ったり、熱が出ていて辛い場合には解熱剤を使ったりします。下痢や嘔吐にはウイルスを体外に排出する役割もあります。そのため、下痢止めについては症状の改善を遅らせるという考えがあり、一般的には使用されません。

 

水分が摂れない場合は点滴

口から水分が全く摂れておらず、脱水を起こすリスクがある場合には点滴で水分を補給します。小さなお子様や高齢者で口から水分が摂れていない場合には、点滴治療が選択されます。しかし、点滴にはあくまで水分しか含まれておらず、治療薬は含まれていないため、点滴をしたからといって症状が回復することはありません。
 
また、点滴をするかどうかは医療機関を受診したときの状態を見ながら医師が判断するため、必ずしも点滴治療が受けられるわけではないことを念頭に置いておきましょう。

 
 

ウイルス性胃腸炎の予防法

ウイルス性胃腸炎は特効薬など有効な治療薬がないため、予防が非常に重要です。ワクチンがあるのはロタウイルスだけですが、ロタウイルスに関しては大人の場合免疫を持っていることがほとんどです。他のウイルス性胃腸炎を予防するには、予防を意識した行動が重要となります。
 
ウイルス性胃腸炎の予防方法は次の通りです。

手洗い

ウイルス性胃腸炎の最たる予防方法が手洗いです。トイレの後、調理前、食事の前には必ず流水と石けんで手を洗いましょう。手のひらだけでなく、手の甲や指の間、爪の間などもしっかりと洗うことで、ウイルス性胃腸炎の予防につながります。
 
もしも家庭内に感染者がいる場合、タオルを共用するのも二次感染を起こす可能性を高めてしまうため、タオルはそれぞれ分けて使うと良いでしょう。

 

患者との接触を避ける

ウイルス性胃腸炎に感染している方の便や嘔吐物には多量のウイルスが含まれています。その嘔吐物や便の処理をしたり、便や嘔吐物に含まれたウイルスが空気中に散乱し、それを吸い込んだりすることで感染します。そのため、可能な限り感染している方との接触を避けることが理想です。
 
また、アルコール消毒はウイルス性腸炎の原因ウイルスには効果がありません。もし、ウイルス性腸炎に感染している方の便や嘔吐物の処理が必要となったら、次亜塩素酸ナトリウムを活用しましょう。

 

流行のピークを知る

流行のピークを知っておくことで、ウイルス性胃腸炎に対する警戒心を高められ、より感染予防行動を起こせるでしょう。ウイルス性胃腸炎のピークは原因ウイルスによっても異なるものの、おもに11月上旬から感染者が増え、1~3月頃まで感染のピークが続きます。
 
この期間は特に感染対策を励行しましょう。

 

食品は加熱する

一般的にウイルスは熱に弱いとされており、加熱処理をすると、ウイルスの活性を失わせることが分かっています。ウイルス性胃腸炎の原因となるウイルスのうち、ノロウイルスは85~90℃で90秒以上の加熱で失活します。そのため、カキやホタテ、あさりといった二枚貝は、必ず十分に加熱してから食べましょう。


 
 

お子様と高齢者の方は要注意!

ウイルス性胃腸炎は特にお子様と高齢者の方の感染リスクが高く、感染すると重症化しやすいといわれています。場合によって死に直結するリスクもあるため注意が必要です。ここでは、お子様と高齢者の方が特に注意すべき理由を解説します。

お子様と高齢者は早めに医療機関を受診

注意すべき理由を解説する前に、ウイルス性胃腸炎と見られる症状が現れた場合、お子様と高齢者の方は早めに医療機関を受診するということに留意しておきましょう。その理由として、お子様と高齢者の方は抵抗力が弱いことから重症化しやすく、気が付いたときには取り返しのつかないことになる可能性が高いからです。
 
そのため、経過観察をしつつ早めの医療機関受診を検討しましょう。

 

脱水のリスクが高まる

高齢者やお子様は、下痢や嘔吐が続くことで脱水を起こすリスクが大人よりも高いです。そのため、まったく水分を摂れなくなった場合や、水分を摂ってもすぐに吐いてしまうという場合には、早めに医療機関を受診して処置を受けましょう。
 
乳幼児では日頃から体重を図っておくことで、普段より体重がどれだけ減ったかを脱水の指標にできます。普段から体重測定をしておき、体重がどれくらい減ったかを見て、明らかに体重減少が見られる場合は医療機関を受診して点滴をしてもらっても良いでしょう。

 

高齢者は誤嚥性肺炎の原因に

高齢者の方においては、嘔吐が続くことで嘔吐物が誤って肺に入ってしまい、誤嚥性肺炎を引き起こす可能性があります。誤嚥性肺炎を起こすと寝たきりになったり、死に直結したりします。特に、嚥下機能が弱っている方が嘔吐を繰り返す場合には早めに医療機関を受診しましょう。

 

重症化しやすい

お子様や高齢者のウイルス性胃腸炎は重症化するリスクが高いといわれています。そのため、お子様や高齢者のいる家庭でウイルス性胃腸炎に発症した方が出た場合には、隔離をしてうつさないような環境を作ることが必要です。


 
 

まとめ

ウイルス性胃腸炎の原因となるウイルスにはさまざまあり、どのウイルスに感染しても下痢や嘔吐が起きてしまいます。
 
ウイルス性胃腸炎は、ロタウイルス以外に予防薬が無く、すべてのウイルス性胃腸炎における治療薬がありません。そのため、感染した場合には症状の緩和を図るための対症療法が中心になります。このことから、ウイルス性胃腸炎では感染しないように手洗いうがいや、食品の取り扱いに気を付けるといった予防が重要となるのです。
 
さらに、お子様や高齢者の方が感染した場合、大人ならば軽症で済む程度でも重症化する可能性が高いです。もし、感染して水分が摂れなくなっているのであれば、早めに医療機関を受診することをおすすめします。


 

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MYメディカルクリニック渋谷 笹倉 渉医師

監修:MYメディカルクリニック渋谷 非常勤医

笹倉 渉 Dr. Sasakura Wataru

資格

略歴

  • 藤田保健衛生大学医学部 卒業
  • 公立昭和病院
  • 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
  • 北部地区医師会病院麻酔科 科長
  • 2016年 MYメディカルクリニック 医師
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