
食べ物が飲み込みにくいのはなぜ?原因と対処法を解説
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食べ物が飲み込みにくいのはなぜ?原因と対処法を解説
食事中に食べ物が喉につかえる、うまく飲み込めないといった経験はありませんか?このような飲み込みの問題は、日常生活の質を大きく低下させる要因となります。特に高齢者の方々にとっては深刻な健康上の課題となることもあります。
本記事では、飲み込みにくさの原因や症状、適切な対処法について、医学的な観点から詳しく解説していきます。飲み込みの仕組みを理解することで、より効果的な対策を講じることができるようになります。また、どのような場合に医師の診察を受けるべきかについても説明しますので、症状でお悩みの方の参考になれば幸いです。
喉のつかえ感の基本
飲み込みの問題、医学用語では「嚥下障害(えんげしょうがい)」と呼ばれる症状について、正しい知識を持つことが重要です。この症状は単なる不快感にとどまらず、誤嚥性肺炎などの深刻な合併症を引き起こす可能性もあります。以下のポイントから、嚥下障害の基本的な情報を詳しく見ていきましょう。
- ●正常な嚥下の仕組み
- ●飲み込みにくさの種類と特徴
正常な嚥下(えんげ)の仕組み
食べ物を飲み込む動作は、私たちが普段意識することなく行っている複雑な過程です。この過程は主に3つの段階に分かれています。
第1段階では、食べ物を口の中で咀嚼し、唾液と混ぜ合わせて飲み込みやすい形(食塊)にします。この時、舌が重要な役割を果たし、食べ物を喉の奥へと運びます。
第2段階では、食塊が喉の奥に達すると、自動的に複数の器官が連動して働きます。まず、軟口蓋が上がって鼻への逆流を防ぎ、同時に喉頭蓋という部分が気管の入り口を覆って食べ物が気管に入るのを防ぎます。
第3段階では、食道の入り口の筋肉がゆるみ、咽頭の収縮によって食塊が食道へと送られます。その後、食道の蠕動運動によって胃まで運ばれていきます。この一連の動作は、わずか0.5秒ほどで完了する精密な仕組みなのです。
飲み込みにくさの種類と特徴
飲み込みにくさには、いくつかの典型的なパターンがあります。症状の特徴を理解することで、より適切な対処が可能となります。
最も一般的なのは、食べ物やお茶などの液体がスムーズに通らず、喉につかえる感覚です。特に水やお茶などの液体は、固形物に比べて誤って気管に入りやすく、むせやすい特徴があります。
また、食事の際に食べ物が喉に残る感覚や、飲み込んだ後も喉に違和感が残る場合もあります。これは食道入り口の筋肉の働きが低下している可能性があります。
さらに、食事に時間がかかるようになったり、一回で飲み込める量が減少したりする症状も見られます。これらの症状は、加齢や疾患によって嚥下機能が全体的に低下している可能性を示唆します。
主な症状と特徴
飲み込みの問題は、様々な形で現れ、時には深刻な健康上の問題につながる可能性があります。症状を正確に把握することは、適切な治療や対策を講じる上で重要です。主な症状は以下の3つに分類されます。
- ●飲み込み時の違和感
- ●食事中の咳や痰
- ●その他の関連症状
これらの症状は単独で、あるいは複数組み合わさって現れることがあります。早期発見・早期対応が重要となるため、どのような症状がいつ頃から出現しているかを把握しておくことが大切です。
飲み込み時の違和感
飲み込み時の違和感は、嚥下障害の最も基本的な症状です。この症状は患者さんによって様々な形で表現されます。
典型的な症状として、喉に食べ物が引っかかったような感覚があります。これは実際に食事をしている時だけでなく、唾液を飲み込む際にも感じることがあります。また、喉に何かが張り付いているような違和感や、食べ物を飲み込もうとすると喉が締め付けられるような感覚を訴える方も多くいます。
特に注意が必要なのは、こうした違和感が1週間以上続く場合や、徐々に症状が悪化していく場合です。また、違和感に加えて痛みを伴う場合は、炎症や他の疾患の可能性も考えられるため、医療機関での検査が推奨されます。
食事中の咳や痰
食事中の咳や痰の増加は、誤嚥(ごえん)の可能性を示す重要な警告サインです。この症状について正しく理解することが、安全な食事につながります。
特に水分を摂取する際に起きやすい「むせ」は、液体が気管に入りそうになった時の防御反応です。また、食事の最中や食後にノドがゼロゼロする、痰が増える、声がかすれるといった症状も要注意です。これらは誤嚥の可能性を示唆する症状となります。
食事中の咳が頻繁に起こる場合、食べ物や飲み物が気管に入り、誤嚥性肺炎のリスクが高まる可能性があります。特に高齢者の方は、この症状を軽視せずに、早めに専門医に相談することをお勧めします。
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その他の関連症状
飲み込みの問題には、主症状以外にもいくつかの関連症状が伴うことがあります。これらの症状を把握することで、より適切な対応が可能になります。
まず、食事時間の延長が挙げられます。通常より食事に時間がかかるようになり、特に食事の最後の方で疲れを感じやすくなります。また、食べる量が減少し、それに伴って体重が減少することもあるでしょう。
さらに、胸やけや胸の痛み、のどの痛みといった症状を伴うこともあります。これらの症状は、逆流性食道炎など、特定の疾患を示唆する可能性があります。また、声の変化や発声時の違和感を感じる場合もあるでしょう。
これらの症状が複数組み合わさって出現する場合は、より詳しい検査が必要となる可能性が高いため、医療機関へ相談しましょう。
飲み込みにくさの原因
飲み込みの問題は、様々な要因が複雑に絡み合って発生することがあります。適切な対処法を見つけるためには、まず原因を特定することが重要です。主な原因は以下の3つに大別されます。
- ●加齢による影響
- ●神経の病気が原因の場合
- ●その他の病気のよる場合
これらの原因を正確に把握することで、より効果的な治療や対策を講じることができます。以下、それぞれの原因について詳しく見ていきましょう。
加齢による影響
加齢に伴う嚥下機能の低下は、自然な生理的変化として起こります。この変化について理解することで、適切な予防と対策が可能になります。
加齢により、喉の筋肉が衰え、喉頭(こうとう)の位置が下がってきます。これにより、食べ物を飲み込む際の喉の上下運動が困難になります。また、唾液の分泌量が減少することで、食べ物を飲み込みやすい形にすることが難しくなります。
特に注意が必要なのは、「サルコペニア」と呼ばれる加齢性の筋肉量低下です。これにより、嚥下に必要な筋力が低下し、スムーズな飲み込みが困難になります。また、感覚機能の低下により、食べ物が気管に入りそうになっても、そのことに気づきにくくなることがあります。
神経の病気が原因の場合
神経系の疾患は、嚥下障害の重要な原因の一つです。これらの疾患では、神経伝達の問題により、スムーズな嚥下運動が妨げられます。
代表的な疾患として、脳梗塞などの脳血管障害が挙げられます。脳の特定の部位が損傷を受けることで、嚥下に関わる筋肉の制御が困難になります。また、パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患でも、嚥下機能が影響を受けることがあります。
これらの疾患による嚥下障害は、病気の進行に伴って徐々に悪化することが多いため、早期からの適切な対応が重要です。また、症状の程度は個人差が大きく、専門医による個別の評価と治療計画が必要です。
その他の病気による場合
飲み込みの問題は、様々な疾患が原因となって引き起こされることがあります。それぞれの疾患によって症状や治療法が異なるため、正確な診断が重要です。主な原因疾患は、以下の2つのカテゴリーに分類されます。
- ●のどの炎症による症状
- ●食道の病気による症状
これらの疾患は、早期発見・早期治療により、症状の改善が期待できるものも多くあります。以下、具体的な疾患について解説していきます。
のどの炎症
のどの炎症は、飲み込みにくさの一般的な原因の一つです。主に感染症やアレルギー反応によって引き起こされます。
最も多いのは、ウイルスや細菌による咽頭炎や喉頭炎です。この場合、のどの痛みや腫れを伴い、一時的に飲み込みにくさを感じます。また、扁桃炎でも同様の症状が現れることがあります。通常は1~2週間程度で自然に改善しますが、症状が長引く場合は医療機関での診察が必要です。
また、アレルギー反応によってのどの粘膜が腫れることもあります。花粉症やハウスダストアレルギーの方は、症状が悪化する時期に飲み込みにくさを感じることがあります。
食道の病気
食道の病気による飲み込みの問題は、より慎重な対応が必要となる場合があります。主な疾患としては、逆流性食道炎や食道がんなどの悪性腫瘍などが挙げられます。
逆流性食道炎は、胃酸が食道に逆流することで起こる炎症です。食後や横になった時に症状が悪化する特徴があります。また、常習的な喫煙や飲酒、食生活の乱れが原因となることもあります。
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より注意が必要なのは、食道がんなどの悪性腫瘍です。進行すると食道が狭くなり、固形物が通りにくくなります。また、好酸球性食道炎やカンジダ性食道炎など、特殊な炎症性疾患が原因となることもあります。
これらの疾患は、早期発見が重要です。特に、症状が持続する場合や、年齢とともに悪化する場合は、専門医による詳しい検査が推奨されます。
検査と診断
飲み込みの問題に対する適切な治療のためには、正確な診断が不可欠です。医療機関では、症状の原因を特定するために様々な検査が実施されます。ここでは、以下2つの観点を解説していきます。
- ●必要な検査の種類
- ●受診の目安とタイミング
必要な検査の種類
飲み込みの問題を診断するために、いくつかの重要な検査が実施されます。それぞれの検査には特徴があり、症状に応じて適切な検査が選択されます。
基本となるのは内視鏡検査(胃カメラ)です。この検査では、喉から食道、胃までの粘膜の状態を直接観察することができます。炎症や腫瘍、その他の異常を発見するのに有効です。
内視鏡検査(胃カメラ)についてはこちら
また、嚥下造影検査も重要です。造影剤を使用して、実際の飲み込みの様子をX線で観察します。この検査により、食べ物がどのように通過していくか、誤嚥の有無などを詳しく確認することができます。
必要に応じて、頸部のエコー検査や、CTスキャン、MRIなども実施されます。これらの検査では、のどや食道の周辺組織の状態を詳しく調べることができます。
受診の目安とタイミング
飲み込みの問題を感じたとき、いつ医療機関を受診すべきか、その判断基準について説明します。以下のような症状がある場合は、早めの受診が推奨されます。
- ●症状が1週間以上続く場合
- ●食事量が明らかに減少した場合
- ●体重が減少してきた場合
- ●むせこみが頻繁に起こる場合
- ●発熱や痛みを伴う場合
特に高齢者の方は、誤嚥性肺炎のリスクが高いため、症状が軽いうちに専門医に相談することをおすすめします。また、症状に応じて適切な診療科(耳鼻咽喉科、消化器内科、神経内科など)を選択することが重要です。
改善方法と対策
飲み込みの問題に対する改善策は、原因や症状の程度によって異なります。医師の指導のもと、適切な対策を講じることが重要です。主な改善方法は以下の3つに分類されます。
- ●食事の工夫
- ●生活習慣の改善
- ●リハビリテーション
これらの対策を適切に組み合わせることで、症状の改善や進行の予防が期待できます。
食事の工夫
食事の工夫は、安全に食事を摂取するための重要な対策です。
まず、食べ物の形態を調整することが大切です。固形物が飲み込みにくい場合は、きざみ食やミキサー食を活用します。また、水分にとろみをつけることで、むせこみを防ぐことができます。
食事の際の姿勢も重要です。背筋を伸ばしてやや前かがみの姿勢を取り、あごを引き気味にすることで、誤嚥のリスクを減らすことができます。また、一口量を調整し、ゆっくりと食べることも大切です。
温度管理も効果的です。適度な温かさや冷たさは、嚥下反射を促進する効果があります。常温の食べ物よりも、温かいものや冷たいものの方が飲み込みやすいことが多いです。
生活習慣の改善
日常生活における習慣の見直しは、飲み込みの問題の改善に大きく寄与します。
まず、口腔ケアは特に重要です。毎食後の歯磨きや、うがいを丁寧に行うことで、口腔内を清潔に保ち、誤嚥性肺炎のリスクを減らすことができます。また、舌の清掃も忘れずに行いましょう。
規則正しい生活リズムを保つことも大切です。十分な睡眠をとり、適度な運動を行うことで、全身の機能維持につながります。特に首や肩の運動は、嚥下機能の維持に効果的です。
また、食事の際は十分な時間的余裕を持つことが大切です。急いで食べることは避け、リラックスした状態で食事ができる環境を整えましょう。
リハビリテーション
専門的なリハビリテーションは、嚥下機能の改善や維持に重要な役割を果たします。言語聴覚士などの専門家の指導のもと、適切な訓練を行います。
基本的な訓練として、嚥下体操があります。これは、首や肩、口の周りの筋肉を動かす運動で、嚥下に関わる筋力の維持・向上が目的です。
また、実際の食事場面を想定した訓練も行われます。安全な食べ方や飲み込み方の指導、食物形態の調整方法など、実践的なスキルを学びます。
最近では、電気刺激療法など、新しい治療法も開発されています。症状や原因に応じて、最適な訓練方法が選択されます。
まとめ
飲み込みの問題は、日常生活に大きな影響を与える重要な症状です。本記事で解説してきたように、その原因は加齢による自然な変化から、様々な疾患まで多岐にわたります。適切な対応により、多くの場合で症状の改善や進行の予防が可能です。
早期発見・早期対応が特に重要です。症状が1週間以上続く場合や、悪化傾向がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。特に高齢者の方は、誤嚥性肺炎予防の観点からも、症状を軽視せずに対応することが大切です。
日常生活では、食事形態の工夫、正しい姿勢での食事、十分な口腔ケア、規則正しい生活リズムの維持などが基本となります。これらの対策を継続的に実施することで、症状の改善が期待できます。必要に応じて、専門家による嚥下リハビリテーションも効果的です。
また、家族や周囲の方々の理解と支援も、症状の改善に重要な役割を果たします。食事のペースを急かしたり、無理な食事を勧めたりせず、本人のペースに合わせた支援を心がけることが大切です。
最後に、飲み込みの問題で悩んでいる方は、決して一人で抱え込まず、医療機関に相談することをおすすめします。早期の適切な対応により、より良い治療効果が期待できます。

略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師