バスキュラーアクセス:透析シャントの構造と種類

  • クリニックブログ
2025/02/03

バスキュラーアクセス:透析シャントの構造と種類

血液透析を受けている方、これから透析を始める予定の方にとって、バスキュラーアクセスの理解は非常に重要です。
 
この記事では、バスキュラーアクセスの基本的な仕組みから、日常生活での管理方法、起こりうる合併症まで、包括的に解説します。医療専門用語をできるだけ平易な言葉で説明し、実際の管理に役立つ具体的な情報をお伝えしていきます。

 
 

バスキュラーアクセスとは

バスキュラーアクセスは、血液透析を行うための血管アクセス口のことです。かつては「シャント」と呼ばれていましたが、現在では動脈表在化やカテーテルなど、様々な種類があることから「バスキュラーアクセス」という言葉が一般的になっています。バスキュラーアクセスには主に以下のような特徴があります。
 

  • ●血液透析に必要な十分な血流量を確保できる
  • ●繰り返しの穿刺に耐えられる
  • ●長期間の使用が可能
  • ●合併症のリスクが比較的低い

 
以降では、バスキュラーアクセスの基本的な役割、血液透析との関係、そして適切な血流を確保するための仕組みについて詳しく解説していきます。
 

基本的な役割と重要性

バスキュラーアクセスは、血液透析患者さんにとって「命の血管」とも呼ばれる重要な役割を担っています。日本の透析患者数は約35万人にいるといわれ、その大多数がバスキュラーアクセスを使用した血液透析を受けています。バスキュラーアクセスの主な役割は以下の3つです。
 

  • 1. 血液透析に必要な血液量(200~300ml/分)を安定して確保すること
  • 2. 週3回の透析のために繰り返し穿刺できる丈夫な血管を提供すること
  • 3. 透析で浄化された血液を体内に安全に戻すためのルートを確保すること

 
このように、バスキュラーアクセスは透析治療の質を左右する重要な要素であり、その適切な管理は患者さんのQOL(生活の質)に直接影響を与えます。
 

血液透析との関係

血液透析治療において、バスキュラーアクセスは体外循環を行うための重要な「出入り口」として機能します。具体的には、以下の3つの過程で重要な役割を果たしています。
 

  • 1. 血液の取り出し(脱血)
  • 透析開始時に、バスキュラーアクセスに2本の専用針を刺します。1本目の針は血液を体外に取り出すために使用します。この際、十分な血流量(毎分200-300ml)を確保することが、効率的な透析のために重要です。
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  • 2. 血液の浄化
  • 取り出された血液は透析装置に送られ、老廃物や余分な水分が除去されます。この間、バスキュラーアクセスは安定した血流を維持し続ける必要があります。
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  • 3. 血液の返還(返血)
  • 浄化された血液は、2本目の針を通じて体内に戻されます。この過程でも適切な血流を保つことが、安全な透析治療につながります。

 
このように、バスキュラーアクセスは単なる「血管の入り口」ではなく、透析治療全体を支える重要な基盤となっています。
 

適切な血流確保の仕組み

バスキュラーアクセスが適切な血流を確保するためには、特殊な構造と仕組みが必要です。その主要な要素は以下の通りです。
 

  • 動脈血の活用
  • 通常の静脈血では透析に必要な血流量を確保できないため、動脈の血液を利用します。動脈は血圧が高く、十分な血流量を得られるという特徴があります。
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  • 血管の発達
  • 内シャントの場合、動脈と静脈をつなぐことで静脈に動脈血が流れ込み、血管が太く丈夫になっていきます。これを「シャント血管の発達」と呼び、通常2~4週間かけて起こります。
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  • 血流量の自己調整
  • バスキュラーアクセスには、過剰な血流を防ぐ自然な調整機能が備わっています。ただし、この機能が低下すると「過剰血流」などの問題が起きることがあります。
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  • 表在化による穿刺のしやすさ
  • 血管が皮膚の近くを走行するよう調整されているため、透析の際の穿刺が容易になっています。これにより、安定した透析治療が可能となります。

 
こうした仕組みにより、バスキュラーアクセスは透析に必要な血流を長期的に維持することができます。ただし、これらの機能を保つためには適切な管理が不可欠です
 
 

バスキュラーアクセスの種類

バスキュラーアクセスには、患者さんの血管の状態や全身状態に応じて選択できる複数の種類があります。2008年の日本透析医学会の調査によると、その使用割合は以下のようになっています。
 

  • ●自己血管内シャント:約90%
  • ●人工血管内シャント:約7%
  • ●動脈表在化:約2%
  • ●カテーテル:約1%

 
それぞれのバスキュラーアクセスには固有の特徴と適応があり、以下の点を考慮して選択されます。
 

  • 1. 患者さんの血管の状態
  • 2. 心機能を含む全身状態
  • 3. 年齢や生活状況
  • 4. 透析の緊急性

以降では、主要な3種類のバスキュラーアクセスについて、その特徴と適応を詳しく解説していきます
 

内シャント(AVF)

内シャント(AVF)は、患者さん自身の動脈と静脈を直接つなぎ合わせて作製する最も一般的なバスキュラーアクセスです。日本の透析患者さんの約90%がこの方法を使用しており、バスキュラーアクセスの第一選択として推奨されています。通常、利き手と反対側の前腕で作製され、局所麻酔下で30~60分程度の比較的短時間の手術で完了します。
 
内シャントの最大の特徴は、人工物を使用しないため感染のリスクが低く、長期間の使用が可能なことです。手術後、血管が十分に発達するまでに2~4週間ほどの「育成期間」が必要ですが、一度発達すれば10年以上使用できることも珍しくありません。また、合併症が比較的少なく、体への負担も小さいという利点があります。
 
ただし、内シャントが適さない場合もあります。たとえば、重度の心機能低下がある場合や、末梢血管の動脈硬化が著しい場合、あるいは静脈が極端に細い場合などです。このような場合は、他のバスキュラーアクセスの選択を検討する必要があります。また、内シャントを長く使用するためには、日々の観察とケアが欠かせません。定期的な診察や超音波検査による評価を受けることで、トラブルの早期発見と対応が可能となります。
 

人工血管シャント(AVG)

人工血管シャント(AVG)は、患者さん自身の血管が使用できない場合に選択される重要な選択肢です。合成素材でできた直径4-6mmほどの人工血管を使用して動脈と静脈をつなぐ方法で、主に自己血管が細すぎたり、何度かの手術で使えなくなったりした場合に検討されます。通常、手術は局所麻酔で行われ、60~120分程度で完了します。
 
人工血管シャントの大きな利点は、種類によっては手術後すぐに使用できることです。また、自身の血管が細い場合でも十分な血流が得られやすく、穿刺もしやすいという特徴があります。ただし、人工物を使用するため感染のリスクが内シャントより高く、より慎重な管理が必要です。また、血流が必要以上に多くなりやすい傾向があるため、定期的な観察と調整が欠かせません。
 

カテーテル

カテーテルによるバスキュラーアクセスは、頸部や鎖骨下、大腿部などの太い静脈に直接カテーテルを挿入して使用する方法です。緊急時や他の方法が使用できない場合の重要な選択肢となっています。使用期間によって「非カフ型(短期)」と「カフ型(長期)」の2種類に分類されます。
 
非カフ型カテーテルは、主に緊急透析が必要な場合や、他のバスキュラーアクセスが使用可能になるまでの一時的な対応として用いられます。挿入から約20分程度で使用可能という大きな利点がありますが、感染リスクが高いため長期使用は避けるべきとされています。
 
一方、カフ型カテーテルは長期使用を想定して設計されており、皮下組織との固定用カフを備えています。重度の心不全がある場合や、他のバスキュラーアクセスが作製困難な場合などに選択されます。感染予防のための厳重な管理が必要で、定期的な消毒と観察が欠かせません。また、カテーテルの屈曲や閉塞にも注意が必要です。
 
このように、カテーテルは特定の状況下で非常に重要な役割を果たすバスキュラーアクセスですが、その使用には慎重な判断と適切な管理が求められます。患者さんの状態や生活環境に応じて、医療チームが総合的に判断して選択を行います。
 
 

シャント作製と管理

バスキュラーアクセスの作製は、患者さんの血液透析治療の質を左右する重要な医療行為です。成功率を高め、長期的な使用を可能にするためには、術前の綿密な評価から、適切な手術手技、そして術後の丁寧なケアまで、一連のプロセスを確実に行うことが不可欠です。この章では、以下の3つの重要なステップについて詳しく解説していきます。
 

  • ●作製前の血管評価
  • ●実際の手術
  • ●術後のケアと注意点

 

作製前の血管評価

シャント作製の成功率を高めるためには、術前の血管評価が極めて重要です。この評価では、患者さんの血管の状態を詳しく調べ、最適な作製部位を決定します。まず、視診と触診による血管の走行確認が行われ、次に超音波検査で血管の内径や血流の状態、壁の性状などが詳しく調べられます。
 
動脈については、十分な血流が得られるか、動脈硬化の程度はどうかといった点が評価されます。静脈については、直径が2mm以上あるか、深さは適切か、走行に問題がないかなどが確認されます。場合によっては血管造影検査を行い、より詳細な血管の状態を把握することもあります。この綿密な評価により、シャントの長期使用につながる適切な作製部位が選択されます。
 

実際の手術

シャント作製手術は、通常、局所麻酔下で行われる30~60分程度の手術です。手術室では清潔な環境で、拡大鏡を使用しながら細かな血管の吻合が行われます。最も一般的な方法は、手首付近で橈骨動脈と皮静脈を端側吻合する方法です。これは、比較的シンプルで合併症のリスクが低い術式として知られています。
 
手術中は、血管の取り扱いに細心の注意が払われます。特に静脈は壁が薄く傷つきやすいため、愛護的な操作が必要です。吻合が完了すると、すぐにスリル(震え)と呼ばれる振動が触れるようになり、これは血流が確保されている証となります。手術終了後は、圧迫止血を十分に行い、患部を保護します。
 

術後のケアと注意点

シャント作製直後から約2~4週間は、血管が発達する重要な時期です。この期間は、シャントを圧迫しないよう注意しながら、定期的な観察とケアが必要です。まず、手術部位の清潔保持と感染予防が重要で、医師の指示に従って適切な消毒と包帯交換を行います。
 
また、シャントの発達を促すために、適度な運動(シャントの握り運動など)が推奨されます。ただし、過度な運動や重い物を持つことは避ける必要があります。毎日シャントの音(シャント音)や振動(スリル)を確認し、異常を感じた場合は早めに医療機関に相談することが大切です。シャント作製後約2週間で抜糸を行い、その後の経過が良好であれば、4週間程度で穿刺を開始することができます。
 
 

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日常生活での管理

バスキュラーアクセスを長く健康に保つためには、医療機関での定期的なチェックに加えて、日常生活における適切な管理が不可欠です。シャントは透析患者さんにとって「命の血管」とも呼ばれ、その管理の良し悪しが透析治療の質に直接影響します。以下の3つの観点から、具体的な管理方法について解説していきます。
 

  • ●シャントトラブルの予防
  • ●定期的なセルフチェック
  • ●生活上の注意点

 

シャントトラブルの予防

シャントトラブルを予防するためには、日々の観察と適切な予防措置が重要です。最も注意すべきは、シャントに過度な負担をかけないことです。たとえば、シャント側の腕で重い物を持つことや、長時間同じ姿勢を続けることは避けるべきです。また、シャント部位に直接圧力がかかるような腕時計や服装も控えましょう。
 
血圧測定や採血は、原則としてシャントのない腕で行います。また、シャント部位の清潔を保つことも重要で、入浴時にはシャント部位も丁寧に洗いましょう。ただし、ナイロンタオルなど刺激の強いものは使用を避け、優しく洗うようにします。これらの予防措置は、シャントの長期使用を可能にする基本となります。
 

定期的なセルフチェック

毎日のセルフチェックは、シャントトラブルの早期発見に極めて有効です。具体的には、1日1回以上、以下の3つのポイントを確認します。まず、シャントの音(シャント音)を聴いてみましょう。通常は「ザーザー」という連続した音が聞こえます。次に、シャント部位の振動(スリル)を手で触れて確認します。最後に、シャント部位の腫れや発赤、痛みがないかを視診で確認します。
 
これらのチェックは、朝晚など定期的な時間に行うことで習慣化しやすくなります。また、チェックの結果を記録しておくと、経時的な変化に気付きやすくなります。異常を感じた場合は、「いつもと違う」という感覚を大切にし、早めに医療機関に相談することが重要です。
 

生活上の注意点

日常生活では、シャントを保護しながらも快適に過ごすための工夫が必要です。まず、入浴やシャワーは、シャント作製後の傷が完全に治ってから可能となります。シャント部位は清潔に保ちますが、強くこすったり長時間水に浸したりすることは避けましょう。
 
睡眠時の姿勢にも注意が必要です。シャント側の腕の下敷きは避け、自然な姿勢を心がけます。また、外出時はシャント部位を保護するため、長袖の服を着用したり、怪我をしやすい作業を避けたりするなどの配慮が必要です。運動に関しては、ウォーキングなどの軽い運動は問題ありませんが、シャント側の腕に負担がかかる筋トレやゴルフなどは避けるか、医師に相談してから行うようにしましょう。
 
 

合併症と対策

バスキュラーアクセスは、定期的な管理を行っていても様々な合併症が発生する可能性があります。これらの合併症は、早期に発見し適切な治療を行うことで、多くの場合は改善が可能です。適切な対応を行うためには、起こりうる合併症とその症状を理解しておくことが重要です。ここでは以下の2つの観点から解説します。
 

  • ●生活上の注意点
  • ●主な合併症
  • ●早期発見のポイント

 

主な合併症

バスキュラーアクセスの合併症は、適切な治療を行わないと透析治療に支障をきたす可能性があります。最も多い合併症は「シャント狭窄」で、血管が徐々に細くなっていく状態です。これは、透析時の脱血不良や静脈圧上昇として現れます。次に多いのは「シャント閉塞」で、血管が完全に詰まってしまう状態です。この場合、緊急の治療が必要となります。
 
その他の重要な合併症として、「感染」「シャント瘤」「静脈高血圧症」「スチール症候群」があります。感染は特に人工血管シャントで注意が必要で、早期治療が重要です。シャント瘤は血管が瘤状に膨らむ状態で、破裂のリスクがあります。静脈高血圧症は腕の腫れを引き起こし、スチール症候群は手指の血流障害を起こす可能性がある深刻な合併症です。
 

早期発見のポイント

合併症の早期発見には、日々の観察と定期的な医療機関での検査が重要です。まず、シャント音の変化に注意を払います。通常の「ザーザー」という音が、「ヒューヒュー」という高い音に変化したり、音が弱くなったりした場合は要注意です。また、シャントの振動(スリル)が弱くなったり、途切れたりする場合も医療機関への相談が必要です。
 
視診では、シャント部位の発赤、腫れ、皮膚の変化などをチェックします。特に、同じ部位を繰り返し穿刺することによる瘤の形成には注意が必要です。また、シャント側の手指の色調変化、冷感、しびれなども重要な症状です。透析中は、脱血状態や静脈圧の変化にも注意を払います。これらの症状に気づいた場合は、すぐに医療スタッフに相談することが推奨されます。
 
 

まとめ

バスキュラーアクセスは、血液透析治療に不可欠な「命の血管」です。その種類には内シャント、人工血管シャント、カテーテルなどがあり、患者さんの状態に応じて最適な方法が選択されます。作製から管理まで、医療チームと患者さん自身による継続的なケアが重要です。
 
日常生活での適切な管理と定期的なセルフチェックは、トラブルの予防と早期発見に大きく貢献します。また、合併症が発生した場合でも、早期発見・早期治療により、多くは適切に対応することが可能です。医療スタッフと密に連携を取りながら、「いつもと違う」という変化に敏感になることで、より長くバスキュラーアクセスを使用することができます。
 
バスキュラーアクセスの管理は、決して難しいものではありません。この記事で解説した基本的な知識と注意点を日常生活に取り入れることで、より安全で効果的な透析治療を継続することができます。不安な点があれば、遠慮なく担当の医療スタッフに相談することをおすすめします。
 
 

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MYメディカルクリニック渋谷 笹倉 渉医師

監修:MYメディカルクリニック渋谷 非常勤医

笹倉 渉 Dr. Sasakura Wataru

資格

略歴

  • 藤田保健衛生大学医学部 卒業
  • 公立昭和病院
  • 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
  • 北部地区医師会病院麻酔科 科長
  • 2016年 MYメディカルクリニック 医師
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