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味が分からない!? 突然起こる味覚障害の原因と対策
- クリニックブログ
味が分からない!? 突然起こる味覚障害の原因と対策
「突然食べ物の味が分からなくなった」「何を食べてもおいしくない」、味覚障害に悩む人は年々増加傾向にあり、国内だけでも年間24万人以上が医療機関を受診しています。
食事の楽しみが失われることは、単なる不便さだけでなく、栄養バランスの乱れや生活の質の低下にもつながりかねません。
しかし、味覚障害の多くは、原因を特定して適切な治療を行えば改善が期待できます。亜鉛不足や薬の副作用、全身疾患など、さまざまな要因が隠れている可能性があります。この記事では、味覚障害の主な原因と対策について、最新の医学的知見をもとに分かりやすく解説します。あなたの味覚の異変に対する不安を解消し、改善への第一歩を踏み出すためのヒントが見つかるはずです。
味覚障害とは?どんな症状が出る?
味覚障害とは、食べ物の味を正しく感じられなくなる症状の総称です。具体的には、味を感じにくい「味覚減退」、まったく感じない「味覚消失」、口の中に何もないのに特定の味を感じる「自発性異常味覚」、甘味や旨味など特定の味だけが分からない「解離性味覚障害」、本来の味と異なって感じる「異味症」、何を食べてもまずく感じる「悪味症」などがあります。
私たちの味覚は、舌の表面にある「味蕾(みらい)」という味を感じる細胞で感知します。ここで甘味、塩味、酸味、苦味、旨味という5つの基本味を受容し、その情報が神経を通じて脳に伝わることで味を認識しています。
味覚障害は、この味を感じる仕組みのどこかに問題が生じることで起こります。一見些細な症状に思えるかもしれませんが、食欲低下による栄養不足や、塩分の取りすぎによる生活習慣病のリスク上昇など、健康に大きな影響を及ぼす可能性があります。また、食事の楽しみが失われることで生活の質が著しく低下することもあります。
日常生活から考えられる味覚障害の原因とは?
味覚障害の原因は実に様々です。私たちの日常生活の中にも、味覚障害を引き起こす要因が潜んでいます。以下では、代表的な5つの原因について詳しく解説していきます。
食事の偏りが原因で起こる味覚障害
味覚障害の主要な原因の一つに、亜鉛不足があります。亜鉛は味を感じる細胞(味蕾)の新陳代謝に不可欠なミネラルです。日本食は亜鉛が少なく、欧米人よりも亜鉛欠乏になりやすいとされています。
また、偏った食生活を続けると、食物繊維やフィチン酸(穀類・豆類に多い)、食品添加物が亜鉛の吸収を妨げることもあります。
さらに、過度のアルコール摂取は亜鉛の体外排出を促進します。鉄分不足による貧血も味覚障害の原因となり、舌の表面が赤くつるつるした状態になることがあります。
老化による機能低下が引き起こす味覚障害
年齢を重ねると、味を感じる細胞(味蕾)の数が徐々に減少していきます。新生児期には約10,000個あった味蕾が、成人では5,000~7,500個に、高齢者では3,500個程度まで減少するといわれています。
また、加齢に伴い唾液の分泌量も減少し、味を感じにくくなります。高齢者の味覚障害は、この自然な機能低下に加えて、服用している薬の副作用や全身疾患の影響が重なることも多いため、複合的な要因で発症することが特徴です。
鼻詰まりなどが原因で起こる嗅覚低下と味覚障害
嗅覚と味覚は密接に関連しています。風邪や鼻炎で鼻づまりが起きると、においを感じにくくなり、それに伴って食べ物の味も正確に分からなくなることがあります。これを「風味障害」と呼びます。
特に和食は出汁など風味を生かした味付けが特徴のため、嗅覚が低下すると味が分かりづらくなります。また、新型コロナウイルス感染症でも、嗅覚障害による味覚異常が報告されています。
薬やがん治療による副作用が引き起こす味覚障害
様々な薬が味覚障害を引き起こす可能性があります。代表的なものとして、血圧降下剤、利尿剤、糖尿病薬、抗がん剤、消化性潰瘍治療剤、抗生物質、抗アレルギー剤などが挙げられます。
これらの薬剤は、唾液の分泌を抑制したり、亜鉛の吸収を妨げたりすることで味覚に影響を与えます。がんの放射線治療でも、口腔内やのどの粘膜に炎症が起きて味覚障害が生じることがあります。
ストレスが原因で起こる味覚障害
長期間の持続的なストレスや、短期間でも強い精神的ストレスにより、心因性の味覚障害が発生することがあります。
また、ストレスによって引き起こされた統合失調症やうつ病の症状として味覚障害が現れることもあります。ストレスは唾液の分泌量を減少させ、口腔内を乾燥させる原因にもなるため、間接的にも味覚に影響を与えます。
味覚障害をともなう病気
味覚障害は単独で発症することもありますが、様々な病気の症状として現れることも少なくありません。早期発見・治療のために、どのような病気が味覚障害を引き起こす可能性があるのか、詳しく見ていきましょう。
亜鉛欠乏による症状
亜鉛欠乏症は、体内の亜鉛量が不足することで発生する病気です。亜鉛は生命維持に不可欠なミネラルの一つで、味覚や嗅覚障害をはじめ、皮膚炎、脱毛症、生殖機能の低下、食欲不振、鉄欠乏性貧血、糖代謝異常など、多岐にわたる症状を引き起こします。
原因としては、亜鉛の摂取不足、消化器疾患による吸収障害、腎臓疾患による排泄増加などが挙げられます。
舌炎の影響
舌炎は、味を感じる細胞(味蕾)がある舌表面に炎症が起きる病気です。その結果、食べ物が舌に触れると痛みを感じたり、歯が当たって不快感を覚えたりします。
また、味を正確に判別することが難しくなります。原因は多岐にわたり、熱い食べ物による火傷、義歯による傷、ウイルス、細菌、カビなどの感染が挙げられます。
口腔乾燥症(ドライマウス)の症状
口腔乾燥症は、唾液の分泌が減少したり、口呼吸などで口腔粘膜の水分が失われたりすることで発症します。唾液には食べ物の消化補助、口内の洗浄、歯の保護、殺菌作用など、多くの重要な役割があります。
唾液が減少すると、プラーク(歯垢)の付着、舌のひび割れや痛み、口臭、味覚障害、発音障害などが生じる可能性があります。
貧血が引き起こす影響
鉄欠乏性貧血は、血液中のヘモグロビン濃度が低下する病気です。男性で13.0g/dl以下、女性で12.0g/dl以下になると貧血と診断されます。
特徴的なのは、だるさや倦怠感、めまいといった一般的な貧血症状が現れる前に、舌の表面が赤くつるつるした状態になり、味覚障害が発生することです。
味覚障害と倦怠感に関連する記事はこちら
糖尿病と味覚障害の関係
糖尿病は味覚障害を引き起こす可能性のある全身疾患の一つです。味覚異常は糖尿病患者の約4分の1に見られるとされています。
原因として、神経障害による味覚神経への影響や、糖尿病性腎症による腎機能低下で尿中への亜鉛排泄が増加することなどが考えられています。
顔面神経麻痺による影響
顔面神経麻痺は、表情筋を動かす顔面神経の機能が低下する病気です。顔面神経には、表情筋の制御だけでなく、味覚を伝える鼓索神経、涙や唾液の分泌を調節する神経、耳の保護反射を司る神経なども含まれています。
そのため、顔面神経麻痺では顔の動きの障害に加えて、味覚障害や唾液分泌低下、聴覚障害なども生じることがあります。
聴神経腫瘍との関連性
聴神経腫瘍は、耳の奥にある前庭神経を包む細胞(シュワン細胞)から発生する良性腫瘍です。
腫瘍が大きくなると、近接する顔面神経や三叉神経を圧迫し、その結果として味覚を伝える神経の機能が阻害され、味覚障害が発生することがあります。
脳梗塞、脳出血、頭部外傷による影響
脳梗塞、脳出血、頭部外傷などは、中枢神経系に影響を与え味覚障害を引き起こす可能性があります。特に大脳、小脳、脳幹部に障害が及ぶと、めまい、頭痛、吐き気、嘔吐などの症状とともに味覚障害が発生することがあります。
また、頭部外傷で味覚の中枢神経が損傷を受けた場合も味覚障害につながります。
新型コロナウイルス感染症と味覚障害
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では、発症早期に味覚障害が現れることが特徴です。研究によると、感染者の約41%に味覚障害が見られ、男性より女性に多く、若年層ほど発症しやすい傾向があります。
また、後遺症としても味覚障害が報告されていますが、その発生頻度はウイルスの株によって異なるとされています。
新型コロナウイルス感染症と味覚障害に関連する記事はこちら
味覚障害の治療方法
味覚障害の治療は、原因に応じて適切な方法を選択する必要があります。ここでは、主な治療法とその効果について解説します。早期発見・早期治療が改善の鍵となりますので、症状が出たらためらわず専門医に相談しましょう。
亜鉛補充法による治療
亜鉛補充法は味覚障害治療の基本となる方法です。亜鉛製剤やサプリメントを1ヶ月程度継続して服用することで、70~90%という高い自覚症状の改善率が報告されています。
ただし、亜鉛の過剰摂取は銅欠乏症を引き起こす可能性があり、その場合、疲労、貧血、白血球減少、重症例では神経損傷などの症状が現れることがあります。そのため、治療中は定期的な血液検査でモニタリングを行うことが重要です。
薬物療法による治療
薬物療法は、患者の症状や原因に応じて様々な薬剤を使用します。鉄分不足が認められる場合は鉄剤を、ストレスなど心因性が原因と考えられる場合は抗うつ剤や抗不安剤を処方します。
また、慢性疲労や冷えなどの症状がある場合は、体調を整える目的で漢方薬(八味地黄丸など)を使用することもあります。なお、すでに服用している薬が味覚障害の原因と判明した場合は、医師と相談の上で投薬の中止や変更を検討します。
栄養療法による治療
栄養療法では、亜鉛を多く含む食品を積極的に摂取することが基本となります。特に、牡蠣、豚レバー、牛もも肉、うなぎのかば焼き、煮干し、カシューナッツ、いりアーモンド、いりごまなどが推奨されます。
また、亜鉛の吸収を促進するために、酢やレモンなどのクエン酸を含む食品や、乳製品、発酵食品と一緒に摂取することが効果的です。ただし、通常の食事だけでは十分な改善が見込めない場合も多く、その場合は医師の指導のもと、他の治療法と組み合わせて行います。
味覚障害を予防するための日常生活のポイント
味覚障害の予防には、日常生活の中で取り組める習慣が重要です。ここでは、バランスの良い食事、口腔内の清潔維持、唾液の分泌促進といった基本的なポイントについて解説します。
バランスの良い食事で亜鉛不足を防ぐ
亜鉛は味覚を保つために不可欠なミネラルです。不足すると味蕾の再生が滞り、味覚障害を引き起こす可能性があります。
魚介類のカキ、ごま、大豆製品、海藻など、亜鉛を多く含む食品を積極的に摂取しましょう。また、亜鉛が有効に働くためには、ビタミンやたんぱく質などをバランス良く取り入れることが大切です。
口腔内の清潔を保つためのケア
口腔内が清潔でないと細菌の増殖により舌炎が発生し、味覚障害を引き起こすことがあります。歯磨きやうがいを習慣化し、口腔内を常に清潔に保つことが重要です。
また、定期的に歯科医を受診することで、口内環境を良好に維持できます。
唾液の分泌を促す方法
唾液の分泌が低下すると、味覚障害だけでなく嚥下や発音に影響を及ぼします。水分補給をこまめに行い、よく噛むことで唾液分泌を促進しましょう。
食前にレモン水や緑茶でうがいをすると効果的です。また、唾液腺のマッサージも有効で、口腔の乾燥を防ぐだけでなく、健康的な味覚の維持に繋がります。
まとめ
味覚障害は、様々な原因で発症する可能性がある身近な健康問題です。食事の偏り、加齢、薬の副作用、全身疾患など、その要因は多岐にわたりますが、適切な診断と治療により改善が期待できます。早期発見・早期治療が重要であり、症状に気づいたら速やかに医療機関を受診することが推奨されます。
また、バランスの良い食事や口腔ケア、適度な運動など、日常的な予防策を実践することで、味覚障害のリスクを軽減し、豊かな食生活を維持することができます。
味覚障害に関連する記事はこちら
![MYメディカルクリニック渋谷 笹倉 渉医師](https://mymc.jp/wp2/wp-content/uploads/doctor_sasakura.jpg)
略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師