下肢静脈瘤とは?原因、症状、治療について解説
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下肢静脈瘤とは?原因、症状、治療について解説
足のだるさやむくみ、ふくらはぎの血管のボコボコ感に悩んでいませんか?これらは「下肢静脈瘤」のサインかもしれません。特に長時間の立ち仕事や妊娠・出産を経験した方に多く見られるこの症状、放置すると悪化することもあります。ですが、適切な治療とケアで改善は十分可能です。
本コラムでは、下肢静脈瘤の原因や症状、治療法をわかりやすく解説します。読了後には、自分に合った対処法が見つかり、日常生活を快適にする一歩を踏み出せるでしょう。
下肢静脈瘤とは?
足の血管が浮き出て気になる、夕方になると足がむくんでだるい―そんな症状でお悩みの方は、下肢静脈瘤かもしれません。実は日本人の10人に1人が抱える身近な病気です。
ここでは、下肢静脈瘤の基本的な知識から治療法まで、詳しく解説していきます。
下肢静脈瘤の定義
下肢静脈瘤は、足の静脈が異常に拡張してコブ(瘤)のように膨らんでしまう血管の病気です。心臓から送られてきた血液は、静脈を通って再び心臓へ戻りますが、足の静脈には重力に逆らって血液を送り返すという重要な役割があります。
健康な静脈には「逆流防止弁」が備わっていますが、この弁が正常に機能しなくなると、血液が下肢に溜まってしまい、静脈が膨らんで瘤状になります。良性の病気であり、命に関わることはありませんが、放置すると症状が進行する可能性があります。特に40、50代で発症した場合は、早めの医療機関の受診をお勧めします。
下肢静脈瘤ができてしまう原因は?
下肢静脈瘤の主な原因は、静脈内の逆流防止弁の機能低下です。この弁は、重力に逆らって血液を心臓に戻すための重要な役割を果たしています。弁が壊れる要因として、遺伝的な影響が大きく、両親に静脈瘤がある場合、子供の90%が発症するというデータもあります。
また、妊娠・出産時にはホルモンの影響で静脈が柔らかくなり、弁が壊れやすくなります。職業では、調理師や美容師、販売員など、1日10時間以上の立ち仕事をする方に多く見られます。さらに、加齢や肥満、便秘なども発症や症状の悪化に関係していることが分かっています。
下肢静脈瘤の症状
下肢静脈瘤の症状は主にふくらはぎに現れ、血管の浮き出しやむくみが特徴的です。ふくらはぎのだるさや重苦感、夜間のこむら返り(足のつり)に悩まされる方も多くいます。また、足のほてりや熱感、かゆみや湿疹が出ることもあり、進行すると皮膚の色素沈着が起こる場合もあります。
これらの症状は午後から夕方にかけて強くなるのが特徴です。重症化すると皮膚炎を引き起こし、さらに悪化すると潰瘍を形成することもあるため、早めの受診が推奨されます。
下肢静脈瘤があると脳梗塞や心筋梗塞になってしまう影響はある?
下肢静脈瘤は良性の疾患であり、血栓が飛んで脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす心配はありません。また、よく懸念されるエコノミークラス症候群のリスクも極めて低いことが分かっています。血管のコブが破裂したり、足の切断が必要になったりすることもありません。
症状は徐々に進行する可能性はありますが、命に関わるような事態になることはないため、過度な心配は不要です。ただし、快適な生活のために、気になる症状がある場合は専門医への相談をお勧めします。
下肢静脈瘤の種類
下肢静脈瘤は、静脈の太さや形状によって以下の4種類に分類されます。
- 側枝型静脈瘤:主幹ではなく支流の静脈に発生し、比較的小さなコブ状。
- 伏在型静脈瘤:静脈弁不全が原因で発生し、足の内側や膝裏に大きなコブができる。
- 側枝型静脈瘤:主幹ではなく支流の静脈に発生し、比較的小さなコブ状。
- 網目状静脈瘤:細かい網目状に広がり、症状は軽度。
- くもの巣状静脈瘤:赤い血管がクモの巣のように広がる状態。
伏在型は外科的治療が必要になることが多い一方、他のタイプは保存的療法が一般的です。種類によって適切な治療法が異なるため、専門医による診断が重要です。
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下肢静脈瘤の診断方法
下肢静脈瘤の診断には、主に超音波(エコー)検査が用いられます。かつては静脈造影検査という、造影剤を注射してレントゲンを撮影する方法が一般的でしたが、現在はより安全で痛みのない超音波検査が主流となっています。
超音波検査では、足の付け根からふくらはぎまでの皮膚にゼリーを塗り、プローブと呼ばれる機器を当てて静脈の状態を確認します。検査時間は10~15分程度で、肝臓や胆嚢の検査と同じ要領ですが、立った状態で行うのが特徴です。
この検査により、静脈の太さや血液の逆流の程度、弁の異常の有無などを正確に診断することができます。必要に応じてCT検査で静脈瘤の分布や血管同士のつながりを確認することもありますが、基本的には超音波検査で十分な診断が可能です。
下肢静脈瘤の治療の必要性
下肢静脈瘤の治療が必要となるのは、主に3つのケースです。
まず外見が気になる場合、次に足のだるさやむくみなどの症状があってつらい場合、そして皮膚炎などの合併症が出ている場合です。
静脈瘤は良性の病気であり、治療をしなくても命に関わることはありませんが、自然に治ることもありません。特に40、50代で発症し、立ち仕事が多い方は、将来的に症状が進行する可能性が高いため、早めの治療をお勧めします。
一方で、高齢の方で症状がなく、見た目も気にならない場合は、必ずしも治療は必要ありません。弾性ストッキングを履いたり、足を高くして寝たりする予防的な対策も不要です。ご自身の状態や生活スタイルに合わせて、専門医と相談しながら治療の必要性を判断することが大切です。
下肢静脈瘤の治療方法
下肢静脈瘤の治療には、症状や静脈瘤の種類に応じてさまざまな選択肢があります。弾性ストッキングを使用する保存的な治療から、注射による治療、手術まで、患者さんの状態に合わせて最適な方法を選択します。それぞれの治療法にメリット・デメリットがありますので、詳しく見ていきましょう。
圧迫療法
圧迫療法は下肢静脈瘤の基本的な治療法で、主に弾性ストッキングを使用します。市販の着圧ストッキングとは異なり、医療用の弾性ストッキングは医師の処方が必要です。足首の圧が最も高く、上に行くほど圧が弱くなる段階圧の設計により、血液やリンパ液の逆流を効果的に防ぎます。
ストッキングは朝起きたら履き、寝る前に脱ぐことが基本です。しわを伸ばしながら丁寧に履くことが重要で、傷が化膿している場合は使用を控えます。一つの弾性ストッキングは約半年間使用可能ですが、圧迫力や型が異なるため、必ず医師に相談の上、適切なものを選択する必要があります。
硬化療法
硬化療法は、刺激性の薬剤を静脈瘤内に直接注入して血管を閉塞させる治療法です。主に細い静脈瘤に対して実施され、外来で処置が可能という利点があります。手術ほどの侵襲性がなく、比較的手軽な治療法として知られています。
薬剤注入により静脈を内側から固めることで、血液の流れを止め、静脈瘤を消失させます。ただし、太い静脈瘤や血液の逆流が強い場合には、より積極的な治療法が推奨されます。手術と比べて再発のリスクは高くなりますが、軽症例では効果的な治療オプションの一つとなっています。
手術
下肢静脈瘤の手術治療には、従来から行われているストリッピング手術と、近年主流となっている血管内レーザー治療があります。どちらも日帰りや1泊2日程度の短期入院で実施可能です。症状の程度や静脈の状態によって最適な手術方法を選択します。
ストリッピング手術
ストリッピング手術は、足の付け根からくるぶしまでの静脈瘤内にワイヤーを通して引き抜く伝統的な手術方法です。小さな2カ所の切開から、逆流の主たる原因となっている静脈を完全に除去します。再発が少ないという利点があり、特に伏在型静脈瘤に対して効果的です。
血管が太い場合や、血管の蛇行が強くカテーテルが入れにくい場合など、血管内レーザー治療が適さない症例に対して選択されます。局所麻酔で実施可能ですが、手術後は切開部の傷が治るまでシャワーのみとなります。
血管内レーザー治療
血管内レーザー治療は、細いカテーテルを静脈内に挿入し、レーザーや高周波による熱で静脈を内側から焼灼して閉鎖する最新の治療法です。従来のストリッピング手術と比べて、痛みが少なく、大きな傷跡が残りにくいのが特徴です。局所麻酔で実施でき、手術時間は片足約15〜20分と短く、術後すぐに歩行が可能です。
ただし、極めてまれに(0.1〜0.2%)肺動脈血栓塞栓症を引き起こす可能性があるため、術後は定期的な経過観察が必要です。術後の入浴も可能で、早期の社会復帰が見込めます。
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日常生活での留意点
下肢静脈瘤の予防と症状の緩和には、日常生活での適切な管理が重要です。長時間同じ姿勢で座ったままや立ちっぱなしの状態は避け、適度に体を動かすようにしましょう。また、締め付けの強い下着やハイヒールは血液の循環を妨げる原因となるため、できるだけ避けることをおすすめします。
就寝時には、足元にクッションを置いて脚を少し高くすることで、血液の戻りを促進することができます。運動面では、つま先立ち運動や足首の運動など、ふくらはぎの筋肉を使う簡単な運動を意識的に取り入れることで、静脈の血流改善に効果があります。これらの生活習慣の改善は、症状の進行予防に役立ちます。
まとめ
下肢静脈瘤は日本人の約10人に1人が抱える一般的な血管の病気です。命に関わる重篤な病気ではありませんが、放置すると症状が進行する可能性があります。特に、足のだるさやむくみ、夜間のこむら返りなどの症状がある場合は、専門医への相談をお勧めします。
診断は主に超音波検査で行われ、症状や状態に応じて、弾性ストッキングによる圧迫療法から血管内レーザー治療まで、様々な治療選択肢があります。また、適度な運動や生活習慣の改善など、日常的なケアも重要です。早期発見・早期治療により、快適な生活を取り戻すことが可能ですので、気になる症状がある方は、ぜひ専門医に相談してください。
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略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師