動脈に瘤ができる「腹部大動脈瘤」とは。原因や症状、治療法を解説
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動脈に瘤ができる「腹部大動脈瘤」とは。原因や症状、治療法を解説
腹部大動脈瘤とは、腹部を通る大動脈に瘤(こぶ)ができてしまう病気です。腹部大動脈瘤は、大きくなると破裂する場合もあり、万が一、大動脈瘤が破裂した場合には命に関わってきます。では、腹部大動脈瘤はなぜ発症するのでしょうか。
今回は、腹部大動脈瘤の原因や症状、治療法などについてご説明します。
腹部大動脈と腹部大動脈瘤とは
腹部大動脈瘤は、腹部大動脈に瘤ができる病気です。まずは、腹部大動脈の場所を確認しながら、腹部大動脈瘤についてご説明しましょう。
腹部大動脈とは
大動脈とは、心臓から送り出される血液が流れる血管です。大動脈は心臓から出発し、両腕や脳などの方向に血液を送る3本の血管を出し、背中側から下降しながらさまざまな方向に枝分かれし、全身に酸素を豊富に含む血液を巡らせます。横隔膜から胃、腸、肝臓、腎臓に向かう部分の大動脈を腹部大動脈といいます。
腹部大動脈瘤とは
腹部大動脈瘤では、腹部大動脈に瘤(こぶ)ができます。瘤とは血管が膨らんだ状態のことで、腹部大動脈は通常20mm程度の太さですが、動脈瘤ができると30~40mm以上に膨らみます。腹腔部にできた動脈瘤を腹部大動脈瘤といいますが、動脈瘤は胸部にもできる場合があり、腹部と胸部の両方に動脈瘤が認められる場合は胸腹部大動脈瘤といいます。
腹部大動脈瘤は、男性に多い病気で、55~70歳代に最も多く発症するという特徴があります。大動脈瘤は、急に大きくなるわけではなく、時間をかけて徐々に膨らんでいきます。しかし、大動脈瘤が大きくなるほど成長のスピードも速くなり、大動脈瘤に気付かずに放置しておけば、血管が破れ、破裂する危険性が高くなります。
腹部大動脈瘤の原因
腹部大動脈瘤の原因はさまざまですが、腹部大動脈瘤を発症する人の90%以上に動脈硬化が起きています。年を重ねるほど血管は硬くなるため、腹部大動脈瘤は70代で発症するケースが最も多くなっています。動脈硬化は加齢のほか、喫煙や高血圧、脂質異常症、糖尿病などが原因で進行します。動脈硬化により血管の壁が弱くなると発生しやすく、特に高血圧の人や喫煙習慣のある人は腹部大動脈瘤のリスクが高くなります。
また、梅毒などの感染症や高安動脈炎、ベーチェット病、外傷、先天性の病気が原因になるケースもあります。
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腹部大動脈瘤の症状
腹部大動脈瘤は、ほとんどのケースで自覚症状がありません。痩せている人の場合には、腹部に触れた時にドクドクとした瘤があることに気が付くこともあります。また、健康診断や他の病気の治療中に超音波検査やCT検査などで発見されるケースも少なくありません。
腹部大動脈瘤が大きくなり、周囲の臓器を圧迫するほどになると、腹痛や腰痛などの症状が持続するようになります。腹部大動脈瘤が破裂すると、突然下腹部や背中に激痛が走り、体内で大量に出血します。この場合、出血性のショック状態となり、死に至る可能性が高くなります。
腹部大動脈瘤の検査・診断
なんらかの検査や触診などで腹部大動脈瘤が疑われる場合には、次のような検査を行います。
腹部超音波検査
プローブを腹部にあて、動脈瘤の位置や大きさなどを確認します。
CT検査
超音波検査で異常を認めた場合には、造影剤を用いたCT検査によってより詳細に動脈瘤の大きさや形、動脈壁の破裂の有無などを詳細に調べます。
腹部大動脈瘤の治療法
腹部大動脈瘤を薬で治療することはできません。また、大動脈瘤が発見されても、まだそれほど大きくない場合には、血圧を下げる薬などを使用しながら定期的にCT検査などを実施して経過を観察します。
しかし、腹部大動脈瘤の大きさが直径45mm程度になった場合には、破裂のリスクが高まるため、手術をした方がよいでしょう。大きさが45mm以下の場合でも、一部が突出するような嚢状の大動脈瘤の場合には破裂の危険性が高いため、手術による摘出が検討されます。
腹部大動脈瘤の手術には、大動脈瘤が生じている血管を人工血管に置き換える「人工血管置換術」と、大動脈瘤への血液の流入を防ぐ「ステントグラフト内挿術」の2つがありますそれぞれメリットやデメリットがあるため、体の状態や年齢などを考慮しながら、適切な術法が選択されます。
人工血管置換術
腹部を切開し、腹部大動脈瘤がある部分を切断し、前後の大動脈を人体親和性の高い素材で作られた人工血管に置き換える手術です。現在、腹部大動脈瘤の外科治療では、人工血管置換術が基本となっています。人工血管置換術は開腹手術となるため創の痛みが発生するほか、大動脈を遮断して治療を行うため、心臓に負担がかかります。
ステントグラフト内挿術
ステントグラフトとは、バネ状の金属を取り付けた人工血管です。ステンドグラフトを腹部大動脈瘤の前後を含めた大動脈内に挿入し、拡張すると血液はステントグラフトの中を流れるようになります。ステントグラフトは、日本では2006年に初めて実施された手術法ですが、鼠径部からカテーテルと呼ばれる細い管を通してステントグラフトを挿入するため、体への負担が少ないというメリットがあります。
ただし、血管が曲がっていたり、血管壁が石灰化していたりする場合は、ステンドグラフトが十分に血管に圧着せずに、大動脈瘤に血液が流れ込んでしまうケースもあります。また、枝分かれをした小さな血管から大動脈瘤内に血液が逆流するケースもみられます。そのような場合は、追加の治療が必要になるため、治療後も定期的な検査が必要です。
まとめ
腹部大動脈瘤とは、腹部を流れる大動脈に瘤ができる病気です。腹部大動脈瘤を放置し大きくなると、腹腔内で破裂し、出血性ショックの状態を招き、死に至る可能性もあります。腹部大動脈瘤の原因のほとんどは、血管が弾力を失う動脈硬化です。加齢のほか、喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症などが危険因子となり動脈硬化は進みます。
腹部大動脈瘤はほとんどのケースで自覚症状が表れないため、ある程度の年齢になったら定期的に腹部超音波検査やCT検査などを受けておくと安心です。
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略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師