腎盂腎炎とは?原因、症状、治療法について解説

  • クリニックブログ
2023/07/30

腎盂腎炎とは?原因、症状、治療法について解説

腎盂腎炎とは

腎盂腎炎とは、腎臓に細菌が感染する病気で、男女比では女性に多く発生する傾向があります。
まず腎臓でつくられた尿は、腎臓内の尿のたまる腎盂から、尿管を経て膀胱に溜められ、尿道から排出されます。この尿の通り道である尿路は本来無菌ですが、細菌が侵入し感染したことを尿路感染症といいます。細菌が感染した部位によって下部尿路感染症と上部尿路感染症に大きく分けられますが、腎盂や腎臓に起こる上部尿路感染症の多くは腎盂腎炎と診断されます。膀胱から細菌が逆流することによって腎盂内で細菌が繁殖し腎臓にまで炎症が及んだものを腎盂腎炎といいます。
 
適切なタイミングで、適切な治療(抗生剤の投与、補液)を行わなければ、細菌が血液中に侵入し、いわゆる敗血症と呼ばれる最悪の場合には生命をも脅かす状態になります。治療により比較的早く治るものを急性腎盂腎炎、抗生剤治療の反応が十分でなかったり、炎症を繰り返したりすることで症状が長く続くものを慢性腎盂腎炎と呼びます。慢性腎盂腎炎は明らかな症状がない事も多く、進行すると慢性腎不全に移行することもあるため注意が必要です。


 
 

腎盂腎炎の原因

腎盂腎炎は膀胱炎など尿道の出口から侵入した細菌が腎臓へ逆流し、腎盂に達することで起こります。
膀胱炎や一般的に尿路に侵入した細菌感染により必ずしも腎盂腎炎が起こりうるとは限りません。基本的には体内に侵入した細菌は排尿により体外へ排出され、自己の免疫力により排除されるため、簡単に腎盂腎炎は起こりません。
 
しかし、免疫力が低下していたり、物理的に外部から細菌が侵入した場合には感染を繰り返すこともあります。また、男女比で女性の発病が多い理由としては、女性の方が大腸菌などが存在する肛門と尿道の距離が近いこと、尿道が短いことなどが挙げられます。さらに生理や性交渉で陰部が不衛生になったり、妊娠による子宮の増大で尿管が圧迫され、尿の流れが悪くなることもあるため発症しやすいと考えられています。
 
他にも腎盂腎炎を併発する場合には、以下のような様々な誘因があります。
 

  • ・尿路通過障害:結石、腫瘍、前立腺肥大など
  • ・尿道カテーテル留置
  • ・妊娠
  • ・免疫力の低下:糖尿病、ステロイド治療、抗がん剤治療 など
  • ・解剖学的異常:馬蹄腎、膀胱尿管逆流症など

 

  

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腎盂腎炎の症状

急性腎盂腎炎と慢性腎盂腎炎で症状は異なります。
 

急性腎盂腎炎

非常に強い炎症反応が生じ、高熱や悪寒、強い腰痛などが生じます。早期に適切な治療を行わなければ、敗血症に至ることもあります。
また、結石や腫瘍が誘因となっている場合には、尿量が明らかに少なくなったり、血尿がみられたりすることもあります。多くは早期に適切な治療を行うことで治る病気です。
 

慢性腎盂腎炎

一般的に自覚症状が少ないのが特徴です。食欲不振が続いたり、倦怠感があり、徐々に腎臓の機能が低下することで、尿を濃縮する機能が低下し、夜間の多尿や尿の色が薄くなるなどの症状が現れます。自覚症状が少ないため気づかれないことも多く、治療せずにいると慢性腎不全に移行し、透析治療が必要になることもあります。
 

発熱

時に40度を超える発熱を認めることもあります。
 

側腹部痛

感染を起こしている腎臓の側の腹部から腰部に痛みが生じます。
 

頻尿

膀胱尿道炎を原因とするので、頻尿となります。
 

膿尿

感染した菌による膿が尿に混じり、混濁した膿尿となります。
 

血尿

感染によって尿路から出血し、血尿となります。

 
 

腎盂腎炎の検査方法

腎盂腎炎では、以下の検査で診断や治療方針の決定が行われます。
 

血液検査

炎症反応の程度と腎機能を評価します。炎症反応を示す白血球が一定数以上ある場合、尿路感染症である可能性が高くなります。
炎症反応の高値に加えて、発熱や腰背部痛など腎盂腎炎に特有の症状がある場合、急性腎盂腎炎と診断されます。一方、発熱や腰背部痛などの症状がなくても、過去に膀胱炎などの尿路感染症や急性腎盂腎炎などにかかったことがあれば慢性腎盂腎炎が疑われます。また、敗血症が疑われる場合には、血小板や凝固因子などの値が治療方針を決定するうえで重要となります。
 

尿検査

尿への細菌や血液の混入、尿中の白血球数などを確認します。
また、尿培養検査にて腎盂腎炎の原因菌を特定することが可能であり、効果的な抗菌薬の選択には必要不可欠な検査になります。異形細胞がみつかった場合、膀胱がんなどを疑うきっかけとなり、精密検査に進みます。
 

超音波検査

腎臓は、超音波で観察しやすい臓器です。超音波検査は簡便かつ侵襲の少ない画像検査であり、腎盂腎炎のほとんどで行われます。
急性の場合には、腎盂の拡張や尿管の閉塞などの尿の通過障害の有無を確認することができます。慢性の場合では、腎臓の萎縮や腎杯の拡張などが観察されます。
 

CT検査

腎機能が正常であれば造影剤を用いたCT検査が行われます。造影剤を用いる事により腎盂拡張の程度や尿管結石の位置・大きさ、解剖学的異常などを詳しく評価することが可能になります。一方、造影剤を投与するため、アレルギー症状が出る可能性や閉所的な場所での検査のため、検査への恐怖心など心身ともに負担がかかりやすい検査ともいえます。

 
 

腎盂腎炎の治療方法

腎盂腎炎の治療は、主に抗菌薬の投与です。原因菌に適した抗菌薬の使用が必要ですが、腎臓に効きやすいペニシリン系やセフェム系、ニューキノロン系などが多く使用されます。
内服による抗菌薬治療は、一定の期間定められた量の抗菌薬を連続で服用しないと十分な効果が得られません。そのため、症状が治まって服用をやめてしまうと、そのまま菌が体に残ったり、抗菌薬に対して耐性がついてしまい、再び菌が増えてしまったりすることもあります。そのため、処方された薬は医師の指示に従って必ず飲み切るようにしてください。
 
軽症の腎盂腎炎であれば、外来通院で点滴による抗菌薬治療や内服の抗菌薬治療で治癒します。しかし、高熱が持続する重症の腎盂腎炎の場合、入院して抗菌薬の定時投与などの治療が必要となります。慢性腎盂腎炎の場合には、長期的な抗菌薬治療が基本となります。
 
また、腎盂腎炎の原因として、尿路結石や前立腺肥大症などによる尿路閉塞を伴う場合は、尿路の閉塞をカテーテルなどで閉塞を解除し、体外へ膿の排除をしなければ治癒しません。また、敗血症などの重篤な合併症が生じた場合には、命にかかわる可能性もあるため、全身管理を含めた集中治療が行われます。また、慢性腎不全に移行した場合には人工透析や腎移植が必要となります。

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腎盂腎炎の予防方法

腎盂腎炎の予防には、“陰部の清潔”を保つことが重要です。お風呂やシャワーなどで陰部を常に清潔に保ち、できれば排便後に陰部の洗浄を行うことが望ましいです。
万が一、細菌が尿道に入り込んだとしても、腎臓にあがってこないよう尿で流し出すことも大切です。そのため水分をできるだけ摂取するように心がけたり、膀胱内に尿を溜め込み過ぎないよう尿意を感じたら我慢せずに早めにトイレへ行くことがポイントになります。さらに女性は上記以外にも外陰部を清潔に保つよう心がけたり、排尿・排便後トイレットペーパーは前から後に拭くようにする事など注意が必要です。

 
 

まとめ

腎盂腎炎は風邪とは違い、抗生剤投与なしで自然に治癒することはありません。ほとんどが膀胱炎など、尿道から侵入した細菌による逆行性感染からの疾病です。
疑わしい症状がある場合には早い段階で泌尿器科クリニックを受診し、治療すれば防げる疾患ともいえます。治療のタイミングが遅れると、治療に時間がかかるだけではなく、腎臓のダメージも大きくなるので、腎機能の面からも適切なタイミングでの治療が重要となります。症状が認められる場合は、早めに医療機関を受診して適切な治療を受けるようにしてください。

 

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MYメディカルクリニック渋谷 笹倉 渉医師

監修:MYメディカルクリニック渋谷 非常勤医

笹倉 渉 Dr. Sasakura Wataru

資格

略歴

  • 藤田保健衛生大学医学部 卒業
  • 公立昭和病院
  • 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
  • 北部地区医師会病院麻酔科 科長
  • 2016年 MYメディカルクリニック 医師
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