鼠径ヘルニアとは?原因、症状、治療法について解説
- クリニックブログ
鼠径ヘルニアとは?原因、症状、治療法について解説
「鼠径ヘルニアはどのような症状が見られる?」
「どのような治療が行われる?」
「手術後できないことはある?」
現在の症状が鼠径ヘルニアかどうか確認したい方や、手術後の生活に不安を感じている方も多いでしょう。
本記事では、鼠径ヘルニアの特徴や原因、症状、検査方法、治療法などの基本情報に加え、術後の過ごし方についても詳しく解説します。
ぜひ参考にしてください。
鼠径ヘルニアとは?原因や症状について
鼠径ヘルニアとはどのような疾患なのでしょうか。原因や症状について解説します。
鼠径ヘルニアとは?
ヘルニアとは、体の組織や臓器が本来あるべき位置から飛び出した状態のことです。
腸やその腸を覆う脂肪組織などが、腹壁に生じた欠損部(脆弱となった部分)を通じて飛び出します。
稀に飛び出した腹腔内容物がはまり込んで元に戻らなくなり、腸閉塞や最悪の場合には腸の血流が途絶えて内臓が壊死することもある深刻な状態です。
ヘルニアの一種として知られているのが、鼠径ヘルニアです。鼠径ヘルニアとは、鼠径部(足の付け根部分)にできるヘルニアの総称で、一般的には「脱腸」と呼ばれています。腹部にできるヘルニアの80%程度は鼠径ヘルニアといわれています。
鼠径ヘルニアによって内臓の壊死が広がるのを防ぐため、重篤な状態に至った場合は緊急手術が必要です。
危険な状態になる前に、鼠径ヘルニアの疑いがある場合は、急いで医師の診察を受けるようにして下さい。
原因は?
鼠径ヘルニアの原因は、先天性(生まれつき)のものと、後天性(生まれたあとに起こる)ものとがあります。
子供に生じる鼠径ヘルニアのほとんどが先天性のもので、大人で生じるものは加齢や生活習慣などが原因の後天性のものが大多数です。
また両方の原因が絡み合っておこる場合もあります。
先天性の鼠径ヘルニアの原因は、胎児期に腹膜鞘状突起というものが出生後に自然閉鎖するものですが、まれに出生後も閉鎖せずに残っていることがあり、それがヘルニア嚢となり、鼠径ヘルニアの原因となります。
後天性では一般的に女性よりも男性に多く、あらゆる年齢の方が発症しますが、若い人よりも高齢者に多い病気とされています。
後天性の鼠径ヘルニアの原因は、主に加齢による腹壁の脆弱化です。
もともと薄い鼠径部の腹壁が脆弱になると、咳やいきむ、重い物を持つことなどによって腹圧が上昇したときに、その強い腹圧に負けて発症することがあります。
肥満や妊娠なども誘因の一つです。
症状は?
腹腔内容物の脱出に伴い、鼠径部に膨らみができ、違和感や不快感、痛みを伴うことがあります。膨らみが大きくなったり、小さくなったりすることが鼠径ヘルニアの典型的な症状です。
腹部に力を入れることで飛び出しますが、逆に力を抜いたり、仰向けで寝たり、手で押し込んだりすると分からなくなり、違和感がなくなります。
とはいえ、放置すると次第に大きくなり、腹腔内容物がはまり込んで元に戻らない状態になることは珍しくありません。
腸閉塞についてはこちら
ヘルニアの種類
鼠径ヘルニアは、鼠径部のどの部位からヘルニアが発生するかによって分類されます。主に以下の3種類です。
- ●外鼠径ヘルニア
- ●内鼠径ヘルニア
- ●大腿ヘルニア
それぞれの特徴や症状、診断方法について詳しく解説します。
① 外鼠径ヘルニア
外鼠径ヘルニアは、幼児や成人でよく見受けられますが、発症メカニズムは年齢によって異なります。
幼児期に発症する場合、発育段階で鼠径管がつくられる際に、何らかの原因で閉じなかったことが発症原因です。
成人期で発症する場合、一度ふさがったはずの箇所が腹圧で再び穴があき、ヘルニアを起こした状態となります。
発熱や痛みは通常ありませんが、姿勢によってヘルニアが膨らんだり引っ込んだりします。
立っていると膨らみ、仰向けに寝ると膨らみがなくなるのが特徴です。
大腸が穴にはまると便秘を引き起こすこともあります。
診断には、超音波(エコー)検査やCT画像診断が用いられ、画像をみて下腹壁動静脈の外側でヘルニアの症状が見られれば、外鼠径ヘルニアと診断されます。
② 内鼠径ヘルニア
内鼠径ヘルニアは、鼠径三角と呼ばれる部位で発生するタイプで、中高年層に多く見られます。
発症原因は、生活習慣や加齢です。
生活習慣や加齢によって筋肉組織や壁となっている組織が弱まり、腹圧がかかりつづけることで壁がゆるみ、ヘルニアを引き起こします。
主な発症リスクは次の通りです。
- ●腹圧がかかる仕事
- ●老化
- ●痩せ型体型
- ●前立腺肥大症の手術歴
- ●反対側のヘルニアの手術歴
- ●慢性的な咳
建築や現場作業など、体力を必要とする仕事に従事する男性に多いとされています。
内鼠径ヘルニアの診断方法は画像検査です。
下腹壁動静脈の内側にヘルニアの症状が見られると、内鼠径ヘルニアと診断されます。
③ 大腿ヘルニア
大腿ヘルニアは、女性が発症しやすい傾向にあり、特に出産経験が多い方のリスクが高まります。
鼠径部下の太ももが膨らむのが特徴です。
ヘルニアの中では比較的診断しやすい所見ですが、腸が詰まり壊死する症状を発症しやすいため、緊急性が高く、早急に治療しなければいけません。
また、大腿ヘルニアは前述した2つのタイプと合併することもあり、対応が難しいケースが多いです。
そのため、診断が確定次第、速やかな手術が推奨されています。
鼠径ヘルニアの検査や診断について
鼠径ヘルニアは一般的に問診、視触診で診断することが可能ですが、より詳しく診断するため、CT検査や超音波検査が行われます。
当院では超音波装置は全院に、CT装置は大手町院と新宿院に設置しております。検査は可能ですが、治療、手術となると外科領域になるため、それに対応できる医療施設へのご紹介となります。
身体検査
鼠径ヘルニアは特有の身体症状を引き起こすため、身体検査で大まかな診断が可能です。
自己診断の際には、ピンポン玉のような膨らみが見られ、横になった姿勢でその膨らみが消えれば鼠径ヘルニアの可能性が高いと考えられます。
CT検査
CT検査は、X線を用いて内臓や骨の画像を生成し、病変を検出する方法です。
造影剤を使用する場合と使用しない場合がありますが、いずれもベッドに横になり装置に入って撮影します。
X線は金属を透過するため、検査前にはネックレスやブレスレットなどのアクセサリーを外すのが基本です。
CT検査はX線を使用するので、妊娠中や糖尿病の方などは受けられないことがあります。
超音波検査
超音波検査では、鼠径ヘルニアの内容物や状態を確認します。
この検査により、ヘルニアのタイプを90%以上の確率で診断可能です。
検査では、ゼリー剤をヘルニアが疑われる部位に塗布し、超音波を使って映像を表示します。
腸や小腸が突出している場合、内容物が移動し診断が難しくなるため、検査前の食事は不可です。
鼠径ヘルニアの治療方法と手術後の過ごし方
手術では飛び出した腹腔内容物をお腹の中へ戻し、その孔を何らかの方法で人工的に塞がないとまた飛び出してきてしまいます。
現在はメッシュ(人工の膜にあたる)で孔を塞ぎ、脆弱な腹壁の補強を行って腹腔内容物が脱出しないように処置する方法が一般的です。
一昔前は鼠径ヘルニアの根本を糸で直接縛るような術式がとられていましたが、メッシュで孔を防ぐことにより、より安全で術後も再発率が少なくなってきました。
ヘルニアバント(脱腸帯)を使用していた時期もありましたが、これはヘルニアを直接、外から抑えることで一時的に鼠径ヘルニアの症状を軽くする対処療法です。圧迫による皮膚の障害や睾丸の萎縮を招くといったこともあり、現在では治療ガイドラインでは推奨されていません。
治療方法は手術療法のみ
ヘルニアの治療には手術が唯一の方法です。
手術方法には2通りあり、それぞれ適用できる対象が決まっています。
鼠径部切開法
鼠径部切開法は、Marcy法とTension-free法と呼ばれる術式があります。
Marcy法は鼠径部を2〜3cm切開してヘルニアを起こしている穴を補強する術式です。
適用できる対象は、18歳以下の方、出産予定のある30歳前後の女性です。
Tension-free法は、鼠径部を3〜4cm切開してヘルニアを起こしている穴を、メッシュで補強する術式です。
初めてヘルニアを発症した男性や、出産経験がある女性に適応されます。
腹腔鏡手術
腹腔鏡とよばれる器具を使用する術式です。
腹腔内から器具のカメラで観察しながら、先端についた鉗子で手術を行います。
鼠径部を切開せず、5mmから10mm程度の小さな穴をお腹に3箇所開けるため、傷跡がほとんど目立ちません。
手術の流れ
手術の流れについて、日帰り手術と2泊3日の入院手術に分けて説明します。
日帰り手術の場合
日帰り手術とは、手術が短時間で終了し、身体への負担が軽いために入院が不要な手術を指します。
最近では、鼠径ヘルニアの手術時間が短縮できるようになり、60分程度です。
ただし、手術には全身麻酔が使用されるため、帰宅時には運転できません。
タクシーや公共交通機関を利用するか、ご家族や友人に迎えに来てもらう必要があります。
2泊3日の場合
2泊3日の手術は、手術前日に検査入院を行い、翌日に手術を実施する流れが一般的です。
術後さらに1泊して経過観察を受けます。
術後の経過を医療機関でしっかりと観察できるため、経過に不安がある方でも安心です。
術後の過ごし方について
術後の過ごし方や注意点について解説します。
術後のトラブルを防ぐためにも、以下の項目をご確認ください。
手術直後から数日
手術直後から好きな食事を摂ることができます。
糖質制限や脂質制限などもありませんので、ご自身が食べられそうなものを選んで食べてください。
ただし、アルコールの摂取は血行を促し、手術箇所からの出血リスクを高めるため、飲酒は手術翌日の夜以降にしてください。
運動については、ジョギングといった軽い運動は術後3〜4週間後、激しい運動は3週間後以上経過後に行うのが望ましいです。
なお、腹腔鏡手術が選択された場合はこれよりも早まる可能性があります。
入浴については、手術当日はシャワーのみで済ませ、湯船には翌日以降に浸かるようにしてください。
手術後1~3週間
手術後1~3週間経過すると、仕事や軽い運動、アルコール摂取、お車の運転、入浴など、ほとんどの活動が可能になります。
ただし、腹筋に力を入れるような運動は手術後2週間以降に行ってください。
手術後3週間以後
手術後3週間以降には、性行為や腹筋運動など、腹部に圧力がかかる活動も可能になります。
また、手術の傷跡もほぼ目立たなくなるでしょう。
日常生活にほとんど戻ることができますが、傷跡の状態によっては制限が続く可能性があります。
気になることがあれば、早めに医師に相談して診察を受けてください。
鼠径ヘルニアの予防方法は?
鼠径ヘルニアは構造的な問題で生じる病気のため、予防方法はありません。
一見、腹筋と関係しそうですが、腹筋は鼠径ヘルニアの発症と全く関係ないため、腹筋を鍛えても改善・予防することはできません。
むしろ、腹部に圧力をかけ続けることで発症を促す可能性がありますので注意してください。
鼠径ヘルニアの疑いがある場合は、まずは早期に医療機関を受診することをお勧めします。
なお、鼠径ヘルニア発症後に悪化を防ぐ方法はあります。
重い荷物を持たないようにする、立ちっぱなしの時間を短くする、便秘を防ぐために十分な水分と食物繊維を摂取する、肥満防止として食事量を調整するなどが挙げられます。
ヘルニアの発症や悪化は生活習慣と密接に関連しています。
規則正しい生活を心がけることで、ヘルニアの悪化を防ぐことができるでしょう。
鼠径ヘルニアになりやすい人とは?
鼠径ヘルニアになりやすい人には、いくつかの特徴があります。
- ✔ 50歳以上の成人
- ✔ 立ち仕事や力仕事に従事している人
- ✔ お腹に力のかかるスポーツをしている人
- ✔ 肥満の人
- ✔ 妊婦
年齢と性別
50歳以上の成人
鼠径ヘルニア患者の65%が50歳以上です。
男性
特に男性に多い疾患で、男性の3人に1人が生涯で一度は発症する可能性があるといわれています。
40歳以上の男性
40代以降の男性は特になりやすいとされています。
職業やライフスタイル
立ち仕事や力仕事に従事している人
腹部に負担がかかる仕事は鼠径部に負担をかけるためリスクが高いといわれています。
過激なスポーツをしている人
腹圧が原因で発症する可能性があります。
健康状態
以下の健康状態も鼠径ヘルニアのリスクを増加させます。
- ● 便秘症の人:腹圧が高まるため。
- ● 肥満の人:過剰な体重が腹部に負担をかけます。
- ● 前立腺肥大の人:排尿時の腹圧増加が影響します。
- ● 咳をよくする人:慢性的な咳は腹圧を上げます。
- ● 喘息がある人:呼吸困難時の腹圧上昇が関係します。
その他のリスク要因
- ● 妊婦:妊娠中は腹部の圧力が増加します。
- ● 喫煙者:たばこを吸う人はリスクが高まります。
- ● 出産経験が多い女性:出産による腹部への負担が影響します。
- ● 重いものを持ち上げる作業:腹圧が原因で発症する可能性があります。
鼠径ヘルニアは、これらの要因が単独または複合的に作用して発症することが多いです。
加齢による筋膜の衰えも主要な原因の一つとされています。適切な体重管理、腹圧を上げる行動の回避、そして定期的な健康診断が重要です。
鼠径ヘルニアかも知れないと思ったら
鼠径ヘルニアの可能性がある場合、以下のチェックリストと受診のタイミングを参考にしてください。
- 1. 鼠径部に膨らみがある
- 2. 鼠径部の辺りに左右差がある
- 3. 膨らみをさわったら消失した
- 4. 膨らみの大きさが変わった
- 5. 鼠径部に痛みや違和感がある
1. 鼠径部の膨らみ
鼠径ヘルニアの最も典型的な症状として、鼠径部(足のつけ根)に膨らみが現れます。立ち上がったりお腹に力を入れると、鼠径部がぽっこり膨らみます。
2. 左右差
立った状態で鼠径部を見ると、鼠径部の膨らみに左右差がみられます。
3. 膨らみの消失
鼠径ヘルニアの場合、鼠径部の膨らみを手で押したり横になると、出ていた部分が戻って膨らみが無くなることがあります。
4. 大きさ
膨らみの大きさは通常ピンポン球程度ですが、放置するとソフトボール大まで大きくなることもあります。
5. 痛みや違和感
鼠径部に痛みや違和感がある場合もあります。痛みが強い場合は重症化していることもあるので、早めの受診をお勧めします。
受診すべきタイミング
以下の場合は、専門医の診察を受けることをお勧めします。
- 1. 上記のチェックリストの項目に当てはまる場合
- 2. 鼠径部に膨らみを発見した場合 ※痛みの有無に関わらず早めに受診しましょう
- 3. 鼠径部に持続的な痛みや違和感がある場合
- 4. 突然の強い痛みや、膨らみが戻らなくなった場合 ※緊急事態の可能性があるため、すぐに救急病院に相談する
- 5. 症状が日常生活に支障をきたす場合
- 6. 症状が気になる、または不安がある場合 ※専門医に相談することをお勧めします
鼠径ヘルニアは早期発見・早期治療が重要です。疑わしい症状がある場合は、専門医の診断を受けることが最も確実な方法です。また、鼠径ヘルニアは放置すると嵌頓という危険な状態になる可能性があるため、症状がある場合は早めの受診をお勧めします。
まとめ
鼠径ヘルニアは構造的な問題で生じる病気のため、予防方法はありません。
また、CT装置はMYメディカルクリニックでは大手町院と新宿院に設置しており、判定することは可能ですが治療、手術は対応できかねますので対応可能医療機関へのご紹介となります。
治療方法、手術方法等は日々進化しているものなので、専門の医療機関においてきちんと説明を受けるようにしましょう。
当院では腹部造影CT検査や腹部超音波検査といった画像検査や血液検査などをうけることができますので、ご心配な方は一度ご相談ください。
鼠径ヘルニアに関連する記事はこちら
略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師