肝臓の良性腫瘍:しこりの原因と特徴、治療法を解説

  • クリニックブログ
2025/01/28

肝臓の良性腫瘍:しこりの原因と特徴、治療法を解説

 

 

健康診断や検査で「肝臓にしこりがある」と言われると不安になるかもしれません。しかし、肝臓のしこりの多くは良性腫瘍であり、経過観察のみで済むケースが多いのです。
 
この記事では、肝臓の良性腫瘍について、種類や特徴、治療法まで詳しく解説していきます。肝臓のしこりと診断された方、また健康診断で要精密検査となった方に向けて、安心して日常生活を送るために必要な知識をお伝えします。

 
 

肝臓の良性腫瘍について

肝臓の良性腫瘍は、体の中で最大の臓器である肝臓に発生する非がん性のしこりを指します。良性腫瘍は悪性腫瘍(がん)と異なり、他の臓器への転移や深刻な健康被害を引き起こすことは稀です。多くの場合、症状がないため健康診断や他の病気の検査時に偶然発見されます。早期発見により適切な経過観察や治療方針を立てることができ、患者の生活の質を維持することが可能です。
 

良性腫瘍の基本知識

良性腫瘍は肝臓内部の細胞が異常増殖して形成される塊状の病変です。細胞が無秩序に増殖するがんとは異なり、良性腫瘍の細胞は正常な細胞に近い性質を保っています。そのため、周囲の組織を破壊したり、他の臓器に広がったりすることはありません。肝臓は再生能力が高い臓器であるため、良性腫瘍があっても通常の肝機能は維持されます。また、定期的な検査により腫瘍の状態を把握することで、安全に経過を見守ることができます。
 

発見される頻度

肝臓の良性腫瘍は比較的一般的な病変で、成人の1~5%程度に見られます。特に血管腫は最も頻度が高く、定期健康診断で偶然発見されることが多い腫瘍です。近年の画像診断技術の向上により、より小さな腫瘍も発見できるようになっており、発見頻度は増加傾向にあります。また、健康診断の普及により、無症状の段階で発見されるケースも増えています。
 

しこりのタイプと特徴

肝臓の良性腫瘍は、発生する組織によって異なる特徴を持ちます。血管から発生する血管腫、胆管から発生する嚢胞、肝細胞から発生する腺腫など、それぞれ画像検査で特徴的な所見を示します。
 
医師はこれらの特徴を詳しく観察することで、良性か悪性かの判断を行います。特に超音波検査やCT検査では、それぞれの腫瘍タイプに特徴的な所見が見られ、診断の重要な手がかりとなります。また、腫瘍の大きさや位置、数などの情報も、治療方針の決定に重要な役割を果たします。
 
 

代表的な良性腫瘍の種類

肝臓に発生する良性腫瘍には、いくつかの主要なタイプがあります。それぞれの腫瘍は異なる特徴と経過を持ち、適切な診断と対応が求められます。医師による正確な判断のもと、最適な対処法を選択することが重要になります。画像診断技術の進歩により、より正確な鑑別診断が可能となり、個々の症例に応じた適切な治療方針を立てることができるようになっています。
 

肝血管腫

肝血管腫は肝臓の良性腫瘍の中で最も多く見られる種類です。血管組織が異常に増殖してスポンジ状の構造を形成します。通常は数センチメートル程度の大きさで、症状を引き起こすことは稀です。超音波検査では特徴的な明るい円形の像として観察され、造影CTでは段階的に造影剤が広がる特徴的な所見を示します。
 
大きさが10センチメートルを超えるような巨大血管腫では、腹部の違和感や圧迫感などの症状が現れることがあり、定期的な経過観察が重要となります。また、妊娠中やホルモン療法中に大きくなることがあるため、注意が必要です。
 
 

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肝嚢胞

肝嚢胞は肝臓内に発生する液体を含んだ袋状の構造です。多くは先天的に形成され、加齢とともに大きくなることがあります。一般的に症状を引き起こさず、定期的な観察で十分です。ただし、大きくなって周囲を圧迫したり、感染を起こしたりする場合には治療が必要になることもあります。
 
まれに多発性の嚢胞を形成する遺伝性疾患の一部として発見されることがあり、その場合は腎臓など他の臓器の検査も必要となります。治療が必要な場合は、内容液の排出や嚢胞の切除などが検討されます。
 
 

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限局性結節性過形成(FNH)

FNHは肝臓の細胞が局所的に増殖する良性腫瘍です。中心に特徴的な星状の瘢痕組織を持つことが多く、画像検査で特徴的な所見を示します。女性に多く見られ、経口避妊薬の使用との関連が指摘されています。通常は症状を引き起こさず、治療を必要としません。
 
造影CT検査では特徴的な染まり方を示すため、他の腫瘍との鑑別に役立ちます。大きさが安定している場合は、定期的な画像検査による経過観察が推奨されます。
 

肝細胞腺腫

肝細胞腺腫は比較的まれな良性腫瘍で、主に妊娠可能年齢の女性に発生します。経口避妊薬の使用との関連が強く指摘されています。他の良性腫瘍と異なり、出血や破裂のリスクがあり、まれに悪性化することもあるため、サイズや症状に応じて治療を検討する必要があります。
 
特に5センチメートルを超える大きな腺腫や、増大傾向を示す腺腫では、手術による切除が推奨されることがあります。また、妊娠中は腫瘍が増大するリスクがあるため、特に慎重な経過観察が必要です。
 
 

原因と危険因子

肝臓の良性腫瘍の発生メカニズムは完全には解明されていませんが、いくつかの要因が発症リスクに影響を与えることが分かっています。個人の体質や生活環境、ホルモンバランスなど、様々な要素が複雑に関連しています。
 

年齢との関係

肝臓の良性腫瘍は30歳から50歳の年齢層で多く見られる傾向にあります。特に血管腫は加齢とともに発見される頻度が高くなります。一方で、肝細胞腺腫は若い年齢層、特に妊娠可能年齢の女性に多く見られます。年齢に応じて発生しやすい腫瘍のタイプが異なるため、適切な経過観察が重要です。
 

性別による違い

良性腫瘍の多くは女性に多く見られます。特に肝血管腫は男性と比べて女性の発症率が1.2~6.0倍高いとされています。女性ホルモンであるエストロゲンが腫瘍の発生や成長に影響を与える可能性が指摘されており、妊娠中や経口避妊薬の使用時に腫瘍が大きくなることがあります。
 

生活習慣の影響

生活習慣と良性腫瘍の直接的な関連性は明確になっていませんが、肝臓全体の健康状態は日々の生活習慣に大きく影響されます。適度な運動や、バランスの取れた食事、十分な睡眠など、健康的な生活習慣を維持することが肝臓の健康管理には重要です。
 

遺伝的要因

一部の良性腫瘍では遺伝的な要因が関与している可能性が示唆されています。特に多発性の嚢胞性疾患では、家族歴のある場合があります。ただし、多くの良性腫瘍では明確な遺伝的関連性は証明されていません。
 
 

治療の選択肢

肝臓の良性腫瘍の治療方針は、腫瘍の種類、大きさ、症状の有無などを総合的に判断して決定されます。患者の年齢や全身状態、生活環境なども考慮に入れながら、最適な治療法を選択していく必要があります。
 

経過観察

良性腫瘍の多くは症状がなく、成長も緩やかであるため、定期的な経過観察が基本的な対応となります。通常、6ヶ月から1年ごとの超音波検査やCT検査で腫瘍の大きさや性状の変化を確認します。特に肝血管腫や小さな嚢胞では、急激な変化が見られることは少ないため、慎重な経過観察で十分な場合が多くなっています。
 

手術療法

腫瘍が大きく症状がある場合や、破裂のリスクが高い場合には手術治療が検討されます。手術には開腹手術と腹腔鏡手術があり、腫瘍の位置や大きさに応じて適切な方法が選択されます。腹腔鏡手術は傷が小さく回復が早い利点がありますが、腫瘍の位置によっては実施できない場合もあります。
 

その他の治療法

手術以外の治療選択肢として、カテーテル治療があります。特に肝血管腫が破裂した際の緊急処置として、カテーテルを用いて腫瘍への血流を遮断する治療が行われることがあります。また、大きな嚢胞に対しては、内容液を抜き取る治療が検討される場合もあります。
 

治療法の選び方

治療法の選択には、腫瘍のタイプと患者の状態を慎重に検討する必要があります。症状のない小さな腫瘍では経過観察が推奨されますが、増大傾向や症状がある場合は積極的な治療を検討します。特に肝細胞腺腫では、出血や悪性化のリスクを考慮して、比較的早期の段階で手術を選択することがあります。
 
 

まとめ

肝臓の良性腫瘍は、多くの場合で深刻な健康上の問題とはなりません。しかし、定期的な検査と適切な経過観察は重要です。腫瘍の種類や状態に応じて、経過観察から手術まで様々な対応が可能であり、医師と相談しながら最適な治療方針を決定していくことが推奨されます。不安な症状がある場合は、早めに専門医に相談することで、適切な対応を取ることができます。
 
 

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MYメディカルクリニック渋谷 笹倉 渉医師

監修:MYメディカルクリニック渋谷 非常勤医

笹倉 渉 Dr. Sasakura Wataru

資格

略歴

  • 藤田保健衛生大学医学部 卒業
  • 公立昭和病院
  • 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
  • 北部地区医師会病院麻酔科 科長
  • 2016年 MYメディカルクリニック 医師
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