誤嚥性肺炎とは?症状や治療、予防法と若い人はなるのかを解説
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誤嚥性肺炎とは?症状や治療、予防法と若い人はなるのかを解説
高齢者の方に多い病気である誤嚥性肺炎ですが、誤嚥性肺炎になるとどうなるのか、どのようなメカニズムで誤嚥性肺炎に直結するのかなどについてご存知でしょうか。本記事では、誤嚥性肺炎になったときの症状や治療法、予後について詳しく解説します。
また、若い方においても食事の後にむせ込みが強い場合、「誤嚥性肺炎になっているのでは」と気になる方がいるかもしれません。若い方でも誤嚥性肺炎になるのか、その可能性についてもあわせて解説します。
誤嚥性肺炎について気になる方はぜひ参考にしてください。
誤嚥性肺炎ってどんな疾患?
まずは、誤嚥性肺炎がどのような病気であるのかをくわしく解説します。一般的な肺炎とどこが違うのか、誤嚥性肺炎になりやすい場合はあるのかなどについて解説しているため、誤嚥性肺炎という病気についてしっかりと理解を深めていきましょう。
誤嚥性肺炎の特徴や概要
食べ物や飲み物、唾液などを飲み込むと、本来は食道へと入っていきます。これは、喉頭にある喉頭蓋や声帯が、食べ物の入っていく食道と空気の入る気管を分けているからです。空気が入るときには声帯が開いていますが、食べ物が入ってくると閉じます。
何かしらの原因によって、食べ物や飲み物、唾液が入ってきたときに気管に蓋がされず、気管に食べ物や飲み物、唾液が入ってしまうことを誤嚥といいます。
誤嚥性肺炎とは、誤嚥をした結果として生じた肺炎のことです。特に高齢者の方に発症者が多いというのが特徴です。食べ物や飲み物などをあからさまに誤嚥したケース以外にも、唾液を睡眠中、気付かないあいだに少量ずつ誤嚥した結果、誤嚥性肺炎となる場合もあります。
厚生労働省によると「高齢者の肺炎のうち、7割以上が誤嚥性肺炎になっている」という見解を示しており、高齢者の方の誤嚥性肺炎患者は特に多い傾向があります。
誤嚥性肺炎のメカニズム
高齢者の方や脳神経系の病気の方、寝たきりの方は自分で歯磨きができないことや、唾液の分泌量が低下することから、口内の状態の清潔さが十分に保たれにくくなります。すると、口の中で肺炎の原因となる細菌が増殖する可能性が極めて高くなります。
これに加えて、高齢者の方や寝たきりの方では、咳嗽反射という咳で異物を体外へ追い出すための力が弱くなったり、嚥下機能が低下したりします。これらが複合的に合わさった結果、口の中の細菌が唾液とともに気管から肺へ流れてしまった場合でも、咳をして自分の力でうまく唾液や異物を肺の外に出すということができなくなります。そのため、誤嚥性肺炎を発症するのです。
また、栄養状態の低下や免疫機能の低下なども、誤嚥性肺炎の発症に関与しているとされています。
誤嚥性肺炎になりやすい人は?
誤嚥性肺炎になりやすい方は次の通りです。
- ● 嚥下機能の低下した高齢者の方
- ● 脳神経疾患の後遺症(特に嚥下障害)のある方
- ● パーキンソン病などの神経疾患(喉の神経や筋肉が正常に働かず嚥下障害を起こす)を抱えている方
- ● 寝たきりの方
- ● 85歳以上の方
誤嚥性肺炎は嚥下障害によって起こることが極めて多いです。そして、誤嚥性肺炎を引き起こしている嚥下障害のうち、脳卒中の後遺症が原因となっているケースは約6割を占めているのが現状です。つまり、脳梗塞や脳出血の後遺症で嚥下障害を抱えている方はより一層、誤嚥性肺炎に注意が必要といえるでしょう。
また、要介護状態になり施設へ入所した高齢者の方のうち、2年以内に約80%の方が嚥下障害となり、誤嚥性肺炎を発症しているというような見解もあります。
また、ここに当てはまらない健康な高齢者の方であっても、加齢に伴い咳嗽反射や嚥下機能は低下するので、誤嚥性肺炎となる可能性は高まります。
あわせて知りたい不顕性肺炎とは
誤嚥性肺炎とあわせて知っておきたい病気のひとつに不顕性肺炎があります。この不顕性肺炎とは知らない間に誤嚥性肺炎を発症していることです。誤嚥性肺炎は多くの場合、食事中や飲水中に誤嚥をし、むせが起こった後に発症するケースが多いです。
しかし、不顕性肺炎は睡眠中など無意識のうちに、唾液が気管に流れ込んで誤嚥をしたことによって発症する誤嚥性肺炎です。
本来であれば気管に唾液が流れ込んできたら、異物を追い出すために咳嗽反射が生じるはずですが、咳嗽反射が低下していることもあり、咳やむせなどの症状が一切ありません。気が付いたら肺炎の症状を引き起こしていることが特徴であり、「むせのない誤嚥」ともいわれています。
誤嚥性肺炎の症状
ここからは誤嚥性肺炎によって起こり得る、代表的な症状について解説します。ここに当てはまる症状が見られた場合には、誤嚥性肺炎の疑いがあるかもしれません。
咳
誤嚥性肺炎発症によって起こる代表的な症状です。食事中にむせる、食後に何度も咳込む、激しい咳が出る、夜中に咳が出続けるという場合には誤嚥性肺炎による咳の可能性があります。しかし、不顕性肺炎のため咳が出ない場合や、風邪症状で咳が出ている場合もあるので、咳のみで一概に誤嚥性肺炎であると確定することは難しいといえるでしょう。
痰
痰は咳と同様に誤嚥性肺炎の代表的な症状です。膿性痰という黄色っぽい、緑っぽい痰が出ることが特徴です。また、粘り気の強い痰も出るので、自分の力で喀出が困難になるケースもあります。
本来健康な方の痰は白っぽく、咳によって自分で喀出可能です。そのため、痰に色がついている場合には肺で異常が起こっていることが考えられやすく、誤嚥性肺炎が疑われるのです。
痰について詳しくはこちら
発熱
肺に炎症が起こるため、発熱が見られます。咳をしていて発熱があると、風邪症状が真っ先に疑われやすいですが、肺炎ではほとんどの場合38度以上の高熱が出ます。この場合、細菌による炎症反応なので、しっかりと治療をしなければ熱が下がることはないでしょう。
呼吸困難感
肺に炎症を起こしているため、呼吸がしづらくなり呼吸困難感を訴えることも少なくありません。症状としては、呼吸がしづらかったり、呼吸がしにくくなったりといったことが多いです。そのため、呼吸困難によってやる気がなくなったり、前より動きが悪くなったりと日常生活に支障をきたすケースもあります。
非特異的症状
非特異的症状とは、その病気以外でも見られる症状のことです。誤嚥性肺炎ならではの症状が出ないケースもあり、非特異的症状から誤嚥性肺炎が疑われ検査をした結果、誤嚥性肺炎が見つかったというケースも少なくありません。
誤嚥性肺炎の非特異的症状には次のようなものがあります。
- ● いつもとくらべてなんとなく元気がない
- ● 食欲がなく食事が摂れない
- ● 1食にかける食事時間が長い
- ● 食事が終わると疲れてぐったりしている
- ● ぼーっとしている時間が増えた
- ● ほかの病気はないのに失禁するようになった
- ● 口の中に食べ物をため込み、なかなか飲みこまなくなった
- ● 体重が徐々に減ってきている
誤嚥性肺炎特有の症状に加えて、非特異的症状が出た場合にも誤嚥性肺炎を疑って、医師に相談したり検査を受けたりしましょう。
誤嚥性肺炎の検査
誤嚥性肺炎は特定の症状のみで確定することは難しく、確定診断をつけるためには検査を受けることが必要になります。誤嚥性肺炎が疑われたときに行われる検査は次の2つです。
胸部エックス線撮影
肺炎の症状がある方が胸部エックス線撮影を行うと、一目でわかるほどの肺炎像が映りますが、この場合誤嚥性肺炎が疑われるのです。胸部エックス線撮影はクリニックでも行うことができ、結果もすぐに出るため、誤嚥性肺炎が疑われたときにまず行う検査ともいえます。
採血
胸部エックス線撮影とあわせて行われることが多いのが採血です。白血球増加や炎症反応の亢進などをチェックして、肺の炎症の程度を調べられます。胸部エックス線撮影は寝たきりの方や在宅療養をしている方では難しい場合がありますが、採血なら手軽に行える点も特徴です。
誤嚥性肺炎の治療と予防
誤嚥性肺炎と診断されたら治療を受けることが必要になります。また、誤嚥性肺炎になったり再発したりしないよう予防をすることも重要です。ここからは、誤嚥性肺炎の治療方法と予防方法についてお伝えします。
誤嚥性肺炎の治療方法と予防方法について気になる方はぜひ参考にしてみてください。
誤嚥性肺炎の治療は薬物療法
誤嚥性肺炎の治療は基本的に薬物療法です。抗菌薬を点滴で投薬して肺に起こっている炎症を沈めることで、症状の改善を目指します。
軽症の場合には薬物を使わずに、経過観察のみとなるケースもありますが、軽症かどうかや治療の有無については医師の判断によるでしょう。重症の場合には酸素投与をしたり、人工呼吸器を使用した機械的人工換気を施したりします。
誤嚥性肺炎の予防①口腔ケア
誤嚥性肺炎自体は治療ができるものの、治療で嚥下状態を改善することは難しいです。そのため、治療をした後も誤嚥性肺炎の予防は必要です。特に、高齢者の方は唾液の出る量が少なくなるうえに、歯磨きや義歯の手入れが不十分になって口の中に細菌が繁殖しやすくなります。
そのためには口の中を清潔にし、気道の粘膜に付着する細菌の量を減らしましょう。定期的に歯科医師に口腔内をチェックしてもらい、虫歯や歯周病の有無、磨き残しの有無などをチェックしてもらうことで、より口の中を清潔に保てます。また、日常生活においては起床後や毎食後の歯磨きは欠かさず行いましょう。
義歯をしている方は義歯の清掃もかかせません。
誤嚥性肺炎の予防②食べ物の工夫
嚥下機能が低下してきていることを考慮し、食べ物をむせにくく食べやすいように工夫するのもポイントです。水やお茶などのさらさらとした液体や、味噌汁のような液体と固体が混ざった料理、ぱさぱさ、ぽろぽろとしている食べ物は、飲みこみにくかったり、誤嚥しやすかったりします。
そのため、とろみをつけたり、食べやすい形態に変えたりと食べ物を工夫し、むせにくくしましょう。
誤嚥性肺炎の予防③正しい姿勢で食事をする
誤嚥しにくい姿勢で食事を摂ることで、誤嚥の防止につながります。座って食事が摂れる方は、椅子に深く腰をかけ、足はしっかりと地面につけましょう。また、体とテーブルの距離はこぶし1つ分ほどあけてください。そして、食事をするときには一口の食べる量を少なくして、ゆっくりと食べましょう。
高齢者の方の食事の介助をする場合には、しっかりと飲み込んだことを確認してから次の一口を与えるように意識します。また、介助者が立っていると顎が上に上がってしまうため、介助者も座り、目線をあわせながら食事の介助をしましょう。
誤嚥性肺炎の予防④飲み込む力を鍛える
誤嚥をしないように飲み込む力を鍛えるのも大切です。嚥下機能をつけるための口内の体操として、ゆっくり大きく口を開け、10秒間保持してから10秒間しっかり口を閉じて休憩する開口訓練や、舌を少し出したまま、口を閉じて唾液を飲み込む方法があります。さらに喉ぼとけを上げ、そのまま5秒キープしたあとに息をしっかり吐き出すごっくん体操も推奨されています。
これらの運動は飲み込みに使う筋肉を鍛える効果が期待できるため、1日2回程度は意識して行ってみましょう。
若い人も誤嚥性肺炎になるの?
食事後に激しくむせたり、なんとなく食後に胸が痛いと感じたり、咳が止まらなくなったりすると、誤嚥したのではと感じる方もいるかもしれません。若い方でも誤嚥性肺炎になるのかどうかを詳しく解説します。
若い人は基本的に誤嚥性肺炎にならない
若い方の場合、もしも食べ物が肺に入ってしまったとしても、咳嗽反射が働くためむせます。咳嗽反射は生体防御反応のひとつであり、この咳によって食べ物を肺の外に吐き出してくれるため、基本的に若い方が誤嚥性肺炎になることはありません。
このことから、誤嚥性肺炎は咳嗽反射が低下する高齢者の方の肺炎であると考えられています。
若くてもリスクのある人はいる
若い方は誤嚥性肺炎にならないとしましたが、若くても誤嚥性肺炎となるリスクのある方はいます。
- ● 肥満
- ● 胸やけ症状が強く出る
- ● 夜中に咳き込むことが多い
- ● 口の中が常に苦く感じられる
上記に当てはまる方はリスクがあるため、注意しましょう。
また、喫煙の習慣がある方は、喫煙によって気道粘膜の浄化が抑制されて、細菌が付着しやすくなっています。そのため、誤嚥をしたときに細菌が一緒に肺に入るため、誤嚥性肺炎となるリスクが高まります。喫煙習慣がある方はもちろん、家族に喫煙習慣がある方も受動喫煙によって同様のことが起こるため注意しましょう。
誤嚥性肺炎の予後
家族が誤嚥性肺炎となってしまうと、その後どうなってしまうのかが気になる方もいるのではないでしょうか。誤嚥性肺炎になるとどうなってしまうのか、予後について解説します。
繰り返すケースは多々ある
誤嚥性肺炎は一度なったら二度とならないというものではなく、繰り返すケースが多々あるということを覚えておきましょう。特に、嚥下機能が弱っている方においては、食事のたびに誤嚥性肺炎を繰り返す可能性もあります。
嚥下機能を鍛えたり、誤嚥しにくい食事に切り替えたりと、誤嚥性肺炎を繰り返さないような環境を整えることが、重要です。
繰り返すと予後不良
誤嚥性肺炎は繰り返すことで予後不良となる病気です。特に、最初の発症後半年が予後を左右するといわれているので、このタイミングで完治させ、予防をするのが予後を良くするためのポイントです。また、高齢、男性、水分を誤嚥するレベルの嚥下機能、寝たきり、BMIが低下していて栄養状態が悪いなどの方は予後不良になりやすい傾向にあります。
経口での栄養摂取をストップし代替栄養の導入をすることで、生命予後が改善するケースもあります。誤嚥性肺炎を繰り返し、なおかつ予後不良になる可能性がある方については、代替栄養についても選択肢のひとつとして医師とともに検討してみても良いでしょう。
まとめ
高齢者の方の肺炎のうち、7割以上が誤嚥性肺炎といわれるほど、高齢者の方に多い誤嚥性肺炎は、繰り返すことで予後も不良となります。そのため、誤嚥性肺炎に一度でもなった場合には食事形態や食事環境の見直し、口腔内の清潔の保持、嚥下機能を鍛える体操をして誤嚥性肺炎を予防しましょう。
若い方は基本的に異物が気管に入っても、咳をして異物を肺の外に出せるため、誤嚥性肺炎になるリスクは極めて低いです。しかし、まったく誤嚥性肺炎にならないというわけではなく、誤嚥性肺炎となるリスクがある方もいます。
老若男女関係なく、口の中の環境や嚥下機能に意識を向け、将来の誤嚥性肺炎の予防に目を向けてみてはいかがでしょうか。
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略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師