
HPV(ヒトパピローマウイルス)に感染したらどうなるの?予防方法から治療法まで解説
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HPV(ヒトパピローマウイルス)に感染したらどうなるの?予防方法から治療法まで解説
2021年11月よりHPVワクチン接種が再開され、対象年齢の方、その保護者は「子宮頸がんにつながる病気」という認識を持っているのではないでしょうか。HPVの中の特定の遺伝子型に持続感染すると、子宮頸がんだけでなく肛門や中咽頭などのがんや尖圭コンジローマに移行する原因となるといわれています。
この記事では、HPVとはなにか?感染したらどうなるのか?HPVワクチンなどについて解説していきます。
HPV(ヒトパピローマウイルス)ってなに?
HPVは性行為を経験済みの女性の50%以上が、生涯で一度は感染するといわれるウイルスです。HPVは遺伝子型で分類すると100種類以上に分けられます。その中の数種類のHPVに持続感染することで、子宮頸がんなどのがんや尖圭コンジローマに移行する危険があります。
HPVはどこから感染するのか、感染したらどのような症状がでるのか、検査方法について解説していきます。
感染経路
感染経路は性行為(キスやオーラルセックス含む)による性器接触です。他の性感染症と同様にコンドームを使用することで予防できますが、その確率は100%ではありません。HPV感染から移行する病気で子宮頸がんを思い浮かべる方が多いと思いますが、感染箇所は子宮だけではありません。性器が接触した場所が感染箇所となるため、尿道や肛門、咽頭も感染する可能性があります。
症状
感染後3週間~8か月の潜伏期間を経て、陰部や尿道・肛門などにイボのようなできものができるのが特徴です。イボの形はニワトリのとさかのような形をしています。自覚症状がないことがほとんどですが、イボの大きさや発生部位により痛みや痒みが出ることがあります。
検査方法
ここでは、HPV感染から移行しやすいとされる子宮頸がんを例に、検査方法を解説していきます。子宮頸がん検診におけるHPVの検査方法には「細胞診」と「HPV検査」があります。検査の詳しい内容は表のとおりです。
子宮頸部の細胞を採取し、顕微鏡で異常な細胞(がん細胞)がないかを調べます。 | |
子宮頸部の細胞を採取し、細胞内のHPVの遺伝子の型を調べます。 子宮頸がんへ移行する種類のHPVに感染しているかどうかが分かります。 |
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HPVに感染したらどうなる?
HPVに感染すると、がんなどの病気に移行することが分かっています。特に子宮頸がんに移行することが多く、その他に肛門や中咽頭のがん、尖圭コンジローマにも移行します。これから、一つずつ解説していきます。
子宮頸がん
100種類以上ある遺伝子型の中のHPV16型、18型に持続感染すると、「子宮頸部異形成」とよばれる前がん状態を経て、子宮頸がんへと移行していきます。子宮頸がんは自覚症状がほとんどなく、がん検診で発見されることが多いといわれています。症状が出たときはがんが進行している可能性があるため、早めに医療機関に相談しましょう。
<子宮頸がんの症状>
- ● 不正出血
- ● 背中・骨盤から足にかけての痛み
- ● 食欲がない、体重が減っていく
- ● 疲労感
- ● 膣の不快感・おりものが臭い
- ● 片足だけ腫れている
子宮頸がん以外のがん
子宮頸がん以外に、膣がん、外陰がん、肛門がん、陰茎がん、中咽頭がんに移行する可能性があります。これらのがんも早期には症状がなく、症状が出たときにはがんが進行していることが多いです。そのため早期発見が難しく、感染しないための予防が大切です。
がん以外の病気【尖圭コンジローマ】
HPVに感染することで発症するがん以外の病気は「尖圭コンジローマ」です。尖圭コンジローマは、主にHPV6型と11型の低リスク型が原因で、ニワトリのとさかのようなイボが陰部や肛門周囲に発症する病気です。かゆみや痛みなどの症状がなく、男女ともに発症します。ただし、イボが大きくなることで、軽い不快感を感じることがあります。
進行するとイボが大きく、数も増えていき、一度治っても再発をくり返すことがあります。
尖圭コンジローマがある状態で妊娠をした場合、赤ちゃんへの感染リスクがあります。赤ちゃんが感染すると、赤ちゃんののどに感染して、良性の乳頭腫が形成され呼吸困難になる危険性や、産道を閉塞することで出産方法が帝王切開になることもあります。
治療法には、クリームや液体窒素による凍結療法、レーザー治療などがありますが、妊娠中はクリームの使用が制限されることがあります。
HPV感染を予防、早期発見する方法
HPV感染を予防する方法として、厚生労働省はHPVワクチンの接種を推奨しています。しかしワクチン接種には対象年齢があるため、対象年齢以上の方は子宮がん健診を定期的に受けることで早期発見をしましょう。子宮頸がん以外のがんに関しては、予防としてコンドームの使用が大切です。
それでは詳しく解説していきます。
HPVワクチン
2023年時点では、公費でのワクチンは小学校6年生~高校1年生相当の女子を対象としています。使用されているワクチンは2価ワクチン(サーバリックス)、4価ワクチン(ガーダシル)、9価ワクチン(シルガード9)の3種類です。ワクチンの価数は、ワクチンの中に含まれるウイルスの種類の数を表しています。
HPVの中で最も子宮頸がんに移行しやすい遺伝子型は16型と18型です。サーバリックス、ガーダシルにはこの16、18型が含まれているため、子宮頸がんの原因の50~70%を防ぎます。シルガード9はこの2種類に加えて31、33、45、52、58型も含まれているため、子宮頸がんの原因の80~90%を防ぐといわれています。
ワクチンの種類によって接種スケジュールが違ってくるため、居住地の市町村の情報を確認して下さい。
対象年齢を設ける理由
市町村が行っている公費でのワクチン接種は、対象が小学校6年~高校1年相当の女子となっています。女子のみを対象としているのは、ワクチンの目的がHPV感染から移行する子宮頸がんを予防するためだからです。HPVワクチンは、すでに感染している方の進行予防効果はありません。そのため性行為を経験する前の時期に接種することが望ましく、このような対象年齢を定めています。
ワクチンの副反応はある?
副反応として、注射をした部位に痛みや腫れなどの症状が起こることがあります。重篤な症状としては、注射部位を含めた広範囲の痛み、手足の動かしにくさ、動かす意志がないのに勝手に体の一部が動いてしまう不随意運動などが報告されています。
子宮頸がん検診
市町村で実施している子宮頸がん検診は、20歳以上の方を対象としていて2年に1回の間隔で受けることができます。子宮頸がんは、自覚症状がほとんどなく進行していきます。症状が出たときにはがんが進行している可能性がある病気です。
厚生労働省はHPVワクチン接種の有無にかかわらず、対象年齢になったら子宮頸がん検診を受けることを推奨しています。居住地の市町村の情報を確認して、定期的にがん検診を受け、早期発見をしましょう。
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HPVは男性にも感染するの?
HPVは男性にも感染します。特に性行為を経験した男性の多くが一度は感染する可能性があります。特に性行為を経験した男性の多くが一度は感染する可能性があります。
感染した男性が発症する病気として多いのが、尖圭コンジローマです。再発を繰り返し、根治が難しいとされている病気です。また、HPVに感染した男性が女性と性行為をすることで、感染を拡大させる危険性もあります。
男性もHPVワクチンを接種できるの?
2023年現在で、公費でのワクチン対象者は女子のみとなっています。男性が接種を希望する場合、自費での接種となります。HPVワクチンは感染したHPVに対しての治療効果はないため、女性と同様に性行為を行う前の段階での接種が望ましいです。
特に、4価や9価のワクチンは低リスク型のHPV(6型、11型)にも効果があり、尖圭コンジローマの予防にも役立ちます。
HPV感染のリスク要因と感染しやすい人の特徴
HPV感染のリスク要因
性交渉の経験
HPVは主に性行為を通じて感染します。性交渉の経験があると、HPV感染のリスクが高まります。
複数のパートナー
複数の性的パートナーを持つと、HPV感染のリスクが増加します。これは、パートナーが多いほど感染する機会が増えるためです。
免疫不全状態
免疫力が低下している場合、HPV感染が持続しやすくなります。特にHIV感染者は、HPV感染のリスクが高まります。
喫煙
喫煙はHPV感染が持続するリスクを高める要因の一つです。喫煙は免疫機能を低下させることが知られています。たばこに含まれる有害物質が免疫細胞の活性を抑制し、ウイルスや細菌に対する抵抗力が弱まるためです。このため、HPV感染が持続しやすくなります。
コンドームの使用不足
コンドームはHPV感染を完全に防ぐことができませんが、使用することでリスクを低減することができます。
HPV感染しやすい人の特徴
若い年齢
若い年齢で性交渉を始めることがリスクを増加させます。これは、若い年齢の人は免疫力が未熟で、ウイルスに対する抵抗力が低いためです。
免疫不全者
免疫力が低下している人、例えばHIV感染者はHPV感染のリスクが高まります。免疫力が低下すると、HPVを含むウイルスに対する抵抗力が弱まります。特にHIV感染者は、免疫不全状態にあるため、HPV感染を撃退する能力が低下します。このため、HPVが持続的に感染し続ける可能性が高まります。
性感染症の罹患歴がある人
過去に性感染症を経験している人は、HPV感染のリスクが高まります。これは、性感染症が性行為を通じて感染する疾患であるため、性的に活発な時期にはHPV感染率も高い傾向があるからです。
HPVに関するよくある誤解
HPVは性病であるという誤解
HPVは性感染症として扱われることがありますが、性行為以外でも感染する可能性があり、多くの人が一度は感染するありふれたウイルスです。
HPVワクチンを接種すれば子宮頸がん検診は不要であるという誤解
ワクチン接種後も定期的な子宮頸がん検診が必要です。ワクチンはすべてのHPV型をカバーしないためです。
HPVは必ず子宮頸がんになるという誤解
多くのHPV感染は免疫力によって排除され、子宮頸がんになるのは一部のケースです。
HPVは若い人だけが感染するという誤解
HPVは性行為経験がある人なら誰でも感染する可能性があります。
HPVワクチンは安全ではないという誤解
HPVワクチンは安全性が確認されており、副反応は一般的なワクチンと同様です。
HPVはコンドームで完全に防げるという誤解
コンドームはリスクを低減しますが、完全に防ぐことはできません。
HPV感染は性行為のみで感染するという誤解
HPVは性行為以外にも感染する可能性がありますが、性行為が主な感染経路です。
まとめ
HPVとはそれ自体に感染しても自然に治癒をすることが多く、大きな問題にはなりません。しかし、特定の遺伝子型に持続感染すると、がんなどの病気に移行する可能性のあるウイルスです。2023年現在、HPV感染から移行することが多い子宮頸がんの予防のためにHPVワクチンの接種が再開されています。そして子宮頸がん検診も公費で受けられます。
予防と早期発見の両方をおこなうことで、子宮頸がんは防ぐことが可能です。対象年齢の方はワクチンとがん検診の受診を検討していきましょう。
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略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師