B型肝炎ウイルス(HBV)とは?注意すべき症状や治療方法について徹底解説

  • クリニックブログ
2023/11/13

B型肝炎ウイルス(HBV)とは?注意すべき症状や治療方法について徹底解説

発症すると肝炎や肝硬変、または肝臓がんの原因にもなりうるB型肝炎ウイルス(HBV)は、日本では、約130~150万人(およそ100人に1人)が感染していると推定されています。
 
「治療によってB型肝炎は完治するのか?」「うつってしまう病気なのか?」
そんな不安を抱いている方は多いのではないでしょうか。
本記事ではB型肝炎とはどのような病気か、症状や治療・予防方法について徹底解説していきます。

採血中の看護師
 
 

B型肝炎とはどのような病気なの?

B型肝炎とはB型肝炎ウイルス(HBV)が血液・体液を介して感染する肝臓の病気です。
感染した時期や感染時の健康状態により、一時的な感染(一過性感染)に終わるものとほぼ生涯にわたり感染(持続性感染)が継続するものに分けられます。
 
持続性感染になりやすい状況というのは、出産時あるいは3歳未満の乳幼児期の感染のことをいいます。
以下、感染経路について詳しく説明していきます。
 

感染経路(水平感染、垂直感染)

B型肝炎ウイルス(HBV)の感染経路は垂直感染と水平感染に分けられます。
 

<水平感染>

  • ● 傷のある皮膚への体液の付着
  • ● 濃密な接触(性行為など)
  • ● 不衛生な器具による医療行為
  • ● ピアスの穴あけ
  • ● 刺青などの際の感染
  • ● 静注用麻薬の乱用

 

<垂直感染>

  • ● 出産時の母子感染

 
2016年4月1日以降に生まれた全ての0歳児にHBVのワクチンが接種されるようになりました。
ワクチンを打って抗体が陽性になればB型肝炎ウイルスに感染することはないとされています。
 
感染して1~6ヶ月の潜伏期間を経て症状が出現するのを急性肝炎、生後数年〜数十年間肝炎は起きないで、感染したHBVは排除されずに体内で共存している、この状態を無症候性キャリアの慢性肝炎といいます。
 
これら急性肝炎、慢性肝炎の症状については以下で説明していきます。
 

急性肝炎(一過性感染)

  • ● 全身倦怠感
  • ● 食欲不振
  • ● 悪心、嘔吐
  • ● 褐色尿
  • ● 黄疸

 
急性肝炎の場合、感染者の70〜80%が症状が出現しないままウイルスが体外に排出されて自然治癒します。
残りの20〜30%が急性肝炎を発症しますが、数ヶ月以内に自然治癒すると言われています。
 

慢性肝炎(持続性感染)

  • ● 最初は自覚症状がないまま経過する
  • ● 一般に10~30歳代に一過性に強い肝炎を起こす
  • ● HBe抗原陽性のウイルス増殖の高い状態からHBe抗体陽性の比較的ウイルスが少ない状態に変化

 
慢性肝炎の場合は、生涯に渡ってウイルスが体内に残るので完治することはありません。
殆どが症状の出ない無症候性キャリアですが、10~20%の方が慢性肝炎を発症します。
その後、肝硬変や肝臓癌に進行するリスクがあります。

 

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B型肝炎が重症化するとどうなるか?

急性肝炎の中でも、劇症肝炎と呼ばれる非常に強い肝炎が起こると、放っておけば命にかかわる可能性があります。

胸や脇腹の痛み

その場合は、
● 抗ウイルス薬の使用
● 血液透析など肝臓の機能を補助する特殊な治療等
治療を行っても肝機能が回復しない場合には、肝移植を行います。
肝移植は脳死者の肝臓を用いる場合と、近親者の肝臓の一部を用いる場合の2通りがありますが、日本では後者が広く行われています。
 

急性と慢性の治療の違い

慢性肝炎の場合は、肝臓に潜むHBVを完全に排除することはできません。
ウイルスが肝臓の炎症を起こさないようにできるだけ鎮静化させ、その上で慢性肝炎の先に待つ肝硬変や肝臓がんになっていないか、定期的に検査をしていくことが大切です。
 
急性肝炎の場合は、食欲不振、発熱等を起こしますため、これらに対する水分や栄養補給のための点滴を行う対症療法が中心となります。
抗ウイルス薬を使うことは基本的にありません。体の免疫がウイルスを排除するのを安静にして待ちます。
 

予防接種の重要性

特定のパートナーがB型肝炎の持続感染者(キャリア)で、自分が未感染の場合、ワクチン接種を受け、ウイルスに関する正しい知識を身につけることが大切です。
B型肝炎に一度かかった方は、抗体ができるので再感染の可能性はなくなります。
 
乳幼児期に3回の接種を行った場合、ほぼすべての方がB型肝炎に対する免疫(HBs抗体)を獲得することができます。
 
獲得した免疫は少なくとも15年間持続することが確認されています。20歳代までに接種を行った場合も高い効果が期待できます。
ただし、HBワクチンの効果は年齢と共に低下します。例えば40歳を過ぎてからのワクチン接種により免疫を獲得できるのは約80%です。

 

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人への感染を防ぐためにできること

肝炎ウイルスに感染している人の血液が人の体内に入ることによって感染しますが、ごく常識的な注意事項を守っていれば周囲の方への感染はほとんどないと言われています。以下のことに気をつけましょう。

日常生活での注意点

B型肝炎ウイルス(HBV)の感染経路は垂直感染と水平感染に分けられます。
 

  • ● 血液が付着する可能性がある、カミソリや歯ブラシなどの日用品の共用は避ける
  • ● 血液や分泌物がついたものは、しっかりくるんで捨てるか、流水でよく洗い流す
  • ● 外傷、皮膚炎、あるいは鼻血などはできるだけ自分で手当てする。
    また、手当てを受けなければならない時は、素人ではなく医療の専門家に手当てを受ける
  • ● 性行為による感染予防には、コンドームの使用は有効
  • ● 口の中に傷がある場合は、乳幼児に口移しで食物を与えないようにする

 
B型肝炎ウイルス(HBV)キャリアの方は、日常生活において様々な注意点があります。
 

生活習慣

生活習慣の面では規則正しい生活を心がけ、ストレスや過労・徹夜を避けることが重要です。
また、バランスの良い食事を3食規則正しく摂取し、禁酒を徹底することが求められます。少量のアルコールでも肝機能が悪化する可能性があるため、注意が必要です。
 

感染予防

感染予防の観点からは、血液が付着する可能性があるカミソリや歯ブラシなどの日用品の共用は避け、血液や分泌物が付着したものはしっかりくるんで捨てるか、流水でよく洗い流し、適切に処理することが大切です。
 
外傷や皮膚炎、鼻血などは自分で手当てし、必要な場合は医療の専門家に手当てを受けるようにしてください。
 
また、性行為による感染予防にはコンドームの使用が有効であり、パートナーにはワクチン接種を勧めることが重要です。
 
口の中に傷がある場合は、乳幼児に口移しで食物を与えないようにします。
 

定期検査

定期的な健康管理として、2〜3ヶ月ごとに血液検査を受け、6ヶ月に1度は超音波検査などの画像検査を受けることが推奨されます。これらの検査により、肝臓の状態を継続的にモニタリングすることができます。
 
 
B型肝炎ウイルスは食事や入浴などの通常の日常生活で家族内感染することは稀ですが、上記の注意点を守ることで、自身の健康管理と周囲への感染予防に努めることができます。日常生活の中で、これらの点に気を配りながら、健康的な生活を送ることが大切です。
 

運動時の注意点

運動時の注意点は下記の通りです。

  • ● 軽度の慢性肝炎ではほとんどの場合、仕事や運動の制限はない
  • ● 重度の慢性肝炎や肝硬変になると肝機能が全体的に低下するため、筋肉が衰えていくため、完全な状態での運動が困難です。
  • ● 重度の慢性肝炎の症状があり、自分がどの程度の運動に耐えられるのかが十分に判断できない時は、主治医の先生とよく相談して、適切な運動量を決める必要があるでしょう。

 
 

B型肝炎と他の肝炎(C型肝炎など)との違い

感染経路

B型肝炎ウイルスは血液や体液を介して感染しますが、C型肝炎ウイルスは主に血液を介して感染します。B型肝炎ウイルスは感染力が強く、医療現場での針刺し事故の場合、感染率が30%に達するのに対し、C型肝炎ウイルスの感染率は2〜3%とされています。
 

母子感染のリスク

B型肝炎ウイルスは母子感染(垂直感染)のリスクが高く、感染した母親から出産時に赤ちゃんに感染する可能性があります。一方、C型肝炎ウイルスの母子感染は多くありません。
 

症状

C型肝炎は一般的にB型肝炎よりも症状が軽く、劇症化することも少ないです。多くの場合、C型肝炎は無症状で進行し、慢性化しやすい特徴があります。
 

治療法と予後

B型肝炎は完全な治癒が難しく、ウイルスの抑制を目的とした長期的な治療が必要となることが多いです。一方、C型肝炎は近年の治療法の進歩により、9割以上の患者でウイルスを排除できるようになりました。
 

予防

B型肝炎にはワクチンがありますが、C型肝炎にはワクチンがありません。そのため、C型肝炎の予防は感染リスクの高い行動を避けることが中心となります。
 
これらの違いを理解し、適切な予防策と定期的な検査を行うことが、肝炎の早期発見と治療につながります。
 
 

B型肝炎とHIV・他の性感染症との関係

B型肝炎とHIVは主に性行為によって感染が伝播し、重複感染例が少なくありません。HIV感染者の約6%がB型肝炎ウイルス(HBV)に感染しているとされています。特に、MSM(men who have sex with men)における感染リスクが高いことが指摘されています。
 
HIV感染者がHBVに感染した場合、以下のような特徴があります。
 

  • ●HBVウイルス量が非HIV感染者と比較して高値を示す傾向があります。
  • ●慢性化のリスクが高まり、HIV感染者に認めたHBV感染の約30%が慢性肝炎へ移行するとされています。
  • ●肝硬変、肝細胞癌への進展が促進される可能性があります。

 
しかし、HIVとの重複感染によってB型肝炎の進行が速くなるという明確なエビデンスは、現時点では示されていません。
 

治療

HBVとHIVの両方に感染している場合、治療が複雑になります。B型肝炎(HBV)の治療に使う薬の多くが、HIVにも効果があるからです。そのため、HBVだけを治療しようとすると、HIVに対する薬の効き目が弱くなったり、HIVが薬に耐性を持つ可能性があります。これが、HBVとHIVの重複感染の治療を難しくしている主な理由です。
 
簡単に言えば、HBVの薬を単独で使うと、HIVの治療に悪影響を与える可能性があるため、両方のウイルスを同時に考慮した慎重な治療計画が必要になります。
 

予防

予防に関しては、HIV陽性者でHBVに対する免疫を持っていない場合、B型肝炎ワクチンの接種が推奨されます。ただし、HIV感染による免疫低下状態では、ワクチンによる抗体が十分に産生されない可能性があることに注意が必要です。
 
B型肝炎は他の性感染症と同様に、性行為による感染リスクが高いため、安全な性行為の実践や定期的な検査が重要です。また、HIV感染者には定期的なHBVマーカー(B型肝炎ウイルス(HBV)感染の状態を評価するために用いられる血液中の指標)の確認が推奨されています。
 
 

B型肝炎の世界的な感染状況と日本の現状

世界的な感染状況

2024年の世界肝炎報告書によると、ウイルス性肝炎による推定死亡者数は2022年に130万人に増加し、そのうち83%がB型肝炎によるものです。現在、2億5,000万人以上が慢性B型肝炎に感染しており、毎年死亡者数が増加しています。2022年末時点で、慢性B型肝炎感染者のうち診断を受けているのは13%、抗ウイルス療法を受けているのは約3%(700万人)にすぎません。
 

日本の現状

日本では100〜130万人がB型肝炎ウイルス(HBV)に持続感染していると推定されています。日本はHBV感染頻度2%以下の低頻度国に分類されます。2020年度の国民調査によると、B型肝炎ウイルス検査の経験率は71.1%でしたが、認識受検率は17.1%と2017年度より低下しています。
 
B型肝炎対策として、日本では1972年から輸血・血液製剤用血液のB型肝炎スクリーニングが開始され、1986年から母子感染防止事業が実施されています。これにより、垂直感染によるHBV無症候性キャリアの発生は減少しましたが、現在はB型肝炎対策として母子感染予防処置の徹底と水平感染、特に性感染対策の強化が重要とされています。
 
世界保健機関(WHO)は2030年までにウイルス性肝炎の流行を終息させるための目標を設定しており、新規感染者数と死亡者数をそれぞれ90%、65%削減することを目指しています。この目標達成に向けて、WHOは最近、慢性B型肝炎感染の予防、診断、治療に関する新ガイドラインを発表し、治療対象者の大幅な簡素化と拡大を提案しています。
 
参照:公益社団法人 日本WHO協会
https://japan-who.or.jp/news-report/2404-22/
 

参照:NIID国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/home/392-encyclopedia/321-hepatitis-b-intro.html
 

参照:厚生労働科学研究成果データベース (MHLW GRANTS SYSTEM)
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/158431
 
 

B型肝炎に関するよくある誤解

誤解:B型肝炎は完治しない

急性B型肝炎の場合、一般に急性期の対症療法によりほとんどの人で完全に治癒します。
 

誤解:B型肝炎は性行為でのみ感染する

HBVは性行為だけでなく、感染者の血液に触れることや、母子感染など様々な経路で感染する可能性があります。
 

誤解:B型肝炎に感染すると必ず肝硬変や肝がんになる

HBVキャリアのうち、約10%から15%の人が慢性肝炎を発症し治療が必要になります。適切な治療を行うことで、病気の進展を止めたり遅らせたりすることができます。
 
 

まとめ

今回の記事では「B型肝炎ウイルス」について詳しく解説しました。
症状や予防法、日常生活での注意点についてご理解頂けたでしょうか?
B型肝炎ウイルスは、主に血液を介して感染し、肝細胞に侵入し増殖します。
 
しかし、日常生活でのごく常識的な注意点を守っていれば周囲の方への感染はほとんどないと言われています。
しっかり感染予防に努めましょう。

 

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MYメディカルクリニック渋谷 笹倉 渉医師

監修:MYメディカルクリニック渋谷 非常勤医

笹倉 渉 Dr. Sasakura Wataru

資格

略歴

  • 藤田保健衛生大学医学部 卒業
  • 公立昭和病院
  • 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
  • 北部地区医師会病院麻酔科 科長
  • 2016年 MYメディカルクリニック 医師
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