
アニサキス症とは?主な症状や原因・治療方法を解説
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アニサキス症とは?主な症状や原因・治療方法を解説
初めまして。
MYメディカルクリニック大手町院所属の竹村勇治と申します。
時期によって旬の魚があり、その魚を日頃からご自宅や外食で、美味しい魚を召し上がる機会もあるかと思います。
しかし、魚は調理方法によって、食中毒などを起こす可能性があるため、注意が必要です。
そこで本記事では、その食中毒の原因の1つとして挙げられるアニサキス症について解説していきます。
魚を安心して召し上がるための注意点や、アニサキス症になった場合の対処法について詳しく解説していますので、ぜひ最後までご覧ください。
アニサキスとは
「アニサキス」と聞くと、以下のようなことを思い浮かべると思います。
・生魚に多い
・経験したことのない腹痛を引き起こす
・胃に寄生する
アニサキスによる食中毒は、2022年には578件の報告があり、2018年以降は食中毒の原因として最も多い件数です。
アニサキス感染症の報告数が増えている原因として、新鮮な魚介が食卓に並ぶことで、アニサキスも新鮮なまま人間の体内に入るようになったことなどと関連があるといわれています。
ここでは、アニサキスの特徴や流行時期について解説していきますので、魚を召し上がる際の参考にしてください。
アニサキスの生態的特徴
アニサキスは、サバ、アジ、サンマ、カツオ、イカ、サケなど様々な魚介に幼虫の形態で寄生している生物です。
本来は魚を餌とするイルカやクジラを終宿主としていますが、アニサキスが寄生している魚を食べてしまうと人間にも寄生してしまうのです。
人間の体内に入ったアニサキスは、胃や腸の壁の中に入り込み、痛みをはじめとする色々な症状の原因となります。
アニサキス幼虫は、長さ2cm~3cm、幅は0.5cm~1mmくらいで、白色の少し太い糸のように見えるのが特徴です。寄生している魚介類が死亡し、時間が経過すると内臓から筋肉に移動することが知られています。
アニサキスには五段階の成長過程があり、それぞれ宿主も違います。
- 1:アニサキスの成虫はクジラやイルカなどの海洋哺乳類の消化管に寄生しています。
- 宿主の胎内で卵を産み、それが糞便と共に海中に放出されます。
- 2:糞便中の卵は海中で孵化し、第一期幼虫の状態で漂っています。
- 3:第一期幼虫を、オキアミなどのプランクトン類が捕食し、プランクトン類の体の中で第 三期幼虫まで成長します。
- 4:プランクトンを餌としている魚がアニサキスごと捕食します。
- 魚の体の中に入ったアニサキスは、魚の消化管を通過し、内臓に付着した状態で寄生します。
- 魚類によっては腹膜を破って筋肉部分に寄生されている場合もあります。
- 5:魚が海洋哺乳類に捕食されます。
- アニサキスは海洋哺乳類の体内で 第四期幼虫、そして成虫へと成長します。
- その後、アニサキスが寄生した魚を人が食べることにより人の胃腸内へ寄生するという流れです。
アニサキスの流行時期
アニサキスの流行時期は、主に4月〜6月(春〜初夏)にかけて多く発症しています。
この時期に発生件数が多い理由は、アニサキスが寄生するサバ、サケ、イカ、タラ、サンマなどの魚がよく捕れ、市場や家庭の食卓に出る機会が増えるためです。
アニサキスは季節に関係なく、秋や冬などの寒い時期でも注意が必要です。
日本では刺身や寿司など、魚介類を生で食べる習慣があるため、通年でアニサキスによる食中毒が発生しています。
アニサキス食中毒で特定されている魚種は、サバ、カツオ、サンマ、アジ、イワシの順に多く、特にサバに注意が必要です。
サバは内臓よりも身の方に多くアニサキスが寄生し、加えて生食されることが多いためです。
アニサキス自体は1年を通して存在し、魚によっては他の時期でも感染のリスクがあります。
アニサキスの症状
アニサキス症には胃と腸の感染があり、それぞれ症状が異なります。いずれも魚介摂取から数時間で症状が出現する点は共通です。
以下では、胃アニサキス症と腸アニサキス症のそれぞれの特徴と症状について解説していきます。
胃アニサキス症
胃アニサキス症とは、アニサキスが胃の中に入り込むことで、急な胃痛・腹痛、吐き気などを引き起こすもので、アニサキス症の中で最も頻度が高い部類です。
体内に侵入したアニサキスが胃や腸の壁に食いつくことで、症状を引き起こします。
アニサキスが寄生している海洋生物を食してから数時間以内に、アニサキスが胃や腸の壁に食いついたことによる生態免疫反応として急な腹痛や嘔吐、お腹の張りなどが起こるのが一般的です。
胃の痛みは激しく、冷汗が出るくらいの痛みがありますが、痛みの強弱に波があります。
稀にアナフィラキシーショック症状に陥るケースもありますので、早急な処置が必要です。
新鮮な魚介類を接種後数時間で症状が現れた場合は、注意が必要です。
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腸アニサキス症
腸アニサキス症とは、アニサキスが寄生した魚介類を食べることで発症する食中毒症状で、アニサキスが腸に食いつくことで引き起こされます。
症状は、強い下腹部痛、吐き気、嘔吐、発熱などの症状が経口感染後十数時間~数日後に現れるのが特徴です。
その他発熱、下痢、 蕁麻疹(じんましん)も症状として現れる場合があります。
症状が悪化すると、腸閉塞や腸穿孔などの合併症を引き起こす可能性もあるため、注意が必要です。腸閉塞などで手術を受けた場合は、摘出部位の病理組織標本に虫体を検索し、原因を確定します。
アニサキス症は、12月〜3月の寒気に多く発生し、人間を宿主にできないため、体内に入っても数日~1週間以内に死んでしまいます。
アニサキスアレルギー
アニサキスアレルギーの症状は、食物アレルギーとよく似た症状です。
食物を汚染する寄生虫によるアレルギーであることから、食物アレルギーや食物関連アレルギーと分類されることがあります。
蕁麻疹が出る方や息苦しさを訴える方、重症化するとアナフィラキシーショックを起こす方など、症状はさまざまです。
アニサキスアレルギーは、 アニサキスの体内に含まれるタンパク質がアレルギー物質となり、このアレルギー物質に対して人間の免疫系が反応してアレルギー症状を引き起こします。
アニサキスで痛みが出る原因と注意点
アニサキス症で痛みが出る原因は、アニサキスが体内に侵入して胃腸の壁に入り込み、噛まれたことによる痛みではありません。
アニサキスが胃や腸の壁に食いついたことで、胃粘膜がアレルギー反応を起こすことによる痛みです。
新鮮な魚介類を十分に加熱せずに食べると、生きたままのアニサキスが胃に入り込んでしまいます。アニサキスは胃の中の胃酸など過酷な状況に耐えられず、逃げようとして胃壁に食いつくのです。
このとき、アニサキスが分泌する物質によって胃壁周囲の粘膜がアレルギー反応で炎症が生じ、粘膜周囲が腫れることで痛みが起きます。
アニサキスは寄生後3日〜4日で弱り始め、7日後には死滅するため、痛みが続くのは数日から長くても1週間程度です。
また、アレルギー反応が出ない場合や出ても軽度の場合には、痛みが少ないといわれています。
つまり、アニサキスに対して身体がアレルギー反応を起こすことで、痛みが出ると考えられます。
従って、1回目の感染では症状は軽度ですが、2回目以降の感染以降で症状が悪化することが多いでしょう。
生の魚介類を食べるときの注意点
安心して生の魚を召し上がれるよう、以下にアニサキス症を予防するための注意点について説明していきます。
【加熱・冷凍する】
アニサキスは熱に弱いため、-20℃以下で24時間以上冷凍もしくは、60℃で1分以上加熱すると死滅します。
特に内臓にはアニサキスが多く寄生するため、内臓部分をしっかり加熱することが重要です。
魚を刺身などの生の状態で食べる際は、しっかりと冷凍してアニサキスを予防しましょう。数時間程度の冷凍や冷蔵では魚が内部まで凍らず、アニサキスが生きたまま残ってしまう可能性があるので注意が必要です。
魚屋やスーパー、飲食店で販売されている魚介類は、基本的に販売前に冷凍処理が行われているため、自宅で再度冷凍を行う必要はありません。
【内臓は食べない】
上記でも説明した通り、アニサキスは内臓に多く寄生しています。
魚が生きているうちは内臓に寄生しており、魚が死ぬと身の方へ移動します。
内臓にアニサキスが多数いた場合は、身の部分にも移動している可能性が高いため、刺身などには使用しないようにしましょう。
調味料で下処理すると安全だといわれることがありますが、一般的な料理で使う食酢での処理、塩漬け、醤油やわさびを付けても、アニサキス幼虫は死滅しません。正しい方法での下処理・調理が必要です。
【目視で確認する】
アニサキス幼虫は、長さ2cm〜3cm、幅は0.5mm〜1mmのため目視でも確認ができます。
生魚を食べる際は、身の中に「白い糸」のようなアニサキスがいないかを注意深く観察してください。
【医療期間を受診する】
生魚を摂取後に、腹痛や吐き気・嘔吐などアニサキスによる食中毒が疑われる際は、速やかに医療機関を受診するようにしましょう。
妊娠中に注意すべきこと
妊娠中は母体の免疫力が低下しているため、普段よりも食中毒にかかりやすくなります。
胎児に直接の影響があるわけではありませんが、食中毒に感染した際の嘔吐や下痢は脱水を引き起こし、胎児に悪影響を及ぼす可能性が高いです。
妊娠中に食中毒になると、子宮への刺激からお腹の張り、切迫流早産に繋がるリスクがあります。
また、妊娠初期に感染すると、流産・死産・水頭症・脳室肥大などが引き起こされる可能性がありますので注意が必要です。
妊娠中期~後期にかけて感染すると、水頭症や視力障害、運動機能障害などの症状を引き起こすことがあります。
妊婦が生魚を食べてはいけないというわけではありませんが、寿司や刺身など生の魚を食べる際は、新鮮さをしっかり確認してください。
もし、食事後に食中毒症状が現れた場合は、すぐにかかりつけの産婦人科に相談・受診をしましょう。
診断・治療は?
アニサキス症の確定診断には内視鏡検査が用いられますが、まず初めに食中毒症状が現れた際には、いつ頃どのような魚介類を摂取したかを聴取します。
胃アニサキス症を疑う場合には、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)で診断の上、虫体の除去を行います。
腸管アニサキス症の場合、CTや腸音波検査で疑われる場合、小腸内視鏡検査を行う事もありますが、実施が困難な場合には、アレルギーの治療目的に副腎皮質ステロイドや抗ヒスタミン薬の投与を行う場合もあります。
痛みは、虫体の除去後に速やかに改善することが多いです。
アニサキスの内視鏡での摘出が困難な場合や症状が軽度の場合、自然に排出されるのを待つか、放置していても問題はありません。数日以内に虫体は死滅し、症状は改善します。
アニサキスアレルギー症を疑う場合には、アナフィラキシーに準じた点滴やアドレナリン注射、酸素投与などの救急処置を行います。
主な診断方法紹介
アニサキス症の診断には、胃カメラ検査(上部消化管内視鏡検査)、CT検査、腹部超音波検査、小腸内視鏡検査、 血液検査が用いられます。
胃カメラ検査では、高解像度の映像をモニターに映し出すことで、胃の内部を詳細に観察できますが、食事直後は胃の中に食べ物が残って検査が難しい場合があるので、食事をしていない状態での検査が必要です。
胃アニサキス症の場合は、胃カメラ検査で胃壁に刺さったアニサキスを確認し、その場で摘出できます。
腸アニサキス症の場合は、CT検査や腹部超音波検査で疑われる場合、小腸内視鏡検査を行うこともあります。しかし、小腸は内視鏡検査ではアニサキスを確認できないため、問診で判断することも多いです。
アニサキスは人間を宿主にできないため、体内に侵入後数日~1週間ほどで死滅しますが、症状が強い場合などは内視鏡的切除治療で除去できます。
アニサキスの治療法
アニサキス症の治療法は、アニサキスの寄生部位や症状によって異なります。
それぞれの治療方法について解説していきます。
- 胃アニサキス症の場合
- 胃カメラ検査で発見されたアニサキスを、胃カメラ専用の鉗子で頭から摘出することで、痛みはすぐに解消します。
- 腸アニサキス症の場合
- 腸アニサキス症の場合は内視鏡による除去ができないため、絶食や点滴などの対症療法が行われます。
- 腸閉塞や腸穿孔へ進行した場合
- 外科的手術が行われることになるでしょう。
- 消化管外アニサキス症の場合
- 寄生部位によって治療法が異なります。
- アニサキスアレルギーの場合
- 抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、ステロイドなどの治療が行われます。
- アナフィラキシーショックを起こした場合
- 点滴やエピペンが必要です。
アレルギー症状が疑われる場合の対応・処置法
アニサキスアレルギーの症状には、蕁麻疹などの軽い症状からアナフィラキシーショックなどの重篤な症状があります。
このようなアレルギー症状が疑われる場合は、消化器科の病院や診療所の受診をしましょう。
アナフィラキシーショックなどの緊急を要する症状がある場合は、救急車の要請も必要です。
アレルギーに対する治療は、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬、ステロイドによる薬物治療や、アナフィラキシーショックに関してはエピペンや点滴による治療を行います。
予防方法
アニサキス症の予防方法は、下記の通りです。
- ●魚介類は新鮮な物を選び、しっかり処理のしてある魚介を選ぶ
- ●内臓は速やかに取り除き、すぐに処理する
- 食べる前に、身をよく見て除去する
- ●冷凍・加熱する:−20℃24時間以上の冷凍、60℃1分の加熱
酢や酒、醤油・わさびでは死滅しませんので、注意してください。
注意が必要なのは、加熱・冷凍処理した虫体を摂取しても、アレルギー症状を起こす場合がある事です。
加熱・冷凍することで虫体は死亡しますが、アレルギーの原因となる抗原性が保たれるためです。
また、アニサキスは刺激に弱く、傷がつくとすぐに死滅してしまうため刺身には数か所の切り込みを入れると効果的です。食事中はよく噛んで食べましょう。
気を付けていても、100%感染を防ぐのは困難なので、お寿司や刺身を召し上がった後に数時間後、または夜間から強い腹痛がある場合などは受診の上、ご相談ください。
加熱・冷凍処理
魚の調理は、中心部の加熱(60℃で1分)又は冷凍(-20℃で24時間)で行います。生食用の魚は -20℃で7日間、又は -35℃で20時間 の冷凍がアニサキスの死滅に効果的です。
魚を刺身などの生の状態で食べる際は、しっかりと冷凍しましょう。
数時間程度の冷凍や冷蔵ではアニサキスが生きたまま残ってしまう可能性があるので注意が必要です。
ブラックライト
アニサキスの予防法として加熱・冷凍処理以外にブラックライトを使用することがあります。
アニサキス幼虫は紫外線に対して感受性があるため、ブラックライトの使用により魚の中にいるアニサキス幼虫が視認しやすくなる可能性があるのです。
しかし、 ブラックライトはアニサキスを発見する手段であり、予防策ではありません。冷凍処理や加熱調理などの方法を併用することをおすすめします。
まとめ
ここまでアニサキスの症状や治療法、予防法について詳しく説明してきました。
気を付けてはいても、アニサキス症の感染を100%防ぐのは困難です。
適切な予防と対処法でアニサキス症を予防していきましょう。
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MYメディカルクリニック大手町医師
竹村 勇治 Dr. Yuji Takemura
略歴
- 慶應義塾大学商学部 卒業
- 東京慈恵医科大学医学部医学科 卒業
- 東京慈恵会医科大学病院 初期研修
- 相澤病院 消化器内科
- 順天堂大学浦安病院 消化器内科
- イムス東京葛飾病院 消化器内科師
資格
- 内科認定医
- 総合内科専門医
- 消化器病専門医
- 消化器内視鏡専門医
- 肝臓病専門医