気胸とは?原因や症状、合併症、治療法について解説

  • クリニックブログ
2023/06/28

気胸とは?原因や症状、合併症、治療法について解説

「健康な人でもなるって聞いたけど、気胸の原因はなに?」
「旅行や出張の予定もあるけど、気胸を一度経験した人は飛行機に乗れない?」
「気胸の合併症にはどのようなものがある?」
このような疑問や不安はありませんか?
 
気胸は肺に穴があく病気ですが、合併症を起こすこともあり油断できません。
命に関わることもあり、適切な治療が求められます。
 
以降では、病気の概要や原因、症状、合併症や治療法などを解説します。
一度経験した方の生活の制限なども解説していますので、ぜひご覧ください。

 
 

気胸とは

本章では、病気の概要や一度発症した方の生活の制限について解説します。
どのような病気なのか知りたい方、ご自身がどの程度まで行動してよいのか知りたいといった方は、ぜひ参考にしてください。
 

気胸とは?

気胸とは、何らかの原因で肺に穴があき、肺から漏れた空気が胸腔にたまっている状態をいいます。
パンクしたタイヤと同じ状態で空気を吸い込んでも漏れてしまい肺が膨らみません。しかも漏れた空気が多いと肺を強く圧迫してしまうため一層肺は小さくしぼんでしまいます。
このような圧迫が加わった状態の気胸は緊張性気胸と呼ばれ、緊急に対処しないと命に関わります。急に息苦しさをきたす疾患として鑑別することが重要です。
 

飛行機に乗るのは危険?

一度発症すると飛行機に乗れないといわれることもありますが、結論をいうと、完治していれば問題ありません。
気胸などの特殊な肺の病気の発症と、飛行機で生じる気圧差は関連していることが分かっています。ただし、自然気胸だった場合は気圧差で再発することはないと考えられています。
 
危険なのは、まだ完治していない方の場合です。
まだ肺に穴があいている状態で気圧差を受けると、悪化する恐れがあります。
明確な基準はありませんが、3週間は避けるべきだと海外の搭乗ガイドラインに記載されており、医療機関が許可を出す期間は3週間前後が一般的です。
 

手術後の運動は危険?

手術後の運動は危険と思われる方もいるでしょう。
結論からお伝えすると、手術後すぐは運動できません。手術を終えてから1カ月程度療養するのが一般的です。
なお、発症すると運動できないと思う方もいらっしゃいますが、完治していれば運動しても問題ありません。
過去に発症歴があるからといって「運動をしてはいけない」「危険だ」ということはないのです。
 

気胸になった人ができなくなることは?

先述していたように「治っていれば運動をしてもよい」とお伝えしましたが、スキューバーダイビングはこの限りではありません。
潜水中は大きな水圧の変化が生じ、再発するリスクがあります。
もし潜水中に再発すると、そのまま命を落とす危険性もあるため、一般的に許可されません。
 
同じような状況に陥る、標高の高い山への登山も同様です。
登山は「高山病」と呼ばれる、気圧の変化に順応できず発症する症状があるほど、大きな気圧差が標高によって生じます。
登山中に気胸が再発するリスクがあるため、スキューバーダイビングと併せて禁止事項です。
 
 

気胸の症状は

気胸の自覚症状としては、突然現れる胸や背中の痛み、息苦しさや咳、呼吸困難などが一般的です。
症状の程度には気胸の程度とともに個人差もあり、激痛を感じる方もいれば、自覚症状がなく健康診断などの胸部レントゲンで偶然気胸が発見される方もいます。
症状を感じなければ、発症したことに気づかずにそのまま自然に治っていることも考えられます。
 
また、クリニックで遭遇することはあまりありませんが、上記の緊張性気胸といってより重篤な気胸では、最悪の場合死に至ることもあります。
漏れ出した空気が胸腔内に大量に溜まり続けることで、もう片方の健康な肺や心臓を圧迫してしまい、心臓に戻る血液の量が減少します。心臓に血液が戻らなければいくら心臓が収縮しても血液を体に送ることができません。
 
このため急激に血圧が低下しショックや心停止に陥ります。この場合は早急に空気を体外に排出しなければならならず、緊急性の高い大変危険な状態です。
最初の症状としては、胸痛、呼吸困難、頻呼吸や頻脈などがあらわれます。胸腔内の圧力が上昇するにつれて血圧が危険なほど低下し、脱力と眩暈を感じ、さらには意識低下、チアノーゼや首の静脈が膨れ上がること(頸動脈怒張)もみられます。


 

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気胸の原因は

発症の原因は、大きく3つに分類されます。
 

  • ●自然気胸
  • ●外傷性気胸
  • ●月経随伴性気胸

 
それぞれ、原因や発症傾向、発症する性別などが大きく異なります
 

・自然気胸

自然気胸はさらに2つにわけられます。
 
1つ目は10歳代後半〜30歳代の痩せた男性に多く発生する原発性自然気胸です。
肺の表面に「嚢胞」(肺組織内にできる「ブラ」と肺を包む胸膜にできる「ブレブ」があるが一括して「ブラ」が汎用されます)が生じ、これが破れることで発症します。
嚢胞が形成される理由や破れる理由は現在でも正確には分っていません。

2つ目は肺気腫や塵肺、間質性肺炎などの肺疾患を患っている人に発症する続発性自然気胸です。
こちらは肺に病気がある方がなるので、比較的高齢の方が多いです。
また、若い世代では、稀に遺伝病 (常染色体優性遺伝)であるBirt-Hogg-Dube (BHD)症候群やがん抑制遺伝子であるTSC遺伝子の異常により主に女性で発症するリンパ脈管筋腫症(LAM: lymphangioleiomyomatosis)などの肺嚢胞ができる疾患で気胸を生じることもあります。

  

・外傷性気胸

高い所からの転落や交通事故などによって折れた肋骨が肺に刺ささったり、鋭利な刃物で刺されたり等、外傷によって起こる気胸を外傷性気胸と呼びます。
また、病院で針をさすような治療や検査を受けたときに偶発的に起こる気胸を医原性気胸と呼びます。

  

・月経随伴性気胸

上記2つに当てはまらない、女性特有の月経随伴性気胸という気胸があります。
月経の時期に一致して気胸を繰り返すのが特徴です。原因は、ブラではなく横隔膜や肺にできる子宮内膜症と考えられています。
子宮内膜が横隔膜に広がり、月経のときに横隔膜に穴が開くことで胸腔に空気が入り気胸となる、あるいは肺に子宮内膜があり月経のときに穴が開くことが原因であると考えられています。
気胸は女性には比較的少ないので、女性が気胸を起こしたときは、月経随伴性気胸の可能性を考える必要があります。治療はホルモン療法か外科療法を行います。

  

検査方法と診断

気胸の診断方法としては、胸部単純X線撮影による胸部X線検査が基本です。
状態によっては胸部CT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)検査をすることもあります。
 

・胸部X線検査

胸部X線検査(胸部レントゲン検査)とは、胸部単純X線撮影により、胸部にある臓器(主に肺・心臓・大動脈・鎖骨・肋骨・胸椎など)を描出し、呼吸器、循環器、胸郭などに異常がないかを調べる検査です。
症状から気胸が疑われる場合は、胸部単純X線撮影により肺が虚脱している所見の有無を判定します。
つまり通常は肺で埋まっている胸部で、肺が虚脱している(しぼんでいる)ために本来肺がある領域に隙間があるように写りますので、ごく軽度の場合や肺が胸壁と癒着しているような特殊な場合を除いて、比較的容易に診断することが可能です。


 

・胸部CT検査

CTとはComputed Tomographyの頭文字をとったもので、コンピュータ断層撮影のことをいいます。
 
人体の断層画像をコンピュータによって再構成しています。よく輪切り画像と例えられますが、輪切り以外にも、好きな断面を再構成して観察することが可能です。
そのため、胸部単純X線撮影では見えづらい場所にある臓器や小さな病変も見つけやすい検査です。
 
必要に応じて胸部X線検査後の精密検査として行われるのが一般的です。
胸部単純X線撮影で見逃されてしまうような軽度の気胸や、自然気胸の原因となり得る小さなブラ等も描出できます。
 
また、続発性自然気胸を引き起こす可能性のある病気が見つかることもあります。外傷性気胸の場合は、肺の損傷の原因となった肋骨骨折や、その他の外傷や出血がないか調べるため、初診段階で行われることが多い検査です。


  

気胸関連の合併症について

本章では、治療による合併症、合併症として気胸を引き起こすパターンを解説します。
合併症は生命を脅かす恐れがあり、対策できることは実践していく必要があります。ぜひご覧ください。

 

治療時に発生する合併症

治療時に発生する合併症には以下があります。
 

  • ●エアリーク
  • ●肺拡張不全
  • ●再膨張性肺水腫

 
エアリークとは、肺の空気が漏れ出す症状で、続発性で起きやすい傾向です。主な原因は、肺にあいている穴が塞がりきっていないことです。
 
肺拡張不全とは、肺が膨らまない症状です。持続的にエアリークが起きていたり、胸腔ドレーンの位置が誤っていたりすることが原因です。
 
再膨張性肺水腫とは、治療により膨らむようになった肺に肺水腫ができる病気です。2日以上しぼんだ肺を、ドレーンなどで急激に膨らませる際に生じます。
 

高齢者の合併症

高齢者の気胸は、肺気腫や肺炎による合併症で起こることが多いです。高齢者は若い方とは異なり速やかな治療を要します。治療が遅れると、呼吸不全によって生命が脅かされるほど重症化します。
 
現在問題視されている病気が、肺線維症やアスペルギルスといった感染症による合併症の気胸です。
胸腔鏡手術などの治療を行っても効果がなく、悪化して気管支と肺の間に穴があく膿胸になる傾向があります。
 

続発性自然気胸の術後合併症のリスク因子

原発性と比較して、続発性自然気胸は術後合併症のリスクが高いです。
そのため、手術を治療に選ぶことを慎重に検討しなければなりません。
 
合併症を起こす確率は19.2~40.0%あることが、日本呼吸器外科学会雑誌第36巻第6号で報告されています。
特に、ペニシリン感受性肺炎球菌の数値が3以上の方、低BMIの方、低アルブミンの方はリスクが高い傾向があるようです。
 
 

気胸の治療方法

気胸の治療方法には、大きく①安静、②胸腔ドレナージ、③手術の3つがあります。

重症度ごとの治療方針の目安

気胸は重症度の段階ごとに治療方針が異なります。なお、重症度の基準は以下です。
 

  • ●軽度気胸:レントゲンで気胸が見られ、肺の一番上部分が鎖骨より上にある状態
  • ●中等度気胸:レントゲンで気胸が見られ、肺の一番上部分が鎖骨より下にある状態
  • ●高度気胸:レントゲンで気胸が見られ、肺が著しくしぼんだ状態
  • ●緊張性気胸:高度気胸でなおかつ肺から空気が漏れ続け、胸腔内の気圧が体外より高い状態。

 
レントゲン検査の結果にて該当している重症度が判明すると、治療方針を決定できます。段階ごとの治療方針を以下で解説します。
 

軽度気胸の場合

自覚症状がなく、レントゲン検査でも軽度と診断された場合は安静が選択されます。
なお、自宅安静で問題ありません。
もし自覚症状がある場合は、入院による安静を推奨しています。
 

中等度・高度気胸の場合

中等度または高度と診断された場合、入院が必要となり、治療法には胸腔ドレナージが選択されます。
退院のタイミングは、治療後に肺が良好な状態に膨らんだことが確認できた際になります。
 

緊張性気胸の場合

もっとも重度な緊張性と診断された場合、即時入院で治療をスタートさせます。胸腔ドレナージが選択され、早急に胸腔内の空気を抜かなくてはなりません。
より深刻な場合は、注射で空気を抜く治療が選択されます。
 

・安静

軽度気胸で症状がなければ、安静にして経過観察を行います。自然に穴が塞がるのを待ち、適宜胸部X線検査で確認します。
 
注射で空気を抜く方法もありますが、閉じていた穴が膨らむことで再び開通されるリスクがあるため、基本的に行われません。元の状態に戻るまでの期間の目安は、1~3週間です。

  

・胸腔ドレナージ

胸腔に溜まっている空気を細い管を通して身体の外に排出させる処置です。主に中等度気胸や高度気胸の場合に行われます。
 
方法は、2本の肋骨の間に麻酔をかけ、小さく皮膚を切開して胸腔ドレーン(細い管)を挿入します。
ドレーンの反対側はドレーンバッグ(箱)につなぎます。このドレーンバッグは漏れた空気を外に排出しますが、外からの空気は逆流しない仕組みになっています。
 
ドレーンを挿入後は通常、胸部X線検査を行い、ドレーンが正しい位置に留置されているかを確認します。肺が膨らみ、ドレーンからの空気の漏れがなくなったら抜去します。漏れる空気が多くて肺が順調に膨らまない場合には陰圧をかけてより吸引を強くして膨らませます。
 
また自然に穴が塞がらない場合には胸膜癒着術としてドレーンから薬剤 (タルク、ピシバニール、ミノマイシンなど)や自己血を注入して肺を包む胸膜 (臓側胸膜)が胸壁側の胸膜 (壁側胸膜)とを癒着させる方法を加えます。

  

胸膜癒着術

胸膜癒着術は、肺に入れたチューブから薬剤を入れ、肺とその周辺を癒着させる治療法です。
薬剤にはタルクが用いられるのが一般的です。
しかし、重篤な副作用のリスクがあり問題視されています。
そのため、近年ではリスクが少ない「ユニタルク」と呼ばれる薬剤の使用が推奨されています。
 

50% ブドウ糖液の有効性が認められた

日本呼吸器外科学会雑誌第27巻第6号により「50% ブドウ糖液」を用いた胸膜癒着術が良好であることが報告されました。
なお「50% ブドウ糖液」だけでなく「キシロカイン」も併せて胸腔内に注入します。
 
11例に「50% ブドウ糖液」による胸膜癒着術を行い、9例が成功した結果となりました。成功しなかった2例は、重度の肺気腫を伴っている方です。
成功した方は副作用も少なく済んでいます。
 

気管支鏡下気管支塞栓術

気管支鏡と呼ばれる医療器具を用いて、穴があいている箇所を詰め物で塞ぐ治療法です。
呼吸機能などの問題により、全身麻酔や手術が困難な場合に用いられることがあります。
 
詰め物には「フィブリン糊」が一般的に用いられますが「コラーゲン製止血剤」や「シリコン製」も用いられています。
 

・手術

気胸の原因となるブラを切除します。開胸手術と胸腔鏡手術がありますが、後者が主流です。全身麻酔下で胸に1~2cmの皮膚切開を3箇所で行い、1つの穴から胸腔鏡(カメラ)を挿入しモニターに写された画像を見ながら、他の穴から挿入した専用の器具を用いてブラを切除します。

  • ・気胸が安静や胸腔ドレナージで改善しない場合
  • ・気胸が再発した場合
  • ・左右両側の気胸の場合

 
以上の場合では積極的に手術を考えます。

 
 

気胸の予防方法

痩せた人に対しては、標準体重までの増量を目指すことを助言します。
 
手術による根治が得られていない状態では肺内の圧が異常に高まるような状況を避けましょう。
いきむこと、大声で叫ぶこと、息を吐いて音を出す管楽器などは要注意です。
 
さらに喫煙は炭粉沈着や炎症の誘発などで肺の障害に加担するので、喫煙者は禁煙が重要で喫煙によって肺に負担をかけないことが大切です。
 
手術をしても再発は起こりうるのですが、手術の適応条件を満たしている場合には手術が最大の予防と考えられます。

 

まとめ

気胸はある日突然発症し、再発率の高い疾患です。
気胸が疑われる場合は、胸部X線検査ができれば診断は可能なので、胸部単純X線撮影が可能なかかりつけ医をまず受診しても良いでしょう。
ただし手術を行っている病院は限られますので、手術を考える際は呼吸器科のある総合病院や、事前に確認したうえで受診するようにしましょう。
 
また緊張性気胸を疑うような重い症状が見られるときには一刻を争って処置が必要な可能性を考えて、救急車を呼んで対処可能な救急病院への搬送を選択してください。


 

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MYメディカルクリニック 顧問 大田健

監修:MYメディカルクリニック 顧問

大田 健 

略歴

  • 1975年 東京大学医学部医学科卒業
  • 1992年 帝京大学医学部第二内科学教室 助教授
  • 1997年 帝京大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー学 教授
  • 2012年 独立行政法人国立病院機構東京病院 院長
  • 2018年 公益社団法人結核予防会 複十字病院 院長

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