甲状腺機能低下症とは?原因と予防策について解説

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2023/05/23

甲状腺機能低下症とは?原因と予防策について解説

甲状腺機能低下症って何?

甲状腺は首にある臓器で、蝶が羽を広げたような形をしており気管の前面に貼りついている大きさ4〜5cmくらいの臓器です。甲状腺の働きは甲状腺ホルモンを分泌し、身体の新陳代謝を調節することです。たとえば体温や心拍数の調節、精神や自律神経の働き、骨の代謝など多くの臓器の働きに関与しています。脳の直下にある下垂体から甲状腺刺激ホルモン(TSH)が分泌され、甲状腺を刺激することにより甲状腺ホルモンは分泌されます。甲状腺ホルモンが多く分泌されるとTSHの分泌を抑える「ネガティブフィードバック」という機構がホルモンの働きを一定に保っています。甲状腺機能低下症では甲状腺ホルモンの作用が低下し、体内のさまざまな機能低下を起こします。



 

甲状腺機能低下症の原因って?

甲状腺機能低下症の原因は甲状腺自体が原因である場合(原発性甲状腺機能低下症)と、下垂体やさらにネガティブフィードバック上位系統の視床下部の機能低下が原因となるもの(中枢性甲状腺機能低下症)が主にあげられます。

①原発性甲状腺機能低下症

日本の原発性甲状腺機能低下症の原因で最も多いのは慢性甲状腺炎(橋本病)です。橋本病は自己免疫疾患の一つで、免疫異常によりリンパ球が甲状腺組織を破壊してしまう病気です。破壊が進行し甲状腺ホルモンの産生が減ると、甲状腺機能低下症を生じます。橋本病は中年女性に多く、無症状のものを含めると、成人女性の10人に1人、成人男性の40人に1人の頻度でみられます。橋本病の全例で甲状腺機能低下症が生じるわけではなく、加齢や妊娠・出産、強いストレス、海藻などによるヨード(ヨウ素)過剰摂取が発症の引き金となることがあります。橋本病以外の原因としては甲状腺疾患(バセドウ病や腫瘍など)の治療後、放射線外照射療法後、先天性甲状腺機能低下症(クレチン病)などがあります。甲状腺機能低下症は甲状腺全摘などによる永続性と一過性(一時的)があります。一過性には、破壊性甲状腺炎の回復期、産後の一過性甲状腺機能低下症、ヨウ素過剰摂取による甲状腺機能低下症などがあります。

 

②中枢性甲状腺機能低下症

中枢性甲状腺機能低下症には、下垂体が原因のものと視床下部が原因のものがあります。原因としては下垂体腫瘍が多く、ほかに脳腫瘍、頭部外傷後、くも膜下出血後、放射線照射治療後や薬剤性のものなどがあります。

 

③甲状腺ホルモン不応症

甲状腺ホルモン不応症は常染色体優性遺伝性の先天性疾患です。血中の甲状腺ホルモン値は正常でもホルモンが十分に作用しなくなります。日本での報告は100例ほどで、指定難病となっています。

 

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甲状腺機能低下症の症状って?

甲状腺機能低下症のガイドライン(日本甲状腺学会 甲状腺疾患ガイドライン2021 2022年6月2日改訂)では無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、便秘、嗄声等いずれかの症状を臨床所見としています。また橋本病の場合は甲状腺の腫大(萎縮の場合もある)が臨床所見としてあげられます。腫大に伴い、首の前面に圧迫感や不快感を感じる場合があります。その他一般的な症状として脱毛、皮膚の乾燥などもあげられます。甲状腺機能低下症が軽度の場合は症状に乏しいことも多いですが、機能低下が進むと上記の症状が現れたり、うつ状態や意識障害をきたすこともあります。
 
甲状腺ホルモンは妊娠の維持や子どもの成長にも重要なホルモンであり、月経異常、不妊、流産、早産などに関係しています。また胎児や小児の成長と発達にも関連しています。いずれの症状も明らかでないと長期間見過ごされてしまうこともあるため、これらの症状に複数あてはまる場合は、内分泌科(代謝内科)や甲状腺専門医を受診してみることをおすすめいたします。


 

甲状腺機能低下症の検査や診断について

検査項目

甲状腺機能低下症の検査項目には、以下のものがあります。

《血液検査》

日本甲状腺学会 甲状腺疾患ガイドライン2021 (2022年6月2日改訂)では、甲状腺機能低下症における検査所見は以下のとおりとなっています。
・原発性甲状腺機能低下症
 遊離T4低値(参考として遊離T3低値)およびTSH高値
 
・橋本病
 1. 抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(抗TPO抗体)陽性
 2.抗サイログロブリン抗体陽性
 3.細胞診でリンパ球浸潤を認める
 
・中枢性甲状腺機能低下症
 遊離T4低値でTSHが低値~基準範囲内
 
甲状腺で作られるホルモンは、ヨウ素を3個持つトリヨードサイロニンン(T3)とヨウ素を4個持つサイロキシン(T4)の2種類です。甲状腺ではおもにT4が作られ、T3は20%が甲状腺で作られますが肝臓や腎臓でT4が代謝されヨウ素が1個外れることにより残りのT3は作られます。多くのT4、T3は血中でタンパク質と結合していますが、わずかにタンパク質と結合していない(遊離 Free)T4、T3が存在し、これらはFreeT4(FT4)、Free (FT3)とよばれています。体内で実際に甲状腺ホルモンとして機能しているのは、このFT4、FT3です。通常の採血検査では甲状腺ホルモンのFT4、FT3と、甲状腺刺激ホルモンであるTSHの値を測定します。自己免疫疾患である橋本病においては甲状腺自己抗体の抗サイログロブリン抗体(TgAb)、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)の測定をして一方でも陽性であれば、甲状腺自己抗体陽性となります。甲状腺腫大を認める場合は、抗サイログロブリン抗体と抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体の両方が陰性でも悪性リンパ腫合併の可能性を疑うため、自己抗体検査を行うことが推奨されます。

 

 

《超音波検査》

甲状腺の画像診断でのファーストチョイスは超音波検査(エコー)が一般的です。非侵襲的に甲状腺のサイズ、形状、内部(実質)の状態を観察することができます。橋本病における典型像では甲状腺が腫大します。正常では滑らかな表面に凹凸がみられるようになります。内部は低エコー(黒くなる)かつ不均一な像を示します。

 

甲状腺機能低下症の治療は?

原発性甲状腺機能低下症の治療は、合成T4製剤(チラーヂン®S)の服用を行います。
一過性の場合治療の必要はないため、治療開始前に一過姓か永続性かを見極めてから治療を行う必要があります。一過性でも症状が強い場合は合成T3製剤(チロナミン®)を服用し、T4値が正常に戻れば服用を中止できます。T4またはFT4が正常値で、TSHのみ高値となる場合、潜在性甲状腺機能低下症と言います。潜在性甲状腺機能低下症は健康な人の4〜20%にみられ、女性に多く年齢が高くなるにつれ増加します。妊娠希望または妊娠初期の女性で甲状腺自己抗体が陽性の潜在性甲状腺機能低下症では早流産や妊娠高血圧症のリスクを改善できる可能性が高いため、合成T4製剤(チラーヂン®S、レボチロキシンNa)の内服治療を行います。

 

 

甲状腺機能低下症の予防方法は?

甲状腺機能低下症を予防できるものとして、ヨードの摂取過多に注意することがあげられます。
海藻類やヨード卵の摂取、うがい薬(ポピドンヨード製剤)の使用などを毎日継続している場合に甲状腺の機能を低下させてしまうことがあります。

 
 

まとめ

甲状腺機能低下症に伴う症状はありふれた症状も多く、いずれの症状も明らかでないと長期間見過ごされてしまうこともあります。これらの症状に複数あてはまる場合は、内分泌科(代謝内科)や甲状腺専門医を受診してみることをおすすめいたします。当院では上記記事の採血検査、超音波検査も実施可能ですのでお気軽にご相談ください。

 

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MYメディカルクリニック渋谷 笹倉 渉医師

監修:MYメディカルクリニック渋谷 非常勤医

笹倉 渉 Dr. Sasakura Wataru

資格

略歴

  • 藤田保健衛生大学医学部 卒業
  • 公立昭和病院
  • 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
  • 北部地区医師会病院麻酔科 科長
  • 2016年 MYメディカルクリニック 医師
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