
吐血の原因と症状|病気のサインを見逃さないために
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吐血の原因と症状|病気のサインを見逃さないために
「吐血」という症状は、重大な病気のサインである可能性があり、時には生命の危機に直結することもあります。口から血を吐くという恐ろしい体験をすれば、誰もが強い不安を感じるでしょう。一方で、吐血の原因には胃潰瘍や十二指腸潰瘍など、早期発見・治療が可能な病気も含まれています。
本記事では、吐血の主な原因や特徴的な症状、緊急性の判断基準などをわかりやすく解説します。このコラムを読めば、「いざという時の対処法」や「どんな場合に受診が必要か」を理解でき、万が一の状況でも落ち着いて適切な行動をとることができるようになります。
吐血(とけつ)の症状とは?
吐血とは、口から血液を嘔吐する症状のことを指します。症状の特徴として、出血の量や性状はさまざまで、血液が口から少量吐き出される場合もあれば、大量に噴出するような状態まで幅広く見られます。
血液の色調にも特徴があり、胃や十二指腸からの出血で、すぐに吐き出されない場合は、胃酸の影響で血液が黒褐色やコーヒー残渣様の「どす黒い」色調に変化します。一方、食道からの出血や大量の胃・十二指腸からの出血では、鮮血(真っ赤な血液)として吐き出されます。
吐血を見分ける際の重要なポイントとして、呼吸器から出血する喀血との区別があります。吐血は吐き気を伴い、消化液と混ざって液状になることが特徴です。一方、喀血は咳とともに出血し、血液に泡が混じることが多いのが特徴的です。また、歯肉からの出血や鼻血が口腔内に流れ込んだ場合も、吐血とは区別する必要があります。
このような症状がある場合は、重大な疾患のサインである可能性もあるため、適切な医療機関での診察が必要です。
吐血の原因とは?
吐血を引き起こす原因は、過度なストレスによるものから、重大な消化器疾患まで多岐にわたります。主な原因を詳しく見ていきましょう。
過度なストレスが原因の場合
ストレスは胃潰瘍や十二指腸潰瘍を引き起こす大きな要因となります。強いストレスにさらされることで胃酸の過剰分泌が起こり、胃の粘膜を防御する機能が低下します。その結果、胃壁や十二指腸壁に潰瘍ができ、そこから出血して吐血することがあります。
また、ストレスによる急性胃粘膜病変(AGML)でも出血が起こる可能性があり、これは胃の粘膜があちこちでただれて出血する状態です。ただし、ストレスが原因の場合は、原因となるストレスを取り除くことで比較的早期に回復が見込めます。
胃の病気などが原因の場合
胃の病気による吐血で最も多い原因は、胃潰瘍と十二指腸潰瘍です。これらはピロリ菌感染や非ステロイド性消炎鎮痛薬の服用が主な原因となります。潰瘍により胃や十二指腸の粘膜がはがれ、その深部にある血管が露出して破綻することで出血が起こります。
また、進行した胃がんでも吐血することがあります。その他、食道静脈瘤の破裂、マロリーワイス症候群(強い嘔吐により食道粘膜が裂けて出血する状態)なども吐血の原因となります。これらの疾患は早期発見・治療が重要で、放置すると重篤な状態に陥る可能性があります。
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吐血がある場合に考えられる病気
吐血を引き起こす病気は、消化器系の様々な疾患が考えられます。それぞれの病気について、特徴的な症状や発症メカニズムを詳しく解説していきましょう。
胃潰瘍の可能性がある
胃潰瘍は、胃の粘膜が部分的に欠損する病気です。主な原因は、ピロリ菌感染、非ステロイド性消炎鎮痛薬の服用、ストレスなどです。
特徴的な症状として、食後にみぞおち周辺に重苦しい痛みが現れます。潰瘍が深くなって胃壁の血管が破れると出血を起こし、吐血に至ります。また、めまいや全身の冷や汗といった症状が出現することもあります。胃潰瘍からの吐血は、胃酸の影響で黒褐色を呈することが特徴的です。
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十二指腸潰瘍の可能性がある
十二指腸潰瘍は、強い胃酸と消化酵素により十二指腸の粘膜が部分的に欠損する病気です。主にピロリ菌感染が原因となりますが、非ステロイド性消炎鎮痛薬の服用でも発症します。
特徴的な症状として、早朝や空腹時にみぞおち周辺がシクシクと痛み、食事をすると症状が和らぎます。出血が激しい場合、めまいや意識消失を伴うこともあります。胃潰瘍と同様に、吐血時の血液は黒褐色を呈することが多いです。
胃がんの可能性がある
胃がんは日本人に非常に多いがんで、ピロリ菌感染と塩分の多い食生活が主なリスク要因とされています。初期の段階ではほとんど自覚症状がありませんが、進行すると、みぞおちの痛みや膨満感、食欲不振、吐き気などの症状が出現します。
がんが進行して粘膜が破壊されると、黒褐色の血液を吐血したり、タール状の黒い便が排泄されたりします。また、出血による貧血症状を伴うことも特徴です。
急性胃粘膜病変の可能性がある
急性胃粘膜病変(AGML)は、アルコールの過剰摂取や強い精神的ストレス、ステロイドや非ステロイド性消炎鎮痛薬の大量服用などが原因で発症します。
食道や胃、十二指腸の粘膜が多発性にただれ、出血性の胃炎を引き起こします。原因を取り除けば比較的早期に回復するのが特徴ですが、重症化すると大量出血を起こす可能性もあります。
食道静脈瘤の可能性がある
食道静脈瘤は、主に肝硬変の末期に発症する病気です。肝臓の機能低下により門脈圧が上昇し、食道の静脈が瘤状に膨らむことで発症します。この瘤が破裂すると、大量の鮮血を吐血し、ショック状態に陥る危険性があります。
また、固い食べ物が食道を通過する際に静脈瘤を傷つけ、破裂のきっかけとなることもあります。早急な治療が必要な、緊急性の高い病態です。
吐血をした際の対処法は?
吐血を認めた場合、まず出血量に応じた適切な対応が重要です。具体的な対処法を解説します。
洗面器がいっぱいになるほどの大量出血がある場合は、生命の危険性があるため、すぐに救急車を要請しましょう。この場合、頭を低くして横たわり、窒息を防ぐ体勢をとってください。
【緊急性が比較的低い場合】
唾液や吐いたものに少量の血が混じる程度であれば、直ちに救急車を呼ぶ必要はありませんが、専門医の診察を受けることが推奨されます。時間の経過とともに出血量が増える可能性もあるためです。
【共通の注意点】
水分を含め、一切の経口摂取は控えましょう
自己判断は避け、必ず医療機関を受診してください
可能であれば吐いた血液の量や色、性状を確認しておくと、診断の参考になります
医療機関では、問診や胃カメラ検査などを通じて出血の原因を特定し、適切な治療が行われます。早期発見・早期治療が重要なため、吐血を認めたら躊躇せず受診することが大切です。
吐血を伴う病気を予防するには
吐血を引き起こす病気の多くは、早期発見と適切な予防措置で防ぐことができます。ここでは、効果的な予防法について詳しく解説します。
健康診断や定期健診の受診がおすすめ
吐血の原因となる消化器系の病気は、年に一度の定期的な健康診断で早期発見できることが多いです。特に内視鏡検査は、胃がんや潰瘍などの病変を発見するのに有効です。
また、高齢者の方や、他の病気で鎮痛剤を常用している方は特に注意が必要です。鎮痛剤の中には胃の粘膜を荒らし、胃潰瘍や胃炎のリスクを高めるものがあるためです。定期的な検査で異常を早期に発見することで、重症化を防ぐことができます。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍を繰り返す場合
胃潰瘍や十二指腸潰瘍を繰り返す方は、ピロリ菌感染の有無を検査することが推奨されます。ピロリ菌の検査は簡単な検査で行うことができ、感染が確認された場合は、処方された薬による除菌治療で対応が可能です。
ピロリ菌を除去することで、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の再発を防ぎ、さらには胃がんのリスクも低減できることが分かっています。痛みを伴わない簡単な治療で、将来的な健康リスクを大きく減らすことができます。
まとめ
吐血は、重大な疾患のサインとなる可能性がある重要な症状です。出血量が多い場合は生命の危機に直結する可能性もあるため、早急な医療機関の受診が必要です。
原因として最も多いのは胃潰瘍や十二指腸潰瘍ですが、進行した胃がんや食道静脈瘤など、重篤な疾患の可能性もあります。定期的な健康診断の受診や、異常を感じた際の早めの受診が、重症化の予防につながります。
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略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師