腹腔内出血と腹部外傷|症状と治療、緊急度について解説

  • クリニックブログ
2025/02/07

腹腔内出血と腹部外傷|症状と治療、緊急度について解説

腹部外傷による腹腔内出血は、迅速な対応が求められる緊急性の高い病態です。腹部打撲や刺創などの外傷によって腹腔内の臓器が損傷を受けると、重度のショック状態に至る可能性があります。
 
この記事では、腹部外傷における腹腔内出血の症状や診断、緊急度の判断基準、適切な治療法について解説します。

 
 

腹部外傷と腹腔内出血の基礎知識

腹部外傷は、生命を脅かす重篤な状態に発展する可能性がある外傷です。特に腹腔内出血を伴う場合、迅速な診断と治療が必要となります。
 
外傷の種類や受傷機転によって損傷パターンは異なり、適切な初期対応が予後を大きく左右します。また、腹腔内臓器は相互に密接な関係があり、一つの臓器損傷が他の臓器にも影響を及ぼす可能性があります。
 

腹部外傷の種類

腹部外傷は、大きく鈍的外傷と穿通性外傷に分類されます。鈍的外傷は、交通事故や転落による打撲、圧迫などで発生し、内臓が損傷を受けます。
一方、穿通性外傷は、刃物や銃創によって腹壁が貫通する外傷です。両者で診断や治療のアプローチが異なるため、受傷機転の把握が重要となります。さらに、開放性か非開放性かの区別も治療方針の決定に重要な要素となります。
 

腹腔内出血のメカニズム

腹腔内出血は、血管や臓器の損傷によって引き起こされます。実質臓器である肝臓や脾臓の損傷では大量出血のリスクが高く、管腔臓器の損傷では腹膜炎を併発する可能性があります。血液は腹腔内に貯留し、腹部膨満や血圧低下などのショック症状を引き起こします。また、腹腔内圧の上昇は横隔膜を圧迫し、呼吸機能にも影響を及ぼすことがあります。
 

損傷を受けやすい臓器

肝臓と脾臓は、腹部外傷で最も損傷を受けやすい臓器です。肝臓は右上腹部に位置し、鈍的外傷で裂傷や挫傷を起こしやすい特徴があります。脾臓は左上腹部にあり、被膜が薄いため破裂しやすく、大量出血の原因となります。
また、腸間膜損傷も重要で、血管損傷による出血や腸管虚血を引き起こします。加えて、膵臓損傷は診断が困難で、見逃されやすい重要な損傷部位となっています。
 

受傷後の経過と進行

外傷直後は出血量が少なくても、時間経過とともに状態が悪化する場合があります。特に血腫形成は数時間から数日かけて進行し、突然の破裂により大量出血を引き起こすことがあります。
また、当初は症状が軽微でも、腹膜炎の進行により急激に悪化することや、腹腔内の炎症反応で全身性炎症反応症候群(SIRS)を引き起こし、多臓器不全へと進展する可能性があります。
 
 

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外傷による腹腔内出血の特徴

腹腔内出血の特徴は損傷の種類によって大きく異なります。出血の程度や速度は受傷機転と損傷部位に関連し、迅速な判断と適切な対応が求められます。患者の状態を正確に評価するには、外傷のメカニズムを理解することが重要です。
また、出血量の評価には、バイタルサインの変化だけでなく、腹部所見や画像診断を総合的に判断する必要があります。
 

鈍的外傷による出血

鈍的外傷による出血は、主に実質臓器の損傷によって引き起こされます。特に肝臓や脾臓の損傷では、臓器内に血腫を形成することがあります。血腫は時間経過とともに増大し、突然の破裂により大量出血に至る可能性があるため、慎重な経過観察が必要となります。
また、鈍的外傷では複数の臓器が同時に損傷を受けることも多く、予期せぬ部位からの出血にも注意が必要です。
 

穿通性外傷による出血

穿通性外傷による出血は、損傷部位が明確で直接的な血管損傷を伴うことが多いです。刺創や銃創では、腹壁を貫通して臓器や血管を直接損傷するため、即座に大量出血を引き起こす可能性があります。また、腸管損傷を合併すると腹膜炎のリスクも高まります。加えて、腹壁の創部からの出血も無視できず、体表の出血と内部の出血を同時に評価する必要があります。
 

臓器別の出血パターン

肝臓損傷は、右上腹部に血腫を形成し、時間経過とともに増大する傾向があります。脾臓損傷は、被膜下血腫から破裂へと進展しやすく、急激な出血を引き起こします。腸間膜損傷では、血管損傷による活動性出血と腸管虚血が問題となり、早期発見と適切な治療が重要です。さらに、後腹膜臓器である腎臓の損傷では、後腹膜腔に血腫を形成し、診断が遅れやすい特徴があり、定期的な画像評価が欠かせません。
 
これらの出血パターンは、それぞれの臓器の解剖学的特徴や血管支配により異なります。実質臓器損傷では徐々に進行する出血が多いのに対し、大血管損傷では急激な出血を引き起こします。そのため、損傷臓器の特徴を理解し、予測される出血パターンに応じた観察と治療計画を立てることが重要となります。
 
損傷臓器の組み合わせによっては、複雑な出血パターンを示すこともあります。例えば、肝臓と脾臓の同時損傷では、両側からの出血により急速に血圧が低下することです。また、実質臓器と管腔臓器の同時損傷では、出血性ショックと腹膜炎が併存し、より重篤な状態に陥る可能性があります。
 
 

重要な症状と緊急度

腹腔内出血を伴う腹部外傷では、様々な症状が出現します。症状の進行速度や重症度によって治療の緊急性が決定されるため、適切な評価と判断が求められます。出血量が多いほど全身状態は急速に悪化し、速やかな治療介入が必要となります。
 

初期症状

腹部外傷の初期症状として、腹痛や圧痛がみられます。しかし、意識障害や他部位の損傷により症状が不明確となることもあります。腹部膨満や打撲痕、反跳痛などの腹部所見を注意深く観察する必要があります。また、早期からショック症状が出現することもあり、バイタルサインの継続的なモニタリングが重要です。
 

重症化のサイン

 

 
腹部外傷における重症化のサインは、早期発見が生命予後を左右します。持続する頻脈や血圧低下、進行性の腹部膨満、疼痛の増強は急速な病態悪化を示唆しており、特に反跳痛の出現は腹膜炎の併発を意味し、緊急の治療介入が必要となります。
 
また、尿量減少や頻呼吸、意識レベルの変化も重要な警告サインです。血液検査では、ヘモグロビン値の急激な低下や凝固能の悪化、乳酸値の上昇が重症化を示します。これらの症状は複合的に出現することが多く、経時的な観察と評価が不可欠です。
 
初期は軽症に見えても急激に悪化する可能性があるため、系統的な観察と記録を継続し、わずかな変化も見逃さないよう注意が必要です。
 

ショック症状について

腹腔内出血によるショック症状は、心拍数の増加や血圧低下として現れます。皮膚は蒼白で冷たく、発汗が著明となります。意識レベルも低下し、混乱や不穏が見られることがあります。ショックの進行は急激で、適切な治療なしでは致命的となる可能性があります。
 
 

診断と初期対応

腹部外傷の診断は、まずバイタルサインの評価から始まります。続いて超音波検査(FAST)やCTで腹腔内出血の有無と程度を確認します。初期対応では循環動態の安定化が最優先され、必要に応じて輸液や輸血による蘇生が行われます。
 

緊急検査の種類

FASTは腹腔内出血の迅速な評価に有用です。腹部全体を観察し、出血の有無や貯留部位を確認します。CTでは臓器損傷の詳細な評価が可能で、出血の程度や血腫の大きさを正確に把握できます。血液検査では貧血の程度や凝固機能を評価します。
 

救急での処置

救急外来では、まず気道確保と呼吸、循環の評価を行います。大量輸液や輸血による循環動態の安定化を図りながら、治療方針を決定します。腹腔内圧が上昇している場合は、腹部コンパートメント症候群の予防も重要となります。
 

専門医療機関への搬送

重症例では高次医療機関への転送が必要となります。搬送中も継続的なモニタリングと蘇生処置が重要です。受け入れ施設との緊密な連携により、途切れのない医療を提供することが求められます。手術室やIVR施設の準備状況も確認しながら、最適な搬送先を選定します。
 
 

治療法と予後

腹部外傷の治療は、患者の全身状態と損傷の程度により選択されます。循環動態が不安定な場合や、腹膜炎症状が明らかな場合は緊急手術が必要です。一方、状態が安定している場合は、保存的治療やIVR(血管内治療)も選択肢となります。治療方針の決定には、迅速かつ的確な判断が求められます。
 

手術適応の判断

手術適応は、主に循環動態と腹部所見に基づいて判断されます。大量輸液に反応しないショック状態、持続する腹腔内出血、消化管穿孔による腹膜炎は緊急手術の絶対適応となります。CTやFASTで多量の腹腔内出血や臓器損傷が確認された場合も、手術が必要となります。また、腹部コンパートメント症候群の発症リスクがある場合も、手術的減圧が検討されます。
 

治療方法の選択

治療方法は損傷部位と重症度により決定されます。実質臓器の単独損傷で出血が限局している場合は、IVRによる動脈塞栓術が有効です。消化管損傷や大量出血を伴う場合は開腹手術が選択され、損傷臓器の修復や切除が行われます。重症例では、ダメージコントロール手術を選択し、段階的な治療を行うことで救命率の向上を図ります。
 

術後の経過と注意点

術後は厳重な全身管理が必要です。循環動態の安定化、呼吸・腎機能の維持、感染予防が重要となります。再出血や臓器不全、感染症などの合併症に注意しながら、適切な輸液・輸血管理を行います。状態が安定すれば、早期離床とリハビリテーションを開始し、機能回復を目指します。また、長期的な予後改善のため、栄養管理や疼痛コントロールにも注意を払います。
 
 

まとめ

腹部外傷による腹腔内出血は、迅速かつ適切な対応が求められる救急疾患です。患者の予後改善には、的確な初期評価と状態に応じた治療選択が不可欠です。医療チームの連携と継続的な観察により、合併症を予防し、早期の機能回復を目指すことができます。救急医療に関わる全ての医療者が、適切な判断と対応ができるよう、知識と技術の向上に努めることが重要です。
 
 

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MYメディカルクリニック渋谷 笹倉 渉医師

監修:MYメディカルクリニック渋谷 非常勤医

笹倉 渉 Dr. Sasakura Wataru

資格

略歴

  • 藤田保健衛生大学医学部 卒業
  • 公立昭和病院
  • 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
  • 北部地区医師会病院麻酔科 科長
  • 2016年 MYメディカルクリニック 医師
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