卵巣がんの検査と治療について。社会復帰のポイントもご紹介
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卵巣がんの検査と治療について。社会復帰のポイントもご紹介
ほとんど症状が出ないまま、静かに進行することの多い「がん」は、これまでの生活を一変させてしまうことがあります。特に治療後はさまざまな場面で気をつけなければならないことも増えるでしょう。
今回は「卵巣がん」について、ご紹介します。卵巣がんの検査費用や治療の種類、復職についてを解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
卵巣がんとは
卵巣がんとは、卵巣に発生するがんのことです。卵巣は左右にひとつずつあり、骨盤の奥深くに存在しています。日本人女性の平均的な大きさは成人女性で長さ約2.5cm~4cm、幅約1cm~2cm程といわれています。卵巣の重さは、基本的には約14gです。
卵巣にできる悪性腫瘍のこと
卵巣に発生するがんは、3種類あります。悪性とよばれる「悪性腫瘍」、経過観察をする「良性腫瘍」、悪性と良性のどちらのも成長する可能性のある性質の「境界悪性腫瘍」があります。卵巣の中で発生場所によって呼び名が異なり上皮性腫瘍、胚細胞腫瘍、性索間質性腫瘍といわれます。
ほぼ無症状で、静かに進行していくがん
卵巣がんは、ほとんど自覚症状がありません。病院を受診して気が付いたときには進行していることが多くみられます。腹部を触ってみてしこりがあったり、圧迫感を感じるときは注意が必要です。他にも、膨れた卵巣が膀胱を圧迫しトイレに行く回数が増えたりという症状も見られます。症状として「下腹部の違和感」を感じたときには、婦人科を受診するようにしましょう。
年齢が上がるほど発症しやすい
卵巣がんは、40歳代から急激に発生しやすくなります。年齢が上がるにつれて死亡率があがるため、検診を受けるなど気をつける必要があります。卵巣がんのリスクが高くなりやすいのは、初経が早い、閉経が遅い、出産経験がない方といわれています。
子宮内膜症がある人は組織が変異しやすく、がんのリスクが高まります。遺伝的な要素もあるので、ある程度の年齢になったら、定期的に婦人科の受診をおすすめします。
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卵巣がんの主な原因
卵巣がんは複数の要因が重なって発生するといわれています。近親者にかかった方がいる場合は発症のリスクが高まります。妊娠、出産経験がなかったり、ホルモン剤による治療を行っているなども発生リスクがあります。
卵巣がんの検査・診断
卵巣がんの検査や治療方法は、状態(病期)によって変わります。妊娠・出産希望の有無なども含めて、今後どうしていきたいかを医師と相談しながら決めていきます。卵巣がんの検査や診断方法について紹介します。
触診・直腸診・内診
腟や直腸に指を入れて、子宮や卵巣の状態を確認します。周囲の組織や臓器に異常がないかなどもあわせて確認できます。
超音波検査(エコー検査)
超音波を発する器具を腹部に当てたり腟に入れたりするなどして、子宮の大きさや子宮内膜の厚さを測ります。
CT・MRI検査
がんの広がりや進行度、転移などを確認します。CT画像のみで腫瘍が良性か悪性かを見極めるのは困難で、状況によっては開腹手術を必要とします。
腹水細胞診
外から腫瘍に針を刺して組織や細胞を採取する方法です。卵巣腫瘍の検査では顕微鏡でがん細胞の有無を見る生検生体検査は行いません。
腫瘍マーカー
腫瘍マーカーとは、血液検査の項目に含まれます。これは卵巣腫瘍の良性・悪性の鑑別、治療効果の判定に用います。また、卵巣がんの場合、転移・再発の指標として、また治療の効果判定などのためにも用いられているのです。
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卵巣がんの治療について
卵巣がんは、骨盤の奥にある臓器です。治療を行うためには、がんのステージにかかわらず手術をします。卵巣がんの治療について紹介します。
手術方法は2種類
卵巣がんは、基本的には手術療法と抗がん剤などの化学療法を合わせて行います。手術ではがんを可能な限り取り除きます。もし、手術をしても取り除くことが困難と判断された場合には、抗がん剤による化学療法でがんを小さくしてから手術を行います。
Ⅰ期
手術をして、卵巣などの組織を取ります。この段階で、目に見えるがんを可能な限り取り除きます。細胞の状態を見極めたうえで、その後の治療が変わるのです。
Ⅱ期
Ⅱ期の卵巣がんは、大きなものが多いです。Ⅱ期でも可能な限り細胞を切除します。範囲が大きくなり、体内に細胞が残ってしまうようなときは薬物療法による治療を行います。がんの大きさが1cm以上の時は、薬物療法を行ってから手術へ進む場合もあります。
腫瘍を取り除いたあとに薬物治療(化学療法)をすることが一般的
卵巣がんの手術では、手術により、悪性細胞がどれだけ取りきれたかがその後を左右します。本人希望で妊娠するための力を残す場合は、妊孕性温存手術を検討することもあります。
薬物療法(化学療法)では副作用があることも
卵巣がんの薬物療法では身体と合わず、副作用が出ることも覚えておきましょう。抗がん薬の副作用には、吐き気や食欲不振、脱毛、口内炎、指先のしびれなどが一般的です。血液の状態を確認すると白血球減少や血小板減少、貧血などもみられます。
放射線治療
腫瘍を標的とし、まわりの正常組織を含めて放射線を当てます。卵巣がんの場合は、再発時などに行われる治療方法です。
維持療法
維持療法とは、最初に使った効果のある薬を長期間にわたって服用して寿命を長くすることを目的とした薬物療法です。
費用は公的補助が出ることがある
がんと診断されたら各自治体の窓口に相談に行きましょう。年齢別で利用できる高額療養費制度、限度額適用認定証といったような制度が利用できます。
卵巣がんの手術後の社会復帰は
卵巣がんに限らず、無理をしなければ社会復帰は十分に可能です。ただし、卵巣がんの術後は、術前と同じようには活動できなくなることがほとんどです。担当医からよく説明を受け、体力の回復状況に合わせて、活動の範囲を増やしていきます。卵巣がんを手術した後の社会復帰について説明します。
まずは就業規定を確認し、会社へ相談する
まずは就業規定を確認したうえで会社に報告し相談をしましょう。治療のために通院する時間が必要になると、以前と同じ就業形態では働けなくなるケースが出てきます。このような事項も含めて、今後どのように自分と向き合っていくかを考えていきましょう。
徐々に体力をつける
がんを治療していくと、治療や回復のために体力が少しずつ削られていきます。以前の自分と同じように考えず、できることをコツコツ始めていきましょう。手術後であれば担当の医師と相談の上、現在の自分の状態についての説明を受けましょう。日常的な家事や軽い散歩などからスタートし、体力の回復状況に合わせて増やしていくようにしましょう。
薬の副作用による体調の波に注意
抗がん剤治療薬は、体調の良いときもあれば、そうではないときもあります。そうではないときは、無理をせず通院時に相談していきましょう。薬の副作用だけでなく、身体が思うように動かないことで他の病気を併発することもあります。医師や看護師、薬剤師に相談しながら治療を前向きに考えるようにしていきましょう。
転移や再発リスクがあることを視野に入れる
治療後は、定期的に通院して予後を確認します。検査を受ける頻度は、以下の通りです。
- ● 治療後1年~2年目は1カ月~3カ月ごと
- ● 3年~5年目は3カ月~6カ月ごとが目安
- ● 6年目以降は1年ごと
がんの進行度や治療法によって異なります。
再発リスクなども含め、体調の維持や回復を考えた節度ある生活を心がけていきましょう。
まとめ
ここまで「卵巣がん」についてご紹介してきました。卵巣がんは手術をしなければ確定することができない判断が難しい病気です。検査や治療にかかる費用が不安である場合は、医師や役所に相談しておきましょう。
また、がんの進行具合や薬物による副作用などで、これまでのような生活ができないかもしれないと不安になるかもしれません。しかし、できることから取り組んでいけば、少しずつ体力が回復していくでしょう。
勤めている会社や医師によく相談し、無理なく社会復帰ができるようにしておくと良いでしょう。
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略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師