卵巣嚢腫とは?卵巣嚢腫の種類と治療法について解説
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卵巣嚢腫とは?卵巣嚢腫の種類と治療法について解説
女性でお腹が張ったり、下腹部に痛みや違和感があったりする場合、卵巣に腫瘍ができている恐れがあります。卵巣は「沈黙の臓器」と称されるほど女性のお腹の奥にある臓器のため、異常があっても症状が出にくく、ひどい状態になってから初めて病気が発覚することもあり、判断が難しいです。
今回は卵巣嚢腫についてご紹介します。卵巣嚢腫の治療法や不妊に繋がる可能性なども解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
卵巣嚢腫とは
卵巣嚢腫とはどういう症状なのかをご紹介します。
卵巣にできる腫瘍のこと
卵巣嚢腫は文字通り卵巣にできる腫瘍のことで、嚢胞性腫瘍と充実性腫瘍の2種類に区分されます。生理が終わって閉経になった中高年だけでなく、20~30歳の若い方にもみられ、基本的に手術で良性か悪性かを判断します。
多くが嚢胞性腫瘍というもの
卵巣嚢腫の8~9割は「嚢胞性腫瘍」であり、そのほとんどが良性です。全体的な症状として、下腹部に鈍い痛みが出たり便秘や腰痛になったりします。腫瘍が大きくなってくると、体外から触れても柔らかいこぶ状のものができているというのがわかりますが、それまでは初期症状として目立った兆候が出てくることは少ないとされています。
がんになることもある充実性腫瘍
卵巣にできた腫瘍の約80%が悪性であり、なかでも卵巣がんなどにつながる危険があるのが充実性腫瘍です。下腹部の痛みや生理不順、腹水などを起こすことがありますが、初期症状としては良性のものと同じく気づきにくくなっています。腫瘍の中身が固形化していることが多く、大きくなってくるとしこりのような硬さになります。腫瘍が充実性であると診断された場合は、速やかに手術を行い、腫瘍の確認を行うことが必要です。
嚢胞性腫瘍は4つに分類される
良性であることが多い嚢胞性腫瘍は、さらに4つに分類されます。
- ● 漿液性嚢胞腺腫
- ● 粘液性嚢胞腺腫
- ● 成熟嚢胞性奇形腫
- ● チョコレート嚢胞
漿液性嚢胞腺腫
漿液とは水のような淡い黄色の液体のことで、卵巣にこの液体が溜まってしまって腫瘍になることがあります。卵巣腫瘍のおよそ25%が漿液性であるとされ、主に若い年齢層の方が発症するようです。自然に消滅する可能性のある一時的な卵巣の病変との区別が難しいですが、こちらは自然消滅することがないため手術による治療が必要となります。
粘液性嚢胞腺腫
粘度の高い液体が溜まってできる腫瘍で、生理が終わる40~50歳の女性によくみられる症状です。放置すると非常に大きくなることがあり、確率は低いですが悪性の卵巣がんなどへ成長する恐れがあります。4cm以上の腫瘍は些細なことがきっかけで腫瘍ができた周囲の管などがねじれてしまう「捻転」という状態になることがあり、その際ひどい腹痛を起こします。
成熟嚢胞性奇形腫
20~40代の広い世代でみられ、妊娠をきっかけに判明することが多い症状です。髪や歯、皮脂などを構成するさまざまな組織が溜まってできた腫瘍で、両側の卵巣に作られることもあります。閉経後にがんへと成長することがあり、定期的に腹部のX線検査などを行うことがおすすめです。
チョコレート嚢胞
子宮には筋肉との間に子宮内膜と呼ばれる膜があるのですが、その組織が子宮だけでなく他の部位にも生成してしまう「子宮内膜症」という症状があります。チョコレート嚢胞は、この子宮内膜の組織が卵巣に作られてしまった場合に起こる症状です。血液や剥がれた組織がチョコレート状に黒ずんで粘つきがあるのが特徴で、40代以降からはがんに成長してしまう恐れがあります。
子宮内膜症について詳しくはこちら
腫瘍が肥大化するまで自覚症状がない
卵巣腫瘍は初期症状が自覚できないことが多く、生理でみられる症状とも酷似しているため気づきにくい病気です。あまり大きくなりすぎると先述した捻転の状態になったり、大きくなる過程で風船のように破裂してしまったりすることがあります。どちらも突発的に激痛をともなう腹痛が起こり、症状が重い場合は緊急手術が必要になるかもしれません。
詳細な原因はわかっていないことが多い
技術が進んだ現在においても、卵巣嚢腫がなぜ起きるのかといった詳しいことは未だ不明です。ただ成熟性嚢胞奇形腫は、卵子が勝手に人の体組織を作ろうと分裂を繰り返したため起こるのではないかとされています。現在でも有効な予防策が確立できていないため、定期的な検査などを行い、早期発見することが大切です。
手術が必要になることも
卵巣嚢腫と診断がされた場合、基本的に手術による治療が行われます。
では、どのような手術が行われるのかをご紹介します。
チョコレート嚢胞以外は手術になる可能性がある
唯一原因が子宮内膜症であると判明しているチョコレート嚢胞は、状態にもよりますが薬での治療が選択できます。しかし、その他は腫瘍の種類を見極めるためにも原則手術による治療が行われ、腫瘍の摘出が行われるのが通常です。
腫瘍の大きさや悪性かによって手術が異なり、以下の4種類があります。
- ● 腟式腹腔鏡下卵巣嚢腫摘出手術
- ● 腹腔鏡下卵巣嚢腫摘出手術
- ● 腟式腹腔鏡下付属器切除術
- ● 腹腔鏡下付属器切除術
腟式腹腔鏡下卵巣嚢腫摘出術
腹腔鏡とは、医療用の小型カメラのことです。この手術は股から膣に小型カメラとメス、ハサミなどの器具を入れ、膣の奥に小さな穴を開けて腫瘍の摘出を行います。お腹の目立つところに傷をつけることがなく、卵巣にも負担をかけないため、術後短い期間で退院することが可能です。
腹腔鏡下卵巣嚢腫摘出術
1cm弱の傷口を4箇所ほどお腹に開けて、そこから腹腔鏡を入れて行う摘出手術です。チョコレート嚢胞の原因とされる子宮内膜症の症状には、内膜が子宮外の臓器などに癒着していることがあります。そのような場合は、臓器と内膜を剥がすためにこの手術が行われることがあります。
腟式腹腔鏡下付属器切除術
卵巣嚢腫の状態が重い場合や腫瘍が悪性である場合は、卵巣や卵管そのものを取り出す必要があります。この手術は先述の卵巣嚢腫摘出術のように膣から器具を入れ、膣の奥に穴を開けて行います。お腹に傷跡が残ることもなく、術後の痛みなどもほとんどありません。経過や状態によっては早期に退院することが可能です。
腹腔鏡下付属器切除術
お腹に小さな傷口を4箇所ほど設け、そこから器具を入れて卵巣や卵管の摘出を行います。悪性の腫瘍や4cm以上の大きくなりすぎた腫瘍の場合に行われ、腫瘍で卵管などがねじれた捻転の状態の際にもこちらの手術が選択されることがあります。
高額医療費の対象になる
卵巣嚢腫の手術はおよそ20万円ほどかかり、そのうえで入院費なども上乗せされていきます。ただし健康保険が適用されるため3割負担の場合は18万円ほどに下がり、高額療養費制度の対象者にもなるため制度の利用が可能です。卵巣嚢腫であると診断された場合、手術前に加入している保健に申請しましょう。
卵巣嚢腫の薬物治療は
唯一薬による治療が可能であるチョコレート嚢胞で、処方される薬についてご紹介します。
チョコレート嚢胞が小さい場合は月経困難症治療薬で対処
小さいチョコレート嚢胞の場合、月経困難症や避妊にも使用されるLEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)を処方されることがあります。これには2つの女性ホルモンが含まれており、子宮内膜症の治療にも効果があります。
ただし、副作用として40歳以上の方には血栓症ができてしまう可能性があることと、一定以上腫瘍が大きく成長してしまった場合にはあまり大きな効果は見込めません。
大きい場合は子宮内組織に働きかける黄体ホルモン製剤を使用
ある程度症状が進行し、腫瘍が大きくなってしまった場合は、黄体ホルモン製剤が処方されます。黄体ホルモンとは女性ホルモンの分泌を抑え、排卵などを抑止する役割を持つホルモンのことです。副作用として、血栓症や不正出血が起きることがあるうえ、黄体ホルモン製剤は長期間の服用が必要となります。
まとめ
ここまで卵巣嚢腫についてご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。卵巣嚢腫はさまざまな種類に分類されており多くは良性ですが、まれに卵巣がんに繋がる悪性の腫瘍である場合もあります。
腫瘍ができる原因は現在でもまだ判明しておらず、手術療法が基本です。症状が進み、ある程度腫瘍が大きくなってしまうまで自覚症状がないため、定期的に検査などで早期に見つけ出すようにしましょう。
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略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師