迷走神経反射とは?症状が起きる原因と予防方法を解説

  • クリニックブログ
2024/02/27

迷走神経反射とは?症状が起きる原因と予防方法を解説

長時間立ったままや、座ったままの状態の後で動いた時に、めまいや血の気が引いた感じ、気分が悪くなって一時的に気を失ってしまったことはありませんか。このような症状は迷走神経反射と呼ばれるものであることが多く、重症化はしないものの、失神によって事故や怪我につながる恐れもあり危険です。また場合によっては別の病気が潜んでいることもあります。
 
本記事では、臨床医の観点から迷走神経反射について概要や原因、治療方法や・予防などを解説していきます。

 
 

迷走神経反射とは

迷走神経反射とは、副交感神経である迷走神経が何らかの要因で優位に働き、脈拍を下げ血圧が低下することで脳に十分に血液が供給されず、失神の原因となる自律神経反射の一つです。一般には「血管迷走反射性失神」と同じ意味で使われており、全年齢で起こりうるものですが、臨床経験上10代〜30代の若年者の相談が多く感じます。

 
 

迷走神経反射の原因

迷走神経反射の原因は、主に身体的・精神的要因または環境要因の2つに分けられます。
 
身体的・精神的要因においては、長時間の立位や座位の姿勢、強い痛みや疲れ、生理周期、不眠・疲労・恐怖などのストレスがきっかけとなり、心拍数の減少と血圧低下を起こします。それらが引き金となり、一過性の意識消失発作(失神)につながります。また、寝不足や疲れが溜まっている人、性格的に几帳面・真面目で緊張しやすい人に多く見られる傾向があります。
 
環境要因としては、人混みや閉鎖的空間におけるストレスが原因となり、迷走神経反射が起きてしまうことがあります。

 
 

迷走神経反射の症状

迷走神経反射では、脳の血流が低下するため、めまい、血の気が引くような感じ、冷や汗が出る、目の前が暗くなる、吐き気や腹部の違和感などの症状が出ます。そして、これらを前兆として一過性の意識消失である失神に至ることがよくあります。
 
迷走神経反射自体は生命に影響を及ぼすことなく後遺症もないことがほとんどです。通常は横になって数分ほど休めば回復しますが、失神によって転倒し事故や打撲・骨など外傷が起きる可能性がある点には注意が必要です。


 

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迷走神経反射の診断と検査

若年層の場合は、医療機関を受診しない、または受診しても問診のみで診断することも多いでしょう。ただし、症状を繰り返す場合や中高年者の場合の迷走神経反射は自律神経の調節機能異常のほか、全身疾患が関与していることもあります。その場合には、脳や心臓の疾患、糖尿病の検査のため、心電図・心臓超音波・採血・頭部CT・脳波などを行うケースがあります。
 
失神の原因において自律神経の調節異常の関与度合いを確認する試験として、Head-up Tilt test(ティルト試験)が古くから用いられています。ティルト試験で陽性となった場合でも、その後に失神を起こさないケースもあるため、補助的な役割の検査ともいえます。


 
 

迷走神経反射の治療方法

迷走神経反射が起きて失神の前兆を自覚した場合には、その場でしゃがみこむ、または横になることで対処しましょう。また、それ以外では以下のような動作も有効です。
 

  • ● 立ったまま足を動かす。
  • ● 足を交差させて組ませる。
  • ● お腹を曲げてしゃがみ込ませる。
  • ● 両腕を組み引っ張り合う。

 
エビデンスレベルが高く確立された根本からの治療法はなく、生活状況などに合わせた対処療法となることが一般的です。迷走神経反射の原因となる事象を断ち切ることと生活訓練(起立調節訓練)が主な方法となります。
 
長時間の立ったままや座ったままの姿勢を避けることが基本となりますが、生活機能訓練としては、自律神経を鍛えたり血流を良くするストレッチングや動作を日頃から訓練したりすることが大切です。薬剤(α遮断薬・硝酸薬・利尿薬などの降圧剤)が原因の場合は減量や中止が必要となるため、かかりつけの医師に相談しましょう。


 
 

迷走神経反射の予防方法と生活習慣からみた留意点

迷走神経反射によって失神することを事前に防ぐためには、血流の改善とストレス環境の回避が必須です。仕事などで避けられない事情があり、その環境に慣れる必要がある場合、周囲の理解と協力を得て対処する必要があります。
 
少しずつ段階を経て改善を重ね、血流を良くする習慣によってストレス解消にもつながります。また、脱水にならないようにこまめに水分補給することも大切です。
 
過度な緊張状態やストレス環境下でも起こる迷走神経反射は、副交感神経を優位にしてリラックスを図る防衛本能です。これは生理的現象であって、異常ではありません。正しい知識を持ち、こまめに休息をとりながら焦らせないで対処することが大切です。


 
 

迷走神経反射に関するよくある質問

Q.何科を受診したら良いですか?

A.迷走神経反射については、脳神経外科もしくは循環器内科がよいでしょう。心臓や脳に病気があることは稀ですが、血管の異常を日常的に診療している診療科の受診が望ましいと考えます。
 

Q.迷走神経反射を繰り返す場合はどうしたらよいでしょうか?

A.短期間に何度も繰り返す場合は、糖尿病や心臓病のような自律神経の異常をきたす病気が隠れている可能性があるため、早期に医療機関で受診しましょう。原因がはっきりしているときは、環境を調整するか、段階を踏んで克服するかどちらかの選択となります。
 

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Q.迷走神経反射は完治しますか?

A.同じような場面で起きる場合は、生活指導や慣れで克服できる可能性は高いです。筆者も、医学生の時期に長時間の外科手術見学で迷走神経反射を自ら経験しましたが、経験を積んでいくことで克服できました。


 
 

まとめ

迷走神経反射はさまざまな要因によって自律神経が不調となることで発生する身体のサインです。一時的に失神をすることもありますが、多くの場合では医学的な介入の少ない現象です。経験を積むことで改善できることが多く、重症化につながるケースもほぼありません。
 
しかし、失神の際に事故や外傷を負うこともあるため、前兆を感じたらすぐに横になる、しゃがみ込むなどの対処をしましょう。また失神を繰り返す場合には、迷走神経反射だから大丈夫と決めつけるのは危険です。その際は、大事に至る前に医療機関を受診しましょう。


 
 

  

吉川 博昭医師

執筆

吉川 博昭 Dr. Yoshikawa Hiroaki

自己紹介

  • 大阪府出身。
    都内医学部を卒業し、医師免許取得後は麻酔科やペインクリニックを専攻し、医療機関で臨床業務に携わっている。
    近年は内科診療・予防医学・心療内科などの生活に密着した御相談にも診療幅を広げ、「健康を通じたハッピーな生活をお手伝いしたい」ことをテーマとしている。
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