「日本脳炎」治療薬がないからこそ予防接種で感染予防に努めよう!
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「日本脳炎」治療薬がないからこそ予防接種で感染予防に努めよう!
日本脳炎は、ブタの体内で増えたウイルスが蚊によって人へ運ばれた際に感染してさまざまな症状を発症する疾患です。
現在、日本脳炎感染症に対する有効な治療法はありません。そこで、感染しないための予防接種が推奨されています。
本記事では、日本脳炎とは何かについて解説していきます。
日本脳炎の症状や治療法、予防接種が必要な理由についても併せて解説していきますので、是非最後までご覧ください。
日本脳炎とはどんな病気?
日本脳炎は、人から人へ感染していくのではなく、ブタの体内で増殖したウイルスが蚊によって媒介され人に感染します。
潜伏期間は6日~16日といわれており、頭痛や高熱などさまざまな急性症状を引き起こす疾患です。
治療薬がないため、感染予防が唯一の対応策です。感染しないための方法として予防接種があります。
ここでは、「日本脳炎とは何か」と「症状」について解説していきます。
日本脳炎とは
日本脳炎は、頭痛や吐き気・嘔吐、意識障害など人に重篤な急性脳症を引き起こす感染症の一種です。
日本脳炎ウイルスの感染経路は、人から人へ直接感染するのではありません。ブタの体内で増えたウイルスが、コガタアカイエカによって媒介されて感染します。
病原体となる日本脳炎ウイルスはフラビウイルス科に属し、伝播様式からアルボウイルス(節足動物媒介性ウイルス)とも分類されているウイルスです。
極東から東南アジア、南アジアにかけて広く存在していて、全世界で毎年約3万5,000人〜約5万人の日本脳炎患者と1万人以上の死者が発生しています。
日本などの温帯では水田で発生するコガタアカイエカが媒介し、熱帯ではそのほか数種類の蚊が媒介することで有名です。
日本では、1960年代には毎年数百名以上の日本脳炎患者が報告されていましたが、1992年以降は毎年数名までに減少しました。
日本脳炎ウイルスは、増幅動物(ブタ)の体内で増殖しますが、ブタは特にコガタアカイエカに好まれること、肥育期間が短いために毎年感受性のある個体が多数供給されること、血液中のウイルス量が多いことなどから、最適の増幅動物となっているといわれています。
また、感染しても日本脳炎を発病するのは100人〜1,000人に1人程度で、大多数は無症状です。
発症までの潜伏期間は6日〜16日ほどで、頭痛や嘔吐、意識障害、痙攣などの症状を起こします。致死率は約15%〜約40%程度といわれています。
死に至らなくても、後遺症として約30%〜約50%の方は神経症状が残ることがあるため、日本脳炎は予防接種による予防が重要です。
日本脳炎ワクチンについて詳しくはこちら
主な症状
日本脳炎の主な症状としては、下記の症状が見られます。
- ● 数日間続く突然の高熱(38〜40℃あるいはそれ以上)
- ● 頭痛
- ● 悪心
- ● 嘔吐
- ● 眩暈
- ● 意識障害
- ● 異常行動
- ● 麻痺等の神経障害
- ● 痙攣(小児は85%、成人は10%)が出現し昏睡に至る
※繰り返す痙攣は予後不良 - ● 子どもでは、腹痛や下痢を伴うことが多いのも特徴です。
また、回復した小児の75%に何らかの行動及び精神障害を残すと言われています。
臨床検査所見
日本脳炎を診断するには、以下のような臨床検査所見が重要です。
● 髄液圧の上昇
日本脳炎に感染した際に髄液圧が上昇する主な理由は、ウイルス感染によって引き起こされる脳や脊髄の炎症と浮腫が原因です。
炎症や浮腫により血液脳関門(血液と脳の間で行われる物質輸送を制御する機能)の障害、過剰な髄液の産生や吸収障害、髄液循環の閉塞などが発生し、結果的に髄液圧が上昇することがあります。
髄液圧の上昇は、脳へのさらなる負荷をかけるため、神経症状の悪化や重篤な合併症のリスクが高まります。
● 髄液細胞数は、初期には多核球優位、その後リンパ球優位に上昇
日本脳炎に感染した際に髄液中の細胞数が初期には多核球優位で、その後リンパ球優位に変化する理由は、初期は自然免疫でウイルスに対抗し、徐々により強力な獲得免疫で対抗するためです。
ウイルスに感染すると、初期は自分自身が生まれながらに持つ自然免疫を使用しウイルスに対抗しようとします。
その後時間が経つにつれ、より強力な獲得免疫(適応免疫ともいう)が働き始めます。
この免疫の変化に伴い髄液中の細胞構成も変化していくのです。
● 蛋白(TP)軽度上昇
日本脳炎に感染した際に蛋白(TP)が軽度上昇する理由は、ウイルス感染による脳や脊髄の血液脳関門が壊されることで血漿蛋白が髄液中に漏れ出すためです。
また、自然免疫から獲得免疫へ細胞が変化する際に産生される炎症性蛋白も蛋白上昇要因の一つとされています。
日本脳炎に感染した際の治療法
現在、日本脳炎には有効な治療法はないため、対症療法が行われます。
一般療法、対症療法が治療の中心で合併症の予防を図ります。
日頃からできる予防法もご紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてください。
一般療法
栄養、水分の補給などの全身管理
日本脳炎が重症化すると、意識障害や昏睡状態に陥ることがあります。このような状態に陥ると、意識的に食事や水分補給を行えません。
また、高熱による発汗で体中の水分が失われ脱水状態となってしまいます。
重篤な後遺症を予防するためにも、自発的に摂取できない栄養や水分を点滴や経鼻胃管を使用し管理していく必要があるのです。
気道の確保
日本脳炎ウイルスに感染し重症化すると中枢神経系の機能に影響を受けます。
特に呼吸や嚥下機能が障害されるため、気道の確保で呼吸補助や誤嚥(食物や異物を気道内に飲み込んでしまうこと)防止のための管理が必要です。
褥瘡と二次感染の防止
日本脳炎で重篤な意識障害や運動麻痺が発生すると、長期間ベッドで寝たきりの状態が続き、褥瘡(床ずれ)のリスクが高まります。
また、十分な栄養が摂れず免疫力が低下している場合は同時に二次感染のリスクも増加します。
そのため、褥瘡や感染予防のための適切な栄養補給と、体拭きなどで皮膚の清潔を保つことで感染症のリスクを減らしていくことが大切です。
対症療法
高熱(や意識障害)
高熱は免疫反応の一部であるため、軽度から中等度の発熱は必ずしも積極的に抑える必要はありません。
しかし、患者の全身状態やほかの合併症によっては適切な管理が求められます。
高熱管理の目的は、以下です。
- ●高熱による脳のダメージを防ぎ、脳浮腫や痙攣のリスクを低下させる。
- ●体力消耗を最小限に抑え、回復を促進する。
- ●水分・電解質バランスを維持し、全身の代謝機能を安定させる。
発熱管理は、解熱剤の使用や衣類・室温調整、クーリングで行います。
意識障害
意識障害の対症療法は、患者の全身状態を管理し、合併症を予防しつつ、脳のダメージを最小限に抑えることが目的です。
意識障害の対症療法で患者の生命維持と回復を支援します。
脳浮腫に対しては脳降下剤を投与
脳浮腫に対する脳降下剤(脳圧を下げる薬)は、脳浮腫によって脳内の圧力(頭蓋内圧)が上昇するのを抑え、脳の損傷を防ぐために用いられる薬です。
脳浮腫は、ウイルス感染により脳に炎症が起こり脳内に液体が溜まることで引き起こされます。
この状態を放置してしまうと脳の圧迫や血流障害が進行し、脳損傷や死亡に繋がる可能性があるため、脳降下剤は脳浮腫の対症療法として必要不可欠な治療です。
痙攣の管理(抗けいれん薬の使用)
痙攣治療に関しては、緊急時の痙攣発作を迅速に抑えるためのジアゼパムや、長時間作用型のフェノバルビタールが主に使用されています。
また重症時や痙攣が頻繁に起こる場合には、痙攣を抑えるため鎮静薬を使用し脳の活動を抑え痙攣発作の頻度を減らす効果が期待できます。
低血圧に対しては昇圧剤を使用
日本脳炎による低血圧は、自律神経の損傷や重症時のショック状態の際に引き起こされます。低血圧治療は迅速かつ適切な対応が必要です。
低血圧の治療には、等張性輸液などの点滴や輸液管理で十分な効果が得られない場合は、アドレナリンやノルアドレナリンなどの昇圧剤を使用し血圧管理を行います。
呼吸障害に対しては人工呼吸器管理などを行う
日本脳炎感染時の呼吸器管理は、上記でご説明したように、脳浮腫や意識障害による神経系の損傷によって呼吸機能が障害され、自発呼吸が困難となった場合に行われます。
人工呼吸器の使用により、酸素濃度や二酸化炭素排出量を調整・管理し適切な呼吸補助を行います。
呼吸器使用中は気道粘膜が乾燥するため、必ず加湿しながら使用するようにしましょう。
脳浮腫に対する大量ステロイド療法は一時的に症状を改善することはあっても、予後や死亡率、後遺症などを改善する効果については明らかになっていません。
発症率や致死率は?発症後の後遺症
日本脳炎の発症率や致死率についても重要なため一度確認しておきましょう。
発症率や致死率、後遺症について以下で詳しく解説していきます。
ぜひ参考にされてみてください。
発症率
日本脳炎に感染しても実際に発症するのはごく僅かです。
日本脳炎ウイルスに感染した場合、およそ250人〜1,000人に1人が日本脳炎を発症するといわれています。
脳炎症状のほか、髄膜炎や風邪などの症状の方も多いです。
脳炎を患った時の致死率は約15%~約40%といわれていますが、完治後に神経の後遺症が残ってしまう方も約30%~約50%見られます。
致死率
日本脳炎の致死率は重症度や発症地域によっても異なりますが、約20%〜約40%前後とされています。
また、回復しても約40%~約70%の方は麻痺や反復性の痙攣発作、言語障害や精神障害などの後遺症が残る可能性が高いです。
成人に比べて免疫力が弱い幼少児や高齢者の死亡率は上がる傾向にあります。
発症後の後遺症
精神神経学的後遺症は生存者の約40%〜約70%に残り、幼少児では特に重度の障害を残すことが多いのが特徴です。
以下に主な後遺症について解説していきます。
後遺症
●痙攣発作
日本脳炎ウイルスは、脳の神経細胞にダメージを与えます。
ウイルスによってダメージを受けた脳細胞は正常な機能ができず、てんかん発作や痙攣発作を起こすのです。
痙攣発作の特徴として、意識障害や全身の筋肉が痙攣する全般発作と、部分的な筋肉の痙攣や意識の変容がみられる部分発作(焦点発作)の2種類があります。
この2種類の発作はダメージを受けた脳の範囲によって異なります。
●麻痺
後遺症の一つである麻痺は、日本脳炎ウイルスによって脳に深刻なダメージを受けた事が原因で起こります。
麻痺の種類は、下記です。
- ●体の片側(右半身か左半身)に麻痺が生じている状態の片麻痺
- ●両腕・両足のすべてに麻痺が生じる四肢麻痺
- ●完全な麻痺ではなく、筋肉の動きが弱まり力を入れることが困難になる筋力低下
- ●顔の一部または顔全体に麻痺が生じ、表情筋を動かせなくなる顔面麻痺
これらの麻痺が起こるのは、日本脳炎ウイルスが中枢神経に感染し、炎症を引き起こすことで脳や脊髄に損傷を与えるためです。
●緘黙症(言語障害)などの永久的な知的障害
緘黙症(かんもくしょう)とは、話す能力はあるが、脳内の言語中枢がウイルス感染によって損傷を受けたことが原因で話せなくなる状態のことです。
症状は下記の通りです。
- ●意識はあるにもかかわらず、自発的に言葉を発することのできない発話の欠如
- ●話すこと・他者の言葉を理解する能力が低下する言語理解の障害
緘黙症はリハビリテーションによって言語機能が回復する可能性もありますが、完全に元の状態に戻るのは厳しい場合もあります。
しかし、早期に言語療法などのリハビリテーションを開始することで、言葉の回復の可能性が高まるでしょう。
● 行動障害
日本脳炎ウイルスにより脳に重篤な炎症が起きた場合、認知機能や行動に影響が出ることがあります。
脳の特定の部位が損傷を受けることで発症し、日常生活にも大きな影響を与えかねません。
- 前頭葉損傷:衝動的な行動や抑制力の低下、不適切な振る舞いをすることがあります。
- 側頭葉損傷:記憶障害や認知機能の低下に伴い、混乱や不安感が増すことがあります。
行動障害には、薬物療法や認知行動療法・作業療法、心理的サポートとカウンセリングを行いながら治療やサポートを行います。
● 神経障害
ウイルスが脳や脊髄に感染し神経細胞に損傷を与えるとさまざまな症状を引き起こします。
神経障害の症状は下記の通りです。
- ●運動神経障害:筋力低下や筋肉の動き制御できない、又は麻痺が生じる。
- ●感覚障害:痛みや温度を感じる感覚が鈍くなったり、敏感になったりする。 手足の痺れや感覚の喪失も見られる。
- ●言語障害(失語症):言語を理解する、話す能力が損なわれる。
- ●認知障害:記憶・集中力・問題解決能力機能の低下。注意力の散漫・短期間記憶喪失も見られる。
- ●感情・行動障害:情緒不安定な状態や、衝動的で攻撃的な行動が現れる。・自律神経障害:自律神経系の機能が乱れ、体温・脈拍・血圧の調整、消化機能に異常が生じる。
ワクチン接種の必要性と予防法
日本脳炎は、確実な治療法はまだ明確ではありませんが、ワクチンを接種することにより予防できる感染症です。
かかってしまうと重症になる可能性が高いため、ワクチン接種は必ず行いましょう。
ワクチン接種と副反応
予防の中心は、「予防接種」と蚊の対策などの「自己予防対策」が重要です。
ここでは予防接種の接種も目安と副反応について解説していきます。
標準的なワクチン接種は以下の通りです。
- ● 1期接種:初回接種については3歳〜4歳の期間に6〜28日までの間隔をおいて2回、追加接種については2回目の接種を行ってから概ね1年を経過した時期に1回の接種。
- ● その他 2期接種:9歳〜10歳までの期間に1回の接種。
副反応
日本脳炎ワクチンの主な副反応は、
発熱、せき、鼻水、注射部位の紅斑や腫れ 発疹で、接種後3日後までに現れる場合が多いです。
ごく稀にショック、アナフィラキシー様症状、急性散在性脳 脊髄炎(ADEM)、脳症、けいれん、急性血小板減少性紫斑病などの重大な副反応が現れる場合があります。
定期接種をされていない方は、お住まいの市町村での実施方法、予防接種担当課にご確認ください。
自己予防対策
日本脳炎ウイルス感染症予防に関しては、ワクチン接種が一番有効とされていますが、日常生活の中でできる自己予防対策も多くあります。
日本脳炎ウイルスはコガタアカイエカによって運ばれ感染するため、衣類や防虫対策が大切です。
対策としては下記の通りです。
- ● 蚊に刺されないように注意すること(夏季や夜間の外出は控える)
- ● 蚊の発生が多い水田地帯やブタなど動物を飼育している地域では、防虫対策を忘れない
- ● 外出時は出来るだけ長袖、長ズボンを着用する
- ● 外出時は常に虫除けスプレーなどを携帯する
- ● 室内に蚊の侵入を防ぐため、網戸や蚊帳を使用する
- ● 感染地域へは行かない、行く場合は、日本脳炎ワクチンの追加接種をする
衣類の調節や防虫剤などはすぐにでも実践できるため、ぜひみなさんも実践してみましょう。
まとめ
今回の記事では「日本脳炎」について詳しく解説していきました。
蚊との接触を避け、日本脳炎ワクチンを接種していれば罹患リスクを約75%〜%95%減らすことができると報告されています。
日本脳炎は特別な治療法がないからこそ「予防接種」と「自己予防策」で感染を予防することが大切です。
小児期に接種を受けている方でも、5年後には3割近く、10年後には半分ほどの方が十分な抗体を持っていない状態になると言われています。感染リスクのある地域へ行く場合は、渡航前の追加接種が推奨されています。
日本脳炎に感染しないために、ワクチン接種と自己予防対策で予防しましょう。
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略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師