脂質異常症とは?症状や使用される薬についてご紹介
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脂質異常症とは?症状や使用される薬についてご紹介
昨今では在宅で仕事をする職業も増えたため、より一層健康に気を使っているという方もいらっしゃるでしょう。
運動不足や食事が疎かになっていると、気付かないうちに病気になっているかもしれません。
そこで本記事では、脂質異常症とはどのような病気なのかをご紹介していきます。
脂質異常症を放置しているとどんな病気になるのか、使用される薬はどういう薬かなどについても解説していくので、ぜひ最後までご覧ください。
脂質異常症とは
まずは脂質異常症がどのような病気なのかを解説していきます。
脂質が異常な状態である病気
脂質異常症とは、血液の中にある脂質が増えて、別のものにうまく変換できないという異常な状態になってしまっている症状のことを言います。
血液の中には酸素とともにさまざまな栄養素が含まれており、脂質はそのなかの一つです。
脂質は遊離脂肪酸、リン脂質、中性脂肪、そしてコレステロールという4種類に分けられます。
そして、血液の中の脂質が増えることで、中性脂肪とコレステロールのバランスが崩れてしまうのです。
脂質のバランスが崩れてしまうと、別の成分に変化するといったコントロールがうまくできず、さまざまな病気を発症するリスクを抱える状態になってしまいます。
脂質異常症には種類があり、状態や種類によって3つに分けられています。
高LDLコレステロール血症
高LDLコレステロール血症は、その名のとおりLDLコレステロールが血液の中で高い濃度になってしまっている状態のことです。LDLコレステロールが多いと血管を硬くし、血管の壁に塊を作って血の流れを阻害してしまうといった動脈硬化症を進行させてしまいます。
動脈硬化症については別記事に詳細があるため、ぜひそちらも併せてご覧ください。
動脈硬化について詳しくはこちら
低HDLコレステロール血症
HDLコレステロールは血管から出ていくコレステロールのことで、かつては善玉コレステロールと呼ばれていました。
低HDLコレステロール血症は、この出ていくコレステロールが異常に少ない状態のことで高LDLコレステロール血症と併せて脂質異常症とされることもあります。
血管内に留まるLDLコレステロールよりも、出ていくHDLコレステロールが多いほど脂質はバランスが取れているのです。
高中性脂肪血症
コレステロールと同じく脂質である中性脂肪は、人が活動するために必要なエネルギーを保管したり、体温の維持や内蔵を守ったり位置を固定したりする役割を担っています。
高中性脂肪血症は、この中性脂肪が血液内で高い濃度になってしまっている状態のことです。
高中性脂肪血症はHDLコレステロールを減らす作用があるため、結果としてLDLコレステロールを増やしてしまう原因の一端となってしまいます。
無症状のため自覚しにくい
脂質異常症は主だった症状が体外に出ないため、なかなか自覚することができません。
静かに緩やかに進行していき、大きな病気になってから発症していたことがわかることも少なくありません。
早期に症状を見つけるためには、定期的に健康診断などを受けることが大切です。
脂質異常症の原因
さまざまな病気を引き起こす脂質異常症ですが、原因は一体どこにあるのでしょうか。
脂質異常症の原因について解説していきます。
遺伝性と続発性がある
脂質異常症の原因には、生まれつきの体質が要因のパターンと、生活習慣など遺伝とは異なる原因で後天的に発症するパターンがあります。
生まれつき脂質異常症を発症している場合、あるいは発症しやすい体質になる理由は遺伝によるものです。
遺伝が関係しているものでもいくつかの種類があります。
後天的に発症するパターンは続発性と呼ばれるものにあたります。
食事の栄養面や運動習慣などの生活習慣に問題があり、発症するパターンです。
遺伝性が原因の場合と続発性が原因の場合とに分けて、詳しく解説していきます。
遺伝性の原因
遺伝が原因となり脂質異常症を引き起こす疾患をまとめて、原発性(遺伝性)脂質異常症と呼びます。
細分化した場合の疾患は次の5つです。
- ●家族性複合型高脂血症
- ●家族性異常ベータリポタンパク血症
- ●家族性高コレステロール血症
- ●家族性高トリグリセリド血症
- ●リポタンパク質リパーゼ欠損症とアポリポタンパク質CII欠損症
では、一つずつどのような疾患なのか、特徴や症状などを解説していきます。
原発性(遺伝性)脂質異常症
原発性脂質異常症とは、遺伝子を受け続く家系内で発症しやすく、遺伝子の変異が原因で発症します。
なお、遺伝子の変異の仕方は以下の2通りです。
- ●LDLコレステロール・中性脂肪に関する遺伝子変異
- ●HDLコレステロールに関する遺伝子変異
LDLコレステロール・中性脂肪に関する遺伝子変異では、LDLコレステロールや中性脂肪の除去ができない、あるいは過剰生産することが見受けられます。
一方のHDLコレステロールに関する遺伝子変異に見られるのは、HDLコレステロールを過剰に除去する、あるいは生産ができない症状です。
血液検査を行うと、コレステロール値と中性脂肪値が最も高くなる、もしくはHDLコレステロールが極端に低い数値になるかのどちらかになります。
家族性複合型高脂血症
コレストロール値の上昇または中性脂肪値の上昇のどちらかが見られるパターンと、両方が一緒に上昇するタイプがあります。
なお、発症する確率は1%〜2%と大変稀です。
標準体重よりも過度に重たい方、メタボリックシンドロームに該当する方、脂質の過剰摂取を日常的に行っている方が発症傾向にあります。
ただし、幼児期で発症する例もあり、油断はできません。
遺伝性ではありますが、治療で数値を改善または低下を目指すことは可能です。
生活習慣の見直しをしつつ、薬物療法を行って治療を進めていきます。
家族性異常ベータリポタンパク血症
リポタンパクと呼ばれる、血液中で脂肪と結合する物質を作る遺伝子に変異が起きることで発症します。
脂質の運搬や吸収ができないため、様々な合併症を引き起こすのが特徴です。
数値の傾向として、超低比重リポタンパク質(VLDL)コレステロール値、総コレステロール値、中性脂肪値の上昇がみられます。
症状は身体にもおよび、黄色腫とよばれる突起が肘や膝、手のひらの皮膚にできます。
また、早い段階で合併症として動脈硬化なども引き起こし、40代や50代になるまでに血管の閉塞を起こしやすいのが特徴です。
生活習慣の見直しと薬物療法が主な治療法となります。
家族性高コレステロール血症
遺伝の変異を1つまたは2つ受け継ぎ、総コレステロールが高くなるのが特徴です。
「2つ受け継ぐ」の意味は、両親から1つずつ異常な遺伝子を引き継ぐことを指します。
症状の重さも重篤で、2つの遺伝子を持つお子様の場合、20歳までに狭心症や心臓発作を起こすリスクがあります。
したがって、早期の治療が欠かせません。
症状は、家族性異常ベータリポタンパク血症と同様で黄色腫がみられます。
怖いのは、動脈硬化が急激に進行するケースです。冠動脈疾患で若くして亡くなることもあります。
難病指定されている疾患であり、完治は困難です。
そのため、動脈硬化の進行を遅らせたり発症を抑制したりするための治療が行われます。
なお治療は、生活習慣指導と薬物療法を並行して行いますが、ホモ接合体の家族性高コレステロール血症では、生体肝移植によって治療を行う場合もあります。
家族性高トリグリセリド血症
トリグリセリドとは中性脂肪のことで、遺伝によって中性脂肪の数値が高いタイプです。
発症するのは1%ほどといわれているため、比較的稀な疾患です。
家系によって動脈硬化の進み方や発症する年齢が異なり、若い年齢で発症するパターンと、年齢を重ねてから発症するパターンがあります。
食事方法や内容に注意すれば、正常値まで数値を避けることは可能ですが、もし難しければ、薬物療法で正常値まで下げます。
リポタンパク質リパーゼ欠損症とアポリポタンパク質CII欠損症
中性脂肪を運搬するリポタンパクが不足することで、中性脂肪値が著しく上昇する稀なタイプです。
小児期から青年期にかけて見られるのが特徴です。
治療せずに放置すると中性脂肪値が非常に高くなり、1000mg/dLを超えることもよくあります。
見られる症状は、反復性のある腹痛、肝臓・ひ臓の腫大、ピンクがかった黄色腫です。
この疾患により動脈硬化になることはありませんが、膵炎を引き起こしてそのまま命を落としてしまうケースがあります。
治療法は食事制限です。
いくつか治療法を検討されているものの、開発中に留まっており、薬は開発されていません。
続発性の原因
続発性脂質異常症の原因は、主に生活習慣の乱れです。
脂質が多い食事が習慣化されていたり、運動不足、過度な飲酒が重なっていたりすると発症するリスクが高まります。
疾患による合併症として発症することもあります。
たとえば、糖尿病や慢性腎臓病、甲状腺機能低下症、原発性胆汁性肝硬変などです。
食事のコントロールが十分にできていない場合、糖尿病や慢性腎臓病の方は総コレステロール値や中性脂肪値の上昇が見られます。
甲状腺機能低下症、原発性胆汁性肝硬変といった肝臓疾患では、総コレステロールの上昇が顕著です。
加えて、特定の薬剤の使用による副作用も原因となることがあります。
脂質異常症を放置しておくことによるリスク
では、脂質異常症を放置しておくとどのようなリスクがあるのでしょうか。
脂質異常症が引き起こす病気について解説します。
動脈硬化を引き起こす
動脈と呼ばれる、酸素と栄養素を全身に運搬するための血管が硬くなったり、狭まったりして血流が悪くなった状態です。
血中にLDLコレステロールが血管の壁にこびりつき、固まったプラークによって血管が細くなります。
弾力がなくなることも加わり、さらに血流が悪くなると血栓を作りやすくなります。
血栓は、血管が塞がれ壊死を起こす「脳梗塞」といった疾患の要因です。
動脈硬化を引き起こさないためにも、脂質の過剰摂取、血管年齢を若く保つための運動や生活の見直しに取り組みましょう。
【脳梗塞】
脳梗塞とは動脈硬化が原因で起こる疾患です。
血栓ができて血管が塞がれ、脳細胞が壊死することで麻痺を起こしたり、命を落としたりします。
脳細胞は一度破壊されると再生されないため、一命を取り留めても麻痺や言語障害といった後遺症が残るのは避けられません。
なお、一般的には発症してから3時間〜6時間以内に治療をしなければ、致死率が高まります。
早期治療は命が助かるだけでなく、障害の重さにも影響するため、速やかな受診が欠かせません。
【心筋梗塞】
心筋梗塞は、心筋と呼ばれる心臓に血液を送るための動脈に血栓が詰まり、心臓が虚血状態になる疾患です。
治療するまでの時間がかかるほど心筋細胞が壊死するため、発症すると1時間以内に治療しなければ命を落とす危険な疾患です。
発症すると、強い胸の痛み、吐き気、冷や汗などが見られます。
心筋梗塞について詳しくはこちら
肥満などによる弊害も起こる
脂質異常症は主だった症状が体外に出ないため、なかなか自覚することができません。
静かに緩やかに進行していき、大きな病気になってから発症していたことがわかることも少なくありません。
早期に症状を見つけるためには、定期的に健康診断などを受けることが大切です。
脂質異常症の改善方法
脂質異常症と診断された場合、多くの改善策と今後の予防策として生活習慣の見直しが重要です。
喫煙やアルコール摂取の習慣の見直し、運動不足の解消など、規則正しい生活を心がけてください。
それでは、脂質異常症と診断された場合の具体的な改善方法についてご紹介します。
食事を見直す
脂質異常症では、食事を見直すことが大切です。
脂質の摂取量をコントロールすることは、どのタイプの治療においても前提となります。
コレストロール、中性脂肪ともに過度に摂取すると、特に遺伝で除去や運搬が厳しい方は動脈硬化が進みやすくなります。
以降で積極的に食べてもいいものと避けたほうがいいものをお伝えするため、参考にしてください。
積極的に食べてもいい食べ物
積極的に食べてもいい食べ物は以下があります。
- ●食物繊維が豊富なもの
- ●抗酸化作用が豊富なもの
<食物繊維がいい理由>
食物繊維はお通じの改善にいいことで知られていますが、コレストロールを排除する働きもあります。
なかでも水溶性食物繊維は効果的です。
おすすめの食材は以下のとおりです。
- ●きのこ類
- ●わかめ
- ●こんにゃく
- ●しらたき
- ●大根
- ●さつまいも
- ●たけのこ など
できるかぎり毎食摂取するように心がけるといいでしょう。
<抗酸化作用がいい理由>
抗酸化作用は老化防止に役立ち、臓器や血管を若々しく保ってくれます。
血管年齢が進むほど動脈硬化が進行するため、抗酸化作用のある食べ物を積極的に摂取して動脈硬化の発症を防ぐことが大切です。
なお、抗酸化作用は、抗酸化ビタミン、ポリフェノール、カロテノイドとよばれる成分に含まれています。
おすすめの食材は以下です。
- 抗酸化ビタミン
- ●イチゴ
- ●キウイ
- ●オレンジ
- ●ブロッコリー など
- ●鮭
- ●かぼちゃ
- ●アボカド
- ●アーモンド
- ●ピーナッツ など
- カロテノイド
- ●トマト
- ●スイカ
- ●ほうれん草
- ●鮭
- ●えび
- ●かに など
- ポリフェノール類
- ●大豆製品
- ●ごま
- ●そば
- ●緑茶
- ●紅茶 など
できるかぎり毎食摂取するように心がけましょう。
避けたほうがいい食べ物
避けたほうがいい食べ物には、以下があります。
- ●糖質が高いもの
- ●脂質が高いもの
糖質が高いものには、イモ類やケーキなどの洋菓子、エナジードリンクなどがあります。
脂質が高いものは、洋菓子、乳製品、卵、レバー、もつなどです。
運動をする
適度な運動は消費カロリーを増やしたり、からだを若々しく保ったりする効果があります。
脂質代謝を高められるため、効率よく摂取された脂質や体内で合成される脂質を消費できる点でも効果的です。
運動療法として運動を行う場合、中強度以上の運動を毎日合計30分以上行うのが目標となります。
血中の脂質レベルに影響を与えられるには、長期的な取り組みが必要ですので、数か月以上かけて行いましょう。
運動に慣れていない方は、子供と遊ぶ、家事のなかで運動量を増やす工夫をする、散歩を日課にするところからスタートしてください。
本格的に始めたい方は、速歩、水泳、サイクリング、スロージョギング、エアロビクスダンスなどがおすすめです。
喫煙・飲酒習慣を見直す
アルコール飲料をたくさん飲むと中性脂肪を増加させ、喫煙は悪玉コレステロールを増加させることがわかっています。
飲酒は適度な量であれば影響しないといわれていますが、医学雑誌『LANCET』に掲載された論文にて、少量でもリスクがあることが発表されました。
数値が高すぎる方は、飲酒習慣をゼロにするための工夫や対策が必要になるでしょう。
喫煙も本来は完全禁煙が望ましいですが、まずは本数を減らすところから始めてください。
禁煙外来や禁煙グッズなどに頼りながら本数を減らす努力をしていきましょう。
食事は過食をしないことが前提
食生活の見直しの際、食事はバランスを意識して、食べすぎないようにすることが前提となります。
過食を抑えるには、食物繊維の多い食事に変える、よく噛んで食べることを意識するといった方法が良いでしょう。
ただし脂質を全く摂らないことも問題です。
脂質が不足すると、免疫力の低下などを招く可能性があるため、注意する必要があります。
脂質異常症の薬
脂質異常症が深刻な状態であると診断された場合、生活習慣の見直しだけでなく薬による治療も検討されます。
脂質異常症の進行を抑える薬は、主に以下のとおりです。
- ●コレステロール値を下げるスタチン系製剤
- ●コレステロール値と中性脂肪を下げるニコチン酸誘導体製剤
- ●中性脂肪を下げるフィブラート系製剤
一つずつ解説していきます。
コレステロール値を下げるスタチン系製剤
コレステロールは肝臓で生成されますが、その働きを抑えてくれるスタチン系製剤と呼ばれる薬があります。
肝臓にあるコレステロールを少なくさせて、血液の中にある余分なLDLコレステロールをHDLコレステロールとして肝臓に呼び戻せるのです。
結果、血液中のコレステロールの値を低くすることができます。
コレステロール値と中性脂肪を下げるニコチン酸誘導体製剤
ニコチン酸とは、体内のアルコールなどを分解したり、脂質などをエネルギーに変換するための酵素を助けるビタミンの一種です。
中性脂肪やLDLコレステロールを肝臓で生成するのを抑え、HDLコレステロールを増やしてくれます。
ビタミンのため大きな副作用も起きにくく、服用を続ければ次第に体が薬に慣れていきます。
中性脂肪を下げるフィブラート系製剤
フィブラート系製剤は、ニコチン酸誘導体製剤と同じく中性脂肪とLDLコレステロールを生成する働きを抑え、HDLコレステロールを増やす作用を持つ薬です。
しかし、それほど大きな効果を持つ薬でないうえ、糖尿病の薬や前述のスタチン系製剤と相性が悪い場合があるといった特徴があります。
服用の際は医師とよく相談し、経過をよく観察する必要があるでしょう。
まとめ
脂質異常症は、遺伝が関連するもの、生活習慣の乱れが要因として強いものがあります。
遺伝性のものでは乳児から発症するケースや、動脈硬化の進行が急激なものなどもあり、場合によっては命にかかわります。
治療では、基本的に食事療法や運動療法が基本となり、補助として脂質低下薬などを処方するのが一般的で、遺伝性のものも同様です。
高コレステロールの食材を避けたり、栄養バランスの偏りがないように意識したりするほか、食物繊維が豊富な食材、抗酸化作用が強い食材を積極的に摂取しましょう。
運動療法では、中強度以上の運動を毎日断続的でもよいので30分行うことが目標です。
健康的な生活を意識して過ごすことを心がけましょう。
略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師