アルコール依存症とは?原因、症状、治療法について解説

  • クリニックブログ
2023/07/10

アルコール依存症とは?原因、症状、治療法について解説

アルコール依存症とは

アルコール依存症とは、アルコールを慢性的に多量に摂取した結果、アルコールに対し依存を形成した状態のことを言います。飲酒が続くにつれて、同じ量のアルコールでは満足ができなくなったり、より多くのアルコールが必要になったりするなどの耐性がみられ、精神依存や身体依存を引き起こします。また、WHOの策定した国際疾病分類第10版では、精神および行動の障害の中に分類されており、個人の性格や意志の問題ではなく、精神疾患と考えられています。

アルコール依存症の原因は

習慣的に飲酒をしていると同じ量の飲酒では効果がなくなる耐性を形成して、同じ効果を求めて次第に酒量が増加していきます。また、飲酒により脳内にドーパミンと呼ばれる神経伝達物質が分泌され、脳の報酬系が刺激されます。この部分が刺激を受けることで人は満足感や快楽を感じます。そのため、また満足感や快楽を得たいと思い、飲酒を繰り返していきます。次第にさらに強い刺激を求めるようになり、アルコールへの依存が形成されます。  
アルコール依存症の危険因子として、性差(女性の方が男性より短い期間で依存症になりやすい)、未成年からの飲酒、遺伝や家庭環境、うつ病や不安障害などの精神疾患などがあげられますが、これらに当てはまらない場合でも習慣的に多量に飲酒をすることで誰でもアルコール依存症になる可能性があります。

  

アルコール依存症の症状

症状は精神依存と身体依存があり、

精神依存

飲酒が生活の中心となり、飲酒したいという強烈な欲望を抑えられなくなる、飲酒のコントロールがきかず節酒ができない、飲酒以外の娯楽を無視する、精神的・身体的問題が悪化していても断酒をしない、などがみられます。  

身体依存

飲酒の中止もしくは減量による離脱症状(禁断症状)が出現する、以前と比べて酔うために必要な酒量が増える、などが挙げられます。離脱症状の具体例としては手指のふるえや発汗、不安、イライラ、不眠、悪心・嘔吐などがあります。重度の場合はけいれんや幻覚などが出現することがあります。
  
そのほか、アルコールの多量摂取により様々な身体障害や仕事への影響、社会的な問題、事故を引き起こす可能性があり、自分だけではなく周囲にも大きな影響を及ぼします。

 

アルコール依存症の検査方法と診断

WHOが作成したスクリーニングテストAUDIT-Cや依存症の診断基準ICD-10を使用して診断を行います。AUDIT-Cでアルコール依存症が疑われる場合は後述のICD-10を用いて診断を行います。

AUDIT―C

3つの項からなる簡便なテストで、企業や地域、保健指導などで広く使用されています。
3つの質問の回答番号を合計し、男性で5点以上、女性で4点以上の場合はアルコール依存症を疑います。

  • 1.あなたはアルコール含有飲料をどのくらいの頻度で飲みますか?
    【0. 飲まない 1. 1 ヵ月に 1 度以下 2. 1 ヵ月に 2~4 度 3. 1 週に 2~3 度 4. 1 週に 4 度以上】
  • 2.飲酒するときには通常どのくらいの量を飲みますか?
    【0. 1~2 ドリンク 1. 3~4 ドリンク 2. 5~6 ドリンク 3. 7~9 ドリンク 4. 10 ドリンク以上】
  • 3.1度に6ドリンク以上飲酒することがどのくらいの頻度でありますか?
    【0. ない 1. 1 ヵ月に 1 度未満 2. 1 ヵ月に 1 度 3. 1 週に 1 度 4. 毎日あるいはほとんど毎日】

  

ICD―10

過去1年間に以下の6項目のうち3項目以上を同時に1か月以上経験するか、繰り返し経験した場合アルコール依存症と診断されます。

  • 1.激しい飲酒渇望
  • 2.飲酒コントロールの喪失
  • 3.離脱症状
  • 4.耐性の証拠
  • 5.飲酒中心の生活、飲酒行動に時間がかかる
  • 6.問題があるにもかかわらず飲酒

  

まずはAUDIT-Cを行い、アルコール依存症が疑われる場合は一度医療機関を受診し、医師へご相談されることをお勧めします。

アルコール依存症の治療方法

アルコール依存症の治療は断酒が原則で、断酒が難しい場合は継続的な飲酒量の低減を行うなど心理社会的な治療が中心です。また、補助的な役割として薬物療法を行います。

心理社会的治療

集団精神療法:断酒会・AA(匿名のアルコール依存症患者の会)など複数の患者さんが集まり、様々なテーマで話しあい、飲酒問題の整理や適切な考え方を身に着けていきます。
認知行動療法:アルコール依存症では、自身の飲酒問題を過小評価・正当化するような認知パターンがあると考えられ、飲酒に対する考え方や捉え方を変えることにより行動や生活習慣の改善を目指します。
動機づけ面接法:治療への動機づけを高めるための技法で、「飲酒問題を改善したい」というモチベーションを高めることを目標とします。
コーピングスキルトレーニング:飲酒につながるような様々な状況、ストレス・怒りの感情に対しての適切な対処(コーピング)を考え、その練習することにより、危険な状況での再飲酒を避けることを目標とします。

  

薬物療法

離脱症状に対して、抗不安薬、抗精神病薬などの薬物療法を行います。また、断酒継続を目標に抗酒薬(ジスルフィラム、シアナミド、アカンプロサートカルシウム)による薬物療法を行います。抗酒薬は体内のアルコール分解を途中で抑制し、有毒なアセトアルデヒドの状態にとどめておくことにより不快な症状を引き起こし、アルコール摂取から遠ざけます。また、脳内に作用して飲酒への欲求を減らすものもあります。

  

アルコール依存症の予防方法

予防方法としては、飲酒をなるべく控えて基準内で飲酒するようにする、自分のアルコールの感受性を調べて飲む量などに気を付けることが挙げられます。

基準飲酒量について

厚生労働省が推進する国民健康づくり運動「健康日本21」によると、「節度ある適度な飲酒量」は、1日平均純アルコールで約20g程度であるとされています。日本酒で1合、ビール中ジョッキ1杯、ウイスキーダブル1杯、缶チューハイ7%1本などがこれに当たります。
なるべく飲酒を控え、飲酒をする場合でも上記の基準を守ることが重要です。

  

アルコールの感受性について

アルコールを代謝する酵素の遺伝子にはいくつかのタイプがあり、そのタイプにより依存症になりやすいかどうかなどがわかります。アルコールが体内に入ると、アルコール脱水素酵素(ADH1B)により「アセトアルデヒド」という物質に分解されます。この物質は極めて毒性が強く、不快な症状を引き起こします。アセトアルデヒドを分解するのが「ALDH2(アルデヒド脱水素酵素 2)」で、アルコール代謝の中心的な役割を持っています。
  
アルコール感受性遺伝子検査ではこの2つの遺伝子(ALDH2とADH1B)を調べます。
「大酒飲みタイプ」、「飲酒による健康リスクが高いタイプ」、「お酒を受け付けない完全下戸タイプ」の3タイプをさらに細かく9タイプに分類し、自分がどのような体質で飲酒によりどのような影響がでやすいのかを知ることができます。
MYメディカルクリニックでは健診OPとしてアルコール感受性遺伝子検査を行っています。健診OPとして5,806円で追加でき、キットを用いて自己採取する(専用の綿棒で、左右の頬の内側を1分程度こする)ことで簡単に検査ができます。
  
「大酒飲みタイプ」は最もアルコール依存症のリスクが高いタイプです。お酒に強くつい飲みすぎてしまう可能性が高いため、基準量を守るよう心がけましょう。
「飲酒による健康リスクが高いタイプ」や「お酒を受け付けない完全下戸タイプ」ではアセトアルデヒドによる不快な症状が出やすいため依存症にはなりにくいですが、急性アルコール中毒やアセトアルデヒドに長時間さらされることで発がんリスク等が高いといわれています。
  
依存症や健康被害を予防するためにも、自分のタイプや基準飲酒量を知り、節度をもった飲酒を心がけていきましょう。

  

まとめ

アルコール依存症はアルコールを慢性的に多量に摂取した結果、アルコールに対し依存を形成した状態のことで、長期間の多量飲酒で誰でもなる可能性があります。「身体依存」や「精神依存」などの症状が現れ、一度依存症になると自分の意志ではコントロールが難しく、断酒や専門的な治療が必要となります。スクリーニングテストでアルコール依存症を疑う場合は一人で悩まずに医療機関を受診し医師へご相談ください。
また、多量飲酒により身体障害だけではなく仕事の影響や社会的な問題を引き起こす可能性があり、自分だけではなく周囲へも大きな影響を及ぼす可能性があります。依存症にならないためには自分のアルコールに対する感受性を把握し、基準飲酒量を守って飲酒をすることが重要です。

 

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MYメディカルクリニック渋谷 笹倉 渉医師

監修:MYメディカルクリニック渋谷 非常勤医

笹倉 渉 Dr. Sasakura Wataru

資格

略歴

  • 藤田保健衛生大学医学部 卒業
  • 公立昭和病院
  • 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
  • 北部地区医師会病院麻酔科 科長
  • 2016年 MYメディカルクリニック 医師
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