橋本病とは?原因、症状、治療法について解説
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橋本病とは?原因、症状、治療法について解説
橋本病って何?
橋本病とは、甲状腺の疾患で自己免疫疾患の1つです。自己免疫疾患は、本来細菌やウイルスなどの外界の異物から身体を守るための免疫が、自分の臓器や細胞を攻撃してしまう疾患の総称です。橋本病はそういった免疫により、慢性的に甲状腺に炎症が起きている状態です。そのため慢性甲状腺炎とも呼ばれています。
そもそも甲状腺とはどのようなはたらきをする臓器なのでしょうか。
甲状腺は喉頭と気管の前外側にある内分泌腺で、甲状腺ホルモン(T3、T4)を分泌している器官です。甲状腺ホルモンは、全身の臓器に作用し、エネルギー産生や様々な代謝・循環器系の調節などに作用します。
具体的には、
- 作用
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- ・基礎代謝率の上昇
- ・心収縮力と心拍数の増加
- ・糖の吸収を促進し血糖値を上げる
- ・思考の迅速化
- ・血中コレステロール値、中性脂肪を下げる
などの作用が挙げられます。
甲状腺は、脳の下垂体前葉から分泌されるTSHホルモン(甲状腺刺激ホルモン)の指令を受けて、甲状腺ホルモン(T3、T4)を分泌します。橋本病では、甲状腺細胞が自己免疫により破壊されており、甲状腺ホルモンを正常に分泌ができていない状態です。
通常TSHの刺激を受けた甲状腺が甲状腺ホルモンを分泌し、その甲状腺ホルモンによるネガティブフィードバックによって調節されています。
医療で使われる「ネガティブフィードバック」の意味は主にホルモンの調節機能のことです。Aという物質がXという臓器に作用した結果、XがBという物質を分泌したとします。Bの増加によりAの分泌が抑制され、それによりBの分泌を抑制し、体内でのBの量の均衡を保ちます。この「Bの増加によりAの分泌抑制がされる」のが、ネガティブフィードバックです。橋本病により、甲状腺細胞が破壊されると甲状腺ホルモンの分泌が減ります。ネガティブフィードバックの抑制が弱まりますので、TSHの分泌が増えます。その刺激で甲状腺ホルモンをより多く分泌させるため、甲状腺機能は保たれます。しかし、甲状腺細胞の破壊が進み、TSHの分泌の増加も頭打ちになると、甲状腺ホルモンの分泌は低下します。
この状態を甲状腺機能低下症と呼びます。甲状腺機能低下症とは、その名の通り甲状腺ホルモンの作用不足により、様々な症状が見られる疾患の総称です。甲状腺機能低下症の大半の原因は橋本病です。
橋本病は中年女性に多く発症し、潜在性を含めると成人女性の10%になると言われています。数値を見ても分かるように、非常に起きやすい病気です。橋本病の方の70〜80%は甲状腺機能が正常なままですが、加齢とともに甲状腺機能低下症に移行する方が増えていきます。
橋本病の原因って?
上記の通り自己免疫によるものですが、免疫の異常の原因自体は分かっていません。しかし、甲状腺機能低下症はヨード不足またはヨード過剰の場合になりやすいと考えられています。甲状腺ホルモンの材料であるヨードが欠乏することで甲状腺機能低下症が生じるということです。また、逆にヨードが過剰になると、甲状腺ホルモンの合成を抑制することが知られており、甲状腺機能低下症の原因となることがまれにあるようです。
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橋本病の症状って?
橋本病の症状は、慢性的に甲状腺に炎症がおこるため、甲状腺が腫脹し、首・喉に圧迫感を感じるようになります。甲状腺の腫脹は視診や触診で分かります。甲状腺機能低下が生じると、代謝や循環器調整をしている甲状腺ホルモンの作用が低下するため、以下のような症状が見られます。
- 症状
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- ・思考力低下・認知能力低下・言語緩慢
- ・脱毛
- ・易疲労感、筋力低下
- ・便秘
- ・徐脈、貧血
- ・月経過多
- ・腱反射弛緩相の低下
- ・眼瞼浮腫・無関心様表情・舌/口唇浮腫・嗄声・低声化・難聴
- ・心拡大
- ・皮膚粘液水腫
橋本病の検査や診断について
検査項目
甲状腺ホルモンの定量検査、甲状腺ホルモンに対する抗体の定量検査や、甲状腺超音波検査、細胞診を受けることにより、診断が付きます。
橋本病では、抗Tg抗体陽性、抗TPO抗体陽性 、細胞診でリンパ球浸潤が見られます。
抗Tg抗体とは、甲状腺細胞が産生するTg(サイログロブリン)に対する自己抗体です。橋本病ではこの抗体が陽性となることが多く、また同じく甲状腺の疾患であるバセドウ病でも陽性となることが知られています。
抗TPO抗体とは、TPO(甲状腺ペルオキシダーゼ)と呼ばれる甲状腺ホルモンの合成に関わる酵素に対する自己抗体です。橋本病ではこの抗TPO抗体の陽性率はほぼ100%と言われています。また、抗Tg抗体と同様に、バセドウ病でも約90%の確率で陽性になります。
細胞診は一部の甲状腺の細胞を採取し顕微鏡で観察する検査です。リンパ球浸潤とは文字通りリンパ球が組織に入り込む、つまり浸潤した状態のことを言います。この反応は、炎症が起こった箇所に対する免疫反応です。橋本病は慢性甲状腺炎と呼ばれるように、甲状腺に炎症が起きている状態なので、リンパ球浸潤が見られるということです。
また、超音波検査では両葉の腫大を認め、縁がでこぼこと不整です。内部エコーは不均一に黒っぽく写り、石灰化を伴うこともあります。
甲状腺機能低下症を発症している場合は、腱反射の遅延、総コレステロール上昇、FT4低下、TSH上昇などを認めます。
橋本病の治療は?
橋本病自体は治療の必要はありませんので、経過観察となります。しかし、甲状腺機能低下症を併発した場合は、甲状腺ホルモン(T4製剤)の補充が必要となります。主な治療は内服薬による治療です。
橋本病の予防方法は?
橋本病は原因不明の自己免疫疾患のため、予防は難しいです。ですが、上記の通り、ヨードの欠乏・過剰が甲状腺機能低下症を引き起こす1つの原因と考えられていますので、ヨード欠乏、ヨード過剰にならないように適度なヨードの摂取を心掛けることが予防につながると考えられます。
まとめ
橋本病は非常に頻発する疾患です。原因が分かっていない自己免疫疾患のため、予防することは難しいですが、内服の治療が確立されておりますので、検査をして診断されれば治療が開始できます。当院の健康診断では、診察時に医師が甲状腺の腫脹がないかを視診・触診で確認しています。もし医師から甲状腺が大きい・腫れていると指摘があったときは、甲状腺ホルモンや甲状腺超音波検査などの検査を受けてみてください。受診が必要となった場合は内分泌内科が専門となります。
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略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師