
梅毒とは?原因、症状、治療法について解説
- クリニックブログ
梅毒とは?原因、症状、治療法について解説
梅毒とは
梅毒とは、梅毒トレポネーマという細菌が、性的に接触することで感染する性感染症(STI)です。他人の皮膚や粘膜に直接触れることでうつります。または、産まれる前に母親から感染することもあります。
近年、国内で梅毒患者が急に増えているのが問題となっています。そして、梅毒に感染している方は、HIV(エイズウイルス)への感染リスクが高くなるとされているため注意が必要です。
産まれる前に母親から感染した梅毒(先天梅毒)については、症状があらわれずに経過することもありますが、産まれる前に命を落としてしまったり(流産、早産)、乳児期に症状が出たり、学童期以降に症状が現れる場合もあります。
感染経路
梅毒の感染経路は主に以下の3つです。
- ●性的接触:感染者との性行為(膣性交・肛門性交・口腔性交)による感染
- ●母子感染:妊娠中の母親が胎児に感染を伝播する先天梅毒
- ●血液感染:感染者の血液と接触した場合(輸血による感染は極めて稀)
コンドームを使用することで感染リスクを下げることはできますが、完全に防ぐことは難しいため、定期的な検査が重要です。
梅毒の原因って?
梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌に感染すると発症します。
目に見えない傷のある皮膚や粘膜から身体の中に侵入します。入ってきてから数時間で血液や所属リンパ節(鼠径リンパ節など)に広がっていきます。
梅毒トレポネーマは、一定の湿度や温度下にいなければ死んでしまうので、皮膚や粘膜からはがれると数時間で死んでしまいます。
梅毒についての関連記事はこちら
梅毒の症状って?
梅毒は、梅毒トレポネーマに感染してからどれくらいの時間が経過しているかによってさまざまな症状が出ます。症状は第1期から第4期までに分けられます。
第1期梅毒(感染後3週間~3か月)
第1期は、梅毒トレポネーマが感染してから3週間程度で発症します。
この時期には、梅毒トレポネーマが身体に入ってきた部位に、小さな赤く腫れたしこりができます。
部位としては、陰部の近くにできることが多いです。痛みはなく、無痛性初期硬結と呼ばれます。初期硬結は崩れて硬性下疳となり、潰瘍のような傷を創ります。
しこりの近くのリンパ節が腫れることもありますが、こちらも痛みを感じません。これらの第1期の症状は、痛みもなく数週間で自然に消えるので気づきにくいです。
潜伏梅毒(無症状の期間)
潜伏梅毒の期間中、感染者は特に自覚症状がないため、感染に気づかないことが多いです。このため、定期的な検査が重要です。感染者が無症状であることから、感染が進行しても気づかないまま放置されることがあります。
潜伏梅毒の状態でも、感染者は他者に感染を広げる可能性があります。特に、性行為を通じて感染が広がるため、無症状であっても注意が必要です。
潜伏梅毒の後、適切な治療を受けない場合、病気は進行し、二期梅毒や三期梅毒に移行することがあります。これにより、皮膚や内臓、神経系に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
第2期梅毒(感染後3か月~6か月)
第1期の後に、感染してから平均3か月程度で第2期に入ります。
この時期には、バラ疹と呼ばれるピンク色の小さな発疹やしこりが手のひらや足裏、顔など全身にあらわれます。痛みやかゆみは伴いません。また、毛が抜けたり、全身のリンパ節が腫れたり、陰部か肛門部に扁平コンジロームというできものがあらわれたりします。
これらの症状は数週間すると自然になくなっていきます。全身に特徴的な皮疹が出るので、この時期に気づかれることが多いです。
第2期を過ぎると、しばらくの間は何も症状が出ないことが多いです。4人に1人程度の割合で第2期の症状が再燃することがあります。
第3期梅毒(感染後数年~10年以上)
感染してから約3年後以降に第3期に入ります。
これまでに梅毒の治療をしていなければ、3人に1人が発症してしまいます。
第4期梅毒(感染後10年以上)
10年を過ぎ治療を行っていないと第4期に入り、神経梅毒、心血管系梅毒、梅毒性ゴム腫の大きく分けて3種類に症状が分類されます。
神経梅毒は、5〜10%の方に発症し、脳梗塞、手足の神経麻痺、記憶力低下、妄想など、脳全体が梅毒にやられるので神経のさまざまな症状が出ます。
心血管系梅毒は、約10%の方に発症し、大動脈に瘤ができて破裂したり(大動脈瘤)、血管がせまくなったり、心臓の弁が不調になり心不全などにより命を落とす場合もあります。
梅毒性ゴム腫は、約15%の方に発症し、肝臓や皮膚、骨などにゴム腫と呼ばれる特徴的な腫瘍ができます。
現在では、梅毒に対する治療薬が発達しているので、第3期にまで至ることは少ないです。
検査方法と検査ができる時期/潜伏期間
梅毒を検査して診断するには、感染してからの時期が大切です。初期の梅毒を診断するには、第1期にできた初期硬結や硬性下疳の分泌物を暗視野顕微鏡で観察するしか診断方法がありません。つまり、初期硬結に気づかなければ梅毒の症状は進行していってしまいます。
血液検査でも梅毒を診断できます。一般的に3種類の血液検査があります。いずれの方法も、梅毒トレポネーマに感染してから4〜6週間程度経ってから検査すると有効です。
感染してから3週間以内であれば、感染していたとしても陰性という結果になりますが、最近では検査法が鋭敏になっているので、感染後3週間以上経過していれば陽性にでます。
第1期の症状に気づいたとしても血液検査では判明しないことが多いですが、念のため血液検査をお勧めします。第2期の症状が出る頃には、必ず陽性になります。


梅毒の治療は?
梅毒の治療は、ペニシリンという抗菌薬を内服または注射するのが標準的な治療方法です。
ペニシリンは比較的アレルギーが多い抗菌薬ですが、アレルギーがある場合にはテトラサイクリンやセフトリアキソンといった別の抗菌薬を使用します。
梅毒にかかった場合には、自分だけでなくパートナーの方にも検査を受けてもらうようにしてください。お互いにうつしあっている可能性があり、発見が遅れると重症化してしまいます。
また、梅毒に感染してしまった妊婦さんは、点滴でペニシリンを投与すれば胎盤から赤ちゃんに感染するのを防げます。そのためには、妊娠早期から妊婦検診を受け、母子手帳を貰うことが肝心です。
梅毒の予防方法は?
梅毒に感染しないようにするには、性行為をする時にコンドームを使うようにしてください。ただし、コンドームで覆われていない部位の粘膜や皮膚に梅毒の症状があると、そこから感染する場合もあります。口や肛門などからも感染する可能性があるので注意が必要です。
特定のパートナーだけではなく、不特定多数と性的な関係を持つと感染リスクが高くなります。
感染したかもしれないと思った時には早めに検査をしてください。また、粘膜や皮膚に、皮疹やただれ、しこりがある時などには性行為は控えるようにして、早めに医療機関を受診してください。
梅毒のリスクが高い人とは?
性的行動に関するリスク
不特定多数との性的接触
梅毒の感染リスクは、複数の性パートナーと関係を持つ人々に特に高いです。性的接触の相手が多いほど、感染するリスクが増加します。
避妊具の不使用
コンドームなどの避妊具を使用しない場合、感染リスクが大幅に上昇します。特に、オーラルセックスやアナルセックスでは、コンドームを使用しないことが多く、これが感染の原因となることがあります。
特定の集団
性風俗業に従事する人々
性風俗業に従事している人々は、感染リスクが高いとされています。これは、彼らが多くの異なるパートナーと接触するためです。
HIV感染者
HIVに感染している人々は、免疫系が弱っているため、梅毒を含む他の性感染症にかかるリスクが高まります。
若年層
特に20代の若者は、リスクの高い行動をとることが多く、梅毒の感染率が上昇しています。特に、性的教育が不十分な場合、リスクが増加します。
妊婦
妊娠中の女性が梅毒に感染すると、胎盤を通じて胎児に感染する可能性があります。これにより、先天梅毒や早産、死産のリスクが高まるため、妊婦は特に注意が必要です。
その他の要因
過去に性感染症にかかったことがある人は、再感染のリスクが高まります。これは、感染症が免疫系に与える影響によるものです。
妊娠中の梅毒と胎児への影響
妊娠中に梅毒に感染すると、母体だけでなく胎児にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。以下に、妊娠中の梅毒の影響とそのリスクについて詳しく説明します。
胎児への感染リスク
先天梅毒
妊娠中に梅毒に感染した場合、梅毒トレポネーマが胎盤を通じて胎児に感染することがあります。この状態を「先天梅毒」と呼び、胎児にさまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。
感染率
妊娠中の梅毒が無治療の場合、約60%から80%の確率で胎児に感染するリスクがあります。特に、妊娠後期に感染した場合、感染の可能性が高まります。
妊娠における合併症
流産や早産
妊娠中に梅毒に感染すると、流産や早産のリスクが高まります。特に、初期の梅毒では約40%の確率で胎児が死亡する可能性があるとされています。
死産
梅毒に感染した妊婦の中には、死産に至るケースもあります。これは、感染が胎児に及ぶことで、胎児の発育が妨げられるためです。
先天梅毒の症状
出生時の症状
先天梅毒で生まれた赤ちゃんは、出生直後には明確な症状が見られないことが多いですが、乳幼児期に症状が現れることがあります。典型的な症状には、肝脾腫(肝臓・脾臓の腫れ)、皮膚の発疹、骨の異常などがあります。
長期的な影響
先天梅毒は、難聴や知的障害などの発達障害を引き起こす可能性もあります。これらの症状は、感染が早期に治療されなかった場合に特に顕著です。
予防と治療
妊婦健診での検査
妊娠中は、梅毒の血清検査が必須です。これにより、感染の有無を早期に確認し、適切な治療を行うことができます。
治療の重要性
妊娠中に梅毒が確認された場合、抗菌薬による治療が行われます。適切な治療を受けることで、母子感染のリスクを大幅に低下させることが可能です。
妊娠中の梅毒は、胎児に対して非常に危険な感染症であるため、早期の検査と治療が不可欠です。妊娠を計画している女性や妊婦は、性感染症に関する知識を深め、定期的な検査を受けることが重要です。
梅毒と他の性病との違い
梅毒の特徴
【原因】梅毒はトレポネーマ・パリダムという細菌が原因で、性行為や母子感染によって感染します。
【症状】初期には無痛の潰瘍(硬性下疳)が現れ、進行すると全身に赤い斑点(梅毒性バラ疹)が現れます。
【治療】ペニシリン系の抗生物質で治療可能です。
治療をしないと心臓や脳に影響を及ぼす重篤な病気を引き起こす可能性があります。
以下に、他の性病とその特徴をまとめました。
淋菌感染症(淋病)
【原因】淋菌が原因で、性行為によって感染します。
【症状】男性では尿道炎、女性では子宮頚管炎を引き起こします。
【治療】抗生物質で治療可能です。
クラミジア感染症
【原因】クラミジアが原因で、性行為によって感染します。
【症状】男性では尿道炎、女性では子宮頚管炎を引き起こします。
【治療】抗生物質で治療可能です。
単純ヘルペスウイルス(性器ヘルペス)
【原因】単純ヘルペスウイルスが原因で、性行為によって感染します。
【症状】性器や周辺部に水ぶくれが現れます。
【治療】抗ウイルス薬で治療しますが、完全に治すことはできません。
HIV/AIDS
【原因】HIVウイルスが原因で、性行為や血液感染によって感染します。
【症状】初期には無症状が多いが、進行すると免疫力が低下し、多くの感染症に罹患します。
【治療】抗レトロウイルス薬で治療しますが、完全に治すことはできません。
梅毒と他の性病の共通点
【感染経路】性行為が主な感染経路です。
【予防】コンドームの使用が予防策として有効です。
【早期発見の重要性】早期に発見して治療することが重要です。
以上のように、梅毒は他の性病と異なる特徴を持っていますが、共通する点も多くあります。
梅毒に関する誤解
誤解1: 梅毒は過去の病気
梅毒は過去の病気で、現代ではほとんど見られないと考えられていることがあります。
梅毒は現在でも感染が増加しており、特に性行為を通じて広がり続けています。
誤解2: 梅毒はすぐに治る
梅毒は自然に治るため、治療が必要ないと考えられていることがあります。
梅毒の症状は自然に軽快することがありますが、治療を受けないと病原体が体内に残り、重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
誤解3: 梅毒は症状がないと感染していない
梅毒に感染していないとすれば、必ず症状が現れると考えられていることがあります。
梅毒は無症状の期間が長く、症状がないからといって感染していないわけではありません。血液検査で確認することが重要です。
誤解4: 梅毒は他の性感染症と同じ
梅毒は他の性感染症と同じように扱われるべきだと考えられていることがあります。
梅毒は他の性感染症と異なり、全身に多彩な症状を引き起こし、適切な治療が必要です。また、母子感染のリスクもあります。
まとめ
梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌が感染することで発症します。皮膚や粘膜を介して、性行為や、口や肛門から感染することもありますし、産まれる前後に血液を介して母親から子どもにうつる場合もあります。
梅毒は、感染してからの期間に応じてさまざまな症状がでます。一時的に症状がおさまったと思っても、また再燃し、ほかの症状が出てくることがあります。しこり、皮疹、潰瘍やリンパ節が腫れたりして気になれば必ず医療機関を受診してください。放置すると、神経や心臓、血管や内臓に影響を及ぼして命に関わることがあります。
梅毒の検査には、時期に応じて、顕微鏡検査か、血液検査が有効です。感染初期には血液検査では陽性にならないことに注意してください。
治療には、抗菌薬を使うのが標準的な治療法です。しっかりと治療することで梅毒は治りますので心配な場合は早く受診するようにしてください。
梅毒の予防としては、コンドームを使った性行為や特定のパートナーとだけ関係を持つのが大切ですが、完全には予防できません。早めに症状に気づいて治療することで、周りの方を梅毒の感染から守ることができます。
当院での梅毒の検査・治療方法はこちら

監修:MYメディカルクリニック 顧問
北村 唯一 Dr. Sasakura Wataru
略歴
- 1973年 東京大学医学部医学科 卒業
- 1998年 東京大学医学部附属病院泌尿器科 教授
- 2006年 財団法人 性の健康医学財団 理事
- 2008年 東京大学 名誉教授
- 2008年 社会福祉法人あそか会 あそか病院 院長
- 2011年 財団法人 性の健康医学財団 理事長
- 2013年 社会福祉法人あそか会 あそか病院 名誉院長
- 2014年 自靖会親水クリニック 院長
- 2014年 光靖会北村記念クリニック 名誉院長
- 2018年 医療法人社団裕志会 理事長
- 2022年 医療法人社団MYメディカル 顧問
北村顧問の詳しい紹介はこちら