
腹腔内膿瘍(のうよう)とは?症状、原因、治療法を解説
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腹腔内膿瘍(のうよう)とは?症状、原因、治療法を解説
「腹部に違和感がある」「発熱が続く」「痛みが増している」などの症状でお困りではありませんか?これらは腹腔内膿瘍の兆候かもしれません。腹腔内膿瘍は、体内で感染や炎症が進行することによって膿が溜まる状態を指します。この疾患は放置すると合併症を引き起こす可能性があるため、早期の診断と治療が重要です。
この記事では、腹腔内膿瘍の原因や症状、診断方法から治療までを詳しく解説します。早期対応のために、正しい知識を身につけ、健康管理に役立ててください。
腹腔内膿瘍の原因とリスク要因
腹腔内膿瘍は、感染症や炎症が引き金となり発生します。最も一般的な原因は、腹腔内の臓器や構造が損傷を受けたり、炎症を起こしたりすることです。
主な原因
腹腔内膿瘍の主な原因となるものは以下のような症状です。
- ●手術後の合併症として感染が発生する。
- ●消化管の穿孔(胃潰瘍、腸炎、虫垂炎など)。
- ●外傷による腹部損傷。
- ●膵炎や胆管炎のような炎症性疾患。
リスク要因
これらの要因が重なると、感染のリスクが高まり、膿瘍形成の可能性が増します。医療機関での早期診断が重要です。
- ●免疫力の低下(高齢者や糖尿病患者など)。
- ●慢性疾患(腎不全や肝硬変)。
- ●適切な手術後ケアが不十分な場合。
腹腔内膿瘍の症状と病態
腹腔内膿瘍は、腹部内の特定の領域に膿が溜まることで発生します。部位によって症状が異なり、関連する臓器や周辺組織への影響が見られる場合があります。それぞれの部位ごとの特徴と症状を以下に解説します。
横隔膜下の膿瘍
横隔膜下の膿瘍は、横隔膜と肝臓の間に膿が溜まる状態です。
横隔膜下の膿瘍では、胸郭下部の痛みや呼吸困難が見られることがあります。また、発熱や倦怠感も伴うことが一般的です。
- 【症状】
- ・胸郭下部や右肩に痛みが広がる(関連痛)。
- ・息切れや呼吸困難。
- ・発熱、悪寒、全身倦怠感などの感染症状。
- 【病態】
- ・胆嚢炎や腹部手術後、または腹部外傷によって引き起こされることが多い。
- ・横隔膜近くの炎症が肺に影響し、呼吸機能が低下することがあります。
腹部中央部の膿瘍
腹部中央部に膿が溜まる状態は、腸管や他の内臓に近接して膿瘍が形成されます。
腹部中央部に膿瘍が形成されると、持続的な腹痛や腫瘍のような膨らみが現れる場合があります。この部位の膿瘍は消化不良や吐き気を伴うこともあります。
- 【症状】
- ・持続的な腹痛や腹部の膨満感。
- ・食欲不振、吐き気、発熱。
- ・腸閉塞の症状(排便困難、ガスが出ない)。
- 【病態】
- ・消化管の穿孔や手術後の合併症として発生する場合が多い。
- ・周辺臓器への炎症の拡大が懸念される。
骨盤内膿瘍
骨盤内膿瘍は、骨盤腔に膿が溜まる状態で、婦人科系や直腸に関連する疾患から発生することがあります。
骨盤内膿瘍は、下腹部の痛みや排尿時の違和感が主な症状です。また、便秘や頻尿、発熱もみられます。
- 【症状】
- ・排尿時や排便時の痛み。
- ・直腸の圧迫感、頻尿、下腹部痛。
- ・発熱や悪寒。
- 【病態】
- ・虫垂炎や婦人科疾患(子宮や卵巣の感染症)に続発することが多い。
- ・治療が遅れると膿瘍が破裂し、腹膜炎を引き起こすリスクがあります。
腹腔後部にできる膿瘍
腹腔後部膿瘍は、腹腔の後ろ側に位置する膿瘍で、腎臓や脊椎に近接している場合があります。
背部の痛みが特徴で、特に体を動かす際に症状が悪化することがあります。腸閉塞や尿路障害を引き起こす可能性もあります。
- 【症状】
- ・背部痛や腰痛が主な症状。
- ・歩行時や体位変換時の痛み。
- ・発熱、倦怠感。
- 【病態】
- ・腎盂腎炎や膵炎の合併症として発生することがある。
- ・治療が遅れると、感染が血流を介して広がる敗血症のリスクがあります。
膵臓の膿瘍
膵臓の膿瘍は、急性膵炎の合併症として発生することが多いです。
膵炎後の合併症として発生しやすく、激しい腹痛や発熱、悪心嘔吐を伴います。
- 【症状】
- ・激しい腹痛(特に上腹部)、背部痛。
- ・高熱や悪寒。
- ・吐き気、嘔吐、食欲不振。
- 【病態】
- ・膵液の漏出や感染によって膿瘍が形成されます。
- ・放置すると膿瘍が破裂し、腹膜炎を引き起こすリスクがあります。
肝臓の膿瘍
肝臓の膿瘍は、細菌や寄生虫(アメーバなど)が肝臓内に感染して膿が溜まる状態を指します。
肝臓の膿瘍は、右上腹部の痛み、黄疸、発熱が典型的な症状です。
- 【症状】
- ・上腹部の痛みや圧迫感、右肩の関連痛。
- ・高熱、悪寒、発汗。
- ・黄疸や食欲不振。
- 【病態】
- ・胆管炎や胆石症が原因となる場合が多い。
- ・適切な治療が行われない場合、感染が全身に広がる危険があります。
脾臓の膿瘍
脾臓の膿瘍は、脾臓内に膿が溜まる稀な状態ですが、生命を脅かす可能性のある重篤な感染症です。
左上腹部の痛みや発熱が見られ、脾臓が腫れることもあります。
- 【症状】
- ・左上腹部の痛み、発熱、倦怠感。
- ・左肩や背中への放散痛。
- 【病態】
- ・心内膜炎や敗血症が原因となることが多い。
- ・重篤化すると全身感染症(敗血症)を引き起こす可能性があります。
腹腔内膿瘍の診断と検査方法
腹腔内膿瘍の診断には、以下の検査が用いられます。
- 1. 血液検査:感染の指標となる白血球やC反応性タンパク(CRP)の上昇を確認。
- 2. 画像診断:CTスキャンや超音波検査で膿瘍の位置や大きさを特定。
- 3. 細菌培養検査:膿のサンプルを採取し、原因菌を特定して適切な抗生物質を選択。
正確な診断は治療の成功に欠かせないため、専門医の指導の下で進められます。
腹腔内膿瘍の予後と合併症
適切な治療が行われれば予後は良好ですが、放置すると以下のような合併症を引き起こす可能性があります。
- 1. 全身性炎症反応症候群(SIRS):感染が全身に拡がる。
- 2. 多臓器不全(MOF):臓器への影響が拡大。
- 3. 慢性膿瘍:完全に治癒しない膿瘍が残る場合。
治療後も定期的な経過観察が必要です。
腹腔内膿瘍の治療と手術方法
腹腔内膿瘍の治療は、排膿処置と抗生物質療法を中心に、予防的ケアを組み合わせることで効果的に行われます。症状が軽度な段階で適切な治療を受けることで、回復期間を短縮し、合併症のリスクを低減することが可能です。
排膿処置
排膿処置は膿瘍を外部に排出する基本的な治療法です。超音波やCTを使用して膿瘍の位置を特定し、ドレナージチューブを挿入して膿を排出します。
排膿処置が適応できるのは、膿瘍が大きい場合や感染症状が重篤でない場合です。膿瘍の位置や大きさに応じて経皮的ドレナージ(皮膚から針を刺す方法)や外科的ドレナージが選択されます。
排膿処置のメリットは侵襲が少なく、短期間で症状が改善する可能性があります。
デメリットとしては排膿後も感染が完全に治癒するまで抗生物質療法併用する必要があります。
抗生物質療法
抗生物質療法は感染症を根本的に治療するために、広域抗生物質を使用して病原菌を除去します。
初期段階では、培養検査を行う前に広域スペクトル抗生物質を投与し、培養検査結果をもとに、特定の病原菌に対する抗生物質に切り替えます。
抗生物質療法に適応できるのは、小規模な膿瘍や、膿瘍が排膿処置で完全に除去された場合です。
ただし、長期間の使用は薬剤耐性菌を生じるリスクがあるため、医師の指導のもと慎重に行われます。
予防的ケア
手術後や感染症のリスクが高い場合には、予防的ケアが重要です。術後の適切な抗生物質投与や感染部位の清潔な管理が求められます。
また予防のためには生活習慣の改善も重要なポイントです。栄養バランスの良い食事と適切な水分摂取を心がけましょう。術後の適度な運動や生活リズムの維持も予防に役立ちます。
腹部手術後や慢性疾患を持つ患者は、定期的に医師の診断を受けましょう。早期の異常発見が重篤化を防ぐ鍵となります。
まとめ
腹腔内膿瘍は、腹部に膿が溜まる状態で、感染症や手術後の合併症などが原因となることが多いです。主な症状は、腹痛、発熱、倦怠感などで、膿瘍の位置によっては排便困難や呼吸困難を引き起こすこともあります。適切な治療を受けないと、全身への感染拡大や多臓器不全などの重篤な合併症に至る可能性があります。
診断は、血液検査や画像診断(CTスキャン、超音波)で行われ、膿瘍の位置や原因を特定します。治療法としては、膿瘍の排出(ドレナージ処置)や抗生物質療法が中心です。予防的ケアとして、手術後の適切な管理や生活習慣の改善が重要で、定期的な健康診断が早期発見に役立ちます。
腹部の違和感や発熱が続く場合は、早期の医療機関受診を心がけましょう。
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略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師