ニパウイルスの概要、感染症の特徴や予防法について解説

  • クリニックブログ
2024/08/09

ニパウイルスの概要、感染症の特徴や予防法について解説

ニパウイルスの概要

ウイルスの特徴

ニパウイルスは、パラミクソウイルス科ヘニパウイルス属に属するウイルスで、宿主はオオコウモリです。感染は主に感染動物(豚など)の気道分泌物などの体液を介してヒトに広がり、発熱、筋肉痛、意識障害、脳炎などを引き起こします。
 

発見の経緯と名前の由来

1998年から1999年にかけてマレーシアで初めてニパウイルスによる感染症が発生、オオコウモリから豚に感染し、さらにヒトに広がったことが確認されました。
ニパウイルスという名前は、最初の感染者が出たマレーシアの村「ニパ」に由来しています。
 

感染経路

感染動物(主に豚)の体液や組織との接触が主な感染経路とされています。また、コウモリの唾液や尿、排泄物で汚染された食品を介しても感染が広がることがあります。さらに、感染者との直接接触でも感染の可能性があります。
 


 
 

感染症の特徴

主な症状と潜伏期間

主な症状には、発熱、頭痛、めまい、嘔吐、筋肉痛のようなインフルエンザに似た症状があり、重症化すると脳炎や呼吸器症状が現れます。潜伏期間は4日から18日程度です。
 

重症化のリスクと致死率

重症化すると脳炎や呼吸器症状が現れ、意識障害やけいれんを引き起こします。
致死率は40 %から 75 %と推計されています。

 
 

感染経路と予防法

動物からヒトへの感染

感染動物(主にコウモリや豚など)との接触や、感染動物の唾液、尿、排泄物で汚染された食品を介して感染が広がることがあります。
 

ヒトからヒトへの感染

感染者との濃厚接触を通じてヒトからヒトに直接感染する可能性があります。
 

予防のための注意点と対策

現在ニパウイルスに対する有効なワクチンはありません。
そのため、予防策としては、感染動物や感染者との接触を避けることが重要です。
感染したオオコウモリの尿や唾液で汚染された果物や果物製品を介した感染のリスクは、食べる前によく洗い、皮をむくことで防ぐことができるとされていますが、流行地域では十分に加熱されていない食品の摂取は控えてください。
ヒトからヒトへの感染の事例はまれですが予防策としては、手洗いの徹底・マスクの着用などの標準感染予防策を徹底しましょう。
 
また、感染が疑われる場合は速やかに医療機関を受診することが推奨されます。

 
 

発生状況

過去の主な流行事例

マレーシア(1998-1999年): 初めての流行はマレーシアで発生し、オオコウモリから養豚場の豚にウイルスが伝播し、さらに人に感染しました。
 
バングラデシュ(2004年以降): 2004年に二度の流行が報告されました。ここでは豚を介さず、オオコウモリから直接人に感染した可能性が指摘されています。バングラデシュではほぼ毎年ニパウイルス感染者が報告されています。
 
インド(2001年以降): インドでは2001年に最初の流行が報告され、その後も複数回の流行が発生しています。特に2018年にはケララ州での流行が注目されました。
 
フィリピン(2014年):フィリピンのミンダナオ島での流行では馬と、馬の飼育に関連する人で感染が報告されています。
 

地理的分布

ニパウイルスは、主に南アジアと東南アジアで発生しています。特にバングラデシュとインドでは、毎年のように小規模な流行が報告されています。
 

最近の発生動向

最近の発生動向としては、バングラデシュやインドでの流行が続いており、感染拡大のリスクが高まっています。これに伴い、各国での監視体制や予防策が強化されています。

 
 

診断と治療

診断方法

ニパウイルス感染症の診断には、PCR検査や血清学的検査が用いられます。これにより、ウイルスの存在を迅速かつ正確に確認することができます。
 

現在の治療法

現時点では、ニパウイルス感染症に対する特効薬や有効な治療法はありません。
ニパウイルスに感染した場合、治療は主に対症療法で、感染者の症状に応じた治療が行われます。

 
 

日本の状況

これまで日本国内での自然発生・海外からの輸入症例は報告されていません。
 
2003年11月改正の感染症法では、ニパウイルス感染症は四類感染症に指定され、同時にすべてのコウモリ類が輸入禁止動物に指定されました。

 
 

まとめ

ニパウイルスは、主に南アジアと東南アジアで流行が確認されているウイルスで、特にバングラデシュとインドでは毎年のように小規模な流行が報告されています。オオコウモリを自然宿主とし、感染動物との接触や汚染された食品を介して人に感染します。
感染すると、急性の脳炎や呼吸器症状を引き起こし、致死率は40%から75%と高く、流行地域では監視体制の強化が進められています。
 
現時点で、有効なワクチンや特効薬はありません。そのため流行地域に渡航される際には、動物に不用意に近づかないこと、手洗いの徹底、十分に加熱された食事を選ぶことなどの予防策を講じることが重要です。また、渡航先の感染症の発生状況や衛生状況を事前に調べ、最新情報を入手することが大切です。
感染が疑われる場合は速やかに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが推奨されます。

 

一覧に戻る