エムポックスとは。家族やペットがいる場合はどうするべきかをご紹介

  • クリニックブログ
2024/04/30

エムポックスとは。家族やペットがいる場合はどうするべきかをご紹介

根絶されたはずの病気が海外で流行し、日本に再びもたらされることがあります。海外の病気だからと安心していると、思わぬところで発症してしまうかもしれません。今回は「エムポックス」という病気についてご紹介します。
 
エムポックスとはなにか、もし家族がかかってしまったらどうすべきかを解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。

 

エムポックスとは

エムポックスとはどのような病気なのかをご紹介します。

かつてはサル痘と呼ばれていた

エムポックスはかつてサル痘と呼ばれていた感染症のことです。世界で根絶に至った天然痘のウイルスと同じ属性に入るエムポックスウイルスによって、感染するといわれています。天然痘ワクチンの接種が終了してから長い年月が経ち、耐性をなくした世代が増えたことで再び世界で感染してしまう方が増え始めているようです。
 
日本でも2022年に初めて発症例が報告されました。

 

主な症状

感染してから約2~3週間ほどの潜伏期間を経て発症するといわれています。リンパ節の腫脹や発熱、頭痛、筋肉痛などがおよそ5日間続いたあとに発疹が顔に現れ始め、やがて全身に広がっていきます。
 
水ぶくれをともなうこの発疹は、一見すると水ぼうそうや麻疹といった感染症の発疹と酷似しており、誤認する可能性が高いため注意が必要です。エムポックスと水ぼうそうは、発疹の箇所で区別がつきます。掌や足の裏に発疹が出ている場合はエムポックスであると判断することができます。

 

検査方法

エムポックスの診断には、PCR検査が用いられます。検査のための検体は、発疹などの病変部位から直接採取されることが一般的です。具体的には、皮膚、体液、痂皮(かさぶた)などから検体を採取し、ウイルスのDNAを検出します。

 

エムポックスの治療は、基本的に対症療法となる

有効な特効薬はなく、基本的に症状に合わせた対症療法が行われます。感染した方のほとんどは、長くてもおよそ4週間程度で快方へ向かう傾向にありますが、まれに重篤な症状に陥り、合併症などを引き起こすことがあります。
 
特に、免疫力が弱いお子様や高齢者の方、妊婦の方は重症化するおそれがあるようです。

 
 

エムポックスはどのように感染する?

エムポックスはどのような経路を辿って感染していくのかを解説します。

感染動物との接触

エムポックスウイルスは、もともとリスやネズミなどげっ歯類が持つウイルスで、それが人へと感染したことが始まりであるといわれています。
 
げっ歯類のみならずサルやウサギといった哺乳類にも感染するといわれ、感染した動物と触れ合ったり、噛まれたりすることで感染することがあるようです。また流行地域で加熱が十分でない動物の料理を食べることでも感染してしまいます。
 

感染者との接触

人から人へ感染する場合は、感染者と触れ合ったりくしゃみがかかってしまったりすることで感染するといわれています。
 
特に、感染者の発疹のカサブタや血液に触れたり、キスなどで唾液や体液に触れたりすることで人から人へと感染していくようです。また、感染者の寝具や触れたものにもウイルスが付着しているため、リネンの交換などには使い捨ての手袋を着用するなどして十分に気をつける必要があります。

 
 

エムポックス予防にはワクチン

世界で流行の兆しが見えるエムポックスを予防するためのワクチンについてご紹介します。

エムポックスの対抗ワクチンとして天然痘ワクチンが用いられる

再び流行の懸念のある現在ですが、エムポックスに特化したワクチンは未だありません。しかし、エムポックスウイルスは天然痘ウイルスと同じグループに属するウイルスのため、天然痘ワクチンを打つことで発症と重症化を防げるとされています。
 
このワクチンでおよそ85%の発症予防効果を得られるとされており、大変有効な手段であると認められています。

 

天然痘ワクチンの定期接種は廃止になっている

天然痘は世界で根絶に成功した感染症であるため、罹患する患者の見込みがなくなったとし、日本では1976年に天然痘ワクチンの定期接種が廃止されました。国内では予防接種ができないため、流行地域へ渡航する際には動物との接触はなるべく避けるようにしましょう。

 
 

エムポックスにかかったら

もしエムポックスであると診断された場合、どのようなことが必要になるのかをご紹介します。

エムポックスと診断されたら、届出をする必要がある

エムポックスは感染症法から、感染した人の診察を行った医師が届出を行う必要があるとされています。
 
無症状であってもウイルスを保有しているということが証明された場合は、速やかに医療機関や保健所に届出を行わなければなりません。外出をする際はマスクを着用し、発疹はガーゼで覆って人へ感染させることがないように注意しましょう。

 

家族がいる場合はタオルなどの共有は避ける

ご家族がいる感染者の方の場合は、タオルなどの共有を避けましょう。タオルをはじめ、感染者の方のベッドシーツや枕などの寝具、食器などに触れてしまうことで感染してしまうおそれがあります。空気を介して感染をすることはありませんが、常に手洗いを徹底的に行い、ウイルスがご家族に伝染しないよう最新の注意を払う必要があるでしょう。

 

ペットは隔離するほうが無難

エムポックスは一部の哺乳類にも感染することが判明しています。犬などのペットを飼育している方は、万が一のことも考慮し、ペットホテルなどに預けて隔離してあげるようにしましょう。
 
特に、ハムスターやチンチラなどのげっ歯類を飼育されている方は、避難先を用意しておくほうが無難です。預け先がない場合は過度な触れ合いを避けて、舐められたり噛まれたりすることがないように注意してください。


 
 

発生状況と致死率

日本国内の発生状況

日本におけるエムポックス(サル痘)の発生状況は、2022年7月に国内で感染者が確認されて以降、2023年5月2日までに129例が報告されており、感染者の多くは30代と40代の男性です。
2024年2月時点でも散発的な患者の発生が続いており、累計240例が確認されています。エムポックスは日本の感染症法上、4類感染症に指定され、監視と対策が進められています。
(出典: 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/monkeypox_00001.html
 
 

世界の発生状況

エムポックスは、1970年以降、中央アフリカから西アフリカにかけて流行している感染症です。2022年5月以降、従来の流行地域以外でも、欧州や北米を中心に多くの感染者が報告されました。その後、世界全体の症例数は減少傾向にありますが、2023年3月以降、東アジアや東南アジアからの報告が増加しています。
2022年5月以降の流行では、9万人以上の感染例が報告されています。
(出典: 国立感染症研究所 https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/a/mpox.html
 

【過去の流行事例】

中央アフリカと西アフリカ:エムポックスは、1970年にザイール(現在のコンゴ民主共和国)で初めてヒトへの感染が確認されて以来、中央アフリカと西アフリカの熱帯雨林地域で流行している感染症です。

 
欧州と北米:2022年5月以降、欧州と北米でエムポックスの感染が急速に広がり、多くの感染者が報告されています。これらの地域では、従来エムポックスが定着していなかったため、この時は特に注目されました。

 
東アジアと東南アジア:2023年3月以降、東アジアや東南アジアからの報告が増加しており、エムポックスの流行が確認されています。

 

致死率

エムポックスの致死率は、一般的に1%から10%とされています。
致死率は感染者の健康状態により異なり、特に小児や免疫力が低下している患者では重症化しやすいとされています。
さらに、エムポックスは2系統に分類され、系統によって致死率が異なります。
コンゴ盆地型では約10%、西アフリカ型では約1%とされています。

 
 

まとめ

ここまで「エムポックス」についてご紹介してきました。海外との交流が著しい昨今、海外で増え始めている病気を持ち帰ってきてしまったり、海外の方が持ち込んでしまったりする可能性があります。エムポックスに効く特効薬は日本にはないため、対症療法が基本となります。エムポックスと疑わしい症状が出てきたら、まずは自分で一度確認を行い、病院で受診しましょう。
 
もし、エムポックスにかかってしまったら、家族やペットとの接触はなるべく避けて、治療に専念することが大切です。


 
 

MYメディカルクリニック渋谷 笹倉 渉医師

監修:MYメディカルクリニック渋谷 非常勤医

笹倉 渉 Dr. Sasakura Wataru

資格

略歴

  • 藤田保健衛生大学医学部 卒業
  • 公立昭和病院
  • 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
  • 北部地区医師会病院麻酔科 科長
  • 2016年 MYメディカルクリニック 医師
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