ALSとは?原因、症状、治療法について解説
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ALSとは?原因、症状、治療法について解説
ALSとは
ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis)とは、「筋萎縮性側索硬化症」のことを指します。
私達の身体は脳や脊髄に存在する神経系(上位・下位運動ニューロン)からの指示で筋肉を動かす仕組みとなっています。
しかし、ALSはこれらの神経系が原因不明に変性・消失し、脳から出る筋肉を動かすための司令が伝わらなくなり、結果として筋肉が縮み徐々に身体が動かなくなります。
ALSは進行性の病気で、病態の進展は比較的早いと言われています。人工呼吸器を用いなければ通常は2〜5年(平均3. 5年)で死亡することが多く、詳細な原因は明らかとなっていないため現在有効な治療法は未確立です。
患者数は令和2年度時点で約10,500人、男女比は男性が女性に比べて1.3-1.5倍であり、やや男性に多く認められます。
最もかかりやすい年齢層は60〜70歳台ですが、まれに若い世代での発症も認めます。発症者のうち約5%は家族歴を伴い、家族性筋萎縮性側索硬化症(家族性ALS)と呼ばれています。
ALSの原因
発症の原因は明らかとなっていませんが、原因遺伝子などに異常が認められることが多く報告されています。
家族性ALS の約2割では、フリーラジカル(通常はペアとなっている体内細胞の電子が不対となり、不安定となっている電子のこと。不安定ゆえに体内では有害な作用をもたらす)を処理する酵素の変異を認める報告があり、孤発性 ALS の病態としてはフリーラジカル処理の関与やグルタミン酸毒性により神経障害をきたすという仮説が有力です。
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ALSの症状
ALSの発症様式は大きく3型に分けられると言われています。
1つ目の型は、上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す上肢型(普通型)です。この型はまず上肢の神経障害が見られ、手指が使いにくくなる・肘から先の力が弱くなることから始まります。
その後徐々に下肢神経の障害が起き、嚥下等の筋力も落ちていきます。
2つ目の型は、言語障害・嚥下障害など球症状が主体となる球型(進行性球麻痺)です。
こちらの型は話しづらい、食べ物が飲み込みにくいという症状から始まり、最終的には呼吸の筋肉も含めて全身の筋肉が衰え、力が入らなくなる・歩けない状態となります。
3つ目の型は、下肢から発症し下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る下肢型(偽多発神経炎型)です。
この型はどちらかの足の力が段々と弱くなり、反対側の足に広がった後手の力や嚥下等の能力も落ちていきます。
いずれの型も全身の筋肉が2-4年ほどで弱くなり、自身では動くことが困難となります。また息苦しさを感じ、進行すると呼吸が困難となるため最終的に人工呼吸器を使用しなければならなくなることが一般的な経過です。
しかし、ALSには出にくい症状もあります。筋肉の面では、目を動かす筋肉はある程度は残ると言われています。
また、尿道や肛門を締める括約筋も障害は受けにくく、尿や便が勝手にもれる状態になりづらいと言われています。
また、知覚障害・感覚障害が起こりにくいと言われています。見る・聴く、冷たさや痛みなどを感じる感覚は最後まで残るため、周囲の状況が分かっているにも関わらず自分自身で動けないことが、精神的なストレスが大きくなってしまうことも考えられます。
ALSの診断方法
診断基準として、以下の①-④の全てを満たすものを筋萎縮性側索硬化症と診断します。
①成人発症である。
②経過は進行性である。
③神経所見・検査所見で、下記の1か2のいずれかを満たす。
身体を、a.脳神経領域、b.頸部・上肢領域、c.体幹領域(胸髄領域)、d.腰部・下肢領域の4領域に分けて考え、
- (1)1つ以上の領域に上位運動ニューロン徴候をみとめ、かつ2つ以上の領域に下位運動ニューロン症候がある。
- (2)SOD1遺伝子変異など既知の家族性筋萎縮性側索硬化症に関与する遺伝子異常があり、身体の1領域以上に上位及び下位運動ニューロン徴候がある。
※上位運動ニューロン兆候とは、脳幹(皮質延髄路)または脊髄(皮質脊髄路)に分布する運動皮質のニューロンの障害が起き、通常硬直・巧緻運動障害・および運動のぎこちなさがみられること。
※下位運動ニューロン兆候とは、前角細胞または脳神経運動核あるいは骨格筋へと伸びるそれらの遠心性線維の障害が起き、顔面の筋力低下・嚥下困難および構音障害や、筋力低下・筋萎縮・線維束性収縮(肉眼で分かる筋攣縮)・筋痙攣がみられること。
下位運動ニューロン徴候は、針筋電図所見(後述参照)でも代用できる。
④以下の鑑別診断で挙げられた疾患のいずれでもない。
- (1)脳幹・脊髄疾患:腫瘍、多発性硬化症、頸椎症、後縦靭帯骨化症など。
- (2)末梢神経疾患:多巣性運動ニューロパチー、遺伝性ニューロパチーなど。
- (3)筋疾患:筋ジストロフィー、多発筋炎など。
- (4)下位運動ニューロン障害のみを示す変性疾患:脊髄性進行性筋萎縮症など。
- (5)上位運動ニューロン障害のみを示す変性疾患:原発性側索硬化症など。
ALSの検査項目
特異的に診断するための検査法はありませんが、下位運動ニューロンの障害は、針筋電図所見で証明することができます。
所見としては、① 進行性脱神経所見:線維性収縮電位、陽性鋭波など② 慢性脱神経所見:長持続時間、多相性電位、高振幅の大運動単位電位など の部類があります。
ALSの治療方法
ALSを根本的に治療する治療法は現時点で確率されていませんが、欧米における治験でリルテック(リルゾール)が生存期間を僅かに有意に延長させることが明らかにされており、1999年より日本でも許可されています。
リルゾールのほかにも、近年病勢の進行を遅らせる目的で数種類の薬剤が開発され、治験進行・計画が進んでいます。
ALS進行に伴い出現する症状に対しては、対症療法を実施することになります。
筋力低下に伴う痛みに対しては、鎮痛剤や湿布薬を使用し緩和を図ります。不安や抑うつには安定剤や抗うつ薬の内服をし、痙縮が著しい場合は抗痙縮剤を用います。
症状の進行に伴い生じる関節拘縮の予防をするため、定期的なリハビリも実施します。また、呼吸障害に対しては呼吸補助・気管切開による処置を実施します。
ALSの予防方法
ALSは発症の原因自体明らかとなっていないため、予防法も確率されているものは現在ありません。
まとめ
ALSは原因や予防法が明らかにされておらず、治療も未確立のため発症した際には不安が大きい疾患だと思います。
また、進行性のため発症したら一生向き合わなければならない疾患です。医療的サポートで進行に伴う症状を緩和しつつ、筋肉や関節のリハビリを実施し、比較的障害が起こりづらい知覚・感覚を活かせるリラクゼーション等を用いて苦痛の緩和された生活が出来るように工夫していくことが望ましいと考えられます。
気になる症状が現れた際には、まず神経内科を受診しご相談することをおすすめします。
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略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師