乳がんとは?原因、症状、治療法について解説
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乳がんとは?原因、症状、治療法について解説
乳がんは女性に多い疾患ですが、男性が発症することもある疾患です。
若い方でも発症するリスクがあるため、年齢関係なく定期的に検査を受けることが推奨されています。
本記事では、乳がんがどのような病気なのか、原因やアルコール、イソフラボンとの関係性、治療法などを解説していきます
乳がんとは
乳房は主に「乳腺組織」とその周囲の「脂肪組織」で構成され、乳腺組織は授乳期に乳汁(母乳)を作る「小葉」、小葉から乳頭まで乳汁の通り道である「乳管」から成り立っています。
乳がんとは、乳腺組織にできる悪性腫瘍のことをいいます。
そのほとんど(約90%)が乳管から発生する乳管がんで、約5〜10%は小葉から発生する小葉がんです。
他に粘液がんや腺様嚢胞がんといった特殊型も存在します。
また、乳がんは「非浸潤がん」・「浸潤がん」・「Paget病」に大別されます。
非浸潤がんは、乳管や小葉の内部にがん細胞がとどまった初期段階です。
浸潤がんは、がん細胞が増殖して乳管や小葉の壁を破り周囲に広がっていくため、血管やリンパ管を通じてリンパ節・脳・骨・肺・肝臓などに遠隔転移することがあります。
Paget病もがんの一種で、乳房と乳房以外に発生します。乳房Paget病は乳頭が赤くただれるのが特徴です。
進行度
乳がんの進行度は、腫瘍の大きさとリンパ節への転移があるかどうかで分類されています。
なお、早期発見でき治療ができた「0期」の生存率は100%と非常に良好な予後です。
1期でも90%と非常に予後が良いため、乳がんは早期発見が命運を分ける病気といえます。
以下の表は、進行度をまとめたものです。
ステージ | 腫瘍の大きさ | 転移の有無 |
---|---|---|
乳管や小葉に止まり、浸潤が見られない状態 しこりには触れない |
リンパ節への転移はない | |
2cm以下 | リンパ節への転移はない | |
ⅡA:①2~5cm ②2cm以下 ⅡB:①5cm以上 ②2~5cmm |
ⅡA:①リンパ節への転移はない ②リンパ節への転移がある ⅡB:①リンパ節への転移はない ②リンパ節への転移がある |
|
ⅢA:①5cm以上 ②5cm以下 ⅢB:①大きさは問わないがしこりがある ②しこりがない炎症性乳がん ⅢC:大きさは問わない |
ⅢA:①脇の下か内胸のリンパ節への転移がある ②脇の下のリンパ節への転移がある ⅢB:・転移はない ・脇の下もしくは内胸リンパ節への転移がある ⅢC:脇の下と内胸リンパ節の両方または鎖骨上に及ぶリンパ節への転移がある |
|
大きさは問わない | 他臓器への転移がある |
乳がんの原因は
乳がんができる原因はまだ明確になっていませんが、発生リスクを高める要因については明らかになっています。
下記が乳がんの発生リスクを高める要因です。
- 初経年齢が低い
- 閉経年齢が高い
- 出産経験がない
- 初産年齢が高い
- 授乳経験がない
- 異型を伴う上皮内病変にかかったことがある(異型乳管過形成など)
- 生活習慣(飲酒・喫煙・閉経後の肥満・運動不足)
- 遺伝(第1親等で乳がんになった血縁者がいる人は最もリスクが高く、第2親等の場合は次に高い。)
※第1親等…自分の母・娘 第2親等…自分の祖母・孫・おば・姪
特に、女性ホルモンの「エストロゲン」に関連があるといわれています。
- 体内のエストロゲン量が多い
- エストロゲンを含む経口避妊薬(ピル)の使用
- 閉経後の長期のホルモン補充療法
ただし、これらに当てはまるからといって必ず乳がんになるわけではありませんし、当てはまらない人でも乳がんになる可能性があります。
また、日本人で乳がん患者が増加している要因として、日々の食生活が欧米化してきていることが考えられます。
日常的な食事が洋風化していることにより、ホルモン環境や体格が向上したことなどが危険因子として挙げられています。
アルコール摂取量が多いほどリスクが高まることが判明
アルコール摂取量が多いほどリスクが高まることが「多目的コホート研究(JPHC研究)」によって論文発表されています。
40~69歳の女性約5万人を対象に生活習慣のアンケートを実施し、その後アルコール摂取との関連を調べてまとめた結果です。
この論文によれば、お酒を飲む量が多いグループ(週150g以上の飲酒)は、飲んだことがない方に比べて約75%乳がんリスクが高くなっています。
なお、エタノール換算の150gとは、ビールなら大瓶約7本、ワインなら100mlを約14杯(1杯100ml)、日本酒なら約7合にあたります。
アルコール摂取が乳がんリスクを高める理由
アルコール摂取が乳がんのリスクを高めることは、主に欧米の疫学研究でもたくさん発表されており、乳がんリスクは確実なものであると世界的にも評価されています。
具体的には、エタノールの分解により産生される「アセトアルデヒド」の発がん性やDNA合成・修復に欠かせない葉酸の破壊、女性ホルモンなどへの影響が、乳がんリスクを上昇させる理由の可能性として挙げられています。
閉経前・閉経後のアルコール摂取量との関連性
論文によると、閉経前と閉経後のアルコール摂取量と乳がんリスクは、どちらも変わらずあることが分かっています。
もっともお酒を飲んでいるグループにおいて、閉経前の方のリスク上昇は1.78倍、閉経後の方のリスク上昇は明確な数値が出ていないものの、統計学的に上昇傾向であることが認められました。
参考:国立研究開発法人 国立がん研究センター 多目的コホート研究(JPHC Study) 飲酒と乳がん罹患との関係についてhttps://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/373.html
イソフラボン摂取が多いほどリスクが少なくなることが判明
「多目的コホート研究(JPHC研究)」によると、イソフラボンを摂取するほどリスクが少なくなるという研究結果も出ています。
40~59歳の女性約5万人を対象に生活習慣のアンケートを実施し、その後大豆製品の摂取量や、それに基づくイソフラボンの摂取量の算出、女性乳がん発生率との関連を調べてまとめた結果です。
みそ汁を飲む方はリスクが低い
アンケートでは「みそ汁」「大豆、豆腐、油揚、納豆」の項目を設定し、摂取量を調べています。
もっとも食べる量が少ない方と、たくさん食べる方を比較し何倍乳がんになりやすいのかをまとめています。
その結果、みそ汁を飲むほど乳がんになりにくい傾向にあることが分かり、大豆商品はがんとの関連がはっきりと分かりませんでした。
この研究結果により、乳がん予防をしたい方はみそ汁を積極的に飲むことがおすすめといえるでしょう。
閉経後ほど摂取量を増やすとリスクが低くなる傾向にある
この調査・研究では、閉経前と閉経後の方に分けて、乳がん予防との関連性も調べられています。
その結果、閉経後の女性におけるイソフラボン摂取と発症リスクの関係は、みそ汁を飲む方ほどリスクが低くなっていることが分かったのです。
乳がんは欧米の方での発症率が高く、日本では少ない傾向です。
しかし、リンパが胸や胸周りにあるためリンパ節転移のリスクが高く、気付くタイミングが遅く進行度が高いケースも見受けられます。
閉経後の方のほうが顕著に効果的であることが分かりましたが、閉経・閉経まで問わずリスクを抑えられることがこの研究で分かっています。
予防のためには、年齢問わず大豆製品を積極的にバランスよく摂取することを心がけるといいでしょう。
参考:国立研究開発法人 国立がん研究センター 多目的コホート研究(JPHC Study) 大豆・イソフラボン摂取と乳がん発生率との関係について
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/258.html
乳がんの症状は
乳がんの早期では無症状であることが多いです。
進行するにつれ、自覚症状が現れるようになります。
胸や脇のしこり・脇の下の腫れ
最も典型的な症状の1つです。
実際は、乳腺症や線維腺腫、嚢胞など良性の場合がほとんどですが、乳がん患者の9割に発生するともいわれています。
乳がんのしこりは「ゴリゴリと硬い」「動かない」「だんだん大きくなる」のが特徴ですが、感触だけで自己判断するのは危険です。
脇の下のリンパ節(腋窩リンパ節)に乳がんが転移すると起こります。
乳房の形・皮膚の変化
がんが乳房の皮膚を引き込み、えくぼのような凹みができたり、乳頭の陥没がみられたりします。
また、乳房の形が左右非対称になることもあります。
赤く腫れる、熱を持つ、乳頭や乳輪に湿疹・ただれ、といった症状にも注意が必要です。
乳頭分泌物
乳頭から血が混じったような茶褐色の分泌物が出ることがあります。
片方の乳房からのみ出る場合も、乳がんの可能性があります。
月経周期と無関係な乳房の痛み
月経周期に入った方は、ホルモンバランスにより乳房の痛みやハリを感じることがあります。
しかし、そのタイミング以外で痛みを感じる場合、炎症性乳がんの可能性があります。
全乳がんのうち1~3%のため発症は非常にまれですが、進行が速く怖い病気です。
初期症状では、乳房の皮膚が赤色になり腫れることが多く、またみかんの皮のように凸凹とした皮膚表面になることもあります。
このような異変を感じたら速やかに検査を受けましょう。
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乳がんの検査方法
乳がんの検査方法はさまざまなものがあります。
以降では、検査の種類や検査方法、どのようなことを調べられる検査なのかを解説していきます。
視診・触診
視診は、乳房の形や皮膚の変化、乳頭分泌物の有無などを目で見て観察します。
触診は、乳房から脇の下を触って、しこりの有無や大きさ、硬さ、動き方などを確認します。
マンモグラフィ―(乳房X線検査)
2枚の板で乳房を挟み、圧迫して薄く伸ばした状態で撮影します。片方の乳房に対し、縦方向と上下方向の2方向から圧迫して撮影を行います。
薄く伸ばすことで乳腺の重なりを少なくし、病変を分かりやすくします。(「高濃度乳房」といわれる乳腺密度が高い場合は、分かりにくいことがあります。)
超音波検査では発見しにくい「微細石灰化」という、乳がんでみられることが多いものを見つけるのに有用な検査です。
超音波検査(エコー検査)
乳房にゼリーを塗り、超音波を発生する機械を当てて、超音波の反射で得られた画像から腫瘤(しこり)の大きさや性状、腫瘤以外の病変の有無、脇の下など周囲リンパ節への転移の有無を調べます。
マンモグラフィ―で「高濃度乳房」といわれた場合は、超音波検査のほうが乳がんを発見しやすいことが多いです。(乳腺は白く、乳がんの多くは黒く写し出され、コントラストがつきやすいため。)
放射線による被ばくの心配がなく、妊娠中も検査可能です。
生検・病理検査
病変の一部を採取し顕微鏡で調べ、確定診断するための検査です。「細胞診」と「組織診」があります。
細胞診は主に、乳頭分泌物の細胞を調べる細胞診と、病変に細い針を刺して注射器で吸い出した細胞を調べる穿刺吸引細胞診があります。
組織診は、局所麻酔で病変の一部を採取します。針生検(注射針より太い針を使用)と、手術で組織を採取する外科的生検があります。
CT検査・MRI検査・PET検査
CT検査はX線を使い、遠隔転移の有無を調べます。
MRI検査は磁気を使った検査で、乳がんかどうかの判断や、乳がんの場合は広がりを調べます。
PET検査は、CT・MRIなど他の画像診断が困難な場合に使用されることがあります。
腫瘍マーカー検査
腫瘍マーカーとは、がんの種類によって、そのがん特有の物質が産生され血液中に現れるもので、血液検査で調べることができます。
ただしこの検査だけでがんを診断できるものではなく、補助的に使用します。
乳がんでは「CEA」・「CA15-3」・「BCA225」が有用です。
乳がんの治療方法
乳がんの治療方法は複数あり、乳がんの病期(ステージ)によって、担当医と患者がともに検討し選んでいきます。
手術(外科治療)
乳がんの治療は、手術によって病変を取り除くことが基本となります。
手術の方法には、以下があります。
- ●乳房部分切除術(乳房温存手術)
- ●乳房全切除術
- ●腋窩リンパ節郭清(リンパ節を切除する手術)
- ●乳房再建
手術方法やリスクなどを詳しく解説していきます。
乳房部分切除術(乳房温存手術)
がんとその周辺がんから1~2cm程度までの局所的な範囲を手術で切除する方法です。
大部分の乳房を残せるため、胸がなくなることに不安を抱く方に適しています。
なお、がんの範囲が大きい場合は、抗がん剤でがんを小さくしてから手術に臨みます。
手術後、がんの切除が確認できれば再発防止に放射線治療に入ります。
乳房全切除術
乳房をすべて切除する方法です。
がんの範囲が広すぎる場合、乳房内でがんが散在して確認できる場合に適用されます。
心理的なダメージが大きいのがデメリットですが、乳がんの発生リスクや取り残しのリスクを抑えられます。
腋窩リンパ節郭清
この手術は、脇の下にあるリンパ節に転移が確認できた際に行う手術です。
がんに侵されているリンパ節を切除します。
体への負担が大きいため、リンパ転移が認められてもわずかである場合は基本的に行いません。
乳房再建
乳房全切除術を受けた方に行う再建手術です。
シリコンや、ご自身のおなかや背中などの組織を使い、再建を行います。
わずかながらですが、合併症リスクや移植した組織の壊死といったリスクがありますので、医師との話し合いをしっかりと行うことが大切です。
放射線治療
がんにX線を照射し、がん細胞を死滅させたり小さくしたりします。
薬物療法
再発の危険性を下げる(術前・術後薬物療法)・手術前にがんを小さくする(術前薬物療法)・手術困難例の延命や症状緩和などの目的に応じて行います。
乳がんの予防方法
乳がんの確実な予防方法はありませんが、前述した「発生リスクを高める要因」の中でも生活習慣(飲酒・喫煙・閉経後の肥満・運動不足)
の改善は、自分で気を付けることができる部分かと思います。
他に、大豆食品の摂取が乳がん発生リスクを低くすることも分かっています。
乳がんの定期健診について
まとめ
乳がんは2019年部位別がん罹患数において、女性のがん罹患の第1位となっています。20歳から少しずつ増え始め、35〜40歳で急増、以降は高い罹患率を示しています。
ですが、早期発見により治ることが多いがんでもあります。
セルフチェック(自己検診)に加え、無症状でも積極的に乳がん検診を受けましょう。
当院の人間ドック・健康診断にも乳がん検査を追加することができます。
マンモグラフィ―と超音波検査が人気ですが、それぞれ得意・不得意がある検査のため、どちらか一方を受け続けるのではなく、併用することをおすすめします。
また、症状がある場合や要精密検査となった場合は、早めに乳腺外来を受診してください。
男性でも乳がんになる可能性はあります。
違和感があるときは、ぜひ当院の乳腺外来にご相談ください。
乳腺外来についてはこちら
略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師