
腹壁ヘルニア(腹壁瘢痕ヘルニアなど)とは?種類、原因、治療法を解説
- クリニックブログ
腹壁ヘルニア(腹壁瘢痕ヘルニアなど)とは?種類、原因、治療法を解説
「お腹に違和感がある」「腹部にしこりのような膨らみを感じる」といった症状で悩んでいませんか?
これらは腹壁ヘルニアの可能性があります。腹壁ヘルニアは、手術後の瘢痕部や腹壁の弱い部分から内臓が突出する状態で、適切な治療が必要です。特に放置すると閉塞や絞扼といった深刻な合併症を引き起こすリスクがあります。
この記事では、腹壁ヘルニアの種類や原因、症状、治療法をわかりやすく解説します。適切な情報を知り、健康管理に役立ててください。
腹壁瘢痕ヘルニアとは?
腹壁瘢痕ヘルニアは、腹部手術の瘢痕部から内臓や組織が突出する状態を指します。手術後の傷跡が十分に修復せず、腹壁が弱くなることが主な原因です。この状態では腹部にしこりや膨らみが現れ、痛みや違和感を伴うことがあります。
腹壁瘢痕ヘルニアは、縫合不全や腹圧の上昇などで発生します。肥満や高齢、慢性咳嗽がある場合、リスクが高まります。また、適切な術後ケアが行われないと、傷跡が弱くなる可能性があります。
放置するとヘルニア門が拡大し、内臓の脱出が進行する可能性があります。さらに、腸閉塞や絞扼といった合併症が起こる危険性もあります。
腹壁瘢痕ヘルニアの主な原因
腹壁瘢痕ヘルニアは、手術後の特定の条件や身体的な要因が重なって発生します。ここでは、主な原因を3つに分けて解説します。
1. 術後の傷跡の弱化
手術後の傷跡が十分に癒着しない場合、腹壁が弱くなり、ヘルニアが発生するリスクが高まります。縫合不全や感染症が回復を妨げる要因となることが多いです。また、手術後の早期に適切なケアが行われないと、瘢痕部分が十分に強化されず、内臓が脱出しやすい状態になる可能性があります。
2. 腹圧の上昇
咳、便秘によるいきみ、重い物を持つ作業などにより腹圧が頻繁に上昇すると、腹壁に負担がかかり、ヘルニアが発生しやすくなります。特に術後間もない時期にこれらの行動を繰り返すと、瘢痕部分に余計な負荷がかかることがあります。
3. 個人の要因
肥満、喫煙、糖尿病、高齢などの要因も腹壁瘢痕ヘルニアのリスクを高めます。これらの条件がある場合、腹壁の組織が弱くなりやすいため、手術後の回復が遅れることがあります。また、免疫力が低下している場合も、傷跡の癒着が不完全になる可能性があります。
腹壁瘢痕ヘルニアの症状
腹壁瘢痕ヘルニアでは、以下のような症状が現れることがあります。
1. 腹部の膨らみ
腹壁瘢痕ヘルニアの最も特徴的な症状は、手術後の傷跡付近にしこりや膨らみが生じることです。立ったり咳をしたりすると膨らみが目立ち、横になると縮小する場合があります。この膨らみは、内臓が腹壁を通じて脱出している状態を示しており、初期の段階でも発見されることが多いです。
2. 痛みや不快感
膨らみ部分に痛みや違和感を感じることがあり、特に長時間の立位や腹圧をかけた際に症状が強くなることがあります。脱出した内臓が周囲の組織に圧迫されることで、不快感が持続し、日常生活に支障をきたす場合があります。
3. 圧迫感や張り
腹部全体や膨らみ部分に圧迫感や張りを感じることがあります。症状が進行すると、これらの感覚が持続的になり、体を動かす際の制限や不快感を伴うことが多くなります。この張り感は、腸閉塞や絞扼の前兆である場合もあるため注意が必要です。
これらの症状がみられる場合は、早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
腹壁瘢痕ヘルニアを放置するリスク
腹壁瘢痕ヘルニアを放置することは、さまざまな深刻なリスクを伴います。以下では、それぞれの具体的なリスクについて解説します。
ヘルニア門の拡大とは?
ヘルニア門は、腹壁の内臓が脱出する開口部を指します。この開口部が拡大すると、より多くの内臓が脱出する可能性が高まり、症状が悪化します。特に、腹圧がかかる動作(咳、重い物を持つ、排便時のいきみ)を繰り返すと、ヘルニア門が徐々に大きくなる傾向があります。結果として、治療が困難になる場合があります。
痛みや不快感の症状
脱出した内臓が腹壁に圧迫されることで、痛みや不快感が続くことがあります。症状は活動時に悪化し、日常生活に支障をきたす場合があります。特に動作時の違和感や腹部の張りが長期間放置されると、さらに重い症状へと進行する可能性があります。
閉塞や絞扼のリスク
放置されたヘルニアでは、腸管がヘルニア門で締め付けられる「絞扼」や、腸の内容物が通過できなくなる「腸閉塞」が発生することがあります。これらの状態では強い痛み、吐き気、嘔吐を伴い、緊急手術が必要となる場合がほとんどです。放置すると、命に関わる危険性もあります。
腹壁瘢痕ヘルニアの診断と検査
腹壁瘢痕ヘルニアの診断には、視診や触診が行われます。また、症状が明確でない場合にはCTスキャンやMRIなどの画像診断が用いられ、脱出した内容物やヘルニア門の位置を詳細に確認します。これらの検査を通じて、最適な治療法が選択されます。
腹壁瘢痕ヘルニアの治療方法
腹壁瘢痕ヘルニアの治療は、症状の進行状況や患者の状態に応じて適切な手術方法が選択されます。以下では代表的な治療法について解説します。
eTEP法の概要
eTEP法(拡張型腹膜外法)は、腹膜外にスペースを作り、ヘルニアを修復する低侵襲の手術法です。腹腔内に直接侵入しないため、腹腔内の臓器への影響を最小限に抑えることができます。
- メリット:手術後の回復が早く、感染リスクが低い。
- 適応 :特にヘルニア門が小さく、腹腔内を避けたい症例に適しています。
RS法の特徴
RS法は、筋膜や組織の緊張を緩和し、修復範囲を広げる手術技術です。筋膜を適切に解放することで、張力が分散され、ヘルニア再発のリスクを低減します。
- メリット:大型ヘルニアや複数のヘルニア門を同時に修復可能。
- 適応 :複雑な症例や広範囲の修復が必要な場合。
腹横筋リリース(TAR)
TAR法(腹横筋リリース法)は、腹横筋を一部切開し、メッシュを配置して腹壁を補強する方法です。広範囲のヘルニア修復に向いており、腹壁の安定性を高める効果があります。
- メリット:大型の腹壁瘢痕ヘルニアの修復に高い成功率を誇る。
- 適応 :腹壁の広い範囲に損傷が及ぶ場合。
IPOM法の手術方法
IPOM法(腹腔内オンレイメッシュ法)は、腹腔内にメッシュを配置してヘルニア門を補強する手術法です。内視鏡を使用し、体への負担を軽減する低侵襲手術として広く行われています。
- メリット:再発率が低く、術後の回復が早い。
- 適応 :軽度から中程度の症例に対応可能。
まとめ
腹壁瘢痕ヘルニアは、腹部手術後の瘢痕部が弱くなり、内臓が突出する状態です。膨らみや痛み、不快感といった症状があり、放置するとヘルニア門の拡大や腸閉塞、絞扼といった深刻なリスクを引き起こす可能性があります。診断には視診や触診、画像診断が用いられ、症状や状態に応じてeTEP法やIPOM法、RS法などの手術が選択されます。早期に適切な診断と治療を受けることで、症状の悪化や合併症を予防できます。腹部に違和感や膨らみを感じた場合は、速やかに医療機関を受診することが重要です。
腹壁ヘルニアに関連する記事はこちら

略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師