シャントとは?透析に必要な血管のこと、わかりやすく解説

  • クリニックブログ
2025/01/21

シャントとは?透析に必要な血管のこと、わかりやすく解説

「シャントって何だろう?」「なぜ必要なの?」-透析を始める方やご家族の方の多くがこんな疑問を抱えていらっしゃるのではないでしょうか。実は、透析治療を受けている方の97%が使用している、とても大切な「命綱」なのです。
 
シャントは透析のたびに使う特別な血管で、その管理や合併症の予防に不安を感じる方も多いと思います。
 
この記事では、シャントの仕組みから日常生活での注意点まで、わかりやすく解説します。正しい知識を身につけることで、安心して透析治療に臨めるようになりましょう。これからシャントについて学ばれる方にぴったりの入門ガイドです。

 
 

シャントの基礎知識

透析治療を継続的に行うためには、シャントの理解と適切な管理が欠かせません。ここでは、シャントについての基本的な知識を解説していきます。シャントの仕組みや必要性を理解することで、より良い透析生活を送るための第一歩となるでしょう。
 

シャントとは何か

透析治療において「命綱」と呼ばれるシャントは、血液透析を行うために特別に作られた血管のことです。
 
主に動脈と静脈をつなぐ手術を行い、大量の血液が流れるように作られます。透析治療では、1分間に200ml以上の血液を循環させる必要があるため、通常の静脈だけでは対応できません。シャントを通じて安定した透析が可能となります。
 

シャントが必要な理由

血液透析では、体内の老廃物を効率よく除去するために、1分間に150~250mlという大量の血液を体外に取り出す必要があります。しかし、通常の血管ではこれだけの血液量を確保することができません。
 
そこで、動脈と静脈をつなぎ合わせることで、十分な血液量を確保できるシャントが必要となります。シャントがあることで、透析装置との間で安定した血液循環が可能となり、効果的な透析治療を行うことができます。
 
シャントは文字通り「命綱」であり、シャントが不全に陥ると直ちに透析治療に影響が出るため、適切な管理が不可欠です。
 

シャントの種類と特徴

シャントには主に以下の種類があります。
 

  • 自己静脈内シャント(約90%)
     患者さん自身の血管を使用する最も一般的な方法です。感染に強く、長期間使用できる利点があります。
  •  

  • 人工血管内シャント(約7%)
     自身の静脈が細い場合などに、人工血管を使用して作製します。十分な血流は確保できますが、感染や閉塞のリスクに注意が必要です。
  •  

  • 動脈表在化(約2%)
     深い位置にある動脈を皮膚直下に移動させる方法で、心不全の患者さんなどに適しています。
  •  

  • 透析用カテーテル(約1%)
     緊急時や一時的な使用、または他の方法が困難な場合に使用されます。

 
それぞれの方法には特徴があり、患者さんの状態に応じて最適な方法が選択されます。
 
 

 シャントに関する他の記事はこちら

詳しくはこちら

 
 

シャントの管理と注意点

シャントは透析患者にとって生命線といえる存在ですが、その機能を維持するためには、日常的なケアや早期のトラブル発見が欠かせません。以下では、シャント管理における日常生活での注意事項、トラブルの兆候、そして定期的なケアの重要性について解説します。
 

日常生活での注意事項

シャントを長持ちさせるためには、日常生活でのちょっとした工夫が必要です。まず、シャントのある腕で血圧測定をしないことが重要です。また、重い荷物をシャントの腕にかけたり、腕枕をしたりすることも避けるべき行為です。特に冬場には手首を圧迫するような服装を避け、血管への負担を減らすよう心がけましょう。
 

シャントトラブルのサイン

シャントに異常がある場合、以下の兆候が見られることがあります。
 

  • ●シャント音が弱くなる、または途切れる
  • ●血管の触感(スリル)がなくなる
  • ●シャント部分の腫れや痛みが現れる
  • ●腕や手が冷たくなる、またはむくむ

 
これらのサインを見逃さないことが、重大なトラブルを防ぐ第一歩です。異変を感じたら速やかに医療機関に相談することが推奨されます。
 

定期的なケアの重要性

シャントのトラブルを未然に防ぐためには、定期的な診察や検査が必要です。医療機関でシャントの状態をエコー検査などで確認することで、狭窄や閉塞といった問題を早期に発見できます。自宅での観察も同様に重要であり、日頃からシャント部位を確認し、普段と異なる兆候がないかチェックしましょう。
 
シャント管理を徹底することで、透析治療の安定を図り、日常生活の質を向上させることができます。
 
 

シャントの作製について

シャント手術は、透析治療において欠かせないステップです。その手術の流れや術後の経過、また作製部位の選択は、患者の健康と治療の効率に大きく関わります。以下で詳しく解説します。
 

シャント手術の流れ

シャント手術は、以下のステップで進行します。
 

1.初診・検査:超音波検査で動脈と静脈の状態を確認します。
2.手術計画の説明:血管の状態を基に、最適な作製部位を決定します。
3.手術:多くは局所麻酔下で行われ、自己血管を用いる場合は約60分、人工血管では約120分が目安です。
4.術後管理と透析開始:自己血管では術後2~4週間後、人工血管ではすぐに透析が可能です。

 
 

 MYメディカルクリニックのシャント手術についてはこちら

詳しくはこちら

 

手術後の経過

シャント手術後の経過は、使用した血管の種類によって異なります。
 

【自己血管の場合】
 術後2~4週間の待機期間が必要
 この期間で静脈が十分に発達
 血管の発達を促すため、ゴムボール等を使った運動を推奨
 
【人工血管の場合】
 比較的早期から使用可能
 感染予防のため、より慎重な管理が必要
 定期的な状態確認が重要

 
いずれの場合も、傷の管理と清潔保持が重要で、医師の指示に従った適切なケアが必要です。
 

作製部位の選択

シャント作製後、血管が十分に安定するまでの期間が重要です。術後2週間以降に穿刺を開始する場合が多く、血管の状態や術後の管理が透析の成功に直結します。術後の注意としては、手術した腕を締め付けないようにし、定期的に血管の状態を確認することが推奨されます。
 
 

シャントのトラブル

シャントは定期的な透析に使用するため、様々なトラブルが発生する可能性があります。早期発見・早期治療が重要となるため、以下の主な症状や対処法について理解しておきましょう。
 

主な合併症

シャントで最も多い合併症は「狭窄」で、血管が狭くなる状態を指します。狭窄が進むと、シャント音が弱くなったり、高い音(ヒューヒュー、ピーピー)が聞こえたりするようになります。また、腕のむくみやしびれが出現することもあります。
 
次に多いのが「閉塞」で、血管が完全に詰まってしまう状態です。この場合、シャント音が聞こえなくなり、透析が実施できなくなります。
 
その他の合併症として、シャント血管瘤(こぶ状の膨らみ)、静脈高血圧症(腕全体のむくみ)、スチール症候群(指先の血流障害)、感染症などがあります。これらの症状は放置すると重症化する可能性があるため、早期発見が重要です。
 

トラブル発生時の対処法

シャントトラブルが発生した場合、まず透析施設のスタッフに相談することが重要です。特に狭窄や閉塞の場合は、シャントPTA(経皮的血管形成術)という治療が行われます。これは、カテーテルで血管内にバルーンを挿入し、狭くなった部分を広げる治療法です。
 
感染症の場合は、早急な治療が必要です。放置すると大出血や全身感染のリスクが高まるためです。自己血管の場合は感染部分を閉じて新たなシャントを作成し、人工血管の場合は感染部分を摘出して交換する必要があります。
 
スチール症候群や重度の静脈高血圧症の場合は、場合によってはシャントの閉鎖が必要となることもあります。
 

予防のポイント

シャントトラブルの予防には、日常的な自己管理が重要です。以下のポイントを意識して生活しましょう。
 

  • ●シャント側の腕での血圧測定を避ける
  • ●重い荷物をシャント側の腕にかけない
  • ●腕時計やきつい衣服でシャントを圧迫しない
  • ●毎日シャント音を確認する習慣をつける
  • ●シャント部の清潔を保つ

 
また、定期的な診察やシャントエコー検査を受けることで、トラブルの早期発見につながります。特に透析時には、スタッフにシャントの状態をよく観察してもらうことが重要です。
 
 

長期的なシャントの管理

シャントは一度作製しただけでは安心できません。日々の適切なケアと定期的な検査によって、その機能を長期間維持することが可能です。この章では、長期的なシャントの管理に必要なポイントを解説します。
 

定期検査の重要性

シャントを長く機能させるためには、定期検査が欠かせません。シャントには狭窄や閉塞といったトラブルが発生するリスクがあり、早期発見がその対策の鍵となります。具体的には、シャント音の確認や血管エコー検査が重要で、これにより血流の状態や異常の兆候を見つけることができます。
 
また、透析時に医療スタッフが異常を感じた場合は、速やかに追加検査を行う体制が整っていると安心です。患者自身も「いつもと違う」と感じたら、ためらわずに医師に相談することが重要です。こうした定期的な検査は、シャントトラブルを未然に防ぎ、快適な透析生活を支えます。
 

かかりつけ医との連携

シャントの状態を維持するには、かかりつけ医との連携が大きな役割を果たします。日常的にシャントの状態を観察するのは患者自身ですが、そのサポートを行うのが医療機関です。透析を担当する医師はもちろん、シャントのトラブルに特化した「シャント外来」を設けている病院との定期的な相談が推奨されます。
 
特に、シャント狭窄や感染などの兆候が見られた場合には、専門医の迅速な対応が不可欠です。また、かかりつけ医がシャントの経過を詳細に把握していることで、適切な治療計画を立てやすくなります。医師との連携を密にすることで、シャントの長期的な維持が可能となります。
 
 

まとめ

シャントは透析患者にとって欠かせないライフラインです。その機能を維持するためには、患者自身の注意深い観察と医療機関との連携が重要です。定期的な検査によってトラブルの早期発見を心がけ、シャントを適切に管理することが透析生活を快適にする秘訣です。
 
さらに、かかりつけ医や専門医と定期的に情報を共有し、必要な治療を受けることで、シャントの機能を長期的に維持することが可能です。これらの取り組みによって、透析生活の質を向上させる一歩を踏み出しましょう。
 
 

 シャントに関連する記事はこちら

詳しくはこちら

 
 
 

MYメディカルクリニック渋谷 笹倉 渉医師

監修:MYメディカルクリニック渋谷 非常勤医

笹倉 渉 Dr. Sasakura Wataru

資格

略歴

  • 藤田保健衛生大学医学部 卒業
  • 公立昭和病院
  • 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
  • 北部地区医師会病院麻酔科 科長
  • 2016年 MYメディカルクリニック 医師
一覧に戻る