心電図の左室高電位の意味と原因、スポーツ心臓の左室肥大のリスクを解説
- クリニックブログ
心電図の左室高電位の意味と原因、スポーツ心臓の左室肥大のリスクを解説
「左室高電位ってどんな意味?」と疑問に思っている方もいるのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、心臓の左室が肥大化している可能性を示唆しています。以降では、心電図に関する基礎知識から、左室高電位、左室肥大について詳しく解説します。
心電図の左室高電位とは?
心電図の波形である左室高電位は何を表すのか、また心電図の役割について解説します。
心電図の役割
心電図には、心臓を動かす際に流れる電気に異常がないかを調べる役割があります。電気の流れに異常がある場合は心臓病である可能性があり、見た目や自覚症状の有無だけでは分かりにくい病気も発見可能です。
心電図に記録される波形には種類があり、その波形の特徴を医師が読み取っています。波形の種類は、心房の電気的興奮を意味する「P波」、心室の電気的興奮を意味する「QRS波」、心室興奮の電気的回復を意味する「T波」の3つです。
なお、興奮とは波形が上に尖ったり盛り上がったりするさまをいいます。
波形から読み取れる異常の所見は、リズムと伝導の異常です。リズムでは、速かったり遅かったり、あるいは不安定だったりといった症状を見ます。伝導とは、電気が流れているか、伝わっているかを見ます。
左室高電位の状態とは?
左室高電位とは、心臓の左室の電位が増えていることを意味します。具体的にいうと、R波の上がり具合が通常よりも高かったり、S波の下がり具合が深かったりすると診断されます。
左室高電位が見られる主な原因は、左室の肥大です。左室の肥大は危険な疾患が隠れているケースが多いため、注意しなければなりません。
なお、STの低下が見られない場合は問題ない場合が多くあります。
左室肥大と診断されたら?原因疾患や治療について
左室肥大と診断された場合に考えられる原因疾患をご紹介します。
治療法も併せて解説していますので、参考にしてください。
左室肥大の原因
左室が肥大化する原因疾患には主に以下が挙げられます。
- ●高血圧
- ●大動脈弁狭窄症
- ●肥大型心筋症
では、一つずつ症状や特徴、治療法を解説します。
【 高血圧 】
高血圧とは血管内の圧力が高い状態です。日本では約4,300万人が高血圧だと推測されています。
脳卒中や心臓病といった命を落とすリスクのある疾患を発症させる要因となっており、世界的にも問題視されています。
症状
高血圧はこれといって症状はありません。そのため、血圧測定器で高血圧なのかどうかを知ることが大切です。
なお該当する数値は、収縮期の血圧が140mmHg以上、拡張期が90mmHg以上で、どちらかに該当しているもしくは両方に該当していると高血圧といわれます。
左室肥大になるメカニズム
高血圧が長く続くと、心臓に負担をかけ続ける状態となり左室を肥大化させます。高血圧状態が続けば続くほど肥大化は進行するため、少しでも早く治療することが大切です。
治療
改善のために行う治療は、まず生活習慣の見直しからスタートします。塩分のとりすぎや運動不足は高血圧の要因となるためです。
まずは、食べるものを減塩味噌や減塩醤油といった塩分カットされたものに変えたり、サイクリングやウォーキングといった運動を行ったりと、できることから始めてみましょう。
医療機関での治療としては、血圧を下げる薬の処方です。
【大動脈弁狭窄症】
大動脈弁狭窄症とは、大動脈弁と呼ばれる、逆流などを防ぐためのドアのような役目の弁が狭窄することで起こります。大動脈弁が狭窄することで、心臓が収縮した際に血流が妨げられます。
近年になり、皮膚疾患の乾癬との関連性が報告されました。乾癬の患者は、大動脈弁狭窄症を引き起こしやすくなるという報告です。
症状
大動脈弁狭窄症には先天性のものがあり、症状が現れないタイプの場合は10〜20歳まで無症状です。
進行性の場合、治療を受けずにいると最終的には労作性失神や呼吸困難、狭心症を発症します。加えて、不整脈や心不全を起こす要因であるため、突然死のリスクもあります。
重症レベルの分類について
重症度は以下のように分類されています。
レベル | 心エコー所見の内容 |
---|---|
大動脈弁の最高ジェット速度2~2.9m/秒平均圧較差 < 20mmHg | |
大動脈弁の最高ジェット速度3~4m/秒、平均圧較差20~40mmHg、弁口面積1.0~1.5㎠ | |
大動脈弁の最高ジェット速度 > 4m/秒、平均圧較差 > 40mmHgを超える、弁口面積 < 1.0㎠ | |
大動脈弁の最高ジェット速度 > 5m/秒または平均圧較差 > 60mmHg |
治療
進行を遅延させる有効な治療法はまだ見つかっていません。
なお、症状が出ている場合は手術療法を行います。
【肥大型心筋症】
原因となる病気がないにもかかわらず心筋が肥大化する病気です。
多くの場合は左室が肥大化し、それに伴って左房から左室へ血液を受け入れる働きが妨げられます。5年生存率は91.5%、10年生存率は81.8%と比較的高いです。
しかし、若い方の死因として突然死が多い傾向にあります。
症状
基本的に無症状、もしくは少しの不調を感じるくらいです。そのため、検診で心臓の音を聞いてもらい心雑音が見つかったり、心電図検査で異常が見つかったりして初めて知る方が多くいます。
遺伝性について
肥大型心筋症には遺伝性があることが分かっています。よって、両親や祖父、祖母など家族に発症者がいる場合は、ご自身にも遺伝している可能性があります。
さらにいうと、ご自身のお子様にも遺伝するリスクがあることも念頭に置いておかなくてはなりません。
治療
治療は、β遮断薬やベラパミルといった薬物療法、ペースメーカーの植え込みといった方法で行います。
加えて、長距離マラソンや陸上などの激しい運動はしてはいけません。スポーツをしている方は制限がかかる可能性があるため、医師の指示に従ってください。
進行すると命に関わる
左室肥大は、進行すると心不全を起こすリスクがあります。
心不全は早期発見しなければ命を落とす恐れがある危険な疾患です。加えて、脳血管障害の発症頻度の増加、心室性の不整脈や心筋梗塞、突然死のリスクを高めます。
スポーツ心臓の左室肥大のリスク
スポーツ心臓で発症する左室肥大のリスクについて解説します。
スポーツ心臓とは?
スポーツ心臓とは、スポーツの習慣がある方に見られる心電図の波形異常です。スポーツによる心臓の動きに合わせるため、生理的な心肥大が見られるのが特徴です。
しかし、激しい運動が原因による機能的冠不全や心筋の病理変化も一部で指摘されています。
スポーツ心臓によって起こる左室肥大のリスク
スポーツ心臓は、肥大型心筋症や大動脈弁狭窄症による左室肥大ではないため、リスクがないと考えられます。
しかし、スポーツをしている方の突然死は肥大型心筋症によるものが多くあり、スポーツ心臓だと思われていたものが実は違ったというパターンもあります。
とはいえ、違いはあるためしっかり診察すれば鑑別は可能です。
まとめ
左室肥大は命を落とす疾患が原因となっている場合があるため、左室高電位が認められた場合は精密検査を受けることをおすすめします。特に、若い方は突然死につながるケースがあるため、早めに検査を行いましょう。
左室肥大に関連する記事はこちら
略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師