人食いバクテリアはどうやって感染する?劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因や症状、治療と予防について解説

  • クリニックブログ
2024/05/01

人食いバクテリアはどうやって感染する?劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因や症状、治療と予防について解説

ニュースなどで「人食いバクテリア」という言葉を耳にしたことがある人は多いのではないでしょうか。バクテリアと呼ばれていますが、正式名称は劇症型溶血性レンサ球菌感染症という、致死率の高い細菌感染症です。
 
実は劇症型溶血性レンサ球菌感染症の報告数が増加傾向にあるといわれています。「人食いバクテリアって一体何?」「人食いバクテリアにかかったらもう治らない?」「人食いバクテリアってどうやって感染する?」という不安、疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
 
今回は、人食いバクテリアの原因や感染経路、人食いバクテリアの恐ろしい症状、人食いバクテリアの治療と予防について解説します。

 

人食いバクテリアとは

人食いバクテリアとは、劇症型溶血性レンサ球菌感染症という細菌感染症のことです。主な病原体とされるのはA群溶血性レンサ球菌で、発病から一気に進行するのが特徴です。
 
人食いバクテリアと呼ばれるものの、細菌が本当に人を食べるわけではありません。劇症型溶血性レンサ球菌感染症では、細菌から出された毒素により壊死性筋膜炎が引き起こされ、皮膚・筋肉・脂肪などの組織が液状化して壊死してしまい、真っ黒な状態になります。進行スピードが速く、液状化する状態がまるでバクテリアに食べられたかのようであることから、メディアでは劇症型溶血性レンサ球菌感染症は人食いバクテリアと報じることがあるのです。

 
 

人食いバクテリアは日本で増加傾向に

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、1987年にアメリカで初めて報告されて以降、日本では典型的な症例として1992年に報告されたといわれています。東京都感染症情報センターの「劇症型溶血性レンサ球菌感染症の流行状況(東京都2024年)」によれば、年別報告数推移において、2023年は過去10年で最も劇症型溶血性レンサ球菌感染症の報告数が多かったとされています。
 
そのため、メディアで取り上げられることも多く、「人食いバクテリア」という名前を耳にした方も多かったのではないでしょうか。

 
 

人食いバクテリアの原因・感染経路

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の主な病原体とされるのは、A群溶血性レンサ球菌という細菌です。A群溶血性レンサ球菌は喉や皮膚に見られる細菌で、扁桃炎や皮膚炎などを引き起こすことが多く、重症化することはそれほど多くありません。
 
しかし、このA群溶血性レンサ球菌が血液または通常は細菌が存在しない筋肉や脂肪などの組織に侵入することで劇症化し、劇症型溶血性レンサ球菌感染症が引き起こされます。通常、A群溶血性レンサ球菌の感染経路は皮膚などにできた小さな傷や喉などの粘膜とされています。ただし、実際の感染経路は明らかにならない場合がほとんどです。
 
発症リスクが高いとされるのは糖尿病、慢性疾患、がん、慢性呼吸器疾患などの基礎疾患を持つ人です。ステロイドなど、免疫力を抑制する作用のある薬剤を使用している場合も、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の発症リスクが高まるとされています。
 
また、A群溶血性レンサ球菌による咽頭炎などは、子どもに多く発症します。一方、劇症型溶血性レンサ球菌感染症は子どもから大人まで幅広い年齢層に発症します。「劇症型溶血性レンサ球菌感染症の流行状況(東京都2024年)」の年齢階級別・性別報告数によれば、40代からの報告数が多く、特に70代以降は報告数が多くなります。そのため、免疫力が低下しやすい高齢者は、劇症型溶血性レンサ球菌感染症に注意が必要です。


 
 

人食いバクテリアの症状

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の初期症状は、手足の痛み・腫れ、高熱、血圧低下、めまい、錯乱状態、広範囲の紅斑、傷口やその周りを押すと強い痛みがあるなどがあります。中でも手足の急な痛みは代表的な初期症状です。
 
発病から進行が非常に急激で劇症であるため、数十時間で筋肉や脂肪などが急速に破壊される壊死性筋膜炎、腎臓・肝臓・肺などの機能が急激に低下する多臓器不全などが引き起こされます。その進行スピードは1時間で数センチとされ、最終的に敗血症などにより命を落とす危険性があります。


 
 

人食いバクテリアの診断

上記の症状とともに、血流が悪化して組織に酸素が運べなくなるショック症状、生命維持に必要な臓器のうち2つ以上の機能が低下する多臓器不全が発生している場合、劇症型溶血性レンサ球菌感染症が疑われます。さらに細菌検査を行い、通常は無菌的である血液、脳脊髄液、胸水、腹水などから毒性の強い溶血連鎖球菌が検出された場合、劇症型溶血性レンサ球菌感染症と診断されます。
 
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は感染症法における5類感染症であり、診断された場合は医師により7日以内に保健所に届け出ることが義務付けられています。


 
 

人食いバクテリアの治療法

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は細菌感染症であるため、治療では抗菌薬の投与が行われます。第一選択薬となるのはペニシリン系薬とされますが、他の薬を使用する場合もあります。
 
劇症型溶血性レンサ球菌感染症により血圧が低下しているケースでは、点滴や輸血を行います。また、ダメージを受けたりすでに壊死してしまったりした組織にはA群溶血性レンサ球菌が生息しています。さらなる組織の壊死や多臓器不全などを防ぐために、外科手術により壊死した組織を切除することも必要です。


 
 

人食いバクテリアを予防するために

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は細菌による感染症です。そのため、まずは感染症対策をしっかり行いましょう。帰ってきたら手洗いうがいをする、マスクを着ける、アルコール消毒をするといった一般的な対策をまずは実施してみてください。
 
免疫力アップも感染症対策としては効果的です。生活習慣の改善や食生活の見直し、禁煙やアルコールの過度な摂取を控えるなどを実施してみましょう。侵入経路の一つに傷口もありますので、傷に対する管理もしっかり行いましょう。


 
 

まとめ

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は人食いバクテリアとも呼ばれ、まるでバクテリアに身体が食べられたかのような症状が急速に進行するのが特徴です。とにかく早く治療することが命を守ることにつながりますので、もし強い喉の痛み、高熱、手足の痛みなどがある場合はすぐに病院を受診しましょう。


 

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MYメディカルクリニック渋谷 笹倉 渉医師

監修:MYメディカルクリニック渋谷 非常勤医

笹倉 渉 Dr. Sasakura Wataru

資格

略歴

  • 藤田保健衛生大学医学部 卒業
  • 公立昭和病院
  • 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
  • 北部地区医師会病院麻酔科 科長
  • 2016年 MYメディカルクリニック 医師
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