ARDSはどんな病気?その原因・症状や重症度の分類と治療法について解説
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ARDSはどんな病気?その原因・症状や重症度の分類と治療法について解説
ARDSは急性呼吸窮迫症候群のことで、単一の病名ではありません。さまざまな原因によって肺が損傷してしまい、息が苦しくなるなど重症の呼吸不全の総称です。多くの人にとっては聞き慣れない言葉かもしれませんが、敗血症や肺炎、さらに新型コロナウイルスなどの疾患によって引き起こされ、誰もが発症するリスクがあります。「ARDSは何が原因でなる?」「ARDSはどんな治療をする?」など疑問を持つ方もいることでしょう。
今回は、ARDSとは何なのか、原因や症状、診断方法や重症度の分類、ARDSの治療法について解説します。
ARDSとは
ARDSとは、急性呼吸窮迫症候群のことです。「Acute Respiratory Distress Syndrome」を略してARDSと呼びます。ARDSは単一の病名のことではなく、先行する基礎疾患または外傷などが原因によって生じる、重症の呼吸不全の総称です。たとえば、肺の内部に肺炎や敗血症、高度の熱傷、多発外傷、新型コロナウイルスなどによって引き起こされます。
肺の機能が低下して重度の呼吸障害が生じることから、命にかかわる危険性が高い病気です。原因がさまざまであることから、肺疾患がある方だけでなく、肺にまったく異常がなかった方でも発症する可能性があります。
ARDSの原因
ARDSは重度の呼吸不全の総称であり、肺を損傷するさまざまな病気や外傷が原因になる可能性があります。何らかの原因により肺の損傷が起きると、肺の内部に浸出液などの液体が溜まってしまいます。そのため、酸素を正常に取り込めなくなり、呼吸不全が引き起こされます。また、血液中の酸素レベルが低下するため、全身の臓器や組織に多大な影響を与えてしまいます。
では、ARDSの原因にはどのようなものがあるのでしょうか。以下でいくつか解説します。
敗血症や肺炎
ARDSは多くの場合、敗血症や肺炎が原因で引き起こされます。全身性感染症である敗血症になることで、間接的に肺へ損傷を与えてしまい、ARDSが発症します。肺の中に細菌・ウイルスが侵入する肺炎は、直接的に肺を損傷させることでARDSを引き起こします。
敗血症について詳しくはこちら
その他の原因
ARDSはそのほとんどが、間接的なものとして敗血症、直接的なものとして肺炎が原因となります。ですが、敗血症・肺炎以外にも、ARDSを引き起こす原因となる疾患や外傷は数多く存在しています。たとえば、以下のようなものが、ARDSを発症させる原因です。
- ● 熱傷
- ● 胸部の外傷
- ● 有毒ガスや大量の煙の吸入
- ● 酸性である胃内容物の誤嚥
- ● 高濃度の酸素吸入
- ● 薬物の影響(ヘロイン、メサドン、アスピリンなど)
- ● 肺塞栓症
- ● 膵炎
- ● 肺炎
- ● 脳卒中
ARDSの症状
ARDSを発症すると、さまざまな症状が引き起こされます。
症状が出るまでの期間
ARDSは、原因となる疾患や怪我が生じてから、24~48時間ほどで発症することがほとんどです。しかし、症状が出るまでに数日かかるケースもあります。
呼吸に関する症状
ARDSの初期症状は、肺の機能が低下することから息切れが見られようになり、呼吸が浅く速くなってきます。さらに、肩を使って呼吸をしたり、聴診器をあてることで呼吸時にゼーゼーと音がする喘鳴や水泡音が聞こえるようになってきます。
これは、ARDSによって肺機能が低下することが理由です。肺がうまく働くなることで代償的に呼吸回数を増やし、酸素を取り込もうとすることで呼吸に関する症状が引き起こされます。
その他の症状
ARDSを発症すると、血液中の酸素レベルが著しく低下します。そのため、皮膚に青みが出たり唇が紫色っぽくなったりするチアノーゼの症状が見られるようになります。また、口の中や目の周囲、爪の色が白っぽくなることもあります。
さらに、血液中の酸素レベルが低下することで、各臓器が機能不全に陥ることから、不整脈や錯乱、眠気といった症状が出てくる場合もあります。
ARDSの診断方法や重症度
ARDSは、血液中の酸素レベルの検査や胸部X線検査などを実施し、「ベルリン定義」という基準にしたがって診断を行います。以下では、ベルリン定義の診断基準やARDSの重症度の分類について解説します。
ベルリン定義
ベルリン定義とは、ヨーロッパの集中医療学会が主体となって作成した基準です。検査によって患者の状態が以下の4つの基準に当てはまる場合、ARDSと判断します。
- 1. 呼吸に関する症状が直近1週間以内に新たに生じた、または症状が悪化した
- 2. CTや胸部X線検査によって、両側左右の肺に異常な影が映し出された(X線の場合、白く映し出される)
- 3. 肺の異常な状態(液体が溜まっている)や呼吸不全の原因が、心不全や輸液負荷だけでは説明できない
- 4. 身体への酸素の取り込みが明らかに悪くなっている(低酸素血症である)
心不全が原因で肺に液体が貯留し、呼吸が苦しくなることもあります。肺に液体が溜まる原因が心不全であることを除外するため、血液検査やエコー検査(超音波検査)なども含め、さまざまな検査を総合的に実施します。場合によっては肺の組織を採取して調べる肺生検を行うこともあります。
心不全について詳しくはこちら
重症度の分類
ARDSの重症度は、血液中の酸素レベルとそのレベルに達するために、どれだけの酸素を投与する必要があるのかを比較するP/F(ピーエフ)比という指標によって分類します。ピーエフ値が一定以上に高ければ軽症、次いで中等症、最もピーエフ値が低い状態が重症とされます。
ARDSの治療法
ARDSの治療は、原因の治療・薬物療法・呼吸療法・その他の治療に大きく分けられます。
基礎疾患の治療
ARDSを改善するためには、まず原因となった疾患や外傷の治療を行います。たとえば、感染症である敗血症や肺炎が原因でARDSが引き起こされた場合は、抗菌薬を用いて原因疾患を改善することが第一に行われます。
薬物療法
ARDSそのものの治療、または苦しくなった呼吸を補助するために、薬物を用いて治療します。ARDS薬物療法で推奨されるのは、少量のステロイドです。ステロイドは炎症を抑えて免疫を抑制する作用があります。ARDSは肺に炎症が起きることで引き起こされるため、ステロイドの投与が効果的であると考えられています。
中等症から重症であると判断される場合は、筋弛緩薬の使用も検討されます。患者の自発呼吸する力を弱め、人工呼吸器に呼吸を任せるようにすることで、呼吸を安定させて管理しやすくするためです。
呼吸療法
ARDSは、肺が損傷することで呼吸がしにくくなるなどの症状が出ます。そのため、まずはスムーズに呼吸できるようにすることが大切です。鼻にチューブを挿れる高流量鼻カニュラ酸素療法や酸素マスクを用いることで酸素投与や呼吸の補助を行います。
また、人工呼吸器を使用する場合、肺が膨らみすぎる・圧がかかりすぎると肺が傷つく人工呼吸関連肺傷害が起こる可能性があります。そのため、人工呼吸器を使用する場合は呼気終末陽圧(PEEP・ピープ)という圧を調整します。適切にピープを設定して正しく人工呼吸管理を行うことで、肺が傷つくリスクを最小限に抑えられます。
他にも、人工呼吸管理中に患者が苦しくならないために鎮痛管理をしたり、うつぶせ寝による呼吸管理をしたりもします。
その他の治療法
他にも、早い段階でリハビリを行うと、人工呼吸管理の期間短縮などに効果的とされています。ベッドの端に座り姿勢を保持する、補助具を用いて歩くといった練習をします。
た、人工呼吸管理実施中は、鼻からチューブを入れて栄養剤を投与する栄養療法を行うこともあります。
まとめ
ARDSは、さまざまな原因によって肺が損傷を受け、それにより重症の呼吸不全をきたす疾患の総称のことです。多くの場合、敗血症や肺炎が原因となりますが、熱傷や外傷、新型コロナウイルスなどが原因となることもあります。肺疾患の有無にかかわらず、誰もが発症する可能性があります。
ARDS発症後の予後を良くするためには、適切な診断とともに、迅速かつ適切な治療が必要です。呼吸に何らかの違和感・異常があれば、速やかに病院を受診して医師の判断を仰ぎましょう。
略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師