ポリオ(急性灰白髄炎)とは?小児の病気?感染する前にワクチンで予防!
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ポリオ(急性灰白髄炎)とは?小児の病気?感染する前にワクチンで予防!
ポリオは、日本では珍しい感染症ですが、中近東やアフリカでは現在でも多くの方が感染しているウイルスによる病気です。
主に小児が感染しますが、ポリオが発生している国に渡航歴がある大人も感染します。
この記事では、ポリオがどのような病気で、どのように感染するか、症状や治療法、さらに小児が感染しないように予防接種が受けられる場所やスケジュールについても解説します。
中近東やアフリカに旅行計画や、妊娠中の女性や小児の両親は最後まで読んで、ぜひ参考にしてポリオに感染しないように予防してください。
ポリオ(急性灰白髄炎)はワクチンで予防できる主に小児のウイルス疾患
ポリオは、別名急性灰白隨炎という感染症で、主に小児が感染しますが重症化すると小児麻痺になることもあります。
しかし、ポリオはワクチンの有効率が高く、予防ができるウイルス疾患です。
ポリオはウイルス感染で主に小児がかかる病気
ポリオという名前を聞いたことがありますか?
急性灰白隨炎という感染症で、別名を脊髄性小児麻痺ともよばれ、主に小児が感染する疾患です。
日本では乳幼児の頃にワクチン接種を受けるため、日本ではほとんど感染者がみられない感染症です。
ポリオにかかると小児麻痺になることもある
ポリオは、急性麻痺がおこる感染症です。
ポリオウイルスに感染すると、ほとんどは発症しませんが、発症者は感染者全体の5%程度で、そのうち1~2%の感染者が髄膜炎になって麻痺が残り後遺症になるといわれています。
ポリオの疫学
ポリオは、WHOが根絶を目指している感染症の一つです。
西太平洋地域では2000年に根絶宣言が出され、ヨーロッパでも減少が見られています。
世界的には減少傾向にありますが、アフリカ、南アジア、東アジアなどでは依然として発症が見られます。
日本では1940年代に流行が始まり、全国各地で感染者が続出しました。
1960年には北海道を中心に5,000名以上が感染し、大規模な流行が発生しました。
そこで、1961年に経口生ポリオワクチンが認可され、国民に一斉に投与されたことで、流行は収束しました。
1980年には1型ポリオの感染が報告されましたが、その後は野生型ポリオウイルスによる麻痺は確認されていません。
日本では、根絶宣言に向けて、1998年5月1日から発生動向調査が実施されました。
さらに、1999年1月から2000年3月までの間にギランバレー症候群を含む急性弛緩性麻痺(AFP)患者全員に対して2回の便検査が行われ、ポリオウイルスが検出されないことが確認されました。
その結果、日本国内でのポリオ患者の不在が確認され、国際的にも根絶が認められたのです。
ポリオ(急性灰白髄炎)とは?感染経路について
ポリオはどのように感染するのでしょうか?
感染経路や大人も感染するのかについて理解しましょう。
ポリオは日本では珍しい感染症ですが、中近東やアフリカに渡航予定がある方は注意が必要な感染症です。
ポリオウイルスはどのように感染するの?
ポリオの感染者はほとんどが乳幼児です。
ポリオウイルスが口の中に入り、咽頭や腸の中でウイルスが増加したポリオウイルスが血液中に入ります。ポリオウイルスは感染者の便から他の方に移ります。
咽頭で増加したポリオウイルスは、発症後1週間するとつばなどの咽頭分泌液にはみられなくなりますが、便中に排泄されたウイルスは、症状の発症後も数週間にわたりウイルスを排泄するので感染源になります。
ポリオウイルスは、エコーウイルス、コクサッキーウイルスと同じエンテロウイルス属に該当します。
宿主がヒトのみであり、犬やコウモリなどといった動物や哺乳類から感染することはありません。
感染すると、ウイルスはリンパ節から血液に侵入し、脊髄を中心とする中枢神経系へと移動します。
神経系を侵し破壊することで、運動機能などに影響を与えます。
ポリオウイルスの不活化に効果的なのは、熱、ホルムアルデヒド、塩素、紫外線です。
アルコール消毒では効果がないため注意しなければなりません。
ポリオは18世紀頃から流行の記録があり、1950年代までは世界的な流行が見られましたが、不活化ワクチンや生ワクチンの開発により、現在は感染者が大幅に減少しています。
ウイルスの検出には便検査が用いられます。ウイルスは便を通じて数週間にわたり検出されるため、トイレの使用による家庭内感染に注意が必要です。
大人もポリオに感染することはある?
中近東やアフリカに感染者が多く、日本では珍しい感染症のポリオですが、これらの国に渡航歴がある大人が感染することもあります。
渡航前ワクチンについてはこちら
ポリオ(急性灰白髄炎)の症状や症状別の治療法
ポリオの症状や治療法はどのようなことをするのでしょうか?
初期症状や治療についても理解が必要です。
ポリオは感染後3~35日以内に現れる症状はさまざま
ポリオに感染して症状が現れるのは感染者全体の約5%で、数日から1ヶ月程度の潜伏期間の後、初期症状が現れます。
<初期症状>
- ● だるさ
- ● 背中の痛み
- ● 首の後ろの痛み
その後、風邪のような初期症状が1~10日程度続きます。
- ● 発熱
- ● 頭痛
- ● のどの痛み
- ● 吐き気
- ● 嘔吐
初期症状の後、1~7日程度の期間をあけて腸管に入ったウイルスが脊髄に入り込み、筋肉痛、手足のだらんとした麻痺(弛緩性麻痺)が現れ、一生麻痺が残ることもあります。
呼吸困難の症状が現れた場合には、最悪死に至ることもあります。
ポリオの診断方法
ポリオの確定診断には便検査がもっとも有効です。
補助的な検査として、咽頭拭い液や髄液、直腸拭い液に対するPCR検査が行われますが、特に髄液からの検出率は低いため、便検査が重要となっています。
ウイルス検出には時間制限があり、発症からできるだけ早く、24時間以上間隔を空けて2回の糞便採取が必要です。
咽頭分泌液の検出可能期間は約1週間、糞便では約2週間です。
血清中和抗体を用いた診断では、急性期と回復期のペア血清で抗体価が4倍以上上昇している場合、ポリオ感染が確定されます。
ただし、この方法では発症初期からすでに抗体価が上昇していることがあるため、上昇の程度が判断できず、診断に適さない場合があります。
治療は症状に応じた対症療法
ポリオの治療には、ポリオそのものを治療する特効薬がないため、それぞれの症状をやわらげるための対症法しか治療法が確立されていません。
そのため、もっとも重要なのは感染を防ぐことです。
流行地域に渡航予定の方は、必ず徹底した感染対策を行ってから出発するよう心がけましょう。
呼吸障害を起こした場合の治療法
ポリオは呼吸障害を引き起こすことがあります。
このような場合、気管切開や挿管、あるいは補助呼吸といった挿管管理が行われます。
呼吸障害を根本的に改善するための手術や内服薬はなく、対症療法が中心となります。
小児麻痺を起こした場合のリハビリテーション
小児麻痺を起こした場合のリハビリテーションでは、以下のことが行われます。
- ●運動療法
- ●言語療法
- ●日常生活動作訓練
- ●装具の使用
- ●両親や家族によるサポート
では、一つずつ解説します。
運動療法
運動療法は、脳性麻痺による運動障害に対して行うリハビリテーションです。
具体的には、以下のような内容を実施します。
- ●基本的な動作を可能にするためのリハビリ
- ●日常生活で必要な動作を行えるようにするリハビリ
- ●成長に伴い発生する痛みや変形の予防、対策を目的としたリハビリ
脳性麻痺では、思いどおりに体を動かすことが難しくなります。
しかし、リハビリを続けることで少しずつ動作が改善されることもあります。
ただし、無理に動かそうとするのは危険であり、筋肉を徐々に鍛えながら動作範囲を広げることが大切です。
最終的には、日常生活に支障がない程度の動きができることを目指しますが、麻痺の程度によって達成できるレベルが異なります。
重度の場合は、可能な限り最大限の機能を引き出すことが目標となります。
言語療法
言語療法では以下のようなリハビリを行います。
- ●言語を話すためのリハビリ
- ●発達障害のリハビリ
- ●食事のトレーニング
脳性麻痺では、舌、顎、唇などの動作がうまく制御できず、発話が困難になることがあります。
これらの機能を改善し、コミュニケーション能力を向上させるリハビリを行います。
また、発達障害による記憶や理解の困難に対応するため、道具を使ったトレーニングも実施します。
さらに、誤嚥や飲み込みの困難を改善するための食事トレーニングも重要です。
日常生活動作訓練
日常生活動作訓練では、着替えやトイレ、入浴など日常の動作を練習します。
お子さまの成長に合わせ、楽しく取り組めるような訓練を行い、できることを増やしていきます。
運動療法が基本的な動作のトレーニングであるのに対し、日常生活動作訓練はその応用編と考えられます。
成長に合わせて手先の細やかな動きにも挑戦し、ハサミの使い方や文字や絵を描くトレーニングも行います。
装具の使用
装具には、関節の変形を予防するものや動きをサポートするものがあります。
小児麻痺は、進行すると手足の機能がさらに低下することがあり、歩行が一層困難になる場合があります。
そのため、装具を使って歩行をサポートしたり、拘縮による手足の変形を予防したりする必要があるのです。
両親や家族によるサポート
リハビリを行う上で、発達のためのトレーニングを、お子さま自身が進んで行いたいと思うことが大切です。
リハビリには、できないことへの悔しさや痛みなどが伴い、精神的な負担が大きくかかります。
そのため、努力を認めたり、楽しくトレーニングできるような働きかけをしたりと、環境の整備が必須です。
指示や指摘ばかりではなく、時にはそっと見守ることも大切です。
ポリオ(急性灰白髄炎)を予防する方法とは?
ポリオは乳児の期間にワクチン接種を開始することで予防ができる感染症です。
ワクチンには生ワクチンと不活化ワクチンの2種類があり、それぞれの投与方法や副作用、リスクが異なります。
ポリオワクチンの種類
それぞれのポリオワクチンの特徴を解説します。
生ワクチン
ポリオの生ワクチンは、経口で摂取できるワクチンです。
以前は日本でも生ワクチンを使用して予防接種を行っていましたが、2012年8月末から現在まで使用されていません。
海外では依然として使用している地域があります。
注射を必要としないため、注射が苦手なお子さまでも接種しやすいのが利点です。
しかし、一部では小児麻痺を引き起こすリスクがあることが問題視されています。
不活化ワクチン
不活化ワクチンは、注射で接種することで感染や発症を防ぐワクチンです。
2012年9月1日から、生ワクチンに代わって定期接種として使用されています。
注射に対する恐怖心を抱くお子さまもいますが、小児麻痺を発症するリスクがないという大きな利点があります。
ただし、公的な健康被害の救済制度が存在しないのが欠点といえます。
副作用として、発熱や下痢が報告されることがあります。
ポリオのワクチンから発症する可能性
現在の日本では、ポリオワクチンによってポリオを発症するリスクはありません。
現在使用されている不活化ワクチンは、ウイルスの毒性が完全に除去されているためです。
しかし、海外で経口型の生ワクチンを接種する場合、生ワクチンがわずかに毒性を保持しているため、小児麻痺を引き起こす可能性があります。
ポリオウイルスの感染による「ポストポリオ症候群」とは
ポリオウイルスが原因により「ポストポリオ症候群」を発症する可能性があります。
どのような病気なのか、以下で詳しく解説します。
ポストポリオ症候群とはどんな病気?
幼少期にポリオを経験した方が、年月を経て筋力低下や痛みを再び感じる病気です。
日本ではポリオ経験者の75%と発症する確率が高く、高齢化が進むのに伴いさらに増加する可能性があります。
ポストポリオ症候群は、50~60歳ごろに症状が現れることが多く、一度ポリオを経験した方が、その後二次的な影響として発症します。
男性にやや多い傾向があります。
感染から発症までの経過
ウイルスの感染から発症するまで、以下の流れとなっています。
- 1. ポリオ急性期
- 2. ポリオ回復期
- 3. 安定期
- 4. ポストポリオ症候群の発症
では、どのような経過をたどるのか解説します。
ポリオ急性期
何かしらの原因で脊髄前角細胞にウイルスが感染し、一部の運動ニューロンが破壊される時期です。
この段階では、手足や呼吸器に関連する筋肉などが麻痺を起こし、歩行困難や嚥下障害といった症状が引き起こされます。
ポリオ回復期
回復期に入ると、生き残った運動ニューロンが新たに発芽し、再び筋肉を支配することで、ある程度筋力が回復します。
しかし、ニューロンが残っていない場合には、重度の麻痺が残り、筋力の回復は見られません。
安定期
安定期とは、筋力が回復し麻痺がある程度緩和された状態が続く数十年間の期間を指します。
個人差があり、数十年持続しない場合もあります。
ポストポリオ症候群の発症
安定期の間に、かつての運動ニューロンが再度負荷にさらされ、機能不全や死滅が進むことで、筋力低下が再発することがあります。安定期の過ごし方によっては、ポストポリオ症候群の発症を遅らせる可能性があります。
発症要因とは?
ポストポリオ症候群の発症には、以下のような要因が関与しています。
- ●年齢を重ねることによる体の老化
- ●過重労働
- ●体重増加 など
特に、一度ポリオを経験した方には頑張り屋の性格の方が多く、無理をしがちであるため、発症リスクを高めてしまうと考えられています。
予防策としては、後遺症がある手足に過度な負担をかけないことが重要です。
50歳以上になり筋力トレーニングを始めたり、スキーや登山などを行ったりしたことを要因として発症した事例がいくつかあります。
強い負荷をかけない程度に全身を適度に動かし、ストレス発散になる趣味を楽しむことが予防に役立ちます。
また、栄養バランスの良い食事も効果的です。
症状について
ポストポリオ症候群に見られる症状には以下があります。
- ●歩行速度低下
- ●連続歩行距離減少
- ●疲労感増強
- ●転倒
- ●ふらつき
- ●痛み
- ●しびれ
- ●冷感の増加
見た目の症状としては、片側の筋肉が萎縮したり、脚の長さが左右で異なったり、足首が内側に傾いたりすることがあります。
これらの症状は、脊柱管狭窄症や変形関節症などの他の疾患と類似しているため、鑑別診断が必要です。
治療法について
ポストポリオ症候群の治療法には以下の3つがあります。
- ●運動療法
- ●生活指導
- ●薬物療法
では、一つずつ解説します。
なお、完治させる治療方法はなく、対症療法となります。
運動療法
運動療法が行える症状は、筋力低下や腱や関節、筋肉などに関わる痛み、肥満、疲労、呼吸機能障害です。
特に後遺症がある部位の使いすぎがリスク因子となるため、負担をかけない範囲での運動が推奨されます。
治療は個別対応で、症状や状態に応じた運動プログラムを作成します。
運動中は適度に休憩を挟み、過度な負荷を避けるよう配慮することが重要です。
生活指導
生活指導は、体重増加や肥満、運動不足を予防するために行います。
指導の前に機能や能力の確認を行うほか、生活環境や生活状態、仕事などをヒアリングし、日常生活でどのくらいの活動量があるのかを把握します。
特に50歳以上では代謝が低下し、体重増加や肥満のリスクが高まるため、食事量やカロリー摂取の管理、適度な運動を提案します。
薬物療法
薬物療法は、筋肉痛や関節痛に対する鎮痛を目的とします。
鎮痛剤や湿布を使用して痛みを緩和し、炎症が見られる場合には非ステロイド系抗炎症薬を処方します。
まとめ
ポリオは日本では稀な感染症なので、診断や治療ができる医療機関を探すのが困難な病気です。
しかし、中近東やアフリカでは感染する方も多く、人から人へウイルス感染をするリスクもあります。
小児がポリオに感染すると小児麻痺や、最悪の場合は死に至るリスクもあるために、生後3ヶ月から予防接種が受けられます。
大人も感染するリスクがあるので、ポリオについて知識を備えて、大切な家族を守るために小児には予防接種、大人も感染対策を行うことが大切です。
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略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師