人が狂犬病に感染しても速やかな治療で助かる可能性

  • クリニックブログ
2023/11/13

人が狂犬病に感染しても速やかな治療で助かる可能性

これから海外に旅行や出張をする予定の方が気をつけなければならないのが、狂犬病の存在です。
 
狂犬病は、昔から発症すると命を落とす確率が高い恐ろしい病気といわれてきました。
たしかに発症すると危険ですが、予防をしたり感染後にすみやかな治療を受けることにより、命が助かる可能性は高くなります。
 
そこで本記事では、狂犬病の概要、予防法と治療法について解説します。
海外へ渡航する予定のある方は、ぜひ参考にしてください。

海外旅行の際に気をつけるべき病気
 
 

狂犬病とは

狂犬病とはどのような感染症なのか、特徴や発症原因、感染経路を解説します。
 

狂犬病とは

狂犬病はすべての哺乳類が感染し得ることで知られる感染症です。
感染予防法において「第4類感染症」に指定されています。
狂犬病ウイルスの感染が原因であり、発症すると致死率は約100%にものぼります。
感染源となる主な動物は、犬や猫、コウモリなどです。
 
それほど遠くない昔に発見された病気とイメージしている方もいらっしゃいますが、実はそうではありません。
 
紀元前2300年ごろの時点で、すでに狂犬病は存在していました。
「エシュンナ法典」と呼ばれるシュメールの法律に、狂犬病の犬にかまれたらやがて発症して死亡するという記載があったのです。
 
天然痘を患ったことで有名なエジプトの王「ラメセス5世」の記録よりもはるか昔から狂犬病が存在し、認識されていたことがこの法典から判明しました。
古代と現在ではウイルスの特徴が異なっていたり、遺伝子に変化があったりするかもしれません。
 
しかし、古代よりもはるかに医療が進んでいる現在でも、古代と同様に発症すれば命を落とす恐ろしさは変わっていないのです。
 

感染経路

狂犬病ウイルスを保有する動物の唾液に潜んでいます。
そのため、傷口や目・口といった粘膜部分をなめられたり、咬まれたり、引っ掻かれたりすると感染します。
 
動物から人への感染は認められていますが、人から人への直接的な感染や空気感染はありません。
しかし、過去には角膜移植で狂犬病ウイルスに感染した例があり、絶対に人から人への感染がないわけでもありません。

 

致死率100%の理由は?

狂犬病は致死率が約100%といわれている怖い病気で有名です。
 
しかし、厳密にいえば感染しても発症する前に対処すれば、致死率が格段に下がります。
ほぼ助からない状態になるのは、発症してからです。
ではなぜ、発症すると助からないのでしょうか。
 
理由は、狂犬病ウイルスが脳に感染してしまうためです。
ウイルスを保有している動物にかまれると、まず筋肉にウイルスが入り、その後神経に行きます。
 
神経に到達すると徐々に脳へとウイルスが上がっていき、最終的に生命機能に重要な中枢を破壊するため命を落とします。
 
なお、ウイルスが脳に到達するまでには期間があり、足など脳から遠いところであるほど期間は延びます。
 
発症は脳に到達してからですので、到達していない期間で治療を受けることが、致死率を下げるために重要です。
 

潜伏期間

潜伏期間は、基本的に1~3か月です。
なかには、発症するまで1週間未満から数年を要したケースも確認されています。
 
潜伏期間は1~3か月と猶予はありますが、速やかに治療を受けなければ発症リスクは高くなるため注意が必要です。
 

症状

主な症状は、以下のとおりです。
 

  • ● 発熱
  • ● 頭痛
  • ● 嘔吐
  • ● 倦怠感
  • ● 筋肉痛
  • ● 疲労感
  • ● 興奮
  • ● 不安
  • ● 錯乱
  • ● 幻覚
  • ● 攻撃的状態
  • ● けいれん
  • ● 恐水・恐風症
  • ● 昏睡
  • ● 呼吸停止

 
初期段階は、発熱、頭痛、嘔吐、倦怠感といった風邪のような症状です。
進行し脳が炎症を起こすと、興奮や不安、錯乱や幻覚、攻撃的になる、恐水症・恐風症といった症状があらわれるようになります。
最終的には昏睡状態に入り、やがて呼吸が止まって命を落とします。
 
ちなみに、恐水症とは液体を飲むことで起きる筋肉のけいれんを怖がり、水に恐怖心を覚える症状のことです。
 

治療法

海外で哺乳動物から傷を受けた場合は、すぐに医療機関へ受診し治療を受けてください。
 
ワクチンをすぐに打つことで、発症リスクの抑制が可能です。
暴露後接種とは、受傷後に発症予防を目的としてワクチンを打つことです。
MYメディカルクリニックでは、下記の接種スケジュールとなっております。
 

  • ● 暴露後 接種:5回接種(0、3、7、14、28日)
     ※創部が深かったり紹介状を海外から持ってきたりして途中からの場合には、6回接種(0、3、7、14、30、90日)
  • ● 暴露後【過去に接種を完了している方】:2回接種(0、3日)
     ※1回目接種日を0日とする

 
海外では、接種方法や接種回数が異なることがありますので、ワクチンの種類など情報を確認しておくことが大事です。
また、傷を受けたあとの応急処置として、すぐに流水と石けんで傷口を洗い、消毒液で殺菌して狂犬病ウイルスを弱めましょう。
 

診断

狂犬病は、残念ながら発症前に診断することはできません。
潜伏期間中に診断できる検査方法がまだ見つかっていないためです。
また、発症しなければ見た目などの異変も確認できないため、臨床診断も困難となっております。
 
検査を確定させるには、生検か死亡解剖を行う必要があります。
生検とは病変が疑われる組織の一部を切り取り、顕微鏡でウイルスを探す検査です。

 
 

 狂犬病についての予防接種はこちら

詳しくはこちら

 
 

よく似ているリッサウイルス感染症とは?

リッサウイルスにかかると、狂犬病によく似た症状を引き起こします。
 
症状だけを見れば、どちらに該当するのか鑑別するのはとても困難なほどです。
本章では、どのような点において違いがあるのか解説していきます。
 

リッサウイルス感染症とは?

リッサウイルス感染症は、ラブドウイルス科リッサウイルス属に感染することで発症します。
 
狂犬病と異なり、発症後に回復した例も報告がありますが、発症すると死亡するリスクは高く油断はできません。
そのため、長い潜伏期間中に暴露後ワクチンで対処することが望ましいです。
 

流行地域について

リッサウイルス感染症の流行地域に日本は入っていません。
注意しなければならないのはヨーロッパ、オーストラリア、アフリカ、中央アジア、シベリア、台湾などです。
 
一般の方での発症報告よりもハイリスクとして挙げられているのは、ウイルス検査の研究者、コウモリの飼育者や研究者たちとなっています。
 

病原体について

リッサウイルスは、主に食虫コウモリが宿主のウイルスです。
そのため、基本的にコウモリと接触しなければ感染することはありません。
 
狂犬病とは区別されますが、ウイルスの仲間としては同じであり、似た症状を引き起こすのが特徴です。
 
なお、ウイルスは遺伝子によって14種類に分類されています。
 

  • 1型:狂犬病ウイルス(Rabies virus)
  • 2型:ラゴスコウモリウイルス(Lagos bat virus)
  • 3型:モコラウイルス(Mokora virus)
  • 4型:ドゥベンヘイグウイルス(Duvenhage virus)
  • 5型:ヨーロッパコウモリリッサウイルス1(European bat lyssavirus1 EBLV1)
  • 6型:ヨーロッパコウモリリッサウイルス2 (European bat lyssavirus2 EBLV2)
  • 7型:オーストラリアコウモリリッサウイルス(Australian bat lyssavirus; ABLV)

 
さらにウイルスの種類が7種類あることが報告されています。
 

感染経路について

リッサウイルスは、主に食虫コウモリにかまれたり、引っかかれたり、傷口をなめられたりすることが原因で感染します。
このウイルスはコウモリの唾液中に含まれているため、唾液に接触すると感染を起こすのです。
 
しかし、ウイルスを保有しているコウモリがいる洞窟に入ることで空気感染する可能性も指摘されています。
原因として、コウモリの尿中にはリッサウイルスが含まれており、洞窟内で排尿された尿が揮発する際にウイルスが空気に漂うためだとされています。
 
なお、この空気感染についてはまだ詳しいことが分かっておらず、本当に空気感染があり得るのか、今後も研究する必要があります。
 

症状について

20~90日間の潜伏期間を経た後、狂犬病のように頭痛や発熱、倦怠感といったかぜのような症状が現れます。
 
人によっては、この時点でかまれた部位の痛みや知覚過敏症状が見られます。
進行すると、興奮や精神かく乱、恐水といった中枢神経症状が見られるようになるケースもあるため、見極めるのは困難です。
 
さらに進行すると、筋肉に力が入らないことにより呼吸困難を起こしたり、昏睡状態になったりして命を落とす可能性が高いです。
 
症状の進行は非常に早く、発症してから短くて5日、長くても5週間ほどで亡くなります。
 
なお、症状が改善され助かったという報告もありますが、ごくまれです。
 

診断方法について

狂犬病と同様の症状が発現するため、臨床症状から診断することは困難です。
したがって、確定診断では唾液や亡くなった後の脳の細胞からウイルスを検出します。
 
抗原検査では、角膜塗抹標本、頸部の皮膚や唾液腺などの生検材料を採取して検査する方法、亡くなった後の脳の細胞を採取して検査する方法の3種類です。
 
遺伝子検査の実施も可能であり、唾液や髄液などから検査をするほか、脳の細胞を採取して行われるRT-PCR法があります。
 
また、ウイルスが狂犬病ウイルスと近しい関係性であるため、狂犬病の市販検査薬で抗体検査することも可能です。
この検査薬では、リッサウイルス遺伝子型の1~7まですべて網羅されています。
 
注意しなければならないのは、抗原検査と遺伝子検査の正確性です。
リッサウイルスと狂犬病ウイルスとでは、遺伝子の塩基配列が異なるため、正確性をどれだけ上げられるかが課題となっています。
 
そのような背景もあり、近年では遺伝子型特異的なプライマーを用いて、リッサウイルスの遺伝子タイプを特定できる方法が開発されています。
 

予防・治療について

現在のところ、リッサウイルスに特化したワクチンはありません。
しかし、狂犬病ワクチンについては発症予防が可能とされています。
 
しかし、ワクチンを打っても発症を完全に予防できるわけではないため、何よりも感染しないことが大切です。流行地に行ったらコウモリに触れない・近づかない、洞窟内に入らない、を徹底しましょう。
 
治療法は、狂犬病同様現在のところ確立されていません。
熱があれば解熱剤を使うなど、対症療法になります。
また、精神的なサポートも必要不可欠であり、医療スタッフはもちろんのこと、ご家族のサポートも重要です。
 
致死率が高い上にこれといった治療法はまだ見つかっていないため、感染しないことに力を入れるべきといえます。
 
 

日本国内・海外の狂犬病発生状況

日本国内と海外の狂犬病発生状況を紹介します。
海外渡航予定の方は、ワクチン接種が必要かどうかの判断材料にもなりますので、ぜひ参考にしてください。
 

日本国内の発生状況

1950年以前の日本では、まだ狂犬病予防法が制定されていなかったため発生していました。
1950年以降になると、狂犬病予防法の施行により犬の登録や予防接種が義務化され、また野犬などの抑留も徹底されました。
 
その結果、わずか7年で発症がゼロになり、現在に至るまで発症は確認されていません。(輸入感染例は除く)
 

海外の発生状況

海外では、未だワクチンが普及していない国では狂犬病の発症が見受けられます。
 
日本以外の自浄国はヨーロッパ、オセアニア地域などほんの一部です。
日本から近い中国や台湾でも発症例があるため、渡航前にはワクチンでの予防が必須といえます。

 
 

油断してはならない!2007年と2020年に発生した日本国内の輸入感染者の事例

日本は自浄国ですので、野良犬に万が一かまれたとしても狂犬病になる可能性はかなり低いです。
しかし、出張先や旅行先の海外でかまれた場合や、海外の犬の輸入や上陸などで狂犬病になるリスクはあります。
本章では、2007年と2020年の報告事例を中心に解説していきます。
 

2006年の報告事例

2006年に、輸入感染による発症例があります。
発症したのは65歳の男性です。
 
2004年から2年間フィリピンに滞在しており、2006年8月末にマニラで友人の飼い犬に右手首をかまれます。
しかし、この男性はワクチンを渡航前もかまれた後も接種していませんでした。
 
そして、仕事のために10月22日に一時的に帰国し、翌月15日から体調不良を感じます。
倦怠感や右肩甲骨痛があり、市販のかぜ薬を飲んでいましたが、同月18日に恐水と思われる症状を発症し受診しました。
 
最初は精神疾患が疑われましたが、渡航歴や犬にかまれた経験から狂犬病の疑いがあり、入院して検査を受けたところ、ウイルスが検出され確定診断が下りました。
 
症状に合わせた治療を行ってきましたが、12月7日に多臓器不全によって亡くなりました。
 

2020年の報告事例

2006年の輸入感染から14年ぶりの2020年にも、狂犬病の輸入感染が確認されました。
発症したのは、30代の外国籍の男性で、この方もフィリピンに滞在していました。
 
フィリピンから日本に来日した3カ月後に両足首の痛み、発症2日後に腰痛も現れ鎮痛剤で経過観察していました。
しかし、腰痛を感じた翌日に、日本にはいない妻の幻覚が見えたほか、恐水症状があったそうです。
 
4日後になると、夜中に妻を探し回る異常行動が見られ、さらに翌日には歩行困難になり、7日後に受診しました。
受診当日から脳炎の症状が見られ、さらに恐水症状から狂犬病を疑い、検査を行ったところウイルスが検出され確定されました。
 
症状が少しでも緩和するような治療を行っていましたが、入院27日目に亡くなりました。
 
 

日本に再上陸する可能性とは

日本は狂犬病ウイルスの撲滅に成功している数少ない国です。
しかし、再上陸する可能性があることは否めません。
 

感染者が日本に上陸することによる可能性

狂犬病は人から人への感染は非常にまれですが、確率がないわけではありません。
狂犬病の流行地で感染し、日本に帰国したり来日したりして発症した場合、誰かに感染する可能性があるのです。
 
日本は観光地が多く、さまざまな国の方が来日します。
現在のところ、感染した外国人から日本人に感染した例はありませんが、いつか起こる可能性はあります。
 

海外の動物が日本に来ることによる可能性

荷物のコンテナに感染した海外の動物が混じって日本に上陸したり、書類を偽り感染した動物が輸入されたりする可能性はあります。
 
狂犬病が世界からなくならないことには、日本もいつ動物の輸入により再び流行地になるか分かりません。
 

海外輸入船で飼っている犬の一時的な上陸による可能性

もっとも可能性が高いものとしていわれているのが、海外輸入船で飼っている犬の一時的な上陸による狂犬病の発症です。
 
海外輸入船で飼っている犬が散歩し、近くにいる野犬と接触して日本の野犬に感染し、国内に広がるというシナリオです。
 
 

狂犬病の発生がある国に行く場合はワクチンで接種を

狂犬病が発生している国に出張や旅行でいく場合は、ワクチンで予防することが大切です。
 
むやみやたらに動物に触れない、離れておくことも予防のために大切ですが、たまたま遭遇し、急に襲われてしまう可能性もあります。
そのような可能性も考えると、やはりワクチンでの予防対策が効果的でしょう。
 
以降では、国内で使用されているワクチンや接種にかかる費用を紹介します。
 

国内で使用されているワクチン

国内で使用されているワクチンは、以下のとおりです。
 

症状

主な症状は、以下のとおりです。
 

  • ● 組織培養不活化狂犬病ワクチン
  • ● ラビピュール筋注用
  • ● Verorab®(国内未承認)

 
組織培養不活化狂犬病ワクチンとラビピュール筋注用は、国からの使用承認がおりており、安全性も認められています。
一方で、Verorab®は国内未承認であるため、接種をする際は副作用を起こした際の公的な保証は受けられません。
 
もし、ワクチンを摂取するのであれば、国から認可されたものを取り扱っている医療機関をおすすめします。
 

ワクチンの費用

ワクチンの費用は定価がなく自由診療であるため、医療機関によって異なります。
よって、詳しいワクチンの費用を知りたい場合は、予防接種を受ける予定の医療機関に問い合わせましょう。
 
MYメディカルクリニックでは、1回につき19,800円です。

 
 

まとめ

海外ではまだまだ狂犬病が発症しており、海外旅行や海外出張に行く方は渡航先の情報を知っておく必要があります。
もし行き先が自浄国ではない場合は、ワクチン接種を受けましょう。
 
MYメディカルクリニックでは、渡航前ワクチンを受け付けております。
下記の診察・サービスにて予約できますので、お気軽にご来院ください。


 
 

 当院で取り扱っている各種ワクチンについて詳しくはこちら

詳しくはこちら

 
 

 
 

MYメディカルクリニック渋谷 笹倉 渉医師

監修:MYメディカルクリニック渋谷 非常勤医

笹倉 渉 Dr. Sasakura Wataru

資格

略歴

  • 藤田保健衛生大学医学部 卒業
  • 公立昭和病院
  • 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
  • 北部地区医師会病院麻酔科 科長
  • 2016年 MYメディカルクリニック 医師
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