血液のがん「多発性骨髄腫」とは

  • クリニックブログ
2024/04/26

血液のがん「多発性骨髄腫」とは

多発性骨髄腫は、血液のがんです。年齢の高い方に多い病気ですが、まれに若い方に発症するケースもあります。多発性骨髄腫は骨髄にある形質細胞ががん化するため、骨の痛みが現れやすく、再発しやすいがんでもあります。
 
今回は、多発性骨髄腫の概要と症状、治療法などについてご説明します。

 

多発性骨髄腫とは

多発性骨髄腫では、白血球の中のリンパ球のうち、B細胞から分化した細胞である形質細胞が腫瘍化します。
 
形質細胞には、体内に入り込んだウイルスや細菌などの異物を排除する免疫グロブリンという抗体を作り出す働きがあります。免疫グロブリンはウイルスや細菌から体を守りますが、形質細胞ががん化して骨髄腫細胞になると、異物を攻撃する力を持たない抗体(Mタンパク)のみを作るようになります。この骨髄腫細胞が骨髄の中で増殖し、Mタンパクが蓄積されると体にさまざまな症状を引き起こします。

 
 

多発性骨髄腫の症状

骨髄腫細胞が増加し、Mタンパクが蓄積すると次のような症状が起こります。

貧血・息切れ・動悸

血液の中にある赤血球や白血球、血小板などを血液細胞といい、多発性骨髄腫では骨髄腫細胞が増殖することで、正常な血液細胞を作りにくくなります。血液細胞を作る働きが低下すると赤血球が減少し、動機や息切れ、めまいなどの貧血の症状が表れます。
 

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感染症にかかりやすくなる

血液細胞を作る働きが低下すると、白血球も減少します。白血球が減少するとウイルスや細菌に対する抵抗力が弱くなり、風邪などの感染症にかかりやすい状態となります。
 

出血しやすい

血液細胞を作る働きの低下により、出血を止める役割がある血小板も減少します。そのため、多発性骨髄腫では鼻血や皮下出血、歯茎からの出血などが多くなります。

 

腎障害

Mタンパクが血液中に増加すると、血液はネバネバした状態となります。この状態を過粘稠度症候群といい、血液の循環を悪化させます。尿の中にもMタンパクが排出されると、尿量が少なくなるなどの腎障害を招きます。

 

頭痛や視覚障害

Mタンパクの増加によって血液がドロドロになると、血栓ができやすくなり、頭痛や視覚障害などを招くケースがあります。
 

骨の痛みや骨折

多発性骨髄腫では骨の代謝のバランスが崩れ、骨髄腫細胞は周りの骨を破壊しながら増加します。そのため骨がもろくなり、骨折しやすくなるとともに、全身のいたるところで骨の痛みを感じるようになります。

 

高カルシウム血症による口の渇きや意識障害

骨が破壊されると血液中に大量のカルシウムが流出し、高カルシウム血症となります。高カルシウム血症では口の渇きや、意識障害などの症状を招く恐れがあります。

 
 

多発性骨髄腫の検査法

多発性骨髄腫は次のような検査で診断します。

血液検査

血液を採取し、白血球や赤血球、血小板、免疫グロブリン、Mタンパク、カルシウムなどの数値を調べ、造血機能や骨髄腫の進行度合い、腎機能の状態を確認します。
 

骨髄検査

多発性骨髄腫を含む血液やリンパのがんを診断する際には骨髄の検査が欠かせません。骨髄検査は、腰や胸の骨に針を刺して骨髄液を採取する骨髄穿刺と、骨髄生検によって一部の骨髄組織を採取する方法があります。
 

尿検査

尿中にMタンパクが排出されているかを調べる尿検査も行います。また、尿検査では腎臓の状態も確認します。
 

PETやMRI、CT、X線などによる画像診断

骨の状態や病変の有無を確認するための画像診断を行います。また、CTやMRI、PETなどによって骨髄腫細胞の全身への広がりを調べる画像診断を行うケースもあります。

 
 

多発性骨髄腫の進行度合いと治療

多発性骨髄腫は、骨髄腫細胞の数を減らす治療と症状を抑えるための治療があり、病気の進行度合いによって治療法が異なります。多発性骨髄腫の治療が必要となるのは、高カルシウム血症や貧血、骨折などの症状が表れた場合です。
 
多発性骨髄腫の進行度は、腫瘍の量と予後因子によって3つの段階に分けられます。

ステージⅠ

血清β₂ミクログロブリンが3.5mg/L以下、血清アルブミンが3.5g/dL以上で、高リスク染色体異常なし、血清LDH値が正常範囲の場合。

 

ステージⅡ

ステージⅠとステージⅢに該当しない場合。

 

ステージⅢ

血清β₂ミクログロブリンが5.5mg/L以上で、高リスク染色体異常があるか血清LDH値が高い場合。


 
 

多発性骨髄腫の治療

多発性骨髄腫では、次のような治療を行いますが、治療対象となるのは臓器障害などの症状が表れている場合で、症状が見られない場合は経過観察を行います。

化学療法

多発性骨髄腫の中心的な治療は、抗がん剤治療です。抗がん剤を使用して骨髄腫細胞を減らす治療を行います。
 

自家造血幹細胞移植

65歳未満で、肝臓や腎臓の障害がなく、心肺機能が正常な人の場合は自家造血幹細胞移植を行います。自家造血幹細胞移植とは、化学療法後に造血幹細胞を採取し、その後、大量の抗がん剤を投与し、骨髄腫細胞をできる限り減らしてから造血幹細胞を再び骨髄に投与して、造血機能の回復を図る治療法です。

 

化学療法以外の薬物療法

化学療法とは異なる作用を持つ薬品を用いて、骨髄腫細胞を減らします。また、症状を抑えるための薬物治療も行います。

 

放射線治療

骨髄腫細胞は、放射線に感受性が高いことが分かっています。そのため、腫瘍を小さくする目的や骨の痛みを緩和させるために放射線治療を行う場合があります。

 

支持療法

多発性骨髄腫では、腎障害や貧血、高カルシウム血症、過粘稠度症候群、アミロイドーシスなどさまざまな合併症が生じる可能性があります。これらの症状が強く表れる場合には、それぞれの症状を抑える治療を行います。症状によって治療法は異なりますが、腎障害の場合は輸血や血液透析、過粘稠度症候群の場合は血しょう交換、高カルシウム血症は利尿剤などの薬剤を使った治療を行います。


 
 

まとめ

多発性骨髄腫は、原因がまだ解明されていないため、予防法も確立されていません。健康診断を定期的に受け、血液検査や尿検査で異常を指摘された場合には、早めに医療機関で精密検査を受けることが最大の予防につながります。
 
また、多発性骨髄腫は完治が難しく、治療後も再発したり、再び進行したりする可能性が高いとされています。そのため、多発性骨髄腫の診断を受けた場合には、定期的に検査を受ける必要があります。また、治療後は感染症に対する抵抗力が低下しているため、風邪やその他の感染症に対する感染予防を徹底することも大切です。


 
 

MYメディカルクリニック渋谷 笹倉 渉医師

監修:MYメディカルクリニック渋谷 非常勤医

笹倉 渉 Dr. Sasakura Wataru

資格

略歴

  • 藤田保健衛生大学医学部 卒業
  • 公立昭和病院
  • 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
  • 北部地区医師会病院麻酔科 科長
  • 2016年 MYメディカルクリニック 医師
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