ジフテリアは5歳以下の小児や40歳以上が重症化しやすい感染症
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ジフテリアは5歳以下の小児や40歳以上が重症化しやすい感染症
ジフテリアは、ジフテリア菌が感染して呼吸困難や不整脈になるリスクなどがある感染症です。
ジフテリアに感染すると5歳以下の小児、および40歳以上の方が重症化しやすいのでワクチン接種が有効です。
この記事では、ジフテリアの症状や治療法、ジフテリアにならないための予防法について解説します。
5歳以下の子供がいるご両親は、ぜひ最後までこの記事を読んで早めに医療機関を受診し、ワクチン接種を受けてください。
ジフテリアはどのような感染症?
ジフテリアはジフテリア菌による感染症で、土の中や空気中のジフテリア菌が人間の体内に感染し、くしゃみなどで細菌が飛沫して他の方にも感染します。
主に幼児と40歳以上が重症化しやすい感染症です。
ジフテリア菌とは?
ジフテリア菌とは、コリネバクテリウム属に該当する菌です。
毒素を作り出すものと作り出さないものがあり、毒素があるものがジフテリアの原因となります。
この毒素は毒性が強く、特に哺乳類のうちヒトやサルなどは感受性が強いため、大きなダメージを受けます。
この菌はグラム陽性細菌というものに分類され、その特徴はグラム染色と呼ばれる化学的処理により青く染まることです。
また、菌の形には球体のものや棒状のものなどがあり、この菌は球形をしている「球菌」あるいは棒状の「桿菌(かんきん)」のどちらかの形状であるのが特徴です。
コリネバクテリウム属には他にもさまざまな種類があり、ジフテリアによく似た症状を引き起こす菌があります。
その菌は「コリネバクテリウム・ウルセランス」と呼ばれています。
家畜などの動物をメインの宿主として存在する菌であることが知られています。
毒素を排出しないことが多いですが、時に排出することがあり、まれに牛の乳房炎を引き起こす原因です。
環境中のジフテリア菌が体内に入り感染する
ジフテリアという病名を一度でも聞いたことがある方は多くいらっしゃると思います。
子供の頃、注射を受けて怖くて泣いた方も多いことでしょう。
ジフテリアは今日の日本では、稀な感染症です。
日本国内では1999年に報告されて以来、感染者の報告はありません。
ジフテリア菌という細菌による感染症で、感染者の体内からくしゃみなどで空気中やドアノブなどに飛沫し、その細菌が他の方の体内に感染することで拡大します。
感染したジフテリア菌は鼻や喉の粘膜で発症して毒素を発生させます。
主に5歳以下の小児と40歳以上大人が感染すると重症化することもある
ジフテリアはワクチン接種の普及により、日本では稀な感染症ですが全世界では現在もジフテリアに感染し、10%程度の方が死亡しているといわれています。
ジフテリアは5歳以下の小児と40歳以上の方が感染すると重篤化しやすく、ジフテリア菌の毒素が心臓や腎臓、神経に作用すると呼吸に必要な横隔膜とよばれる膜や心不全を起こして最悪の場合には死に至ることがあります。
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致死率はどのくらい?
ジフテリアを発症すると、10%の方が命を落とすといわれています。
5歳以下の乳幼児、40歳以上の方は重症化しやすい傾向があり、致死率は最大20%にまで上がります。
ジフテリアの症状は急な発熱・のどの痛みや呼吸困難も
ジフテリアの症状は、風邪のような初期症状から始まり、重症化すると呼吸困難や不整脈で死に至ることもある感染症です。
以降で詳しく症状を解説します。
初期症状はかぜのような症状
2~5日程度の潜伏期間の後に、かぜのような初期症状が現れます。
具体的にいうと、飲み込む際の喉の痛み、倦怠感、鼻水、約38~38.9℃の発熱、声枯れなどです。
人によっては、心拍数の上昇、吐き気や嘔吐、頭痛といった症状が見られる場合もあります。
さらに、牛頸と呼ばれる首のリンパ節が腫れる症状を発症する方もいます。
初期症状以降の症状は、皮膚に発症したパターンか喉(呼吸器)に発症したパターンかで異なります。
偽膜が形成されるのが特徴
喉に発症した場合「偽膜」と呼ばれる、死んだ白血球や細菌などが固まってできる膜ができるのが特徴です。
この偽膜は扁桃部分に形成され、形成されて間もない頃は白色です。
日にちが経過すると、白色から灰色に変色します。
変色後は粘着性が強い上に網目状の線維を形成するため、取り除くと出血が伴います。
鏡で簡単に視認できるほど大きい場合もあり、偽膜の存在を知っている方であればジフテリアをすぐに疑い受診する方もいるでしょう。
なお、偽膜は注意しなければならない症状であり、速やかな診察が必要です。
扁桃腺だけにとどまらず、気管または気道内まで広がったり、突然剥離して気道を塞ぎ呼吸ができなくなったりするためです。
呼吸困難は、低酸素脳症や落命のリスクがあるため危険です。
鏡で確認して偽膜と思われる症状があったり、息を吸った際に大きな異音がする場合は、速やかに呼吸器科や一般内科などに受診してください。
特定のジフテリア菌は神経障害を起こす
神経に関する毒素を持つ菌はそれほどなく、発症率はそれほど高くありません。
しかし、特定の菌を保有していると神経障害を起こすことがあります。
発症の可能性があるのは重症の呼吸器ジフテリアで、約5%の確率で患者に神経系毒性の影響が見られます。
毒素の排出により発症する神経系の疾患は「脱髄性多発神経障害」です。
脳神経と末梢神経が菌によってダメージを受け、進行すると命を落とす可能性があります。
初期症状では、眼球調節ができなくなったり、球麻痺と呼ばれる口腔内の運動障害を発症したりします。
さらに進行すると、嚥下困難や鼻腔への逆流の症状が見られ、3~6週目には末端神経障害を発症する傾向があります。
横隔膜の麻痺を起こし、呼吸不全を起こすこともあるため予後観察は欠かせません。
死亡率はジフテリア全体で10%程度ですが、受診のタイミングが遅れたり、急性腎不全を起こしたりすると死亡率は高まります。
皮膚のみジフテリア菌が侵されている場合
皮膚にのみ症状が見られる場合は軽症タイプで、傾向として成人の発症率が高いです。
衛生状態が悪いところに生活している方によく見られるのが特徴です。
灰色の偽膜を伴う慢性皮膚潰瘍の発症、すり傷のような症状、ただれなどさまざまな症状があります。
腕や脚にも見られることや症状の特徴から、乾癬(かんせん)や膿痂疹(のうかしん)、湿疹と間違われることもあります。
まれですが、人によってはただれた部分が治らないケースもあります。
痛みを感じたりジクジクしたりするため、精神的に負担を感じ、ストレスがたまってしまう方もいるでしょう。
なお、菌が排出する毒素による中毒症状の発症はまれです。
不整脈や気道閉塞で死に至ることもある
ジフテリア菌がのどに感染した場合、発生した毒素が血液にのって心臓に達し、心臓疾患による死亡のリスクや、のどに炎症が起こったことが原因で膿が気道を塞いでしまった場合には、気道閉塞により呼吸困難になることがあります。
また、ジフテリア菌の毒素は神経にも作用することがあり、手足の神経に作用すると手足の麻痺が生じ、のどの神経に作用すると食べ物がのみ込めなくなります。
また、呼吸の神経に作用すると、呼吸ができなくなってしまいます。
ジフテリアの治療は抗菌薬と抗毒素療法の2種類
ジフテリアに感染してしまったら、治療方法として抗菌薬とジフテリアが放出する毒素を消滅させる抗毒素療法で治療します。
ジフテリアの治療は抗菌薬と抗毒素療法
日本国内でジフテリアは稀な感染症ですが、感染すると悪化がとても早く入院による治療が必要な感染症です。
ジフテリアの治療には抗菌薬と体内で発生する毒素の中和が必要なために、ジフテリア血清という人間以外の動物から採取された血清を使い静脈や筋肉に点滴で投薬します。
さらに、体内のジフテリア菌が死滅するまでマクロライド系、ペニシリン系の抗菌薬を投薬します。
副作用はアナフィラキシーショックのリスクがあることも
血清療法に使用される血清は、人間以外の動物から採取されたために人間の体内に投与すると身体が異物とみなしてアレルギー反応を起こし、アナフィラキシーショックを生じるリスクがあります。
この場合には、症状があらわれてから30分から1時間から死亡に至ることもある生命に関わるアレルギー反応のため速やかな対処が必要です。
アナフィラキシーショックの症状は、のどの奥の粘膜が腫れて呼吸ができない、血圧が急激に下がり全身に必要な血液が供給できないなど、非常に重篤な症状が現れます。
アナフィラキシーショックの初期症状は、腹痛、頭痛、嘔吐などから症状が進行すると意識障害、けいれん、呼吸停止などの死に関わる症状へと進行します。
<アナフィラキシーの症状>
- ● 違和感やかゆみが口や皮膚にあらわれる
- ● 全身にじんましんが出て赤く腫れる
- ● 下痢
- ● 腹痛
- ● 嘔吐
- ● 眼が充血する
- ● 頭痛
- ● めまい
- ● 冷や汗
- ● 動悸
- ● 気道閉塞
- ● 血圧が低下によるショック状態
<アナフィラキシーショックの重篤な症状>
- ● 意識障害
- ● けいれん
- ● 呼吸停止
小児はジフテリアワクチン接種で予防をしましょう
ジフテリアはワクチン接種で95%程減少することができる感染症です。
必ず予防接種することが大切です。
特に、ジフテリアの発生国に渡航予定がある方はブースター接種が有効になります。
予防ワクチンは生後2ヶ月から
ジフテリアはワクチン接種をすることで感染が95%程減少させる効果があるため、日本では生後2ヶ月からジフテリアワクチンの接種をしています。
ジフテリアワクチンのスケジュールと海外の発生地域
ジフテリアワクチンは2期にわけて接種する必要があります。
1期:初回接種は生後2ヵ月~12ヵ月までの間に初回のワクチン接種を行い、その後は20~56日くらいの間隔をあけて3回の接種を行います。
2期:次のワクチン接種は、11~12歳の間に1回接種をします。
ジフテリアが発生している国は、現在ナイジェリア共和国で大発生しています。
その他の国はハイチ、ドミニカ共和国、ベネズエラ、南太平洋の島国、中東、東欧の国々、アジアでジフテリアに感染者が多いため、これらの国々に渡航歴や渡航予定がある方はブースター接種を受けて免疫を保つことが大切です。
混合ワクチンに含まれる破傷風・百日咳との違いは?
ジフテリアは、破傷風や百日咳との混合ワクチンによって予防できます。
そのため、破傷風や百日咳と同じような疾患と思われる方もいるでしょう。しかし、これらの疾患は大きく異なります。
以降では、原因菌、症状、感染経路、治療法の項目で違いを解説していきます。
【違い1】原因菌
まず破傷風について解説します。
破傷風の原因菌は「破傷風菌」と呼ばれるもので、主に土壌に存在しています。
酸素が多くある空気中では生きていけないため、土壌の中に存在することで死滅を免れているのが特徴です。
持っている毒素は神経毒素です。
感染すると脳神経や末梢運動神経、交感神経などに影響を与えます。
次に百日咳について解説します。
百日咳の原因菌は「百日咳菌」と呼ばれ、1906年に感染した乳児から菌を分離することに初めて成功し、発見されました。
感染力は非常に強く、子どもから大人まで感染し発症します。
【違い2】症状
まず破傷風について解説します。
破傷風は、筋肉のけいれんや硬直が見られるのが特徴です。
脳神経が毒素に侵されると、開口障害や笑っているように見える痙笑、喉頭けいれん、嚥下障害が見られます。
交感神経が毒素に侵された場合は自律神経が不安定になり、高血圧または低血圧、頻脈または徐脈などが見られるようにもなります。
進行すると呼吸困難を起こすこともあり、致死率が上がります。
なお、症状のタイプには「全身性」「局所性」「頭部」があり、頭部はまれなタイプです。
次に百日咳について解説します。
初期症状は普通のかぜのため、気付かない方も多くいますが、進行するにつれて咳の回数が増えます。
痙咳期と呼ばれる経過時期では、けいれん性の咳に変わるのが特徴です。
短い咳が何度も起き、咳のしすぎにより嘔吐する方もいます。
そのときに発症する熱は微熱程度です。
そして、回復期に入ると、徐々に激しい咳の発作は落ち着いていきますが、時折発作性の咳が出る期間が長く続き、全経過約2~3カ月かかります。
【違い3】感染経路
破傷風の感染経路は、傷口からです。
ガーデニングや畑仕事などの最中に感染する傾向があります。
傷口に土が付かないよう、ゴム手袋などで作業をするのが予防に効果的です。
百日咳の感染経路は飛沫感染や接触感染です。
マスクや手洗いうがい、消毒などの対策が予防に効果的です。
【違い4】治療法
破傷風の治療法は、薬物療法、消毒、点滴などです。
症状によって必要な治療が異なります。
百日咳の治療法は、マクロライド系抗菌薬の服薬です。
なお、新生児は「肥厚性幽門狭窄症」を起こすリスクがあるため、アジスロマイシンによる治療が推奨されています。
まとめ
ジフテリアは、感染者がくしゃみをしたりジフテリア菌がついた手でドアノブを触るなどで感染します。
主に小児の感染症ですが、免疫が弱くなっている大人やジフテリア発生地へ旅行した場合に感染する可能性があります。
初期症状はのどの痛みや咳など風邪のような症状から始まり、不整脈や呼吸困難、さらに重篤になると死に至ることもあります。
ジフテリアはワクチン接種が効果的な予防法です。
ジフテリア発生地に旅行予定がある方や、小児のお子様には必ず予防ワクチンを接種しましょう。
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略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師