
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)とエイズは別物|感染経路、予防・治療法を解説
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HIV(ヒト免疫不全ウイルス)とエイズは別物|感染経路、予防・治療法を解説
HIVとエイズは混同されやすいですが、実は別物です。
HIVは「ヒト免疫不全ウイルス」であり、エイズはHIVが原因で引き起こされる感染症です。エイズは、発症すると致死率が100%と考えられてきましたが、今では治療法が進んでいます。
本記事では、HIVとエイズの特徴、感染経路や予防法、治療法について解説します。
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)とは
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)とは、どのようなものなのかを解説するとともに、検査・診断方法や感染経路、感染メカニズム、感染確率についても解説していきます。
概要
免疫細胞を破壊して、免疫を低下させるウイルスです。HIV感染者の体液と濃厚接触することで、感染を起こします。
感染すると初期症状として発熱、リンパ節の腫れ、疲労などの症状が数日みられるケースがあります。
治療せずに過ごすと、10年以内にエイズを発症するリスクが上がることがわかっています。10年経過しても発症しないケースもありますが、治療を受けなければ最終的にほとんどの確率で発症するため、注意が必要です。
検査・診断
HIV検査は、全国の保健所にて無料で受けられます。
検査方法は2段階(抗体と抗原)に分けて行われ、総合的な結果から感染を診断するのが基本です。
感染が確認できた場合は、抗体を持っているという意味で陽性、未感染であれば抗体を持っていないため陰性と診断されます。
検査結果が陰性の場合、再検査が推奨されています。目安としては、1回目の検査から2.3ヶ月後です。
HIVの感染経路
主な感染経路は、以下のとおりです。
- ● 性行為
- ● 母子感染
- ● 血液
- ● 人為的な精子注入
HIVは非常に感染力が低いウイルスであるため、抱き合ったりキスをしたりといった軽い接触では感染しません。
血液、精液、腟分泌液、母乳との接触がある場合に、感染リスクがあがります。
また、涙、尿、唾液にもHIVが含まれているケースがありますが感染リスクはかなり低く、感染するのは非常にまれなケースです。
性行為による感染は、避妊器具を使用しなかったり、オーラルセックスをしたりすることが要因です。
母子感染では、出産時の産道からの感染や母乳を介して新生児に感染します。
血液による感染は、献血や採血、予防接種などに使用される注射器具などの使い回し、臓器移植や輸血処置が原因です。
体外受精などで人為的な精子注入をさせる場合も、男性が感染していると、その女性にうつるリスクがあります。
感染のメカニズム
HIVが体内に侵入すると、さまざまな白血球に付着します。
特に厄介なのが、免疫系の細胞を活性化させる「T細胞」の受容体「CD4」に付着し、CD4陽性リンパ球となることです。
HIVが遺伝情報として蓄えているRNA(リボ核酸)がCD4陽性リンパ球に入り込むと、RNAをDNAとして複製する働きが行われます。
複製の際にエラーが起こりやすいため、このタイミングでHIVの突然変異リスクがあがり、さらに制御を困難にさせて結果的に感染者となるのです。
心配しすぎ?感染確率について
性行為による感染率は、コンドームなどの避妊器具未使用のケースで0.1〜1%とかなり低いといわれています。
また、母子感染の確率は、出産時や授乳時の段階で治療を受けていない場合、15〜45%です。輸血は90%の感染リスクがあります。
エイズ(後天性免疫不全症候群)とは
エイズ(後天性免疫不全症候群)との違いを知ってもらうために、どのような病気か解説します。
概要
- ● HIV感染により、がんや日和見感染症といった重篤な病気を発症した場合
- ● CD4陽性リンパ球数が、血液1マイクロリットルあたり200個よりも少なくなった場合
発症してしまうと、一生をかけて抗レトロウイルス薬を服薬しなければなりません。
合併症に注意
エイズは合併症を起こすリスクが高く、注意しなければなりません。合併症としてよくみられる病気は、以下のとおりです。
- ● 日和見感染症
- ● カポジ肉腫
- ● リンパ腫
- ● 子宮頸部、肛門、精巣、肺、皮膚、直腸などのがん
上記のとおり、合併症はがん系統がかかりやすい傾向にあります。
疫学
エイズは、日本で第5類に分類されています。
新規感染の報告数は2016年時点で1448件あり、そのうち新規患者は437例確認されました。2018年02月22日時点では、エイズが発症して初めて感染していることを知る事例は毎年400件以上報告されており、早期発見と治療に課題が残ります。
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HIV感染からエイズ発症までの経過
HIV感染からエイズ発症までの経過は、大きく分けて「感染初期」「無症候期」「発症期」です。各時期の症状や特徴を解説します。
感染初期
感染初期は無症状の方が多いですが、1〜4週間以内に下記のような症状があらわれることがあります。
- ● 発熱
- ● のどの痛み
- ● リンパ節の腫れ
- ● 疲労
- ● 発疹
上記の症状は、通常3〜14日程度続きます。
無症候期
無症候期は、2~15年軽症かつ無症状状態が続く時期です。この時期によくみられる症状は、以下のとおりです。
- ● リンパ節の腫れ
- ● カンジダ症による口内の白い斑点
- ● 下痢
- ● 疲労
- ● 貧血
- ● 体重減少(進行性)
- ● 帯状疱疹(たいじょうほうしん)
- ● 発熱
上記の症状は、HIV感染症だけでなく日和見感染症が原因で発症するケースもあります。
発症期
HIV感染症が進行すると、最終的にエイズを発症します。
ただ、抗HIV療法を受けることで発症を抑えられるため、発症に至らないケースが増えました。発症するとさまざまな合併症を起こすリスクがあがるほか、食欲低下や下痢、低栄養状態などが顕著にあらわれるようになります。
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染予防
自分でできる、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染予防対策を紹介します。
性行為時の感染予防
性行為時の感染を予防するために、性行為を控えるか避妊器具を正しく常に使用することが大切です。
男性であれば、包皮の環状切除術を行うことで、感染した女性との膣性交で感染するリスクを約半分に低下させられます。
母子感染の予防
母子感染を予防するためには、まず妊娠中にHIV検査を受けることが大切です。
妊娠中と分娩時に薬を投与して治療したり、帝王切開を選択することで、新生児への感染を予防できます。出産後は、新生児に静脈からジドブジンを6週間投与し、授乳は粉ミルクを使用する方法が予防に繋がるとされています。
HIV・エイズの治療法
HIV・エイズの治療法、終末ケア、薬の副作用について解説します。
治療法
特効的な治療法はないため、完治させることはできません。
そのため、行われるのは予防治療です。抗HIV薬、日和見感染症の予防薬、症状を緩和する薬でウイルスの増殖を抑え、合併症やエイズの発症を食い止めます。
薬を飲み忘れた場合、HIVが薬への耐性を得て薬が効かなくなるため、特別なことがない限り飲み忘れないようにしましょう。
薬の副作用について
抗HIV薬は、副作用の発症リスクが高いです。現在の治療薬は改良が重ねられ副作用のリスクは軽減されていますが、まだ完全とは言い切れません。
よくみられる副作用の症状は、以下のとおりです。
- ● 消化器症状
- ● 乳酸アシドーシス
- ● 味覚障害
悪心や嘔吐、食欲低下といった消化器症状、乳酸が体内にたまり血液中のpHが著しく低下する乳酸アシドーシス、味覚の減少や喪失が代表的です。
終末ケア
エイズを発症したとしても突如なくなる確率は低いため、治療方針などを事前に計画を立てたり遺書を用意したりすることが望ましいです。
終末期に入ると、衰弱や食欲低下、痛みや興奮などさまざまな症状があらわれます。
そのため、患者が立てた事前指示書や遺書をもとに、医療従事者が終末ケアを行っていきます。
HIVと妊娠・出産:母子感染のリスクと対策
母子感染のリスク
適切な対策を行わない場合、HIV陽性の母親から赤ちゃんへの感染率は15~30%程度とされています。感染経路は主に以下の3つです。
- ●胎内感染(経胎盤感染)
- ●経産道感染(最もリスクが高い)
- ●経母乳感染
母子感染予防の対策
適切な予防策を講じることで、母子感染率を0.5%未満に抑えることが可能です。主な対策は以下の通りです。
- 1. 妊娠初期の早期診断:妊娠初期のHIV検査
- 2. 妊娠中の抗HIV療法(HAART):赤ちゃんへの感染リスクを大幅に低減する
- 3. 選択的帝王切開術:経産道感染のリスクを低減する
- 4. 分娩時のAZT点滴:赤ちゃんへの感染リスクをさらに低減する
- 5. 出生児への予防的AZT投与:母親がHIV感染している場合の標準的な対策
- 6. 人工乳哺育(母乳を与えない):母乳にはHIVが含まれる可能性がある
具体的な予防手順
- 1. 妊娠14週以降、抗HIV薬の服用を開始
- 2. 分娩時に抗HIV薬を点滴
- 3. 予定帝王切開で出産
- 4. 母乳は与えず、粉ミルクを使用
- 5. 赤ちゃんに6週間抗HIV薬を投与
検査と診断
- ●妊婦健診でのHIV検査実施率は99.9%と高水準
- ●赤ちゃんの感染有無の検査は出生後48時間以内、2週間後、2ヵ月後、3~6ヵ月後の計4回実施
- ●最終診断は1歳6ヵ月時点で行われる
HIVと妊娠の可能性
HIV陽性者でも妊娠は可能であり、夫婦の感染状況に応じた方法で妊娠することができます。例えば、妻がHIV陽性の場合は人工授精が選択肢となり、夫がHIV陽性の場合は体外受精が考慮されます。早期発見と適切な治療が重要であり、妊婦健診でのHIV検査を受けることが推奨されています。これらの対策によって、安全な妊娠・出産が可能となります。
HIVと他の性感染症(STI)の関係
HIVと他の性感染症(STI)には密接な関係があります。主に以下の点で関連性が見られます。
感染リスクの増加
他のSTIに感染していると、HIVの感染リスクが高まります。例えば、梅毒、淋病、クラミジアなどの性感染症に罹患していると、粘膜に炎症が起こりやすくなり、HIVの感染確率が数倍増加します。
相互作用
HIVに感染している場合、免疫系が弱くなるため、他のSTIにも感染しやすくなります。また、HIVと他のSTIの併発は、双方の症状を悪化させる可能性があります。
診断と治療の複雑化
HIVと他のSTIを同時に治療する必要がある場合、薬物相互作用に注意が必要です。HIV治療薬は他の薬剤と相互作用を起こしやすいため、STIの治療薬選択に影響を与える可能性があります。
予防の重要性
HIVと他のSTIは同じ経路で感染することが多いため、コンドームの使用など、共通の予防策が有効です。定期的な検査も重要で、早期発見・早期治療につながります。
これらの関係性から、HIVの予防や治療を考える際には、他のSTIについても同時に考慮することが重要です。総合的なアプローチが、性感染症全体のリスク低減につながります。
HIVとPrEP・PEP(予防薬)の最新情報
HIVの予防に関する最新情報として、以下のような進展が見られます。
長時間作用型HIV予防薬の開発が進んでおり、2024年6月に発表された臨床試験では、レナカパビル(Lenacapavir)という6カ月ごとに1回注射する薬が100%の有効性を示しました。この薬は、従来の毎日服用するPrEP錠剤よりも効果的であることが示唆されています。
また、2021年にFDAが承認した別の長期作用性注射薬であるカボテグラビル(cabotegravir)は2カ月ごとの注射が必要です。
従来のPrEP(曝露前予防内服)には、デイリーPrEP(毎日1錠服用)とオンデマンドPrEP(性行為の前後に服用)の2種類があります。適切に服用すれば、性行為でのHIV感染リスクを99%下げることができます。
2024年8月、日本で初めてツルバダというPrEP薬が承認されました。これにより、日本でもPrEPに関する正しい情報が広く提供されるようになり、情報格差の解消が期待されています。
ただし、PrEPは予防目的のため公的医療保険が適用されず、費用負担が課題となっています。専門家は、持続可能な費用で利用できるようにすることの重要性を指摘しています。
PrEPの使用にあたっては、定期的なHIV検査(少なくとも3カ月ごと)や他の予防手段(コンドーム使用など)との併用が推奨されています。
参照:AnswersNews「抗HIV薬「ツルバダ」曝露前予防(PrEP)が承認」
https://answers.ten-navi.com/pharmanews/28830/
参照:エイズ治療・研究開発センター
https://www.acc.ncgm.go.jp/medics/treatment/handbook/part3/sec03.html
HIVに関するよくある誤解と正しい知識
HIVに関するよくある誤解と正しい知識について、以下のようにまとめることができます。
感染経路に関する誤解
多くの人がHIVは日常生活で簡単に感染すると誤解していますが、実際にはHIVの感染力は弱く、日常生活での感染はほとんどありません。HIVは主に性行為によって感染し、血液、精液、膣分泌液、母乳を介して伝播します。せきやくしゃみ、コップの回し飲み、入浴やプールなどでは感染しません。
予後に関する誤解
かつては「エイズはすぐに死に至る病気」という誤解がありましたが、現在は治療法が飛躍的に進歩しています。早期発見・治療により、HIVに感染しても発症を防ぐことができ、適切な治療を受ければ平均余命は感染していない人とあまり変わりません。
感染者に対する偏見
「エイズは遊んでいる人の病気」という偏見がありますが、これは誤りです。実際には、20から40歳代を中心に、日本では1日当たり約4人の新たなHIV感染者やエイズ患者が報告されており、決して他人事ではありません。
職場での誤解
職場での誤解や偏見も根強く残っています。2019年の調査では、HIV感染者と分かった場合に「一緒に仕事をしたくない」「会社を辞めてもらいたい」と答えた人が約11%いました。しかし、適切に治療を受けていれば、他の人への感染リスクはなくなります。
正しい知識
HIVとエイズは別のものです。HIVは感染しても必ずしもエイズを発症するわけではありません。また、HIVに感染しても早期発見・治療により、通常の生活を送ることができます。
HIVに関する正しい知識を持ち、誤解や偏見をなくすことが重要です。定期的な検査と早期治療、そして社会全体での理解と支援が、HIV感染者の生活の質を向上させる鍵となります。
まとめ
HIVは、一度感染すると完全に治療することはできないとされています。しかし、早期発見し治療することで、合併症やエイズへの進行は防げるようになってきました。
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略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師