慢性閉塞性肺疾患とは?原因、症状、治療法について解説
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慢性閉塞性肺疾患とは?原因、症状、治療法について解説
COPD (chronic obstructive pulmonary disease; 慢性閉塞性肺疾患)とは
タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患です。COPDはこれまで肺気腫と慢性気管支炎に属していた呼吸器疾患をまとめた病名です。肺の主な仕事は、酸素を取り込んで二酸化炭素を出すいわゆる呼吸と呼ばれるガス交換です。そしてガス交換の主役は、約3億個で広げた時の面積はテニスコート1面分あるといわれる肺胞です。肺気腫は主として喫煙によって肺胞を中心とする破壊が起きている状態であり、慢性気管支炎は主に肺胞に至る空気の通り道すなわち気道に障害が起こり咳や痰が出ることを特徴にする状態です。現実には、喫煙の結果として肺気腫と慢性気管支炎が比率は様々ですが混合した状態で発症しており、病名としてCOPDに統合されました。(詳しくはコチラ 気管支喘息について)
〈日本におけるCOPD死亡者数の推移〉
(出典:厚生労働省 人口動態統計)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1a.html
COPDでは気道 (空気の口から肺に到達する通路で気管、気管支、細気管支を経て肺胞に至る)がつぶれやすく空気を吐き出すときに加わる圧力で気道が狭くなって空気の流れが阻害された状態がいろいろな症状を引き起こしています。すなわち、気道閉塞の機序は、タバコ煙により誘導された気道炎症の結果生じる肺組織の障害で、気道の拡張を保つ弾性収縮力の低下によっているのです。
また、酸素を取り込む肺胞の破壊がおきるため酸素の取り込みが不十分となり、酸素不足による息切れを来します。喫煙を続ける限りは進行性で、気道が狭くなることに加えて肺胞が壊れることも起きてきます。その結果、気道閉塞で二酸化炭素が体外に出され難いのに加えて肺胞の破壊により呼吸の最も重要な役割である酸素の取り込みも障害されるのです。
COPDの症状は
臨床的には徐々に生じる息苦しさ、動いた時の息切れ、咳、痰、体重減少などが主な症状ですが、これらの症状は乏しいこともあります。一般には、発症初期では自覚が乏しいといわれており、病気がゆっくりと時間をかけて進行することにより、ある程度悪化してから発見されることが多いです。
喫煙を続ける限り進行性で、全身性の影響としては全身性炎症、栄養障害、骨格筋機能障害、心・血管疾患(心筋梗塞、狭心症、脳血管障害)、骨粗鬆症(脊椎圧迫骨折)、抑うつ、糖尿病、睡眠障害、緑内障、貧血など幅広い範囲にわたっています。
病気がゆっくりと時間をかけて進行することにより、ある程度悪化してから発見されることが多いことも重要な事実です。歳をとったせいだと決めつけないで、もし少しでも気になる症状がある方は、まずは下記のセルフチェックをしてみましょう。
- 年齢が40歳以上である
- たばこを吸っている
- 風邪をひいていないのに粘り気のある黄色い痰がからむことや、咳をすることがある
- 同世代の人と比べて歩くのが遅い
- 階段の上り下りなどの軽い運動をしただけでも、すぐに息が切れる
上記に当てはまる項目があり、気になる呼吸器症状がある方は、外来を受診し医師に相談してみましょう。
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COPDの原因は
上記の通り喫煙が最大の原因です。喫煙者の約20%がCOPDを発症するといわれています。そして、1日に吸う本数や喫煙歴 (喫煙期間)に比例して、病気にかかる割合は高くなるとされています。とくに、加齢によっても肺の弾力性は低下していくため、長年喫煙されている方はCOPDにかかるリスクが高まります。また、普段たばこを吸わない人であっても、周囲にたばこを吸う人が常にいると受動喫煙の状態に長くいることになり、COPDを発症する可能性があるため注意が必要です。
発症する人としない人の相違は何なのかが研究されてはいますが、残念ながら結論に至っていません。
原因としては以下のようにまとめられますが、圧倒的に喫煙が原因で発症しています。
主な原因
- ・たばこ
- ・大気汚染
- ・有害物質
- ・遺伝
検査方法と検査ができる時期/潜伏期間
1: 肺機能検査(スパイロメトリー)
COPDの疾患としての定義が1秒率 (FEV1) <70%ということでCOPDを診断する上で必須の検査です。健康診断でもよく行う息を思いきり吸ったり吐いたりする検査で、肺活量や1秒間に吐き出せる息の量を評価し、1秒率という指標を調べます。進行した肺気腫では、肺の弾力性が失われ肺のしぼむ力が弱くなってしまいます。そのため、肺に入った空気をうまく吐き出すことができず、1秒率の低下が見られます。
さらに精密検査として肺拡散能の検査があります。これは肺で赤血球のヘモグロビン (Hb)が酸素と結合する機能を評価するための検査で、COPDでは酸素を取り込む肺胞の破壊が起きるため低下します。原理は、酸素よりも200倍以上Hbに結合しやすい一酸化炭素 (CO)を使って、COが安全な範囲で一定濃度含まれる空気をしっかり深く吸い込んで、続いてしっかり吐き出して(呼出して)、その呼出した息 (呼気)のCO濃度がどの位吸入した濃度より減少するかで評価します。肺胞での酸素を取り込む機能が低下していればCO濃度の低下は小さくなり、拡散能 (DLCO)の低下という評価になります。
2:放射線画像検査
肺気腫と呼ばれてきた所見が胸部単純X線写真とCT写真でみられます。肺胞の破壊により空気の部分が肺の組織よりも多くなりX線が組織 (主に血管)で吸収されて出来る肺の白っぽい陰影が欠落したための黒っぽい所見 (低吸収域)が特徴的です。また気道の障害は気道を外に向かう弾性収縮力で支える弾性線維を破壊しつぶれ易い気道になります。その結果吸い込んだ空気を吐き出すときに途中でつぶれて吸った量が全部吐き出せない状態ができます。つまり肺の中に吸った量の空気の一部が残った状態になり肺は膨張しすぎた状態すなわち過膨張になります。その結果は空気を多く含む肺ということで肺胞の破壊による画像に加わり黒っぽい肺の画像を示します。また過膨張では、肺の過剰な空気で横隔膜を押し下げられたり、大きくなった肺に押されて心臓が細長く見えたりします。以上のことを捉える上で、胸部単純X線検査と胸部CT検査は非常に有用です。
3: 血液検査
通常の静脈からの採血ではなく動脈からの採血により、ガス交換の状態を把握します。通常はCOPDの進行により酸素濃度 (酸素分圧:PaO2)の低下と二酸化炭素濃度 (二酸化炭素分圧:PaCO2)の上昇を認めます。まずは酸素が十分かどうかを簡便に把握するためには経皮動脈飽和度 (SpO2) が代替できますが、ガス交換を把握するためには二酸化炭素濃度の評価が必要になります。
COPDの治療方法
一度壊れてしまった肺胞や気道を元通りに戻すことは、残念ながらできません。そのため、早期に診断し、治療を開始することが大切となります。COPDの治療で最初に行うのは、禁煙です。病気の進行を遅らせるためにも最重要となります。そうは言っても、たばこを吸われる方にとっては喫煙歴が長ければ長くなるほど、精神的に辛く感じることも多いと思います。そういう方のためにも、当院では禁煙外来を行っています。(詳しくはコチラ)
また、自覚症状を軽減するための治療としては、気管支拡張薬(気道を広げて呼吸をしやすくする薬)や去痰薬(痰を切れやすくする薬)などの薬物療法の他、呼吸リハビリテーション療法(呼吸器の病気をもつ方の機能を回復させたり、病気とうまく付き合うための体力づくり)、動脈血の酸素濃度によっては在宅酸素療法などを組み合わせて行い、患者さんの苦痛を取り除き進行を遅らせる治療が提案されます。
病気の進行をもたらす呼吸器感染症の予防には、肺炎球菌やインフルエンザ、さらに最近では新型コロナに対するワクチンの接種も有効で、当院でも対応しています。
まとめ
COPDは、残念ながら完治を望めない病気です。たばこが主な原因を占めており、治療においても禁煙が要となります。さらに、自分では気づかない間にどんどん悪化していく病気であるため、40歳以上の喫煙をされている方で痰がらみや咳などの症状がある方、体力低下を感じる方は、ぜひ、呼吸器内科に相談してみてください。
MYメディカルクリニックでは禁煙外来も実施しております。ご自身やご家族の健康のためにも、禁煙に頑張りたい方や自信のない方はぜひ受診をおすすめします。
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監修:MYメディカルクリニック 顧問
大田 健 Dr. Sasakura Wataru
略歴
- 1975年 東京大学医学部医学科卒業
- 1992年 帝京大学医学部第二内科学教室 助教授
- 1997年 帝京大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー学 教授
- 2012年 独立行政法人国立病院機構東京病院 院長
- 2018年 公益社団法人結核予防会 複十字病院 院長
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