
What
具体的には、太ももの付け根(鼠径部)の筋肉や筋膜が薄くなった部分に穴が開き、そこから腸などの内臓が外に飛び出す状態を指します。
鼠径ヘルニアは、腹膜が袋状(嚢状)に脱出し、そこに腸などの臓器が入り込むことで鼠径部に膨らみが現れます。この疾患は小児にも見られますが、成人、特に50歳代以上の男性に多く発症します。男性に多い理由として、鼠径管という通路の存在が挙げられます。この鼠径管は加齢などにより筋膜が弱くなると開きやすくなり、そこに腸が入り込むことでヘルニアが発生します。
膨らみが現れた部分に痛みや違和感を伴うことがあります。
鼠径管を通じて腸が飛び出す
外鼠径ヘルニア
先天的な要因が多い。
子どもや若い男性に多い。
腹壁の弱い部分から腸が飛び出す
内鼠径ヘルニア
加齢や筋力低下が主な原因。
中高年の男性に多い。
大腿管から腸が飛び出す
大腿ヘルニア
高齢の女性に多い。
Testing / diagnostic methods
鼠径ヘルニアの診断には視診・触診が基本ですが、超音波・CT・MRI などの画像診断が補助的に行われることもあります。
Treatment method
ヘルニアバンド(脱腸帯)を装着することで鼠径部の膨らみを物理的に抑え、症状を軽減する方法です。
具体的には、便秘対策を行い排便時の過度な力みを避けることや、適切な体重管理を通じて腹部への負担を軽減することが挙げられます。
ただしこれらは根本治療ではないため、最終的に手術が必要です。
鼠径ヘルニアの治療は、従来は数日間の入院が必要とされていましたが、当院では日帰り手術による治療が可能です。
術前検査や説明をしっかり行い、手術当日の朝に来院、午後にはご帰宅いただけるスケジュールを整えております。
「入院までは必要ないが早く治療したい」「仕事を長く休めない」という方にとって、日帰り手術は大きなメリットがあります。
Surgery
手術方法 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
開腹手術 | 鼠径部を5〜6cm切開し、メッシュを挿入 | 手術時間が短い | 傷が大きく、回復に時間がかかる |
腹腔鏡手術 | 小さな穴を3か所開け、カメラと器具を挿入 | 傷が小さく、回復が早い | 設備や専門医(技術)が必要 |
鼠径ヘルニアの治療法選択においては、患者様の状態、ヘルニアの種類や大きさ、
医師の経験などを総合的に考慮して決定されます。
腹腔鏡手術
鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術は、患者への負担が少なく、早期回復が可能な優れた手術方法です。現在は腹腔鏡手術が主流で、再発率も低いとされています。
一般的に、腹部に3か所の小さな穴(5〜12mm程度)を開け、そこから腹腔鏡カメラと手術器具を挿入して行います。
手術の手順としては、まず腹部に開けた穴から二酸化炭素を注入して腹腔を膨らませます。これにより、術者の視野が確保され、手術操作のスペースが確保されます。次に、腹腔鏡カメラを挿入し、腹腔内の様子をモニターに映し出します。術者はこのモニター画面を見ながら、他の穴から挿入した鉗子や電気メスなどの器具を操作して手術を進めます。
腹腔鏡手術の利点として、傷が小さいため術後の痛みが少なく、回復が早いことが挙げられます。また、拡大視野で手術を行うため、より精密な操作が可能となり、出血量も少なくなります。さらに、美容面でも優れており、術後の傷跡が目立ちにくいという特徴があります。
手術の目的は、ヘルニアの原因となっている腹壁の弱い部分やすき間を補強し、臓器が飛び出さないようにすることです。多くの場合、人工補強材(メッシュ)を用いて修復を行います。
ただし、腹腔鏡手術は技術的に難度が高く、経験豊富な外科医が行う必要があります。また、全身麻酔が必要となるため、患者の状態によっては従来の鼠径部切開法が選択される場合もあります。
術後は通常1〜2日程度で退院が可能で、術後3時間程度で歩行や飲食が可能となります。ただし、メッシュが体になじむまでの2〜3週間は、腹圧をかけるような動作を控える必要があります。また、再発や合併症のリスクがあるため、半年程度は定期的な経過観察が行われます。
前方アプローチ
(鼠径部切開)
一般的に鼠径部切開法と呼ばれる手術方法は、従来から広く行われてきた治療法です。この手術では、足の付け根にあたる鼠径部に5〜6cm程度の切開を加えて直接アプローチします。
手術の主な目的は、ヘルニアの原因となっている腹壁の弱い部分を補強し、内臓の脱出を防ぐことです。成人の場合、多くはメッシュと呼ばれる人工補強材を用いて修復を行います。代表的な術式としては、Lichtenstein法、Mesh plug法、Kugel法、Direct Kugel法などがあり、これらはメッシュの配置方法によって区別されます。
開腹手術の利点として、局所麻酔下で実施可能なことが挙げられます。これにより、全身麻酔に伴うリスクを避けられるため、高齢者や合併症のある患者にも適用しやすいという特徴があります。また、直接的にヘルニアの部位を確認し、修復できるため、確実な治療が可能です。
一方で、腹腔鏡手術と比較すると、術後の痛みがやや強く、回復に時間がかかる傾向があります。また、傷跡が比較的大きくなるため、美容面での懸念もあります。
しかし、再発率に関しては腹腔鏡手術と同等であることが複数の研究で示されています。また、手術時間が腹腔鏡手術よりも短いという利点もあります。
術後は、適切なケアと生活指導に従うことで、多くの患者が日常生活に早期に復帰できます。ただし、再発のリスクを最小限に抑えるため、過度な腹圧上昇を避けるなど、一定期間の注意が必要です。
Doctor
執刀医安江 英晴
診察医馬場 健
麻酔科医高宮 達郎
麻酔科医塩屋 由希子
執刀医武田 泰裕
Cost
3割負担 | 2割負担 | 1割負担 | |
---|---|---|---|
初診料 | ¥2,000程度 | ¥1,300程度 | ¥700程度 |
術前検査料 | ¥5,000程度 | ¥3,000程度 | ¥1,500程度 |
手術費用 | ¥80,000程度 | ¥18,000程度 | ¥18,000程度 |
※ 高額療養費制度を利用すれば、自己負担額を抑えることが可能です。
※ 手術費用は術前検査の内容や手術の状況等により異なります。
※ 価格は全て税込みです。
Flow
2
診察・検査
(視診・超音波検査等)
問診表をご記入いただき診察と必要な検査を行います。
3
手術説明・
手術日を決定
(必要に応じて追加検査)
診察・検査の結果、手術適応と診断された場合は、手術についてのご案内をさせていただきます。
4
手術当日
(麻酔)
当日はお食事をとらずにお越しいただき、手術前に体調の確認を行います。
更衣室でお着替えいただいた後、手術室にご移動いただき、麻酔を行います。
5
手術当日
(手術)
手術時間は約1時間程度です。
6
手術当日
(リカバリールームで休憩)
術後1時間はリカバリールームでお休みいただきます。最後にお会計が済みましたらご帰宅となります。
7
術後診察
(視診・超音波検査等)
翌日〜1週間に1回と、1か月後にご来院いただき、診察にて術後の状態を確認させていただきます。
先天的要因
鼠径ヘルニアの先天的要因として重要なのが、「鞘状突起(しょうじょうとっき)」と呼ばれる腹膜の突起が完全に閉じずに残存する状態です。
通常、胎児期に精巣や卵巣が下降する際に形成されるこの突起は、出生後に自然閉鎖するはずですが、閉じずに残ることがあります。この残存した袋状の構造がヘルニア嚢となり、そこに腸管が入り込むことで鼠径ヘルニアが発症します。
特に小児の鼠径ヘルニアでは、この腹膜の袋(ヘルニア嚢)が閉じないことが主要な原因となっています。
胎児期から乳児期にかけての発達過程において、鼠径管の完全な閉鎖が起こらないことがあります。この不完全な閉鎖は、後に腸が鼠径管に入り込む原因となり、鼠径ヘルニアの発症につながる可能性があります。
特に男児の場合、胎児期に精巣が腹腔から陰嚢へ下降する過程で鼠径管が一時的に開くため、この管が適切に閉じないケースが女児よりも多く見られます。
このような解剖学的特徴と発達過程の特性が、男児における鼠径ヘルニアの発症率が高い理由の一つとなっています。
後天的要因
加齢に伴い腹壁の筋肉や腱膜の強度が低下すると、内臓を支える力が弱まり、鼠径部から腸などが突出しやすくなります。特に40歳以降の男性に多く見られ、加齢は代表的な後天的要因のひとつとされています。
排便時の強いいきみや慢性的な咳、重い荷物を持つ動作などは腹部に強い圧力をかけ、鼠径部に負担を与えます。腹圧が繰り返し高まることで筋膜が緩み、結果的に鼠径ヘルニアが発症・悪化しやすくなります。
肥満による内臓脂肪の増加は、常に腹腔内圧を高めて鼠径部へ強い力を加えます。一方、痩せ型の女性では腹壁が薄いため大腿ヘルニアの発症が比較的多くみられます。体型は発症の仕方に大きく関与します。
妊娠中は子宮の拡大により腹圧が上昇し、鼠径部の組織に負担がかかります。出産時の強いいきみも腹壁の緩みを助長し、女性における鼠径ヘルニアや大腿ヘルニアの後天的リスクを高める要因となります。
これらの後天的要因が単独で、あるいは複合的に作用することで、鼠径ヘルニアの発症リスクが高まります。
Symptoms
鼠径部に違和感や軽度の痛みを感じることがあり、これらの症状は長時間の立ち仕事や運動後に顕著になる傾向があります。
症状が進行すると、腸が戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」という危険な状態に陥ることがあります。嵌頓は緊急手術を要する深刻な合併症であり、早期の医療介入が必要です。
鼠径ヘルニアの主な症状は、足の付け根にあたる鼠径部の膨らみです。この膨らみは、立位時や力を入れた際に特に顕著になります。
初期段階では、横になると膨らみが自然に消失したり、手で押すと戻ったりすることがあります。
嵌頓とは、腸が飛び出したまま戻らなくなり、血流が遮断される状態です。激しい痛み・腸閉塞・腸壊死を引き起こすため、緊急手術が必要になります。
鼠径ヘルニアは一度発症すると自然に治ることはありませんが、発症を遅らせたり悪化を防ぐ工夫は可能です。
生活習慣を見直すことでリスクを下げることができます。気になる症状がある場合は早めに医師へご相談ください。
Faq
症状が進行する前に早めの手術を検討することが推奨されます。特に痛みや膨らみが増している場合、緊急手術が必要になるリスクを避けるため、
早めに医師に相談してください。
手術中は麻酔を使用するため痛みを感じません。術後数日は多少の痛みや違和感を感じることがありますが、痛み止めを使用することで管理できます。
MYメディカルクリニックでは、鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術を日帰り手術のみで実施しているため、入院の必要はございません。 遠方よりお越しの方や、手術後に近隣のホテルでご宿泊を希望される方へ提携ホテルのご案内も行っております。お気軽にお申し付けください。
一般的に軽作業なら数日~1週間後、激しい運動は3~4週間後から可能です。
鼠径ヘルニアを放置すると、腸が飛び出したまま戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」が発生する可能性があります。嵌頓は腸閉塞や腸の壊死を引き起こし、緊急手術が必要となる危険な状態です。そのため、早期の治療が推奨されます。
手術直後は痛みがあるため無理をせず安静に過ごすことが大切ですが、徐々に体を動かして回復を促すことも重要です。また、重いものを持つ行為や腹圧をかける運動(腹筋など)は術後2週間程度控える必要があります。通常の生活への復帰には1ヶ月程度かかる場合があります。
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