
鼠径ヘルニア手術
鼠径ヘルニアとは
鼠径ヘルニアは「脱腸」とも呼ばれ、腸の一部が鼠径部の筋膜の隙間から飛び出す病気です。具体的には、太ももの付け根(鼠径部)の筋肉や筋膜が薄くなった部分に穴が開き、そこから腸などの内臓が外に飛び出す状態を指します。鼠径ヘルニアは、腹膜が袋状(嚢状)に脱出し、そこに腸などの臓器が入り込むことで鼠径部に膨らみが現れます。この疾患は小児にも見られますが、成人、特に50歳代以上の男性に多く発症します。男性に多い理由として、鼠径管という通路の存在が挙げられます。この鼠径管は加齢などにより筋膜が弱くなると開きやすくなり、そこに腸が入り込むことでヘルニアが発生します。
膨らみが現れた部分に痛みや違和感を伴うことがあります。
鼠径ヘルニアの原因
鼠径ヘルニアの原因には 先天的要因 と 後天的要因 に分けられます。先天的要因
【生まれつき鼠径部に 腹膜 でできた袋(ヘルニア嚢) がある】鼠径ヘルニアの先天的要因として重要なのが、「鞘状突起(しょうじょうとっき)」と呼ばれる腹膜の突起が完全に閉じずに残存する状態です。
通常、胎児期に精巣や卵巣が下降する際に形成されるこの突起は、出生後に自然閉鎖するはずですが、閉じずに残ることがあります。この残存した袋状の構造がヘルニア嚢となり、そこに腸管が入り込むことで鼠径ヘルニアが発症します。
特に小児の鼠径ヘルニアでは、この腹膜の袋(ヘルニア嚢)が閉じないことが主要な原因となっています。
【幼児期に 鼠径管の閉鎖が不完全】
胎児期から乳児期にかけての発達過程において、鼠径管の完全な閉鎖が起こらないことがあります。この不完全な閉鎖は、後に腸が鼠径管に入り込む原因となり、鼠径ヘルニアの発症につながる可能性があります。
特に男児の場合、胎児期に精巣が腹腔から陰嚢へ下降する過程で鼠径管が一時的に開くため、この管が適切に閉じないケースが女児よりも多く見られます。
このような解剖学的特徴と発達過程の特性が、男児における鼠径ヘルニアの発症率が高い理由の一つとなっています。
後天的要因
【加齢】加齢に伴う筋肉や組織の衰えにより、腹壁が脆弱化し、ヘルニアが発生しやすくなります。
【腹圧の上昇】
慢性的な咳や便秘、重いものを持つ習慣などによる持続的な腹圧の上昇も、鼠径部に負担をかけ、ヘルニアのリスクを高めます。
【肥満】
肥満も重要な要因の一つで、体重増加が鼠径部への過度な圧力につながります。
【妊娠】
女性特有の要因として、妊娠や出産による腹部の変化や圧力の増加が、鼠径ヘルニアの発症リスクを上げることが知られています。
これらの後天的要因が単独で、あるいは複合的に作用することで、鼠径ヘルニアの発症リスクが高まります。
鼠径ヘルニアの種類
鼠径ヘルニアには、発生メカニズムの違いによって 3つのタイプ があります。種類 | 特徴 | 発生しやすい人 |
---|---|---|
鼠径管を通じて腸が飛び出す | 先天的な要因が多い。子どもや若い男性に多い | |
腹壁の弱い部分から腸が飛び出す | 加齢や筋力低下が主な原因。中高年の男性に多い | |
大腿管から腸が飛び出す | 高齢の女性に多い |
鼠径ヘルニアの症状
鼠径ヘルニアの 主な症状 は以下のとおりです。鼠径部(足の付け根)の膨らみ
鼠径ヘルニアの主な症状は、足の付け根にあたる鼠径部の膨らみです。この膨らみは、立位時や力を入れた際に特に顕著になります。違和感や軽い痛み
鼠径部に違和感や軽度の痛みを感じることがあり、これらの症状は長時間の立ち仕事や運動後に顕著になる傾向があります。寝ると膨らみが消える
初期段階では、横になると膨らみが自然に消失したり、手で押すと戻ったりすることがあります。腸が戻らなくなる(嵌頓: かんとん)
症状が進行すると、腸が戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」という危険な状態に陥ることがあります。嵌頓は緊急手術を要する深刻な合併症であり、早期の医療介入が必要です。要注意!嵌頓(かんとん)とは?
嵌頓とは、 腸が飛び出したまま戻らなくなり、血流が遮断される状態 です。 激しい痛み・腸閉塞・腸壊死 を引き起こすため、緊急手術が必要になります。以下の症状が出たらすぐに病院へ
鼠径部のしこりが 硬くなり、押しても戻らない
激しい痛み・吐き気・嘔吐 を伴う
発熱(炎症や腸の壊死のサイン)
検査と診断方法
鼠径ヘルニアの診断には 視診・触診 が基本ですが、 超音波・CT・MRI などの画像診断が補助的に行われることもあります。- 1.視診・触診:立位・臥位で膨らみの有無を確認します
- 2.超音波検査(エコー):腸の突出の範囲を確認します
- 3.CT・MRI検査:診断が難しい場合に追加検査として行われます
治療方法
鼠径ヘルニアは自然治癒しないため、基本的に手術が必要です。自然に治ることはないため、症状が見られる方は早めに医療機関を受診することをおすすめします。
保存療法(手術をしない場合)
【ヘルニアバンド(脱腸帯)を装着】ヘルニアバンド(脱腸帯)を装着することで鼠径部の膨らみを物理的に抑え、症状を軽減する方法です。
【日常生活で腹圧をかけない工夫】
日常生活での工夫も重要で、腹圧をかけないよう注意することが求められます。
具体的には、便秘対策を行い排便時の過度な力みを避けることや、適切な体重管理を通じて腹部への負担を軽減することが挙げられます。
ただしこれらは 根本治療ではないため、最終的に手術が必要です。
手術方法
鼠径ヘルニアの手術には 「開腹手術」 と 「腹腔鏡手術」 の2種類があります。手術方法 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
鼠径部を5〜7cm切開し、メッシュを挿入 | 手術時間が短い | 傷が大きく、回復に時間がかかる | |
小さな穴を3か所開け、カメラと器具を挿入 | 傷が小さく、回復が早い | 設備や専門医(技術)が必要 |
開腹手術
一般的に鼠径部切開法と呼ばれる手術方法は、従来から広く行われてきた治療法です。この手術では、足の付け根にあたる鼠径部に5〜6cm程度の切開を加えて直接アプローチします。手術の主な目的は、ヘルニアの原因となっている腹壁の弱い部分を補強し、内臓の脱出を防ぐことです。成人の場合、多くはメッシュと呼ばれる人工補強材を用いて修復を行います。代表的な術式としては、Lichtenstein法、Mesh plug法、Kugel法、Direct Kugel法などがあり、これらはメッシュの配置方法によって区別されます。
開腹手術の利点として、局所麻酔下で実施可能なことが挙げられます。これにより、全身麻酔に伴うリスクを避けられるため、高齢者や合併症のある患者にも適用しやすいという特徴があります。また、直接的にヘルニアの部位を確認し、修復できるため、確実な治療が可能です。
一方で、腹腔鏡手術と比較すると、術後の痛みがやや強く、回復に時間がかかる傾向があります。また、傷跡が比較的大きくなるため、美容面での懸念もあります。
しかし、再発率に関しては腹腔鏡手術と同等であることが複数の研究で示されています。また、手術時間が腹腔鏡手術よりも短いという利点もあります。
術後は、適切なケアと生活指導に従うことで、多くの患者が日常生活に早期に復帰できます。ただし、再発のリスクを最小限に抑えるため、過度な腹圧上昇を避けるなど、一定期間の注意が必要です。
腹腔鏡手術
鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術は、患者への負担が少なく、早期回復が可能な優れた手術方法です。現在は 腹腔鏡手術が主流 で、再発率も低いとされています。一般的に、腹部に3か所の小さな穴(5〜12mm程度)を開け、そこから腹腔鏡カメラと手術器具を挿入して行います。

手術の手順としては、まず腹部に開けた穴から二酸化炭素を注入して腹腔を膨らませます。これにより、術者の視野が確保され、手術操作のスペースが確保されます。次に、腹腔鏡カメラを挿入し、腹腔内の様子をモニターに映し出します。術者はこのモニター画面を見ながら、他の穴から挿入した鉗子や電気メスなどの器具を操作して手術を進めます。
腹腔鏡手術の利点として、傷が小さいため術後の痛みが少なく、回復が早いことが挙げられます。また、拡大視野で手術を行うため、より精密な操作が可能となり、出血量も少なくなります。さらに、美容面でも優れており、術後の傷跡が目立ちにくいという特徴があります。
手術の目的は、ヘルニアの原因となっている腹壁の弱い部分やすき間を補強し、臓器が飛び出さないようにすることです。多くの場合、人工補強材(メッシュ)を用いて修復を行います。
ただし、腹腔鏡手術は技術的に難度が高く、経験豊富な外科医が行う必要があります。また、全身麻酔が必要となるため、患者の状態によっては従来の鼠径部切開法が選択される場合もあります。
術後は通常1〜2日程度で退院が可能で、術後3時間程度で歩行や飲食が可能となります。ただし、メッシュが体になじむまでの2〜3週間は、腹圧をかけるような動作を控える必要があります。また、再発や合併症のリスクがあるため、半年程度は定期的な経過観察が行われます。
費用について
鼠径ヘルニアの手術費用は 健康保険が適用 されます。3割負担 | 2割負担 | 1割負担 | |
---|---|---|---|
¥2,000程度 | ¥1,300程度 | ¥700程度 | |
¥5,000程度 | ¥3,000程度 | 1,500程度 | |
¥80,000程度 | ¥18,000程度 | ¥18,000程度 |
※ 手術費用は術前検査の内容や手術の状況等により異なります
診察・治療の流れ
- 診察予約
-
手術前に診察と検査が必要です。
電話予約またはWeb予約から診察のご予約をお取りください。
外来WEB予約
- 診察・検査(視診・超音波検査等)
-
問診表をご記入いただき診察と必要な検査を行います。
- 手術説明・手術日を決定(必要に応じて追加検査)
-
診察・検査の結果、手術適応と診断された場合は、手術についてのご案内をさせていただきます。
- 手術当日(約1時間程度)
-
当日はお食事をとらずにお越しいただき、手術前に体調の確認を行います。
手術時間は約1時間程度で、術後1時間はリカバリールームでお休みいただきます。
最後にお会計が済みましたらご帰宅となります。 - 術後診察(翌日~1週間と1か月後)
-
翌日〜1週間に1回と、1か月後にご来院いただき、診察にて術後の状態を確認させていただきます。
執刀医紹介

執刀医安江 英晴
- <出身大学>
- 東京慈恵会医科大学卒
- <資格>
- 日本外科学会専門医
- 日本消化器外科学会専門医
- 日本消化器内視鏡学会専門医
- 日本消化器病学会専門医
- マンモグラフィー読影認定医
- 日本医師会認定産業医
- 内痔核治療法研究会四段階注射法講習会受講
執刀医黒河内喬範
- <出身大学>
- 東京慈恵会医科大学卒
- <資格>
- 日本外科学会 専門医
- 日本消化器外科学会 専門医・指導医
- 消化器がん外科治療認定医
- 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
- 日本内視鏡外科学会 技術認定医(食道癌)
- 日本食道学会 食道外科専門医・評議員
- 日本消化器内視鏡学会 専門医
- 日本消化器病学会 専門医
- マンモグラフィー読影認定医

執刀医武田泰裕
- <出身大学>
- 東京慈恵会医科大学 外科学講座 下部消化管外科
- <資格>
- 日本外科学会 専門医・指導医
- 日本消化器外科学会 専門医・指導医
- 消化器がん外科治療認定医
- 日本大腸肛門病学会 専門医
- 日本内視鏡外科学会技術認定医(大腸)
- 日本内視鏡外科学会 評議員
- 日本内視鏡外科学会ロボット支援手術認定プロクター(大腸)

麻酔科医高宮 達郎
- <出身大学>
- 東京慈恵会医科大学卒
- <資格>
- 日本麻酔科学会専門医

麻酔科医塩屋 由希子
- <出身大学>
- 東京慈恵会医科大学卒
- <資格>
- 日本麻酔科学会専門医
- 日本内科学会認定医
- Master of Public Health 取得
よくある質問
鼠径ヘルニア手術を受けるタイミングはいつが良いですか?
症状が進行する前に早めの手術を検討することが推奨されます。特に痛みや膨らみが増している場合、緊急手術が必要になるリスクを避けるため、早めに医師に相談してください。
手術の痛みはどの程度ですか?
手術中は麻酔を使用するため痛みを感じません。術後数日は多少の痛みや違和感を感じることがありますが、痛み止めを使用することで管理できます。
入院する必要はありますか?
MYメディカルクリニックでは、鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術を日帰り手術のみで実施しているため、入院の必要はございません。 遠方よりお越しの方や、手術後に近隣のホテルでご宿泊を希望される方へ提携ホテルのご案内も行っております。お気軽にお申し付けください。
手術後どれくらいで日常生活に戻れますか?
一般的に軽作業なら数日~1週間後、激しい運動は3~4週間後から可能です。
鼠径ヘルニアを放置するとどうなりますか?
鼠径ヘルニアを放置すると、腸が飛び出したまま戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」が発生する可能性があります。嵌頓は腸閉塞や腸の壊死を引き起こし、緊急手術が必要となる危険な状態です。そのため、早期の治療が推奨されます。
手術後の生活で気をつけることはありますか?
手術直後は痛みがあるため無理をせず安静に過ごすことが大切ですが、徐々に体を動かして回復を促すことも重要です。また、重いものを持つ行為や腹圧をかける運動(腹筋など)は術後2週間程度控える必要があります。通常の生活への復帰には1ヶ月程度かかる場合があります。
各院の診療時間・アクセスは
下記よりご確認ください。