秋から冬に増える「ツツガムシ病」の症状と治療法
- クリニックブログ
秋から冬に増える「ツツガムシ病」の症状と治療法
ツツガムシ病は、ツツガムシと呼ばれるダニが媒介する病気です。野山などでツツガムシに刺されることで発症しますが、マダニと異なりツツガムシは秋から冬にかけて発症件数が増えるという傾向があります。ツツガムシ病は治療が遅れると死に至る可能性もある感染症です。
今回は、ツツガムシ病の症状や治療法などについてご説明します。
ツツガムシ病とは
ツツガムシ病とは、ツツガムシ病リケッチアを保菌するツツガムシに刺されることで発症する感染症です。
ツツガムシ
ツツガムシは、ダニの一種で、日本では北海道や沖縄などの一部の地域を除き、野山や河川敷に生息しています。また、アジアや東南アジアにも広く生息しているダニです。
ツツガムシは、卵から付加した後、幼虫期に哺乳類に吸着して組織液を吸う性質があります。ツツガムシ病リケッチアを保菌するツツガムシの幼虫に刺された場合、病原体が体内に入り、ツツガムシ病を発症します。したがって、ツツガムシに刺されただけではツツガムシ病は発症せず、ツツガムシ病リケッチアを保菌するツツガムシに刺された場合のみ、ツツガムシ病を発症する可能性があるのです。また、人から人に感染することはありません。
日本ではアカツツガムシ、タテツツガムシ、フトゲツツガムシの3種類のツツガムシが、ツツガムシ病を発症させる原因であるツツガムシ病リケッチアを保菌しています。ただし、アカツツガムシについては、現在は消滅したと考えられています。
ツツガムシ病の症状
ツツガムシ病の潜伏期間は、5~14日程度です。潜伏期間終了後、39度以上の高熱、全身の倦怠感や食欲不振、頭痛などの症状が表れます。発熱、刺し口、皮疹は主要三兆候と呼ばれ、90%の感染者に認められます。発熱から数日後には、体幹部を中心に1~2cm程度の発疹が多発し、腕や足に広がっていきます。また、近くのリンパ節や全身のリンパ節が腫れるケースもあり、肝脾腫が起きる場合もあります。
血液検査をすると、炎症反応を示す血中CRPが強陽性、異形リンパ球の出現、血小板の減少、ナトリウム血の低下、ASTやASLなどの肝臓の値の上昇、などが見られる傾向にあります。治療が遅れた場合には、肺炎や脳炎を併発したり、全身の血管に血栓ができて出血しやすくなるDIC(播種性血管内凝固症候群)、心不全などを招く恐れがあります。
心不全について詳しくはこちら
ツツガムシ病の特徴
ツツガムシによって刺された跡は、黒いかさぶたのようなものがついた紅斑となって見られます。刺し口の大きさは1~2cm程度で黒色のかさぶたの周りが赤くなっているケースが多くなります。
ツツガムシ病の発症しやすい時期
ツツガムシ病は、媒介するツツガムシの種類や感染地域によって感染する時期が異なります。関東より南の場合は、晩秋から冬にかけて、東北や北陸地方では秋から冬にかけての時期のほか、春にも発生件数が多くなっています。
ツツガムシ病の発生件数
ツツガムシ病は、感染症法で4類感染症に定められています。診断した医師は、最寄りの保健所に届け出をする義務があります。
日本において、ツツガムシ病は1960~1970年代には減少していたものの、1984年に統計を開始して以降、最高値である957例の感染報告ありました。その後、一旦、患者数は減少しましたが、1997年ごろから再び感染者数が増加しています。2001年以降は、全国で毎年300~500例程度の届け出があり、東京都でも2022年には21件の感染報告がありました。
ツツガムシ病の検査・診断
ツツガムシ病であるかを診断するためには、まず、問診で数日中に山林や草むら、河川などを訪れたかどうか、海外のツツガムシ病の流行地に旅行歴があるかを確認します。
また、ツツガムシ病の特徴は、ツツガムシに刺された後にできる刺し口があるかどうかを調べます。ツツガムシは腕や足などの、肌の露出がある部分ではなく、わきの下や太もも、内股など衣服で隠れている皮膚の柔らかい部位を好んで刺す傾向にあります。ほとんどのケースで刺された箇所には黒いかさぶたができているため、刺し口があるかどうかがツツガムシ病であるかどうかの重要な判断材料となります。
問診と刺し口からツツガムシ病を疑われる場合、血液や刺し口のかさぶたを採取し、PCR法で病原菌の遺伝子が検出されるかどうかを確認します。また、血液検査によってツツガムシ病リケッチアの抗体を測定する方法もあります。
ツツガムシ病の治療
ツツガムシ病の治療が遅れると、肺炎や脳炎を合併する可能性もあり、最悪の場合は心不全などによって死に至るケースもあります。そのため、ツツガムシ病は早期の適切な治療が重要です。問診や刺し口からツツガムシ病が疑われる場合は、確定診断を待たずに、治療を開始します。
ツツガムシ病の治療では、抗菌薬を投与します。第一選択薬はテトラサイクリン系の抗菌薬ですが、アレルギーがある人や8歳未満の小児など、テトラサイクリン系の抗菌薬を使用できない場合にはクロラムフェニコールを使用します。
抗菌薬を投与後は3日以内に解熱し、快方に向かうケースがほとんどですが、7日から10日程度は抗菌薬の投薬が必要となります。
ツツガムシ病の予防法
ツツガムシ病のワクチンは開発されていません。そのため、ツツガムシに刺されないように気をつけることがツツガムシ病の最大の予防法となります。山林や野原、河川敷などに出かける際には長袖長ズボンを着用して肌の露出を避け、防虫スプレーも使用しましょう。
また、帰宅後は早めに衣服を着替え、入浴をして体をよく洗い流すことも大切です。
まとめ
ツツガムシ病は、ツツガムシ病リケッチアを保菌するツツガムシに刺されることで発症する感染症です。ツツガムシ病の治療が遅れた場合、命にかかわる可能性があります。野山や草むらなどに出かけた後に発熱した場合や、湿疹が出てきた場合は早急に医療機関に相談し、状況を伝えたうえで適切な治療を受けるようにしましょう。
また、野山に出かける際には肌の露出をできるだけ抑え、防虫スプレーも活用して、ツツガムシに刺されないよう対策することも大切です。
略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師