胃がんとは?原因、症状、治療法について解説

  • クリニックブログ
2023/06/08

胃がんとは?原因、症状、治療法について解説

「胃がん」と聞くとどのようなイメージを持つでしょうか?
「胃がんは死亡率が高い」「男性に多く見られ、生活習慣が原因で発症する」「抗がん剤治療は辛そう」
などさまざまな印象を持つ方が多いかもしれません。
 
そこで本記事では、

  •  ●胃がんとは何か
  •  ●胃がんの主な原因
  •  ●ステージ別の症状
  •  ●主な検査と治療法
  •  ●予防策

 
について詳しく解説しています。
 
胃がんについてより深く知りたい方や、身近に胃がんの方がいる方にとって、役立つ情報をお届けします。
 
ぜひ最後までご覧ください。

 
 

胃がんとは

胃がんは、胃の内壁を覆う粘膜の細胞が何らかの原因でがん細胞に変わり、無秩序に増殖することで発生するがんです。
がんが大きくなると、徐々に粘膜下層、固有筋層、漿膜へと外側に向かって深く進行していきます。

 
がんの進行に伴って、胃の近くにある大腸や膵臓、横隔膜、肝臓などにも直接広がっていきます。このようにがんがしみ出るように周囲に広がっていくことを浸潤(しんじゅん)と呼びます。
 
日本の2020年の統計では、胃がんは男性・女性ともに部位別がん死亡数のトップ5に入る主要ながんのひとつです。
 
40歳以上になると発症率が上昇し、60歳代にピークを迎えます。
 
高齢化に伴い高齢者の胃がんが増えており、女性よりも男性に多い傾向があります。
 
早く発見できれば胃カメラで切除、根治することができますが、ステージが進んで進行がんになると手術が必要です。
さらに進行すると化学療法が治療の中心になるとともに、生存率も低下していく傾向にあります。

症状

胃がんの初期段階では多くの場合、無症状なことが多く、定期検診や胃がん検診で偶然発見されることも珍しくありません。
胃がんの代表的な症状は、胃の痛み・不快感・違和感、胸やけ、吐き気、食欲不振などが挙げられます。
 
また、がんの出血による貧血や、黒い便(血便)が出ることがありますが、貧血症状や血便は胃がんのみに関わらず、胃潰瘍や胃炎でも起こる症状なので、自己判断は危険です。
 
その他、食事が喉や食道につかえたり体重が減少したりする場合は、進行胃がんの可能性もあるため、すぐに医療機関を受診しましょう。
 
また、胃がんは播種といって、お腹の中にがん細胞が飛び散りやすく、その影響でお腹に水がたまりやすくなります。
これを腹水と言い、腹水が増えるとお腹が張ってくることも多いです。
 
周りのリンパ節などにも転移しやすく、場合によっては脇の下のリンパ節まで転移を起こして腫れてくる場合もあります。
 
胃がんは4つのステージに分類されています。
それぞれのステージとA・Bのサブステージ、特徴と症状について詳しくご説明します。
 

ステージ1

胃がんのステージ1(Ⅰ期)は、がんが比較的初期段階で周囲の臓器やリンパ節に広がっていないもしくは、広がっていても非常に限定的な状態をいいます。
 

  • ステージ1A
  • ●がんは胃の最も内側の層(粘膜層)またはその下の層(粘膜下層)にとどまっている。
  • ●リンパ節への転移がない。
  •  

  • ステージ1B
  • ●がんは粘膜下層にとどまっているが、リンパ節に1〜2個の転移がある。
  • ●がんが筋層(胃壁の中間層)まで浸潤しているが、リンパ節転移はない。

 
ステージ1は比較的早期に発見されるため、予後も良好とされています。
 

ステージ2

胃がんのステージ2(Ⅱ期)は、がんが胃壁の深い層に浸潤しているか、または周辺のリンパ節への転移が進行している状態です。
ステージ2はステージ1より進行していますが、他の臓器への転移が見られないため良好な予後が期待できる場合もあります。
 

  • ステージ2A
  • ●がんが筋層(胃壁の中間層)まで浸潤している。
  • ●がんが筋層にとどまっている場合、近くのリンパ節に1〜2個の転移があるまたは、漿膜(胃壁の外側の層)に達していてもリンパ節転移がないことがある。
  •  

  • ステージ2B
  • ●がんが筋層にとどまっていても、近くのリンパ節に3~6個の転移が見られる場合。
  • ●他の臓器への転移はまだ見られない。

 

ステージ3

胃がんのステージ3(Ⅲ期)はがんが胃の深い層に広がり、複数のリンパ節転移が認められる段階です。
 
ステージ3では、胃壁の外層を越えて周囲の組織に達していることが多く進行はステージ2よりもさらに進んでいます。
しかし、周囲への臓器への転移はみられません。
 
ステージ3はがんの浸潤とリンパ節転移の程度により3A、3B、3Cの3つに分類されます。
 

  • ステージ3A
  • ●がんが漿膜に達しており、1〜6個のリンパ節転移が認められる。
  • ●がんが胃の筋層までしか達していないが、7個以上のリンパ節転移が認められる。
  •  

  • ステージ3B
  • ●がんが漿膜まで達し、7個以上のリンパ節転移がある。
  • ●がんが近くの組織に浸潤し、1〜6個のリンパ節転移がある。
  •  

  • ステージ3C
  • ●がんが漿膜を越えて近くの臓器に達し、7個以上のリンパ節に転移している。

 
ステージ3の胃がんは、がんが広範囲に広がっているため、予後はステージ2より厳しくなります。
 

ステージ4

胃がんのステージ4は、がんが他の臓器や遠隔部位(肝臓・肺・骨・脳)に転移している状態です。
 
この段階では根本的な治療が難しく、治療の目的は延命や症状の緩和、生活の質を向上させることに重点が置かれます。
 
 

胃がんの原因は

現在、胃がんが発生する正確なメカニズムは明確ではありませんが、主なリスク要因として「ピロリ菌感染」と「生活習慣の乱れ」が挙げられます。
以下に、それぞれの胃がんリスクに関連するメカニズムを説明します。
 

ヘリコバクターピロリ

胃がんの原因の多くはピロリ菌の感染が大きく関係しています。
ピロリ菌が胃の粘膜に感染すると、胃炎を引き起こし、慢性化によって胃粘膜が萎縮し、胃がん発症リスクが高まる可能性があるのです。
ピロリ菌感染者は、胃がん発生率が約5倍に高まることが報告されました。
 
除菌が遅れるほどリスクが高まるため、早期の除菌が重要です。
ピロリ菌は胃カメラや呼気検査で発見されるため、定期的な健康診断が推奨されます。
 
 

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生活習慣の乱れ

ピロリ菌感染に加えて、生活習慣の乱れも胃がんのリスクを高めます。
胃の粘膜は粘液で保護されていますが、塩分や刺激の強い食事は胃粘膜の炎症を引き起こすのです。
 
肉や魚の焦げ、喫煙、過度の飲酒も胃への負担が大きいため、なるべく避けることをおすすめします。
 
特に注意したいのが喫煙です。タバコの発がん物質は、唾液に溶けて胃に入ってしまうため、胃がん発症のリスクをさらに高めてしまいます。
 
 

胃がんの検査方法

胃がんの診断には、胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)が胃がんの早期発見に有効な検査です。
その他、経口造影検査(胃部X線検査)やCT検査が行われます。
以下で検査法について詳しく解説していきます。
 

胃部X線検査

胃部X線検査は、胃や十二指腸の異常の有無を調べる検査で、胃がんの検診でも用いられます。
 
バリウムと発泡剤を飲んで胃の粘膜の状態を観察し、胃の形や表面の凹凸、炎症や潰瘍などの異常を調べる検査です。
がんにより胃壁が硬くなると、バリウムで胃が膨らみにくくなることを確認できます。
 
胃部X線検査は、胃がんだけでなく胃潰瘍など、他の胃の異常の有無も判定できるのがメリットです。
 
しかし胃部X線検査は大量の放射線を使用するため、がんがある程度の大きさにならないと発見できないというデメリットもあります。
 

胃内視鏡検査

内視鏡検査では、食道、胃、十二指腸、大腸の疾患を発見でき、特にがんの早期発見に非常に有効です。
食道がんや胃がん、大腸がんは、死亡率が高いにもかかわらず、初期には自覚症状がほとんどありません。
 
そのため、腹痛や便通の異常などの症状を放置せず、内視鏡検査を受けることで早期発見の機会をつくることが重要です。
 
また、家族にがんを発症した方がいる場合、特定のがんを発症する確率は通常より高くなります。
胃内視鏡検査では、胃粘膜の様子や色、形態の変化を観察し、胃がんだけでなく、炎症や潰瘍も発見できます。
 
病変の位置や大きさ、表面の形状や色調の変化から、病変の数や深達度をある程度判断することが可能です。
 
さらに、NBI(狭帯域光観察)という画像強調内視鏡技術を用いることで、通常の光では発見しにくい小さな病変を早期に発見できるようになりました。
 
内視鏡検査のもう一つの大きな利点は、検査中に病変が見つかった場合、鉗子(かんし)と呼ばれる器具で組織を採取し、生検(病理検査)を行って早期に病気の診断ができる点となります。
 

CT検査

CT検査(コンピューター断層撮影)は、身体にX線を様々な角度から照射し、その情報をコンピューターで解析する方法です。
 
検査では、造影剤を使用する場合としない場合がありますが、造影剤を使用すると、病変がより鮮明に表示され、対象とする臓器やその周辺をミリ単位で断層撮影することができます。
 
CT検査は、胃部X線検査や胃内視鏡検査の結果と合わせて、病気の診断に役立つ検査です。
また、化学療法や放射線療法など、抗がん剤治療の効果を確認するためにも使用されます。
 
CT検査自体は胃がんの直接的な発見にはあまり有用ではありませんが、胃がんが周囲の臓器に浸潤しているか、あるいは転移しているかを発見する上で非常に有効です。
 


 

胃がんの治療は?

胃がんの治療法には、内視鏡治療・手術療法・抗がん剤治療・放射線療法があります。
 
早期がんの場合は、がんの大きさやがん細胞の悪性度、潰瘍があるかどうかなどを考慮し、胃内視鏡検査時にがんを切除します。
ある程度がんが進行しても、ステージ3までは手術でがんを根治できる可能性があるため、手術が第一方針になります。
 
手術には開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術の3種類があります。
以下に各治療法について詳しく解説します。
 

内視鏡治療

早期胃がんを治療するための内視鏡治療には、EMR(粘膜切除術)と、ESD(粘膜下層剥離術)の2つの方法があります。
 

EMR(粘膜切除術)

EMRは、スネアと呼ばれる輪状のワイヤーをポリープにかけ、ワイヤーを締めて高周波電流を流し、ポリープを焼き切る内視鏡治療です。
この治療は短時間で行うことができ、安全性が高く、外来治療が可能なため体力の消耗が少なくて済みます。
 
しかし大きなポリープがある場合は、一括で切除できず分割して切除するため、ポリープの一部を取り残してしまうことがあります。
取り残しのないように、20mm以下の小さながんを対象に行う手術です。
 

ESD(粘膜下層剥離術)

ESDは、早期がんの中でも特に初期の病変に対して行われる治療法で、胃カメラを用いて消化管の粘膜層から粘膜下層までを剥離し、病変を一括で切除します。
 
ESDのメリットは患者様が受ける身体的負担が非常に少ない点です。
外科手術は臓器を周囲のリンパ節と一緒に切除しますが、早期のがんでも特に早期のものはリンパ節転移がほとんどないため、ESDを選択することで局所のみの切除となり、臓器をほぼ温存できます。
 

手術療法

手術には4種類の術式があります。
4つの術式それぞれについて解説していきます。
 

低侵襲手術

低侵襲手術とは、内視鏡下手術を指します。
内視鏡下手術は腹壁に小さな数個の穴を開け、腹腔に挿入した細径内視鏡の映像をモニターテレビで観察しながら、長くて細い特殊な器具(鉗子や電気メスなど)を用いて行う手術です。
 
従来の開腹手術と異なり、体壁を大きく切開せず、体腔内の臓器を手術室の冷たい乾燥した空気に長時間晒さないなどの大きな利点があります。
 
これにより、術後の痛みがほとんどありません。早期の回復や社会復帰が期待でき、美容的な面でも非常に優れています。
 

胃全摘出術

胃全摘術は胃の入口と出口を切離して、胃の全てを切除します。
胃の上部にかかる進行胃がんや、がんが胃の上部にかかり胃を半分以上残すことが難しい早期胃がんに対して行われる術式です。
 
近年では、術後の急激な体重減少を防ぐため、できる限り胃全摘を避ける方法が工夫されています。
 

噴門側胃切除

噴門側胃切除とは、胃の入口部分(噴門)付近にがんがある場合に行われる手術です。
 
特徴として、胃全摘術に比べて体重減少や貧血が起こりにくいですが、残った胃に新たな胃がんができることがあるため定期的な内視鏡による観察が必要です。
 
切除する部分は噴門(ふんもん)を含めて胃の上部約3分の1から2分の1の範囲を切除します。
 

幽門側胃切除

幽門側胃切除とは、胃の出口(幽門)を含めて胃の下約 3分の2を切除する手術法です。
切除後は残った上方の胃(残胃)約 3分の1と十二指腸を吻合して再建を行います(その先の小腸と残胃をつなぐ場合もあります)。
 
胃がんに対してのこの手術方法は、がんの局在が胃の中部から下部にある場合に適応となります。
 

化学療法(薬物療法)

予想したステージが4の場合は、基本的には化学療法(薬物療法)を行います。
 
胃がんに対する化学療法には、大きく分けて「手術でがんを完全に除去するのが難しい進行・再発胃がんに対する化学療法」と、「手術後の再発予防を目的とする術後補助化学療法」があります。
 
また、リンパ節転移の状況によっては、手術前に「術前補助化学療法」が行われることもあります。
化学療法に使用される薬には、細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬があります。
 
治療はこれらの薬を単独または組み合わせて、点滴または内服で行います。
化学療法はがん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を与えるため、口内炎、吐き気、脱毛、下痢などの副作用が起こることが少なくありません。
さらに、血液中の白血球や血小板の減少、骨髄抑制、肝機能や腎機能の悪化なども考えられます。
 
副作用の有無やその程度は個人によって異なりますが、最近では副作用を予防するための薬も開発されており、特に吐き気や嘔吐については予防が可能になってきています。
 

放射線療法

胃がんからの出血がひどい場合には、放射線を胃がんに照射する放射線療法を行うこともあります。
胃がん細胞は放射線にあまり反応しないことが多く、周囲の臓器が放射線に対して敏感であるため、放射線療法は主に進行がんで切除が困難な場合や、抗がん剤が効果を示さない進行がん、再発がんに対する補助的な治療法として用いられます。
 
具体的には、胃がんの骨転移による強い痛みを軽減するためや、リンパ節や腫瘍からの出血をコントロールするために行うのが放射線治療です。
治療後には胃や食道の炎症、吐き気、下痢などの副作用が発生することがあります。
 
 

胃がんの予防方法は?

胃がんに限らず、がん全般の予防には禁煙、節度のある飲酒、バランスの良い食事、適度な運動、体型の維持、感染予防が有効であることが分かっています。
タバコはほとんどのがんで発症のリスクになるので禁煙を心がけましょう。
食生活では、塩分をとりすぎない、食物繊維をとる、脂肪分の少ない食事を心がけることが大切です

 


また定期的な健康診断もがんの早期発見の予防につながります。
 
 

まとめ

本記事では胃がんの主な原因や症状、治療法について詳しく解説しました。
胃がんは日々の生活習慣の見直しや、定期的な健康診断を通じて予防や早期治療が可能です。
少しでも気になる症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。
 
胃がんについての知識を持ち、定期検診を怠らないことが、早期発見・早期治療への第一歩となります。
 
 

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MYメディカルクリニック渋谷 笹倉 渉医師

監修:MYメディカルクリニック渋谷 非常勤医

笹倉 渉 Dr. Sasakura Wataru

資格

略歴

  • 藤田保健衛生大学医学部 卒業
  • 公立昭和病院
  • 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
  • 北部地区医師会病院麻酔科 科長
  • 2016年 MYメディカルクリニック 医師
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