肝嚢胞には単発と多発性がある!原因や症状、治療法について詳しく解説
- クリニックブログ
肝嚢胞には単発と多発性がある!原因や症状、治療法について詳しく解説
「肝嚢胞とはどのような病気で、原因や治療法は何なのか知りたい」と気になっている方もいるのではないでしょうか?
結論からお伝えすると、良性の腫瘤であるため基本的に心配は要りません。しかし、合併症を引き起こすリスクもあることは念頭に置いておくべきです。
本記事では、発症する原因や症状、多発性との違い、発症の原因疾患について解説します。
肝嚢胞とは?原因や症状・治療について
肝嚢胞とはどのような病気で、どのような影響があるのでしょうか。以降では、原因や症状、検査や治療法などを解説します。
肝嚢胞とは?
肝嚢胞とは、肝臓の組織に水がたまっている状態をいいます。先天性と後天性に分けられ、先天性によるものは経過が良い傾向にあり、それほど心配は要りません。
先天性のものには、単純性嚢胞、多発性嚢胞性肝疾患、繊毛性肝前腸嚢胞といったものがあります。
後天性は感染性と非感染性に分けられ、特に感染性はウイルスや寄生虫の感染によって起きるものです。病気が原因であるため、治療を必要とします。
症状
無症状であるパターンが多く、気付かず成長することが多い傾向があります。そのため、たまたま画像診断で気付く方も珍しくありません。
ただ嚢胞のサイズが大きいと、腹部の膨満感や胃やみぞおち当たりの右上部分に鈍痛を覚えることがあります。また、サイズが大きい場合はおなかの上から触って嚢胞を確認できる場合もあります。
後天性の場合も無症状のため、嚢胞があることに気付かない方がほとんどです。しかし、原因となっている病気の不調は現れるため、検査して気づくパターンが多い傾向があります。
疫学
肝嚢胞は無症状の方が多く、たまたま受けた検査で肝臓に水がたまっていることを知る人が多いようです。そのうち超音波検査では、一般人口における発見率が3〜5%、CTスキャン検査では15〜18%であることが報告されています。
女性が発症しやすい傾向がありますが、見つかるのは40代以降であることが多く、若いうちに診断されることはあまりありません。
発症原因
発症原因は非感染性と感染性に分類できます。非感染性は生まれつき見られ、女性に多いことから、エストロゲンと関連しているとされていますが、はっきりとした原因は判明していません。
ただ、まれに外傷や炎症、腫瘍によって発症することも分かっています。感染性は、エキノコックスやアメーバ、真菌の感染が原因ですが、こちらも極めて珍しいといえるでしょう。
合併症に注意しなければならない
発症が分かった後も、特に何も起こらずに済むことが多い傾向があります。しかし、肝がんや肝不全などの合併症を起こすことがあるほか、エキノコックスが原因の場合は破裂し出血することでアナフィラキシーショックが起こった例が報告されています。
他にも、まれですが急激な嚢胞の成長で肝静脈が閉塞し、バッド・キアリ症候群を発症する例もあります。そのため、定期的に検査を行い、チェックすることが大切です。
検査と診断方法
検査方法には以下があります。
- ●画像診断:CTスキャン・腹部超音波検査
- ●穿刺吸引・生検
- ●遺伝子検査
なお、肝臓疾患でよく用いられる血液検査はあまり意味がありません。というのも、肝臓の病変はあるものの肝臓の数値は正常であることがほとんどであるためです。
よって、上記の方法で診断を行います。
治療
基本的に単発嚢胞であることが多く、治療は行われません。しかし、感染や炎症など別の原因で発症したものは、その原因元を治療します。
肝嚢胞と多発性肝嚢胞の違い
通常の肝嚢胞とは別に多発性肝嚢胞と呼ばれる疾患もあります。通常のものとどのように違いがあるのか、特徴や原因、症状などを解説します。
多発性肝嚢胞とは
多発性肝嚢胞は、名前の通り嚢胞が複数できている状態です。こちらも通常の嚢胞と同様女性に起こりやすい傾向があります。
基本的に肝臓の機能に影響を及ぼすことはないため、血液検査の結果も良好です。傾向として、発症者は多発性嚢胞腎も併せて発症しやすいことが挙げられます。
多発性嚢胞腎とは、高血圧や腎不全を引き起こすリスクがある疾患です。通常の肝嚢胞と違い、基本的に治療を必要とします。
グレードやタイプがある
多発性肝嚢胞は、検査結果によってグレードとタイプが存在しています。
グレードは嚢胞と数、タイプは嚢胞と数とサイズの基準で設けられています。
グレード | 基準 |
---|---|
嚢胞が見受けられない | |
嚢胞が1〜10個見受けられる | |
嚢胞が11~20個見受けられる | |
嚢胞が20個以上見受けられる | |
嚢胞20個以上および自覚症状がある肝腫大が見受けられる |
タイプ | 基準 |
---|---|
大きな肝嚢胞が10個未満かつ最大直径が20cm未満である | |
多数の嚢胞が肝実質(肝機能の主要となる部分)一面に浸潤しているが、広範囲の肝実質が残存している | |
異なる大きさの肝嚢胞が肝実質(肝機能の主要となる部分)一面に浸潤しているが、正常な肝実質領域がほんの少し見受けられる |
原因
発症原因は、不明です。
しかし、女性に多いことからエストロゲンとの関連性が疑われています。また、遺伝子の変異が原因であることが報告されていますが、日本ではまだ遺伝子との関連は解析されていません。
症状
血液検査での異常は見られません。しかし、症状が進行しサイズが大きくなることから、肝臓周りの臓器に圧迫感を感じやすい傾向があります。
そのため、長期にわたり呼吸困難、腹部膨満や腹痛、下腿浮腫、ヘルニアといった症状が見られます。また、多発性嚢胞腎の合併によりまれに腹水や下腿浮腫、閉塞性の黄疸などの症状が見られることもあります。
治療法
痛みの悪化や肝臓の機能への影響が見られた場合、手術療法が行われることがあります。
ただし、再発する可能性もあります。
肝嚢胞を起こす他の疾患
肝嚢胞を起こす原因となる疾患の例を紹介します。
エキノコックス嚢胞
キツネや犬が持っていることが多い「エキノコックス」と呼ばれる寄生虫に感染すると起こることがあります。多包虫と単包虫とで症状が異なり、多包虫タイプは進行が緩やかです。
成人の場合、10年以上経過してようやく黄疸や発熱などの初期症状が見られます。放置すると半年程度で腹水がたまり亡くなります。
エキノコックス症についてはこちら
カロリ病
カロリ病は「先天性多発肝内胆管拡張症」と呼ばれる疾患です。肝症状が見受けられるようになる時期は幼児期から60歳代と幅広いため、いつ症状が現れるか分かりません。
肝嚢胞腺腫
肝嚢胞腺腫は、まれに見られる疾患であり、超音波検査で見つけられます。「四国医誌」によれば発症年齢は23〜79歳と非常に幅が広いです。悪性化した例は50歳未満にはないと報告されていますが、実際には18例中4例が50歳以下だったと集計の結果分かっています。
(出典:四国医誌「症例報告 肝嚢胞性腫瘍の2切除例」
https://repo.lib.tokushima-u.ac.jp/files/public/11/110189/20170929142205855978/LID201707114003.pdf)
肝嚢胞腺癌
肝嚢胞腺癌は、まれに見られる疾患であり、超音波検査やCTスキャン検査、MRI検査などで見つけられます。日臨外医会誌によれば、発病年齢は20~80歳と幅が広いですが、最も多いのは50歳代との報告もあり、女性に多い傾向があります。
(出典:日臨外医会誌「肝嚢胞腺癌の1例」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ringe1998/66/10/66_10_2529/_article/-char/ja)
まとめ
肝嚢胞は、良性であることが多くほとんどが自然消滅するため治療は基本的に必要ありません。
しかし、中には何かしらの感染や外傷などが原因で起こることもあります。さらに、別の疾患によって肝嚢胞が見られるケースもあります。
医師から心配ないと言われた場合は、経過観察で様子を見て問題ありません。もし原因が他にある場合は、治療をしっかり行いますので安心してください。
略歴
- 藤田保健衛生大学医学部 卒業
- 公立昭和病院
- 東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科 助教
- 北部地区医師会病院麻酔科 科長
- 2016年 MYメディカルクリニック 医師