下肢静脈瘤について

下肢静脈瘤は本邦において推定約1000万人が罹患していると考えられている一般的な疾患です。潜在的に多くの方が患っているにもかかわらず、病気という認識が乏しく、また診断/治療されずに放置されていることが多い疾患です。確かに放置されていても命にかかわることがなく、重症感に乏しいため、かかりつけ医にとっても治療の対象とされることが少ない病態です。

しかし、下肢静脈瘤は専門医の診断を受け、適切な治療を受けますとそのQOL（生活の質）は格段に改善します。

下肢静脈には下肢の筋間を走行し最も血流の多い深部静脈と、下肢表面を走行している表在静脈があります〈図2-(a)〉。表在静脈には、下肢内側を走行する大伏在静脈とふくらはぎの裏側を走行する小伏在静脈があります。大伏在静脈は下肢の付け根で、小伏在静脈は膝の裏で、それぞれ深部静脈に合流します。また、ところどころ表在静脈と深部静脈を横につないでいる枝があり、穿通枝というものもあります。静脈の内部には、静脈弁が数カ所にあり、逆流を防ぐ役割をしています。動脈には心臓という強力なポンプがありますので弁は必要ありませんが、静脈の場合はポンプの代わりをしているのが、下肢の筋肉などしかなく、静脈弁が血流を一方向（心臓に向かう方向）に保つ上で重要な役割をしています。

しかし、この弁が破壊され機能が低下しますと立っているときには、静脈内の血液は重力に従って下肢末梢の方向に逆流し〈図2-(b)〉、静脈内の血液がふくらはぎなどに滞ってしまいます。これを静脈のうっ滞といいます。表在静脈には高い圧がかかり、徐々に拡張し静脈瘤となります。また、皮膚には色素が沈着し黒ずんできて〈図1-(b)〉、さらに進行すると、皮膚が厚く固くなり、最終的には潰瘍が下腿に出現する場合もあります〈図1-(c)〉。

上記のような静脈瘤は一次性静脈瘤として治療の適応となるものですが、静脈瘤の中には、二次性静脈瘤として手術治療の適応とならないものがあります。二次性静脈瘤は、深部静脈に血栓ができて血流が途絶え、その結果、表在静脈の血流が増加し、拡張してできてくるものです。静脈瘤となっている表在静脈が足の血液を心臓に返す血流の重要なバイパスになっているため、手術治療の対象外となります。

下肢静脈瘤治療には、血管内焼灼術(レーザーまたは高周波)、血管内塞栓術(医療用接着剤グルー)、静脈瘤切除、硬化療法、高位結紮術、ストリッピング術などがあります。それぞれの治療特性をいかし、患者さまのニーズに合わせて治療法を選択、組み合わせることが重要です。

A．血管内焼灼術 ( レーザー治療 )

伏在型静脈瘤の標準的治療法は血管内焼灼術です。表在(伏在)静脈内からレーザーを照射し、弁不全で逆流している静脈を閉塞させる方法です。
従来の高位結紮、ストリッピング術と比較し、低侵襲で日帰り手術(局所麻酔)が可能であり、切開を必要としないため審美的にも優れている利点があります。術中の疼痛は認めず、手術時間は片足20分程度で施行可能であり、必要に応じて両側同時手術が可能です。

B. 血管内塞栓術 (医療用接着剤(グルー治療))

グルー治療は、瞬間接着剤を静脈の中に注入して閉塞させる新しい方法です。瞬間接着剤を使うため糊を意味するグルー（glue）治療と呼ばれています。グルー治療は静脈を焼灼しないので静脈周囲に局所麻酔（TLA麻酔）が投与する必要がありません。そのため、麻酔をする際の痛みが非常に少なく、治療後に麻酔液のしみ出しを防ぐために包帯を巻く必要がありませんので、運動や生活の制限がほとんどない治療法です。

しかし、グルー(アロンアルファ)投与に伴うアレルギー反応が出現する事があり、膠原病、アトピー性皮膚炎、アレルギー体質など、免疫系の病気がある方は治療が難しい場合があります。

C．静脈瘤切除

下肢静脈瘤治療では、血管内焼灼術に加えて静脈瘤切除を行う場合があります。その際には、傷は小さく少ない方が患者満足度は格段に向上します。そのため、Ginza鉗子(図５)を開発し創部を減らす手技を確立しました。このこだわりは当院の「こだわり」となります。Ginza鉗子の成績を論文化し、世界へ発信を行っています。

D．硬化療法

硬化療法は、下肢静脈瘤の症状が軽度な場合に効果的な治療法であり、特にクモの巣状静脈瘤（皮膚直下にある太さ1mm以下の毛細血管がうかびあがるタイプの静脈瘤、図6）と陰部静脈瘤（外陰部周囲から内股にかけて発症するタイプの静脈瘤）の治療に適した治療法です。当院は低濃度の硬化剤(色素沈着を起こしにくい)においても粒子が細かく均一で長持ちする高品質なマイクロフォーム硬化剤(図６)を作製することができます。

執刀医

馬場 健

略歴

• 2007年

  東京慈恵会医科大学医学部 卒業

• NTT東日本関東病院 初期臨床研修

• 2009年

  神奈川県立汐見台病院 外科

• 2010年

  春日部中央総合病院 外科・心臓血管外科

• 2010年~2017年

  銀座7丁目クリニック勤務(非常勤)

• 2012年

  東京慈恵会医科大学附属病院 外科学講座 血管外科

• 2017年~2020年

  神楽坂DSマイクリニック勤務(非常勤)

• 2023年

  医療法人社団MYメディカル 総院長就任

資格

• 医学博士
• 日本外科学会専門医・指導医
• 三学会構成心臓血管外科専門医・修練指導者
• 日本脈管学会専門医外科
• 日本血管外科学会血管内治療認定医
• 下肢静脈瘤血管内焼灼術実施医・指導医
• 腹部ステントグラフト実施医・指導医
• SFAステントグラフト実施医
• VAIVT認定専門医

この度、MYメディカルクリニック田町三田において下肢静脈瘤治療を開始する運びとなりました。
私は東京慈恵会医科大学血管外科、銀座7丁目クリニック、神楽坂DSマイクリニックにて、10年以上にわたり下肢静脈瘤診療（全例、日帰り手術）に従事し、これまで3000例以上の下肢静脈瘤治療の執刀経験があります。

下肢静脈瘤治療の最も大切なポイントは診断ですが、正確な診断のもと適切なタイミングで治療介入することをお約束します。加えて手術が必要な方に、最低限の治療を低侵襲に行うことが大切です。傷跡を目立たないようにすること、痛みのない手術、不安を和らげる空間（雰囲気）にもこだわっています。全ての症例において安全かつ確実な治療を心掛け、ご来院された全ての方が満足していただける治療を提供します。 下肢静脈瘤でお困りの事があれば、安心して受診いただければ幸いに存じます。

1. ドクターズ・ファイルにて馬場医師を
   ご紹介いただきました。
   時間制約も少なく、心身の負担軽減も図る　日帰りで行える外科手術

学会資料の一覧

当院の馬場健総院長がこれまでに発表した下肢静脈瘤治療に関する学会資料の一覧です。